ビールを飲むぞ

酒の感想ばかり

「孤剣の涯て」木下昌輝

2024-10-16 23:35:35 | 読書

宮本武蔵が弟子の佐野久遠と最後の稽古をつける場面から始まる。円明流の剣術。唯一の弟子である佐野はこの後武者修行に出る。彼の目的は円明流をもっと発展させること。

家康の母方の従弟である水野勝成。勝成は傾奇者だ。彼は放浪中に知り合った中川志摩之助という者を家臣にしている。勝成の元に本多正信がやってきて、変事出来を知らせる。五霊鬼の呪いが見つかったとのこと。その作法が怪しい。久々に木下昌輝らしい設定だ。怪奇小説。「人魚の肉」や「宇喜多の捨嫁」を彷彿とさせる雰囲気。

武蔵の元に僧が訪ねてくる。何と弟子の久遠が決闘に巻き込まれ死んだと言う。愕然とする武蔵。最愛の弟子が死んだと。

呪い首とそれを作るあやかしの刀、その刀の鍔を見ると武蔵が彫った鍔。

武蔵は水野志摩之助から呪詛者の捜索を依頼される。困窮から引き受ける。

先に待っている志摩之助の三男三木之助と合流し(大坂の役開戦前の話だ)、牢人に扮して大坂方に潜り込む。

あやかしの刀、村正を見つけるために収集している振りをして、決闘し、買った方が全ていただくと言う作戦。武蔵の気迫と技は凄まじく、対戦相手は皆ボコボコにされる。結局見つからないまま、家康軍が攻めてきた。

いよいよ開戦。武蔵は木刀で佐竹軍と対峙する。中に豪槍の使い手がいた。名は鬼左京=坂崎直盛、かつては宇喜多左京亮詮家(さきょうのすけあきいえ)という。名の通り宇喜多の一族だが従弟の秀家にはつかず家康についた。すると武蔵とは美作で同郷となるようだ。対決は五分五分。その時上杉景勝軍も加勢してきたため、大阪城にひとまず下がる。

あやかしの刀は鬼左京が持っていた。それを知らせたいが、徳川方に戻ることは困難。三木之助だけが戻る。

大坂の陣は休戦となる。武蔵は志摩之助、勝成と会うが、三木之助は行方不明。武蔵が暗殺したのではないかと疑いをかけられる。

牢に入れられる武蔵。そこに三木之助が現れる。徳川方に合流する途中で撃たれたという、幸い別の徳川方に救われた。そこで武蔵に告白するに、自分は三男であり家は継げない、足軽に養子に出され終わる。だから家康呪詛の犯人を見つけて手柄を立てたかった。

三木之助は牢に火を放ち武蔵を脱走させる。武蔵は林羅山をつれてくるよう三木之助に頼む。徳川家に伝わる秘密文字、徳の字が德という横文字が一本入る文字。呪詛された場合に避けるため。家康の次に五霊鬼にかけられたのは秀忠でその徳の文字は一本多いものだった。従って徳川一門の仕業と考えられた。

水野勝成と左京は繋がりがあるのではないかという推理。両者は美作という土地で繋がりがある。因みに武蔵の父も美作出身だ。この呪いは美作で繋がっている。兵法歌で繋がっている。美作にヒントがあるのではないかと旅立つ。

美作で竹内家を訪ねる。竹内流の兵法の道場。二代目の藤二郎から水野日向守勝成と左京の関係を聞こうとする。武蔵と藤二郎は殺気立って埒が明かないが、山女という老婆が詳しいことを知っていて、彼女から聞く。

著者得意の宇喜多直家が出てくる。四女の於葉、そして(その過去作に出てきたか?)於葉を慕う、直家の甥である左京との関係。貝合わせのエピソードなども出てくる。今回の呪いは日向守の元にあった6名のリスト。家康、松平定勝、秀忠、義直、頼宣、頼房を呪ったもの。そして呪いの首はあるものが安置された寺に置かれているという共通点。

