カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

シャヨウ 3

2019-11-22 | ダザイ オサム
 3

 どうしても、 もう、 とても、 いきて おられない よう な ココロボソサ。 これ が、 あの、 フアン、 とか いう カンジョウ なの で あろう か、 ムネ に くるしい ナミ が うちよせ、 それ は ちょうど、 ユウダチ が すんだ ノチ の ソラ を、 あわただしく シラクモ が つぎつぎ と はしって はしりすぎて ゆく よう に、 ワタシ の シンゾウ を しめつけたり、 ゆるめたり、 ワタシ の ミャク は ケッタイ して、 コキュウ が キハク に なり、 メ の サキ が もやもや と くらく なって、 ゼンシン の チカラ が、 テ の ユビ の サキ から ふっと ぬけて しまう ココチ が して、 アミモノ を つづけて ゆく こと が できなく なった。
 コノゴロ は アメ が インキ に ふりつづいて、 ナニ を する にも、 ものうくて、 キョウ は オザシキ の エンガワ に トウイス を もちだし、 コトシ の ハル に イチド あみかけて ソノママ に して いた セータ を、 また あみつづけて みる キ に なった の で ある。 あわい ボタンイロ の ぼやけた よう な ケイト で、 ワタシ は それ に、 コバルト ブルー の イト を たして、 セータ に する つもり なの だ。 そうして、 この あわい ボタンイロ の ケイト は、 イマ から もう 20 ネン も マエ、 ワタシ が まだ ショトウカ に かよって いた コロ、 オカアサマ が これ で ワタシ の クビマキ を あんで くださった ケイト だった。 その クビマキ の ハシ が ズキン に なって いて、 ワタシ は それ を かぶって カガミ を のぞいて みたら、 コオニ の よう で あった。 それに、 イロ が、 ホカ の ガクユウ の クビマキ の イロ と、 まるで ちがって いる ので、 ワタシ は、 いや で いや で シヨウ が なかった。 カンサイ の タガク ノウゼイ の ガクユウ が、 「いい クビマキ して なはる な」 と、 おとなびた クチョウ で ほめて くださった が、 ワタシ は、 いよいよ はずかしく なって、 もう それから は、 イチド も この クビマキ を した こと が なく、 ながい こと うちすてて あった の だ。 それ を、 コトシ の ハル、 シゾウヒン の フッカツ と やら いう イミ で、 ときほぐして ワタシ の セータ に しよう と おもって とりかかって みた の だ が、 どうも、 この ぼやけた よう な イロアイ が キ に いらず、 また うちすて、 キョウ は あまり に しょざいない まま、 ふと とりだして、 のろのろ と あみつづけて みた の だ。 けれども、 あんで いる うち に、 ワタシ は、 この あわい ボタンイロ の ケイト と、 ハイイロ の アマゾラ と、 ヒトツ に とけあって、 なんとも いえない くらい やわらかくて マイルド な シキチョウ を つくりだして いる こと に キ が ついた。 ワタシ は しらなかった の だ。 コスチウム は、 ソラ の イロ との チョウワ を かんがえなければ ならぬ もの だ と いう ダイジ な こと を しらなかった の だ。 チョウワ って、 なんて うつくしくて すばらしい こと なん だろう と、 いささか おどろき、 ぼうぜん と した カタチ だった。 ハイイロ の アマゾラ と、 あわい ボタンイロ の ケイト と、 その フタツ を くみあわせる と リョウホウ が ドウジ に いきいき して くる から フシギ で ある。 テ に もって いる ケイト が キュウ に ほっかり あたたかく、 つめたい アマゾラ も ビロウド みたい に やわらかく かんぜられる。 そうして、 モネー の キリ の ナカ の ジイン の エ を おもいださせる。 ワタシ は この ケイト の イロ に よって、 はじめて 「グー」 と いう もの を しらされた よう な キ が した。 よい コノミ。 そうして オカアサマ は、 フユ の ユキゾラ に、 この あわい ボタンイロ が、 どんな に うつくしく チョウワ する か ちゃんと しって いらして わざわざ えらんで くださった のに、 ワタシ は バカ で いやがって、 けれども、 それ を コドモ の ワタシ に キョウセイ しよう とも なさらず、 ワタシ の すき な よう に させて おかれた オカアサマ。 