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酒の感想ばかり

「わたしたちが孤児だったころ」 カズオ・イシグロ

2020-06-18 01:51:55 | 読書
2017年に買っていたが、ちょっと厚みがあり、かなり気合を入れないと読み始められないなと、読まずじまいだった。
チェンバレン大佐と偶然出会う。大佐は上海からクリストファーをイギリスの伯母の元に行くとき付き添ってくれた人物。チェンバレンがその時の様子を内気でおどおどしていたと話す。しかしクリストファーのはっきりした記憶では、もっとこれからの生活に期待を持っていたと言うので、両者の記憶が食い違っている。
サラ・ヘミングズはいけすかない女だ。著名人と交遊することばかり考えている。クリストファーに対しては完全に無視。探偵として多少大きな事件を解決しだし、社交界で多少認められるようになると、クリストファーが招かれたメレディス基金の晩餐会に同伴させろと彼を利用しようとする。きっぱり断る。当日一人で晩餐会に向かうとヘミングズが待ち構えていた。同伴するしか仕様がない状況であった。腕を組まれ歩き出すが、急に怒りを感じ、ヘミングズを放置し一人で受付をし、会場へと入る。しばらくすると受付の方でいさかう声が聞こえてくる。案の定ヘミングズが中に入れろと騒いでいる。はっきり言って誰が見ても見苦しい振る舞いだ。しかし、何人かの彼女を知る人々から、うまく融通して差し上げるよう取り計らわれた。晩餐会に入るとヘミングズはいたく上機嫌であった。会がお開きになるとクリストファーは酷いことをしたと反省しヘミングズに謝る。ヘミングズもそもそもこの会に出席するためにクリストファーを利用したのでありお互い和解する。ヘミングズはなぜこういった社交を繰り返すのかと言うと、自分と言う人間を最高のものに捧げたい、振り替えって後悔したくない。世界に貢献できる人に捧げたい。有名人と交流したいのではなく、傑出した人と交流したいのだと言う。
上海にいた頃の家は豪邸で、モーガンブルック&バイアット社の社宅だった。この会社はインドからアヘンを取り寄せ中国へ送ると言う仕事をしている。父はそこの従業員であるが母は反アヘン運動の活動家らしい。そんな母親に、友人のアキラは畏怖の念を抱いているようだ。クリストファーはそんな厳然たる母親は自分にとって普通だと思っている。母親は度々反アヘン活動の集会を屋敷で開く。そこにはフィリップおじさんという、集会の場ではどうなのかわからないが、集会が終わって部屋から出てきたときにはクリストファーに親しくしてくれる人物が常連で参加していた。
時は戻って現代。ヘミングズとある食事会で再開し、帰りはバスで同席する。そこでフィリップの話をした。ような気がするが、してなかったかもしれないと頭にしまい込んだ。という奇妙な考えが見える。しかし、幼馴染みのアキラのことは多少話した気がする。とある。この辺りから、この小説の、らしさが見え始めてきたのだろうか。母親のことを正義の志士のように思っているようだが、フィリップのことは記憶から消そうとしているようにも見える。何か秘密がありそうだ。母親を何かしらのダークな要素から美化しようとしているような。
クリストファーはアヘン戦争に関する調査に携わったことがある。それは、新聞記事などから母親の名前が登場しないかと期待をしたからだが、母親の名前は一向に出てこず、むしろフィリップが清廉潔白の志士として誉めそやされていたのだった。そこから調査に興味をなくす。
この日バスでヘミングズに話したのはフィリップでなくアキラのことで、ちょっとした事件を起こした。つまり盗みを働いた。とだけ話したのだった。
そこからあの日の回想が始まる。アキラとの古い頃の回想が続き、アキラが一旦日本へ帰った。帰ったがどうやら馴染めず上海に戻りそして日本へはもう行きたくないということ。しかし両親も姉も日本に帰りたがっており、アキラが少しでも何かしでかすと、自分は日本へ返されることになりかねないと恐れている。ある日アキラの家の使用人であるリン・チェンの話を聞く。人や動物の手を集めて持ち帰ってきては、怪しい薬剤でクモに変えているのだという。それが恐怖でアキラはリンが近くに来ると異常に緊張するのだった。そんなリンが数日帰省した機会に、部屋を覗いて見ようと計画する。当日家中の者がいない隙に部屋に忍び込んだが、きれいに整頓された部屋しかなかった。テーブルの上に瓶に入った液体が置かれていた。これこそあの怪しい薬剤に違いないと、盗み出す。