ここまでは従順だった三木之助だが、五霊鬼の秘密をつかみかけた途端、武蔵を裏切る。武蔵に毒を盛る。三木之助が雇った牢人と争ううち、崖から転落する。

漁師に救われた武蔵は兵庫に送ってもらい、謎探しをする。あるものが安置された寺を探す。山崎で見つけたのは血天井。即ち、関ヶ原の時に家康から死んでくれと頼まれ伏見城を守った鳥居元忠達の血で染まった床を、供養のため寺の天井に安置したものだった。因みに武蔵の弟子である佐野久遠の一族は鳥居元忠に仕えていたという、何かありそうな関係。

日向守と左京はグルで、この度の呪詛者の正体かと思われた。しかしどうやら左京も犯人ではなさそうだ。もっと裏に操るものがいそうな雰囲気だ。

大阪城に潜り込み千姫を助ける武蔵と左京。大坂には内通者がいると左京は言うが詳細は教えられない。武蔵は気づく。真田信繁はなぜ鉄砲に長けているのか。大久保長安が絡んでいるのではないかと。どちらも武田家に繋がっている。大久保長安も出てきたか。ただ大坂の陣の時には長安は死去している。

大坂の陣ではかなり混戦。つまり誰が敵で誰が味方か混乱状態だ。真田信繁と隼人はやなり仲間で、信繁が家康を追い詰めるというのが定説だが、隼人があやかしの刀で家康を追い詰めるという場面。武蔵がそれを阻止する。武蔵が身をもって家康をかばう、そのため背中に斬撃を受ける。

左京の過去。家康から直々に千姫を守ってほしいと頼まれる。当時の千姫はまだ赤子だ。不思議な力で千姫を守ることを決意。それがあり、大坂城から千姫を救い出そうとする。内通している女(刑部卿)が千姫を連れ出すことに成功したら狼煙が上がることになっていて、その狼煙が上がる。千姫と再会する左京だったが、徳川方の大砲によって千姫は籠ごと圧死する。孫まで犠牲にする家康に復習を誓う。家康を守る立場の武蔵と対決。左京は破れ、自ら火に身を投じる。武蔵は刑部卿から五霊鬼の謎を聞く。その首謀者は千姫だったのだ。豊臣に恭順した千姫は、豊臣を滅ぼそうとした家康に仕掛けたのだった。

千姫が岩に押し潰され自暴自棄になって火に飛び込んだ左京だが、執念で生きていた、仇を討とうと秀忠の元に近付く。あやかしの刀で斬ろうとした時、後ろで千姫が現れる。史実通り生きていたのだった。

一方武蔵は隼人から真相を聞く。隼人は大久保長安の子だった。ただ歩き巫女に生ませた隠し子。傾奇の腕を見込まれ長安の子である東七郎に芸を教えてくれと頼まれる。その稽古の成果を見せる前夜、隼人は長安から、家康の豊臣家滅亡の計画を聞かされる。方広寺の鐘の銘の一件しかり、最悪なのは、豊臣に自分の孫である千姫を殺させる策略を考えるよう命じられ、それを断る。すると家康から自ら調合した薬を体を労るよう渡される。もちろん中身は毒だ。用済みになったということだ。

千姫を守るという左京は謂わば目的を失う。家康から遣わされた柳生むねのりの刺客。五霊鬼の首謀者は千姫だが自分が首謀者と嘘をつく。一方武蔵は弟子の仇である左京と対決に臨む。対決はほぼ互角で、武蔵は自分の怒りの幻覚でもある左京のオーラを斬り冷静さを取り戻す。互いに引くが、その隙をついて柳生の手の者に左京は刺される。あやかしの刀を自ら胸に突き刺す。さらに肋骨で挟みながらあやかしの刀を粉砕する、という凄まじさ。

武蔵は左京に敬意を払う。武蔵は思う、左京の遺志を受け取る。そして誓うのだった。

どんでん返しが多く、目まぐるしい。また左京があわれに思われる。史実では左京は大坂城から千姫を救い出したというのは事実。しかし、救った見返りとして千姫を自分の妻にしようとした。それが原因で家督を息子に継がせるというのを条件で本人の切腹を命じられた。しかしそれを拒否し討たれたという。そして家は断絶となった。史実もひどい話だが、小説では千姫に一途な人物であることが書かれている。