ワタシ が この イロ の ウツクシサ を、 ホントウ に わかる まで、 20 ネン-カン も、 この イロ に ついて ヒトコト も セツメイ なさらず、 だまって、 そしらぬ フリ して まって いらした オカアサマ。 しみじみ、 いい オカアサマ だ と おもう と ドウジ に、 こんな いい オカアサマ を、 ワタシ と ナオジ と フタリ で いじめて、 こまらせ よわらせ、 いまに しなせて しまう の では なかろう か と、 ふうっと たまらない キョウフ と シンパイ の クモ が ムネ に わいて、 あれこれ オモイ を めぐらせば めぐらす ほど、 ゼント に とても おそろしい、 わるい こと ばかり ヨソウ せられ、 もう、 とても、 いきて おられない くらい に フアン に なり、 ユビサキ の チカラ も ぬけて、 アミボウ を ヒザ に おき、 おおきい タメイキ を ついて、 カオ を あおむけ メ を つぶって、
「オカアサマ」
 と おもわず いった。
 オカアサマ は、 オザシキ の スミ の ツクエ に よりかかって、 ゴホン を よんで いらした の だ が、
「はい?」
 と、 フシン そう に ヘンジ を なさった。
 ワタシ は、 まごつき、 それから、 ことさら に オオゴエ で、
「とうとう バラ が さきました。 オカアサマ、 ゴゾンジ だった? ワタシ は、 イマ キ が ついた。 とうとう さいた わ」
 オザシキ の オエンガワ の すぐ マエ の バラ。 それ は、 ワダ の オジサマ が、 ムカシ、 フランス だ か イギリス だ か、 ちょっと わすれた けれど、 とにかく とおい ところ から おもちかえり に なった バラ で、 2~3 カゲツ マエ に、 オジサマ が、 この サンソウ の ニワ に うつしうえて くださった バラ で ある。 ケサ それ が、 やっと ヒトツ さいた の を、 ワタシ は ちゃんと しって いた の だ けれども、 テレカクシ に、 たったいま きづいた みたい に おおげさ に さわいで みせた の で ある。 ハナ は、 こい ムラサキイロ で、 りん と した オゴリ と ツヨサ が あった。
「しって いました」
 と オカアサマ は しずか に おっしゃって、
「アナタ には、 そんな こと が、 とても ジュウダイ らしい のね」
「そう かも しれない わ。 かわいそう?」
「いいえ、 アナタ には、 そういう ところ が ある って いった だけ なの。 オカッテ の マッチ-バコ に ルナール の エ を はったり、 オニンギョウ の ハンカチーフ を つくって みたり、 そういう こと が すき なの ね。 それに、 オニワ の バラ の こと だって、 アナタ の いう こと を きいて いる と、 いきて いる ヒト の こと を いって いる みたい」
「コドモ が ない から よ」
 ジブン でも まったく おもいがけなかった コトバ が、 クチ から でた。 いって しまって、 はっと して、 マ の わるい オモイ で ヒザ の アミモノ を いじって いたら、
 ――29 だ から なあ。
 そう おっしゃる オトコ の ヒト の コエ が、 デンワ で きく よう な くすぐったい バス で、 はっきり きこえた よう な キ が して、 ワタシ は ハズカシサ で、 ホオ が やける みたい に あつく なった。
 オカアサマ は、 なにも おっしゃらず、 また、 ゴホン を およみ に なる。 オカアサマ は、 コナイダ から ガーゼ の マスク を おかけ に なって いらして、 その せい か、 コノゴロ めっきり ムクチ に なった。 その マスク は、 ナオジ の イイツケ に したがって、 おかけ に なって いる の で ある。 ナオジ は、 トオカ ほど マエ に、 ナンポウ の シマ から あおぐろい カオ に なって かえって きた の だ。
 なんの マエブレ も なく、 ナツ の ユウグレ、 ウラ の キド から ニワ へ はいって きて、
「わあ、 ひでえ。 シュミ の わるい ウチ だ。 ライライケン。 シューマイ あります、 と ハリフダ しろ よ」
 それ が ワタシ と はじめて カオ を あわせた とき の、 ナオジ の アイサツ で あった。