それはいいが今度はそれを戻しにいかなければならないが、姉のエツコだけにこの事を話すと、さらにあの怪しい実験を裏付ける話をされ脅される。一気に戻しにいくことに恐怖を覚えるアキラ。クリストファーはまた一緒に部屋に入れば怖くないと励まし、翌日家族がいないときに戻しにいこうと計画をたて、翌日午後3時に決行と決めた。翌日になりクリストファーは計画の実行のため、それまでの時間を緊張して過ごす。その日の午前中からその事で頭が一杯で、他のことがあまり記憶に残っていない。しかしその日は父親が失踪したようだと会社の人と警察が母親を訪ねてきている。そんな重要な事件が起こっているのに、話が終わるまで図書室で待っているよう母親に言いつけられたことが恨めしく感じていた。約束の時間をすっぽかしてしまいそうになることの方が気になるのだった。結局、その日はアキラのところに行くことが出来ず仕舞だった。ここで、どことなく違和感を感じるようになる。父親が失踪したかもしれないということに、仮にアキラのことが心配すぎたとは言え、自分の親の方が心配なのが普通だと思うのだが、記憶がはっきりしない。その日の朝父親が仕事に出掛けたところは記憶しているが、自分に対して何と声をかけたかとか、肩をたたいたのかということも曖昧。父親と母親は会社の仕事内容についてあれほど対立し、冷めた関係だったと言うのに、出掛けるときに口づけをしていったというのだから少し違和感がある。《ここから、このページまで読み終えたときの感想を書く、そのときそう思ったのだが読み終えたとき、その感想は間違っていることがわかる。戒めのため消さずに残しておく。→一瞬タイトルの意味を考えドキッとする。それから不安で読み進めるのが怖くなってきた。この考えが当たっていれば「わたしを離さないで」と同じパターンではないか。そして恐らく匂わせるだけで、そうとは明言せず話は続いていく。普通ならこれが見せ場にするところだが、それを結論にするのでなく、この小説世界を何とも言えぬ不安定なものにする仕掛けなのだ。これが結論なら再読はできないだろうが、カズオイシグロは何度でも読めるのだ。この時点で1/3読み進んでいる←》
サラとは何度も再会し、その度に親密になっていく。ではあるが、サラはサー・セシルというかなり年上の人物と結婚する。上海にわたり、大きな仕事をしうる人物だとのこと。
バンクスはジェニファーという孤児を養女とする。
バンクスは再び上海に渡り両親を探そうと考えている。そのためジェニファーはイギリスに置いていかなければならない。
バンクスはモーガンという少年時代の同級生と再会する。それほど仲が良かった記憶はない。そのモーガンに、中国人の住む大きな家に連れていかれる。そこはなんとかつて自分がすんでいた会社の社宅なのだった。長い年月の間に改修が繰り返され、簡単には思い出せなかった。
クン警部は、クリストファーが少年時代アキラとともに、上海一の刑事ということであこがれていた人物だ。モーガンにクン警部の消息を聞く。しかし、いまやアヘン中毒で浮浪者のような暮らしをしていると聞くが、あの立派だった警部が俳人のようになっているとは信じられない。果たして実際会ってみるとまさにその通りであった。クン警部は両親の失踪に関連する事件を担当しており、何か手掛かりがないか期待し尋ねてみたが、頭がはっきり働かなくなっており、明日か明後日、目が覚めたらふと思い出すかもしれないといわれ、あきらめて解散する。ホテルに帰るとサラから伝言が届いていた。会いたいと。会いに行くと、サラはセシルを捨て一人で上海を去ると告げる。ギャンブル依存で落ちぶれてしまったセシルに見切りをつけたのだ。はじめは愛していた。そしてセシルの年では本当ならのんびり過ごさせてやればよかったのだが、自分が無理に仕事をさせようとしたのがいけなかった。仕事が困難すぎて手に負えなかったのだ。それでその重圧に負けギャングる依存にさせてしまったのだ。セシルの元を去ることが治療になると考えてのことだ。サラは去るにあたって、ついにクリストファーに一緒にマニラへ行かないかと告白する。試されているのではないか。自分の上海での仕事をどうするのか。必ず帰ると約束したジェニファーのことはどうするのか。迷う。サラはジェニファーも含め3人できっと家族のようにやっていけるという。それで一緒に行くと返事するクリストファー。明日の3時半に迎えをよこすから、余計なことはしゃべらずトランク一つだけ持って車に乗るよう約束する。