よく考えれば、「宇喜多の楽土」にも左京は少しだが登場している。「宇喜多の捨嫁」から繋がる第3弾と言ってもいいかもしれない。連作が得意な作者らしく、他の作品と少しずつ関係しているのが面白い。

 

20240918読み始め

20241016読了


「蜘蛛男」江戸川乱歩

2024-09-17 01:02:44 | 読書

昭和62年の講談社の文庫版、乱歩全集だ。

1987年11月6日刊行で、恐らくその日付近辺で買ったのだろうから高校1年の時だ。

東京のY町に関東ビルディングという個人経営の貸事務所がある。(人気のない)13号室に稲垣平造という美術商が美術店を経営している。女子事務員の募集をする。「17、8歳、愛嬌のある方、高給」。そこに里見芳枝という女性がちょっと気取って応募してくる。即採用され、丁度店を閉める時間なので、自宅の倉庫の品物に目を通してほしいから、家まで一緒に来てほしいと頼まれる。行ったが最後、家に帰してもらえない。そしてあっさりと稲垣は、自分は悪人だと悪びれもせず正体を明かす。何だか風呂はきれいに掃除し、浴槽には水を湛えており、小さいスーツケースが用意されている。その中をみると様々な形の刃物が入っていた。とはいえ何を企んでいるかはわからない。場面が変わり、何をされたかわからないが、着衣も捨てられ、血まみれになって、疲労した芳枝の姿がある。拷問でもされたかのように思われるが、そこまで残虐なことが行われたようではなさそうだ。

次にセールスマンの募集をし6人集まる。大した能力もない19歳くらいの青年たちだ。彼らに石膏の人体模型を美術学校に売らせる。と言うのか進呈する。それがあとの営業の布石になるらしい。6人の中に悪知恵の働く平田東一という青年がおり、学校に進呈せず、他の額縁屋に低額で売り払って小遣い稼ぎをしたのだった。翌朝平然と出勤すると事務所は鍵がかかって誰もいない。

次はガラッと変わって、畔柳(くろやなぎ)友助博士という片足が義足の犯罪学者。自称36歳。弟子が野崎三郎という24歳の青年。趣味で、興味のある事件だけ警察に協力するのだが、日常の事務作業として、新聞の行間読みで犯罪の真実を見抜くというシャーロック・ホームズのようなことをしている。特に新聞の3行広告には毎日5、6個は怪しいものがあるという。そして例の稲垣の広告、入居者募集広告が出なくなった直後の、稲垣美術商の事務員募集と、セールスマン募集広告から、既に犯罪のにおいを嗅ぎ取っていたのだった。

里見絹枝という女性が畔柳博士を訪ねてくる、妹が行方不明だという。博士は関東ビル調査に出掛けようとしていたところだったので、夕方に改めてほしいと言う。関東ビルに行って調査をしていると、例の平田がやってくる。博士は事情を聞くと、例の石膏模型(右腕の形)を売り飛ばした画材屋に行きその模型を買い取る。邸宅に帰ったら、絹枝が再訪してきた。もう予想できるが、その右腕の石膏模型は芳枝のものだった。恐らく殺害しバラバラにした右腕の部分に薄く石膏を塗り固めたものだと思われる。石膏を割ると、中には腐乱しかかった生身の腕が出てきたのだった。絹枝が言う妹の特徴と合致する。しかしこれはまた残虐な事件だ。これぞ乱歩か。起きていることはグロテスクなのだが、なぜかそう感じさせない。これもまた乱歩だ。ショックを受ける絹枝だが、これまたそこまで落ち込んでいるようにも見えない。一方、連れてきた平田が急に姿を消す。野崎は、稲垣が自分達をつけてきて、平田をみんなの隙を狙って殺害し連れ去ったのではないかと推理する。すると、明日にでも平田の石膏部品が店に並ぶんだろうかと、たちの悪い冗談を言う博士。