 その 2~3 ニチ マエ から オカアサマ は、 シタ を やんで ねて いらした。 シタ の サキ が、 ガイケン は なんの カワリ も ない のに、 うごかす と いたくて ならぬ と おっしゃって、 オショクジ も、 うすい オカユ だけ で、 オイシャ サマ に みて いただいたら? と いって も、 クビ を ふって、
「わらわれます」
 と ニガワライ しながら、 おっしゃる。 ルゴール を ぬって あげた けれども、 すこしも キキメ が ない よう で、 ワタシ は ミョウ に いらいら して いた。
 そこ へ、 ナオジ が キカン して きた の だ。
 ナオジ は オカアサマ の マクラモト に すわって、 ただいま、 と いって オジギ を し、 すぐに たちあがって、 ちいさい イエ の ナカ を あちこち と みて まわり、 ワタシ が その アト を ついて あるいて、
「どう? オカアサマ は、 かわった?」
「かわった、 かわった。 やつれて しまった。 はやく しにゃ いい ん だ。 こんな ヨノナカ に、 ママ なんて、 とても いきて いけ や しねえ ん だ。 あまり みじめ で、 みちゃ おれねえ」
「ワタシ は?」
「げびて きた。 オトコ が 2~3 ニン も ある よう な カオ を して いやがる。 サケ は? コンヤ は のむ ぜ」
 ワタシ は この ブラク で たった 1 ケン の ヤドヤ へ いって、 オカミサン の オサキ さん に、 オトウト が キカン した から、 オサケ を すこし わけて ください、 と たのんで みた けれども、 オサキ さん は、 オサケ は あいにく、 イマ きらして います、 と いう ので、 かえって ナオジ に そう つたえたら、 ナオジ は、 みた こと も ない タニン の よう な ヒョウジョウ の カオ に なって、 ちえっ、 コウショウ が ヘタ だ から そう なん だ、 と いい、 ワタシ から ヤドヤ の ある バショ を きいて、 ニワゲタ を つっかけて ソト に とびだし、 それっきり、 いくら まって も ウチ へ かえって こなかった。 ワタシ は ナオジ の すき だった ヤキリンゴ と、 それから、 タマゴ の オリョウリ など こしらえて、 ショクドウ の デンキュウ も あかるい の と とりかえ、 ずいぶん まって、 その うち に、 オサキ さん が、 オカッテグチ から ひょいと カオ を だし、
「もし、 もし。 だいじょうぶ でしょう か。 ショウチュウ を めしあがって いる の です けど」
 と、 レイ の コイ の メ の よう な まんまるい メ を、 さらに つよく みはって、 イチダイジ の よう に、 ひくい コエ で いう の で ある。
「ショウチュウ って。 あの、 メチル?」
「いいえ、 メチル じゃ ありません けど」
「のんで も、 ビョウキ に ならない の でしょう?」
「ええ、 でも、……」
「のませて やって ください」
 オサキ さん は、 ツバキ を のみこむ よう に して うなずいて かえって いった。
 ワタシ は オカアサマ の ところ に いって、
「オサキ さん の ところ で、 のんで いる ん ですって」
 と もうしあげたら、 オカアサマ は、 すこし オクチ を まげて おわらい に なって、
「そう。 アヘン の ほう は、 よした の かしら。 アナタ は、 ゴハン を すませなさい。 それから コンヤ は、 3 ニン で この ヘヤ に おやすみ。 ナオジ の オフトン を、 マンナカ に して」
 ワタシ は、 なきたい よう な キモチ に なった。
 よふけて、 ナオジ は、 あらい アシオト を させて かえって きた。 ワタシタチ は、 オザシキ に 3 ニン、 ヒトツ の カヤ に はいって ねた。
「ナンポウ の オハナシ を、 オカアサマ に きかせて あげたら?」
 と ワタシ が ねながら いう と、
「なにも ない。 なにも ない。 わすれて しまった。 ニホン に ついて キシャ に のって、 キシャ の マド から、 スイデン が、 すばらしく きれい に みえた。 それ だけ だ。 デンキ を けせ よ。 ねむられ や しねえ」
 ワタシ は デントウ を けした。 ナツ の ゲッコウ が コウズイ の よう に カヤ の ナカ に みちあふれた。
 あくる アサ、 ナオジ は ネドコ に ハラバイ に なって、 タバコ を すいながら、 とおく ウミ の ほう を ながめて、
「シタ が いたい ん ですって?」
