結局このゴールデンウイークは古本市で終始してしまった。
もう行かないでいいだろうと思っていたが、子供たちといそいそと出かけたりする。
出かけると新しいものが目に入る。というか見過ごしていたものが目に付いて、やっぱり買ってしまう。
二冊ほど拾ってもう帰ろうと思ったら、島尾敏雄『私の文学遍歴』(未来社 1966)が眼に入って、それは初日からずっとあったことは知っていたのだけれど特に島尾敏雄のファンでもないからホッといたわけだけれど、モシヤと思い箱から出して目次見たらヤッパリだったので買ってしまった。
集中にある「一冊の本」は朝日新聞の学芸欄のシリーズの一つに島尾が書いたもので、昭和40年9月5日のこの記事で彼が小川国男「アポロンの島」を激賞したことにより、それまで地方同人誌作家に過ぎなかった小川が、(そのとき取り上げられた『アポロンの島』も私家版である。)一躍中央文壇に認知されることとなった文学史的事件の、その一文。
(もっともこの文章は以前どこかで読んだ記憶があるので、けっこういろんな本に収載されているものかもしれない。)
「形容を抑制し、場景と登場人物の外面的な動きを即物的に写生し、透明な使い方によることばを、竹をたてかけるぐあいにならべただけなのに、その字と行の白い空間からかたりかけてくるなにかに、ひきつけられた。
その「なにか」の内容を、すっかり承知しているとは言えないとしても、ヨーロッパ風の掟のにおいがかんじられた。」
小川国男の文学を評して、すでに間然としない。
「アポロンの島」は何年かに一度くらいどうしても読みたくなるときがある。
この本の中にも、熊本で二ヶ月間司書講習を受ける記述があるけれど、島尾敏雄は図書館司書としてもそれなりに名を残す人物であったらしい。
昭和三十年代半ばに図書館のなかった奄美に図書館誘致の運動を起こし、鹿児島県立図書館の初代奄美分館長として、立ち上げからその後の運営、殊に離島での移動図書館運動などでの業績は今も評価されている由。
で、その彼をバックアップしたのが、鹿児島県立図書館長だった久保田彦穂。またの名を椋鳩十。
人に歴史あり、ということであります。
ということで連休最後は、内堀弘『石神井書林日録』(晶文社 2001)を読んでゆっくり過ごす。
『ボン書店の幻』の感動がまたよみがえる。