絹枝を家に送る野崎。絹枝に恋心を抱く野崎。

続いて右足の部分の石膏細工が中学校で見つかる。美術の時間に学生が石膏細工に服の裾を引っ掻けて落としてしまった。その割れた隙間から腐乱した肉片が見えていたのだった。中学生には刺激が強すぎるだろう。しかし今晩はご飯が喉を通らないかもしれません、と、あっけらかんとしている。やがて残り4つの部位が中学校や画塾から見つかる。

畔柳博士の推理する犯人像は、精神異常者には違いないが、意識ははっきり持った極悪人だという。そして過去にも殺人を犯しているだろう。また絹枝に似た容貌、当然妹である芳枝はじめとして、この1、2か月で行方不明となった女性の写真から5人くらい絹枝(芳枝)似た特徴を見つけたのだったつまり彼女たちは既に殺害されているのではないか、そして平田東一と合わせ、今後いくつものバラバラにされた人体の石膏細工が見つかるのではないかと予想する。

ここまでで4分の1ほど進んだが、ふと裏表紙の解説を見てしまった。するとまだ起きていない出来事が書かれていた。どこまで先の内容を解説に書いているのかと少し腹が立つ。

と、思っていたら、丁度それらしい場面が。野崎は絹枝に告白しようと実家にいったら、入れ違いで博士の家から迎えが来て出たところだという。しかしそれはニセの呼び出しだった。そしてその通り、左胸を刺されて殺害された絹枝は水族館の水槽に浮かんでいた。あたかも人魚のように。

第3のターゲットは女優の富士洋子だ。犯人は明日(7/5)の映画のロケの最中にに実行すると宣言する。そうであるならロケを中止すべきだが、畔柳博士は犯人の尻尾をつかむため誰にも知らせずロケをさせようとする。自信満々だ。

今度は医者に化けて現れる犯人。しかしまた逃げられてしまう。ただし洋子は無事だ。

洋子をT氏の邸宅に匿う。しかし犯人から夜の十二時に洋子を連れ去ると言う宣言。今度は少人数で見張る。ベッドで横になる洋子だが、12時を過ぎても何事も起こらない。畔柳博士は犯人が宣言を守らなかったことはないと不審がる。果たして、ベッドで寝ていると思われた洋子だが、人形にすり変わっており、既に連れ去られたあとであった。

一方野崎は邸宅の外で見張っていると、自動車で逃亡する人物を見つける。昔の小説らしく、車の後部に掴まって追跡するのだった。着いたのはあの青髭(犯人の呼称)の館だった。しかし誘拐した洋子を担いで車から出てきた男は平田だった。いつの間に青髭の手下となったのか?面白くなってきた。

館に潜入した野崎だが、結局見つかり地下室に閉じ込められてしまう。そこで見つけた5つの漬物樽。餓死は免れると思っていたが、中身はなんとバラバラになった人体だった。つまり過去に誘拐してきた女性の成れの果て。幸い洋子は隙を見て脱出に成功。警察に通報することで野崎も救出される。しかし蜘蛛男と平田は逃亡したあとだった。

全身真っ白な出で立ちの紳士が登場する。これがしばらくインド辺りを旅していてやっと帰国してきた明智小五郎だった。2/3過ぎてやっと登場。何やら一寸法師の事件後3年ほどインドを旅していたらしい。乱歩の長編がちょっとずつ繋がって顔を出す。

早速明智は様々な疑問を解決していく。え?そんなところがおかしかったのか?的な。解決編にしては早い。

気丈な女優、富士洋子。今まで様々なピンチを乗り越えている。そんな悪人に負けていられないと言う性格だ。そんな(謂わばキャラのたつ)洋子の運命。明智は蜘蛛男を捕まえる。明智は民間人だ。捕まえる権利はない。そこで警察を呼びに行く。蜘蛛男と洋子は2人きりで残される。そこで、異様なことが起こる。洋子は蜘蛛男を逃がそうとする。その隙を狙って蜘蛛男はあろうことか洋子と逃亡するしかしそれも蜘蛛男の策略。あらかじめ手に入れていた自分(蜘蛛男)に似た遺体を確保しておりそれを身代わりに自分は死んだと見せかけこの世から消えてしまおうと言う算段。その道ずれにこの洋子は心中させられる。死なないと思われた洋子も崖から蜘蛛男と共に心中したと思わせた。