 と、 はじめて オカアサマ の オカゲン の わるい の に キ が ついた みたい な フウ の クチ の キキカタ を した。
 オカアサマ は、 ただ かすか に おわらい に なった。
「そいつ あ、 きっと、 シンリテキ な もの なん だ。 ヨル、 クチ を あいて おやすみ に なる ん でしょう。 ダラシ が ない。 マスク を なさい。 ガーゼ に リバノール エキ でも ひたして、 それ を マスク の ナカ に いれて おく と いい」
 ワタシ は それ を きいて ふきだし、
「それ は、 ナニ リョウホウ って いう の?」
「ビガク リョウホウ って いう ん だ」
「でも、 オカアサマ は、 マスク なんか、 きっと おきらい よ」
 オカアサマ は、 マスク に かぎらず、 ガンタイ でも、 メガネ でも、 オカオ に そんな もの を つける こと は だいきらい だった はず で ある。
「ねえ、 オカアサマ。 マスク を なさる?」
 と ワタシ が おたずね したら、
「いたします」
 と マジメ に ひくく おこたえ に なった ので、 ワタシ は、 はっと した。 ナオジ の いう こと なら、 なんでも しんじて したがおう と おもって いらっしゃる らしい。
 ワタシ が チョウショク の アト に、 さっき ナオジ が いった とおり に、 ガーゼ に リバノール エキ を ひたし など して、 マスク を つくり、 オカアサマ の ところ に もって いったら、 オカアサマ は、 だまって うけとり、 おやすみ に なった まま で、 マスク の ヒモ を リョウホウ の オミミ に すなお に おかけ に なり、 その サマ が、 ホントウ に もう おさない ドウジョ の よう で、 ワタシ には かなしく おもわれた。
 オヒルスギ に、 ナオジ は、 トウキョウ の オトモダチ や、 ブンガク の ほう の シショウ さん など に あわなければ ならぬ と いって セビロ に きがえ、 オカアサマ から、 2000 エン もらって トウキョウ へ でかけて いって しまった。 それっきり、 もう トオカ ちかく なる の だ けれども、 ナオジ は、 かえって こない の だ。 そうして、 オカアサマ は、 マイニチ マスク を なさって、 ナオジ を まって いらっしゃる。
「リバノール って、 いい クスリ なの ね。 この マスク を かけて いる と、 シタ の イタミ が きえて しまう の です よ」
 と、 わらいながら おっしゃった けれども、 ワタシ には、 オカアサマ が ウソ を ついて いらっしゃる よう に おもわれて ならない の だ。 もう だいじょうぶ、 と おっしゃって、 イマ は おきて いらっしゃる けれども、 ショクヨク は やっぱり あまり ない ゴヨウス だし、 クチカズ も めっきり すくなく、 とても ワタシ は キガカリ で、 ナオジ は まあ、 トウキョウ で ナニ を して いる の だろう、 あの ショウセツカ の ウエハラ さん なんか と イッショ に トウキョウ-ジュウ を あそびまわって、 トウキョウ の キョウキ の ウズ に まきこまれて いる の に ちがいない、 と おもえば おもう ほど、 くるしく つらく なり、 オカアサマ に、 だしぬけ に バラ の こと など ホウコク して、 そうして、 コドモ が ない から よ、 なんて ジブン にも おもいがけなかった ヘン な こと を くちばしって、 いよいよ、 いけなく なる ばかり で、
「あ」
 と いって たちあがり、 さて、 どこ へも ゆく ところ が なく、 ミヒトツ を もてあまして、 ふらふら カイダン を のぼって いって、 2 カイ の ヨウマ に はいって みた。
 ここ は、 コンド ナオジ の ヘヤ に なる はず で、 4~5 ニチ マエ に ワタシ が、 オカアサマ と ソウダン して、 シタ の ノウカ の ナカイ さん に オテツダイ を たのみ、 ナオジ の ヨウフク-ダンス や ツクエ や ホンバコ、 また、 ゾウショ や ノートブック など いっぱい つまった キ の ハコ イツツ ムッツ、 とにかく ムカシ、 ニシカタマチ の オウチ の ナオジ の オヘヤ に あった もの ゼンブ を、 ここ に もちはこび、 いまに ナオジ が トウキョウ から かえって きたら、 ナオジ の すき な イチ に、 タンス ホンバコ など それぞれ すえる こと に して、 それまで は ただ ざつぜん と ここ に オキバナシ に して いた ほう が よさそう に おもわれた ので、 もう、 アシ の フミバ も ない くらい に、 ヘヤ いっぱい ちらかした まま で、 ワタシ は、 なにげなく アシモト の キ の ハコ から、 ナオジ の ノートブック を 1 サツ とりあげて みたら、 その ノートブック の ヒョウシ には、

