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酒の感想ばかり

「エクスタシーの湖」スティーヴ・エリクソン

2024-06-01 01:31:01 | 読書
読み始めは取っつきにくい。前作と言われる「真夜中に海がやってきた」から続けて読んでもだ。その点では前作は大衆的で読みやすい。しかしこちらは作者も経験を積み、ある程度ギミックを凝らす手段を身に付けてきたと思われる。
クリスティンが主人公というのは書評などで知っているが、全くその名詞は出てこない。東京でメモリーガールをしていたとか妊娠していたとか、そう言った話は出てくる。妊娠したのはカークという男の子。その時に湖が出来始める。ロサンジェルスに?
パーカーはカークより8ヶ月年下の黒人で耳と口が不自由。シングルマザーのヴァレリーの子。
カークが生まれるとき二人いると思われた。妹のブロンテ。しかし実際は産まれてこなかった。はじめからいなかったのか隠れて出てこないのか。
作家の脚本を売る仕事をしている。作家はジェインライトという「黒い時計の旅」に出てきた人物か?。
語り手は小さい頃酒場を経営する叔父に育てられたが逃げ出した。クリスティンではないか?
カークは夢を見ているのか幻覚を見ているのか普通ではない。とは言えこれは語り手の妄想なのかもしれない。湖(ゼッド湖という)の向こうにカークの父親がいるような描写。手紙が送られてくるが返事を出さない。いろんな記事を壁にピン留めする。カークはバラバラにする。それに怒り、怒ったことに虚しさを覚え、湖の向こうへカークと行く。湖畔で座っているとうたた寝する。目が覚めるとカークはいなくなっているのではと焦る。しかしそこにいる。こんなモチーフもよく出てくる。
カークの赤い猿の人形。名前は同じだがカールの発音的にはクルク。いつも、片時も離さない。
息苦しくなるような主人公の夢の描写が続く。カークがいなくなるのではないかという妄想が続く。
2009年(というタイトル)ついに湖の湖面の上昇が止まる。
湖の上でゴンドラに乗るクリスティンとカーク。落ちないようにとカークを残してクリスティンは湖に潜る。クリスティンの代わりにルルが登場。クリスティンと入れ替わるのだ。湖面に戻るとカークがいない。梟によって連れ去られた。カークはルルの息子になっている。クリスティンの幻にカークを1人にしたことを責められる。ルルの幻想が続く。あの居住者が少し登場。8年前に最後にあって以来、死んだことを知る。あの日本人の少年が感電した場面も登場。カークと双子のブロンテを妊娠。ブロンテは生まれてこず、お腹の中から出てこようとしないという感覚。
ルルは気付く。湖の底で、反対側の湖と繋がっている。カークはそちら側で5年も待っているのだと。こちらの5年はあちらでは5分くらいだろうか。
家で寝ていて息苦しさを感じて目を覚ますと火事だった。カークはやはりいない。家は燃え尽きる。赤いドレスを脱ぎ、心配した人たちに毛布をもらう。湖の上のゴンドラに乗り込まなければと思う。裸でゴンドラに乗り込み、湖のゼロポイントにたどり着く。彼女は潜っていく。そこから彼女の思考が幻想のように語られる。まさに幻想。潜って穴通るという行為が産道と重なったり。そして細い通路通過するが如く、文章が左のページの中心から左寄りに1行だけになる。そして2017(2016)年となる。
ワンという軍人が登場。部屋に知らない間に、自分の若いときの、戦車に立ちふさがる場面の写真が大きく引き伸ばされ貼られている。兵士を問い詰めると誰がやったかはわからないが、兵士たちの士気が上がるからだという。ワンは納得しないすぐに剥がさせる。地上で少佐が呼んでいるというので上がるが、その前にSMの(?)女王様に面会を求めるメールを送る。勿論ワンは僕役だ。この感覚がよくわからないが。地上に上がり、何か音を録音する。そしてそれについて後程会議をしたいと少佐が求める(少佐はワンの部下)。会議では録音した音、歌のよう、であることがわかる。何やら、湖の水かさが増してきた。痴呆の女が現れた。あるカルト集団が現れた。湖の水かさの上昇が止まった。歌が聞こえてきた。などが同じ時期に起きているとすいさつされている。女は湖に潜って上がってこなくなった。ゴンドラは船頭の少年が戻してきた。中に残っていた赤い猿の人形。これは今ワンが持っている。まだ何の話なのかわからない。クリスティンだかが湖に潜ったという、この前の話を、反対から見ている立場の人間からみた話のようだ。そして、この作品の大きな特徴、左のページの左寄りに1行だけ別の話が流れるようにレイアウトされている。同時進行しているのだ。とはいて文字のボリュームが両方で全く異なるため読むのが難しい。
17、8歳の若者である船頭に船を漕いでもらう。ワンは自分のクリスティンのことを考える。身投げした方は20代、自分のクリスティンは30代だ。ワンはルルに会う。SMプレイをする。もちろんワンが奴隷だ。
船頭の少年はクウルという、母親みたいな老女を世話している。女医のようだ。老女をのせて湖の中心にある反対の世界に通じる抜け穴から発生する渦に向かう。通過中は文章がページの下の方に萎む。狭い通路を通っているかのように。13の部屋のあるホテルの中を老女の人生を象徴した部屋を通過していく。老女は1部屋ごとに過去の記憶を振り返る。全部回りきったとき老女は死を迎える。
2028年。ルルの側の話。クリスティンと湖の表側と裏側の対のようだ。ルルは子供を置き去りにした。カークだ。もう20年近くたっているので生きていれば20代になっていることを想像している。死に対して、苦痛が怖いわけではない。無が怖いのだ。
ある日湖を少女が泳ぎ着く。ルルはブロンテと思う。カークの双子の妹。ブロンテは過去の記憶がない。泳いできてホテルに上がったところから記憶が始まる。ブロンテは実際はルルの娘ではないようだ。やがて、ルルと共にSMの仕事をするようになる。
2001ー2089年の章
少女とサラとのレズビアンな関係の話。
それにしても作者は手漕ぎ船というモチーフが好きなようだ。ワンのことだ。
ワンとキムは親子(?)。キムがサンフランシスコに戻ってきたとき、初めてサキと出会った。サキの母親はラスベガスでストリッパーをしていて、宗教カルトに入信していて、父親は黙示録のカレンダーを作製していた。と、前作「真夜中に海がやってきた」を匂わせる話が出てくる。
終盤にも出てくるバニング・ジェインライト(の回想録)。それは彼女の父親の書いた原稿だ。
章を追うごとに年代が進んでいく。お馴染みの、同じ人物が、時代ごとに別の人物として登場する。と、同時に文章のレイアウトが狭まっていく、最後の章はかなり狭い。具体的には1行あたり6文字まで圧縮される。
これは裏表繋がっている湖の細い通路を抜け出す様を表現しているのだろう。
それと相まって、それまでのうなされるような幻想の世界、そこから最後、細い道を抜け出してついに解放されたかのような安堵感を得る。
この小説は「真夜中に海がやってきた」の続編であるとともに、スティーヴ・エリクソンのそれまでの自己オマージュを含めた集大成的な小説と言える。ポール・オースターの「写字室の旅」的な小説。
 
20231105読み始め
20240601読了

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