ところが死んだのは洋子だけであり、蜘蛛男はまんまと生き延びる。この辺りは残虐さが見える。有名人である洋子が変な妄想に刈られ蜘蛛男と心中しようと思ったり、さらには本当に崖に飛び込む。

蜘蛛男は鳴りを潜める。明智も(多分洋子を守れなかった罪悪感からか?)音沙汰がなくなる。

その後、最終対決。蜘蛛男は自分の美学。四十九人の女性をまるでショーのように観衆の前で殺害すると言う計画を着々と進めていた。明智はそれに先回りして行動する。

どこかで見たような場面。蜘蛛男が自分の計画を実行できず阻止された屈辱からピストル自殺しようとする。しかし、明智の手によって弾丸は抜き取られていた。自殺もできなくなった蜘蛛男。明智に破れ、自死も妨げられた哀れな蜘蛛男。一瞬の隙を着いて自ら設計した舞台装置である針の山に飛び込み、串刺しになって死ぬ場面で終わる。

実は天地茂の明智小五郎シリーズで見たことがあるような感覚になる。天国と地獄、だっただろうか?針の山で刺されて死ぬ場面。正月辺りで祖母の家に行った時に見た記憶。

これまで読んできた中でも、意外とグロテスクだ。幽鬼の塔などと異なり、死なないだろうと思われる人物が殺害される。またその殺害方法も残虐だ。また殺害後の(犯人による)ひけらかしが残酷。知らなかったが、これが社会一般における乱歩の変態的残虐さなのだろうか。

今まで見たことのない乱歩を読んで再発見した気持ちだ。

ある意味レトロなミステリーではないか。犯人はどこまでも残虐。警察に掴まるとかそんな現実の話ではない。ただ女を殺したい。

それからすると現代のミステリーは社会派であり、心理的である。

 

20240819読み始め。

20240916読了


「東洋医学はなぜ効くのか」山本高穂

2024-08-28 23:27:40 | 読書

鍼や灸による痛みの緩和から、漢方薬の話。

どことなく東洋医学というと神秘的なイメージがある。科学的とは真逆の考え方だ。しかし最近では科学と接近し始めている。漢方薬なども、生薬だけに純度や成分比率は違ってくるはずだ。しかし、葛根は乾燥物に対してプエラリンという成分が2.0%以上含まれている必要があるという規格が決められているそうだ。なんだかそうなると、プエラリンを化学物質を純粋に合成してそれを製剤したという西洋薬と何ら変わらないという、残念感がある。

五苓散の解説、他の漢方の解説も同様単純だが、水の流れを改善する働きがあるとされていたが、アクアポリンという細胞内外の水の流れを制御する蛋白を阻害(調節)することが作用機序とのこと、それはマグネシウムの作用だそうだ。あまりに単純で残念。では、二日酔いには単にマグネシウムを服用すればいいのか。また、正常な体調では作用せず、異常なときだけ作用するというのが納得しきれない。

最近ダイエット薬として注目されている防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)だが、その機序は、麻黄に含まれるエフェドリンとのこと、これが脳に作用してノルアドレナリンの分泌を促進する。このノルアドレナリンが褐色脂肪細胞において脂肪の燃焼を促進する。また白色脂肪細胞においては溜め込んだ脂肪を排出させる。結局エフェドリンが利いているのだ。ならばエフェドリンをダイエット薬として使えるのではないか。エフェドリンと言えば風邪薬にも入っているし、実際にエフェドリンが主成分のダイエット製品も発売されているらしい。ただこちらは死亡例が出たり、依存性などの問題から日本では規制されているようだ。そんな感じで成分が判明したら、それを単体で医薬品として作れば手っ取り早いのだが、純物質としてのエフェドリンは扱いにくく、漢方ならば丁度いい具合に効き目があるというのが、単純に科学的に解明しきれないところだ。

