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「比ぶ者なき」馳星周

2024-03-24 21:44:28 | 読書
太政官とは、太政大臣を長官とし、左大臣、右大臣、大納言の四者を言う。
史(不比等)は出世を望まず、その方が嫉妬を買わずにすむという事で、裏で工作を進める。様々に策謀を巡らせつつ、従うものを集めていく。小説としてはこう言った段階にある時期が面白い。若干北方謙三的なご都合主義感は否めないが。
造営中の新しい都の視察に来た史に百枝は新しい神を見つけたという。新しい神話を作るのだが、そこに登場する神のことだ。天照大神は男神だが、女神に変え、それを現在の天皇とする。
史の娘、長娥子と高市皇子の子、長屋王が結婚。
柿本人麻呂が史に呼ばれる。草壁皇子の付人同士の仲。新しい神話の話を聞かされる。草壁を偲んだ歌に、天の原というのがあり、そこから高天原という名前を思い付く。
磯城皇子が史を怪しむ。やがて磯城皇子は薨去する。史が武という者に毒殺を命じた。ここで、磯城皇子は歴史上実在が曖昧だ。そこをフィクションにした。
ここに来て、史と県犬養道代が不倫関係となっている。互いに考えが合うのだ。
軽皇子は正室を娶らないという。正室は皇族から娶らなければならない。すると史が娘を軽皇子に嫁がせて子孫を皇室に、天皇にしようとする野望が叶わない。それを汲み、軽皇子はそういってる。史は感極まる。
《柿本人麻呂に関して(wikiから)人麻呂の歌は持統天皇の即位からその崩御にほぼ重なっており、この女帝の存在が人麻呂の活動の原動力であったとみるのは不当ではないと思われる。歌道の秘伝化や人麻呂に対する尊崇・神格化が進んだ平安後期から中世、近世にかけては、『人丸秘密抄』のように持統天皇の愛人であったと記す書籍や、山部赤人と同一人物とする論も現れるが、創作や想像による俗説・伝承である》
皇子達の合議によって軽皇子が次の天皇となることが決まる。史が長屋王や葛野王を取り込んでいたからだ。史は軽皇子から信頼されており、軽皇子が天皇になった暁には史が世を取り仕切る、全権力を握ろうと考えているのだった。しかし軽皇子は自分も政治に参加できるよう令を変えようと考えている。その事に危機感を覚える史。
軽皇子が即位する。その時史は不比等という名前を与えられる。同時に軽に警戒感を抱く不比等だった。
一方、阿閇皇女の道代に対する信頼も深まる。
持統天皇は太上天皇となる。軽皇子は不比等の策略により毒殺を恐れるようになる。不比等は娘の宮子を側室にする。その間にできた子を天皇にする。そして自分は国を仕切ろうとする。
太上天皇は不比等を警戒する。長屋王を呼び、不比等の元に潜伏し、不比等が死に、軽と正室の子が大きくなるのを見届けろと、かつての不比等がそうであったように命じる。
軽と宮子の子は首(おびと)と名付けられた。
軽は病弱だが、太上天皇も老いのため伏せている。不本意ではあるが、女性でありながら権力を持ったことを後悔している。今となっては軽のことだけが心配。不比等には軽のことを頼む。かつての讃良と史の関係に一瞬戻る。自分が死んだら火葬して欲しい。これは史実通り、初めて火葬された天皇のようだ。しかし、後にした不比等は、太上天皇が首(おびと)のことを何一つ口にしなかったことを気にする。太上天皇は軽に正室を迎え、その子を後継者にすることしか考えていない。
軽は病でやつれていく。母である阿閇に譲位し天皇となって欲しいと頼む。取り合わない阿閇。軽は父である草壁が天皇になるべきであったが早世したため叶わなかったため、命日を国忌とするよう不比等に相談。草壁は天皇でないため無理な話であったが、軽が乗り気でない遷都を許す代わりに何とか国忌とするよう交換条件。不比等はそれを実現した。
軽が死ぬ。首が天皇になるには早すぎる。阿閇が譲位すればいいが、もっとふさわしい皇族がいる。そうなると首が天皇になるのは永遠に叶わない。ここで国忌が活きてくる。国忌は天皇の命日であり、天皇の后は、かつての持統天皇がそうであったように天皇になり得る。また西域での事例を引き合いにだし、中大兄から血族だけに伝えたとする典(のり)があるとし、天皇を次ぐ根拠があることを主張した。そして阿閇は即位する。誰も不比等の手際に反論できない。この辺りが盛り上がる場面。
氷高皇女、軽、吉備内親王は兄弟。吉備内親王は長屋王の正室。氷高皇女は吉備内親王の夫の長屋王が不当な扱いを受けているのを思い、阿閇天皇に不比等に気を遣いすぎると不満を漏らす。
平城京に遷都しようとする。宮の東に東宮を造り首を住まわす。興福寺が藤原の氏寺。これで平城京は藤原の都となる。
軽の側室の石川の娘に子がいる。それが心配の種だが、石川の娘、そして紀の娘から称号を取れば済むと考える。
草壁、軽と、天皇にすることが叶わなかった。首は何としても天皇にしたい。
阿閇は天皇の位に疲れ譲位をする。但し首はまだ若く、氷高皇女に。元正天皇だ。氷高は長屋王推しで、不比等には警戒をする。
このままでは長屋王が皇室を占有しかねない。不比等は首を天皇にするため、秘かに舎人を知太政官事に、新田部親王を五衛府、授刀舎人寮の主にするよう太上天皇(阿閇)に依頼する。これで磐石となる。
同時に日本書紀の編纂をすすめる。蘇我馬子の功績を厩戸皇子の事と書き換えなければならない。と同時に聖徳太子と名前も変える。
史実ははっきりしないが作者の創作により野望に満ちた人物に作り上げられた。もう少し悪人に仕上げてもよかったと思うが、題材が題材だけに難しいだろう。また、「鎌倉殿の13人」北条義時のように、ライバルを粛清していくことはないところは、そこまで悪人ではないと感じる所以だろうか。
 
20240212読み始め。
20240324読了。

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