クン警部から電話がある。両親が監禁されていたと思われる家の情報を思い出したと言う。その場所は、盲目のイェ・チェンという人物の家の向かいにあるとのこと。それを聞いたがクリストファーはサラと上海を発つことしか頭にない。
翌日、中国人運転手が迎えに来る。その運転手に因みに聞いてみる。イェ・チェンという人物を知っているかと。すると、知っている。俳優であり、しかも家の場所まで知っていると。そしてレコード屋に連れられ。奥に入るとサラが待っている。そしてもう少し時間が必要なのでしばらく待つよう言われる。ここでどうしたことかクリストファーはその時間を利用して両親が監禁されていると思われる家を見に行こうと考える。来る途中に中国人運転手からイェ・チェンの家はすぐ近くだと言われたからだ。待たせていた運転手にイェ・チェンの家を案内させた。ここからが不思議な雰囲気となる。すぐ近くであるのに、車は回り道をさせられたり、引き返させられたりで、全くたどり着けない。中国人運転手は迷ったことを認めたくないから、家の場所を知っていると言い張る。そうしているうちに、租界を出てしまい戦闘地域に入ってしまう。機嫌を損ねた運転手はクリストファーと車を捨て去ってしまう。一人で警察署に向かうと、すでにそこは中国軍の基地となっていた。日本軍と戦闘しているのだった。そんなそんな逼迫した状況なのに、クリストファーは軍人に護衛させその家まで連れていくよう申し出る。そして兵士の方もそんな状況ではないといいつつ、クリストファーが署名な探偵である事を知っていて、その探偵が重要な事件の捜査でその家にいきたいと言っているのを重要視しているのか協力しようとする。サラは確かに少しの時間待つよう言ったが、そんなタイミングでこんな大胆な行動をとるのかクリストファーの行動が理解できない。挙げ句の果てにこんな危険な状況に陥ったことにヤキモキさせられる。そこからイェ・チェンの家まで向かう描写の閉塞感が辛い。そんな遠い距離ではない。なのになかなかたどり着けない。一番協力してくれた兵士(中尉)とも物別れする。両親が監禁されているかもしれない建物に着くがもちろん両親はいない。クリストファーアは捕まり大使館に送られる。両親を誘拐したと考えられるイエロースネークという集団に接触を求め、それが叶う。落ち合う場所へ行ってみると、現れたのはフィリップだった。フィリップから両親が失踪した真実を教えられる。それはクリストファーが想像していたものと全く違った内容だった。
関係した人物のその後の人生が悲しい。父親は母親の重圧に負け別の女性を見つけて逃げた。その2年後チフスで死ぬ。母親は軍閥のワン・クーに目をつけられた。母子共に始末されるところを母がクーの妾になり、二度と表の世界に現さないことでクリストファーの命を助けた。さらにクリストファーの生活費をクーから出させることもできた。今のクリストファーの地位があるのは、クーからの資金のよるものだったことに釈然としない。母親は二度と会うことはなかったが、遠くからいつもクリストファーの事を心配していた。クーは4年前に死に、母親は精神を病んでおり、精神病院へ入院していた。会いに行ったが母親はもはやクリストファーの事を思い出せなくなっていた。そして結局置き去りにしてしまったサラだが、一人でマニラへ発った。そこで男を見つけ幸せに暮らしたらしいが、戦後収容書生活を送る。その生活がたたって終戦の数年後に死ぬ。
世界に立ち向かい続けることが運命で、最善を尽くし使命を果たそうとすることでしか心を満たすことができない人々の話だった。そのため重圧に押し潰されていく。父親は母親を愛していた。母親にふさわしい男になろうと努力したが叶わなかった。自分はそれまでの男だったのだと悟ったときに父親は出て行った。フィリップも企業がアヘンを輸入するのをやめさせようと動いていた、実際企業はアヘン輸入をやめたが、今度はその協力者であったワン・クーにアヘン取引で肥大化させることになってしまった。サー・セシルの、年の離れたサラの望みに答えようと努力したが、重圧に負けギャンブル依存症になった。サラ自身も、自分の理想を目指すため男を利用してきたが、自分自身の理想の高さで男たちをダメにしてしまい結局理想を果たせず、理想を追い求め続けることしかできないでいる。そんな人たちがいる一方、理想などあきらめて楽に暮らしている人もいる。どちらが幸せで、そして自分はどちらの人間だろうか?
 
20200607読み始め
20200617読了

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