効くとはどういうことかという科学的な根拠、鍼灸や漢方を使うにあたっての注意点、留意点。そしてツボのセルフケアと著されている。

20240817読み始め

20240828読了


「意識の脳科学「デジタル不老不死」の扉を開く」渡辺正峰

2024-08-21 22:33:42 | 読書
講談社ではあるが、意外と今回はブルーバックスではなく、現代新書というのが興味深い。とは言え前著書も中公新書だ。
初めに著者の方向性を示している。意識の謎の解明とその副産物として意識のアップロードからの不老不死。意識の謎に関しては、ハードプロブレムというところを踏まえているのでまがい物ではない。
前作は2011年出版なので既に3年経っている。そして大体内容は似ている。今これを読んでみて、初めて知ったと感慨に耽っていたら、既に前作で同じ内容が書かれていた。記憶力の悪さに辟易する。
12章
フィンランドの神経科学者、アンティ・レボンスオの意識の仮想現実メタファー。Virtual Reality Metaphor of Consciousness。睡眠中の夢は自らの脳が作り出しているにも関わらず、第三者が登場しその考えていることが分からない。皿を落とすと物理法則通りに落下し、割れる。
13章。
脳に関して、ヒトはシワシワで表面積が多い。対して、マウスはツルツルで、マカクザルの脳はそれよりシワがあるがヒトには及ばない。
14章。AIに意識は宿るか
この思考実験は面白い。1回読んだだけでは理解はできないが、興味深い考察。
サールの中国語の部屋。記号接地されていない。つまり体験と言葉が結び付いていないから、ただ言葉と言葉の相関を返しているにすぎない。まだ理解しきれていないのだが、人工知能の中に仮想世界を置き、言葉の入力をその仮想世界と比べるということで意識のようなものが生じるのではないかという。ロボマインドの田方篤史氏の意識の仮想世界仮説と類似しているという。仮想世界仮説と言うのが今一つ理解できなかった。ホムンクルスの無限後退っぽいからだ。しかし改めて483回の動画を見返すと少しは理解できるようになった感じはする。
15章
主観の時間について。丁度ロボマインド483回の動画にも出てきた。物理学で扱う時間と、自分が感じる時間は違うものだという。さておき、ここでは主体的な時間としては10Hz程度の遅さ。ここに1Hz辺り200ヘルツの周波数を補完している。人間の中にクロックがあるという。夢の中の時間。長い夢の最後にギロチンにかけられ首を落とされるとき、現実世界のベットの上の天蓋から木片が剥がれ落ち自分の首に当たって、目が覚めたというエピソード。これはよくあることだ。実際は木片が首に当たって目が覚めるまでの一瞬に、長い夢を逆回しに辿ったのではないかということ。これは自分も感覚として同意する。夢は逆走している(こともあるし)
順走していることもあるどちらの感覚もある。
あとは、過去と未来の時間的違いは何かというと、過去は経験したこと、未来は経験していないことと思う。
著者は意識の機能主義、脳のシナプス等を同じ働きをする人工物で置き換えていく、そこにも意識は宿ると考える。反対にジョン・サールは生物学的自然主義で、(よく理解していないが恐らく)、生物学的な組織があってこその意識であって、人工物に置き換えた途端意識は消え去る。
意識の解明、意識のアップロードを達成するのは、金銭的にもマンパワー的にも厳しい現状だ。海外の研究機関の費用の巨大さと研究スタッフの人数は桁違いだ。これでは著者の夢は叶えられない。海外の研究機関に先を越されてしまう。逆に、海外並みの資金と人員を得られれば、20年後には実現可能とも言える。そのために国は手厚い出資をして欲しいと、プレゼンをしているようになっている。
確かに大部分の内容は、研究テーマをどう実現しうるか、理論的に解説されている。ただその手段がはっきりしない。本には著していないだけで実際には実験方法も考えられているかもしれないが。素人からしても、どのように自分の半脳と機械を繋げるか、その機械の方もどのように人間並みの構造に作り上げることができるのか、それこそ実現不可能なのではないかと思ってしまう。だから資金と人と言っているのはわかるが。
ではあるが、なんとか実現して欲しいものだ。夢がある。
 
