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一軒離れて、間口の広い造り酒屋がある。
その前の立木の中を分水した方の水が流れている。
丁度前かきの幅だけなので、
それを入れて子供達に下流から叉手(さで)で追はしたが、
何度やつても一尾も入らなかつた。
…十二、三軒人家のかたまった所を通りぬけると、
真直ぐな一本道に出た。左は田圃、右は川で、遠く、
大な榎が四辻においかぶさっている砂茶屋という所まで、それが続いている。
此辺の川には綺麗な洲があり、葭(よし)が生え、
何となく親しみ易い景色だった。
路から一間ほど下り、草原の木陰で持って来た物をひらいた。
すっぽんを入れた魚籠は桜の枝につるした。
桜の幹にも柳の枝にも同じ高さで、藁くずやごみがひっかかっていた。
これは水が出た時、水がここまで来た跡だ。
…帰途(かえり)、酒屋に立ち寄り婆さんにすっぽんを見せた。
亀はいるが、すっぽんはこの川でも珍しいと、大変喜んでくれた。
二、三人見に出てきた男の一人が笑いながら、
『かみに、養殖している人がありま。そこから逃げた奴だっしゃろ』といった。
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