20240712読み始め
20240821読了

「サンセット・パーク」ポール・オースター

2024-07-09 23:33:51 | 読書
20200225刊行。20200313ジュンク堂松山店で購入。同じときに木下昌輝の「人魚の肉」を買っている。
主人公は打ち捨てられた物たちの写真を撮り続けている。ダンバー不動産に雇われた4人1チームの一員。家を捨てざるを得なくなった人たちの後に残された残存物を撤去する仕事だ。残存物は暴力や怒りの爆発がある。
主人公は28歳。グレートギャツビーをきっかけにピラール・サンチェスという少女と出会う。まだ17歳の少女。高校を卒業を機に主人公の家で同棲することになる。歳の差のせいか慎ましい同棲生活。また、このピラールという少女が和風な印象にも思える。ここは訳者の加減によるのかもしれないが。
話のなかで、主人公の名前はマイルズ・ヘラー。父親はヘラー・ブックスの創立者でモリス・ヘラー。離婚した父親と再婚した義母のウィラ・パークス。死んだ義兄(義母の連れ子)のボビーが紹介される。しかしその家族のことはピラールに知られたくないので一切うやむやにしている。そしてオースターらしく話の急展開。ボビーが死んだ原因はマイルズがボビーを押したからというのだ。喧嘩の最中で、道路で走ってくる車に押してしまったことが原因だという。不可抗力なのかわざとなのか今ではどちらなのか分からない。
3章はオースターらしく、野球選手のエピソードが多く出てくる。どれも数奇な運命。
ピラールは四姉妹の末っ子。姉の1人アンジェラはマイルズに冷たく当たる。それを知っていたマイルズはゴマを擦るため、廃品処理から盗んだ物をアンジェラにプレゼントしてご機嫌をとっていた。しかしクリスマスパーティーの時に呼び出され、また盗品を貢ぐよう頼まれる。そうでなければピラールとの関係を未成年への犯罪として訴えると脅される。そこでピラールとの生活が変わってしまう。ピラールが成人になるまで、マイルズはニューヨークにある知り合いのアパートに身を隠すことにした。
父親は有名出版社の社長、実の母親は舞台女優。離婚したがたまに母親に会う機会を与えられた。しかしその母親の覚めた母親ぶり。
覚めた、母との親子関係。やがてマイルズは母親の元も去る。
ビング・ネイサン。はフリージャズバンドのドラマー、過去の遺物を修理して生活している。偶然同級生のエレン・ブライスと再会。エレンは小学生の時から変わり者で、仕事の傍ら絵を描いている。エレンの提案でサンセットパークの廃屋に不法滞在することになった。部屋は4つ。エレンは大学時代のルームメイトであるアリス・バーグストルムを誘う。アリスは大学院生で博士論文を執筆している。ジェイク・ボームというボーイフレンドがいて、ジェイクは小説家の卵。アリスは金がなく今のアパートを出てサンセットパークの廃屋に住むことを提案される。ビングはミリー・グラントと付き合いやはりサンセットパークで住むことになった。しかしやがてミリーは出ていく。
サンセットパークの廃屋は墓地に面している。50万人以上の遺体が埋葬されている。アリスの生まれたミルウォーキーの人工と同じ。自分の人生が始まった場所にいる生者と同数の死者が眠っているという事実、、という言い回しはオースターらしい。
ミリーの後に入ってくるのがマイルズだ。
4人の住人が主人公で次々に章の主人公になる。
マイルズはエレンの視線を感じる。マイルズはピラールがいるので避けたい。
オバマ大統領という単語その時代だったのか。
マイルズはアリスが気になる。アリスは彼氏のジェイクの話をあまりしない。しかしマイルズ自身はピラールのことをアリスに話しているそしてクリスマスにこっちに来ることも。マイルズの懸念はピラールがかなり年少であること。
4人の住人のローテーションかと思いきやいきなりモリス・ヘラーの章となる。
群像劇のように、1人の登場人物を冠した章のタイトルが続く。マイルズの父であるモリス・ヘラーの章。友人の作家マーティン・ロススタインの娘であるスキがベネチアで命を絶ったという連絡を受け、葬儀のためにニューヨークに戻ってきた。葬儀に参列していた、もう1人の古い友人であるレンゾーと昼食をとっているときにした会話がオースターらしい。移動するときに乗った飛行機でみた映画にスティーヴ・コクランが出ていた。自分の母親はコクランから一緒にカリフォルニアに行こうと口説かれていた。しかし両親から反対され実現しなかったが、だから父と結婚し自分が生まれた。コクランは実在の人物で、その最期も史実通り。
ウィラとの不和。
マイルズが出ていった後、何度会いに行こうとしたか、声をかけられなかった。ジョー・ジュニアズという店で毎週朝食を食べたこと。アラバマ物語の批評をマイルズが小学生の時に書き、それをモリスに聞かせる。その内容の素晴らしさにモリスは感銘を受ける。息子であるマイルズのことを愛していることがわかる。
先妻であるメアリ=リーとその現夫と会食するモリス。メアリ=リーから連絡があったからだ。それはマイルズからの留守電がありその事を伝えるためだった。何が言いたかったのかはわからない。2人の前ではウィラと不和で彼女はアパートにもういない、ということは明かせずにいた。アパートに帰るとウィラから電話。謝罪の電話で、早まったことをしないようにとモリスは説得する。次の日にはウィラのいるロンドンに飛んでいく。
全員という章のタイトル。
ピラールがマイルズのいるニューヨークにやってくる。お互い楽しみにしていた。その間にマイルズは自分の生い立ちから今に至るまでを全て話そうとしたが、ピラールがこちらに来て元気を取り戻したのに水を差したくなかった。ピラールが帰った後、両親に和解のため連絡を取ろうとする。
エレンは絵を描くことに没頭し始める。アリスはPENという作家の人権を守る団体で非常勤で働きつつ論文を書き上げようとする。
アリスが家に帰るとニューヨーク市執行官が訪ねてきて、退去勧告を受ける。
ビングの章。マイルズはアリスからもエレンからも秘かに好かれている。なんとビングからも好かれているのだった。
メアリ=リー・スワン、つまりマイルズの実の母、と再会する。ボビーの事故のことを初めて?告白する。しかしメアリ=リーはあれは事故だったと断言する。
モリスの章。遂にマイルズから連絡を受ける。実はウィラが精神的に参っているのでロンドンに向かったが、缶男(と自嘲しているくらいなので)アルコール中毒になったのだろう。数日倒れていた。帰国後直接会う。初めどうしていいかわからなかったが回数を重ねるうち打ち解けるようになった。まずマイルズはあの不幸な事故のことを告白。はじめは何も言ってやれない。やがて、マイルズはその事を悔いて10年以上も苦しんできたことに同情するようになる。ウィラ(はボビーの実の母)に話す。ウィラとしては複雑な心境だ。
サンセットパークのすみかも退去命令が4度来て、いよいよ出ていかなければならないかとアリスとエレンは考え始める。エレンは過去に自分を妊娠させた4つ下のベンジャミン・サミュエルズと再会し一緒に住む予定。マイルズは20日後にフロリダに帰り、ピラールとニューヨークに来て新しい生活を始める予定。しかし最後の通告。警察が押し掛けてくる。ここでひと悶着。マイルズは警官を殴ってしまう。これで未来は一転。せっかく過去の悲しい出来事を清算し、新しい明るい人生を始められる。また急転直下(そうとなると決まったとは限らないが)服役をすることになるのではないかという絶望。もうピラールと一緒になることはないだろう。未来がないのに未来に希望を持つ意味があるのか。永久になくなった今のため、この瞬間だけを生きるのだ。なんと悲壮なラストなのか。
青春群像劇であり、親子の愛、特に父と子であり、テンポが速く、泣かされたり笑わされたりと忙しい話だった。青春を描いたものではあるが「ムーンパレス」が希望が見えるラストであったのに対し、こちらは不穏だ。
マイルズが過去の不幸な出来事を気に病み、未来を捨てた人生を送っていた。ピラールとの出会い、仲間との生活(も多少影響しただろう)、そして両親への告白と懺悔によって、やっと人間らしい希望ある人生を歩みだそうとした。その過程は罪が浄化されるようで清々しい。しかしある意味オースターらしいのか?結末は、一瞬にして再び未来を失ってしまう。
時間がたつほどにしみじみと感動が広がってくる。
 
20240609読み始め
20240709読了