  ユウガオ ニッシ

 と かきしるされ、 その ナカ には、 ツギ の よう な こと が いっぱい かきちらされて いた の で ある。 ナオジ が、 あの、 マヤク チュウドク で くるしんで いた コロ の シュキ の よう で あった。


 やけしぬる オモイ。 くるしく とも、 くるし と イチゴン、 ハンク、 さけびえぬ、 コライ、 ミゾウ、 ヒト の ヨ はじまって イライ、 ゼンレイ も なき、 そこしれぬ ジゴク の ケハイ を、 ごまかしなさんな。
 シソウ? ウソ だ。 シュギ? ウソ だ。 リソウ? ウソ だ。 チツジョ? ウソ だ。 セイジツ? シンリ? ジュンスイ? みな ウソ だ。 ウシジマ の フジ は、 ジュレイ 1000 ネン、 ユヤ の フジ は、 スウヒャクネン と となえられ、 その カスイ の ごとき も、 ゼンシャ で サイチョウ 9シャク、 コウシャ で 5 シャク あまり と きいて、 ただ その カスイ に のみ、 ココロ が おどる。
 あれ も ヒト の コ。 いきて いる。
 ロンリ は、 しょせん、 ロンリ への アイ で ある。 いきて いる ニンゲン への アイ では ない。
 カネ と オンナ。 ロンリ は、 はにかみ、 そそくさ と あゆみさる。
 レキシ、 テツガク、 キョウイク、 シュウキョウ、 ホウリツ、 セイジ、 ケイザイ、 シャカイ、 そんな ガクモン なんか より、 ヒトリ の ショジョ の ビショウ が とうとい と いう ファウスト ハカセ の ユウカン なる ジッショウ。
 ガクモン とは、 キョエイ の ベツメイ で ある。 ニンゲン が ニンゲン で なくなろう と する ドリョク で ある。

 ゲーテ に だって ちかって いえる。 ボク は、 どんな に でも うまく かけます。 イッペン の コウセイ あやまたず、 テキド の コッケイ、 ドクシャ の メ の ウラ を やく ヒアイ、 もしくは、 しゅくぜん、 いわゆる エリ を たださしめ、 カンペキ の オショウセツ、 ろうろう オンドク すれば、 これ すなわち、 スクリン の セツメイ か、 はずかしくって、 かける か って いう ん だ。 どだい そんな、 ケッサク イシキ が、 けちくさい と いう ん だ。 ショウセツ を よんで エリ を ただす なんて、 キョウジン の ショサ で ある。 そんなら、 いっそ、 ハオリハカマ で せにゃ なるまい。 よい サクヒン ほど、 とりすまして いない よう に みえる の だ がなあ。 ボク は ユウジン の ココロ から たのしそう な エガオ を みたい ばかり に、 イッペン の ショウセツ、 わざと しくじって、 ヘタクソ に かいて、 シリモチ ついて アタマ かきかき にげて ゆく。 ああ、 その とき の、 ユウジン の うれしそう な カオ ったら!
 ブン いたらず、 ヒト いたらぬ フゼイ、 オモチャ の ラッパ を ふいて おきかせ もうし、 ここ に ニッポンイチ の バカ が います、 アナタ は まだ いい ほう です よ、 ケンザイ なれ! と ねがう アイジョウ は、 これ は いったい ナン でしょう。
 ユウジン、 シタリガオ にて、 あれ が アイツ の わるい クセ、 おしい もの だ、 と ゴジュッカイ。 あいされて いる こと を、 ゴゾンジ ない。
 フリョウ で ない ニンゲン が ある だろう か。
 あじけない オモイ。
 カネ が ほしい。
 さも なくば、
 ねむりながら の シゼンシ!

 クスリヤ に 1000 エン ちかき シャッキン あり。 キョウ、 シチヤ の バントウ を こっそり ウチ へ つれて きて、 ボク の ヘヤ へ とおして、 ナニ か この ヘヤ に めぼしい シチグサ あり や、 ある なら もって いけ、 カキュウ に カネ が いる、 と もうせし に、 バントウ ろくに ヘヤ の ナカ を み も せず、 およしなさい、 アナタ の オドウグ でも ない のに、 と ぬかした。 よろしい、 それならば、 ボク が イマ まで、 ボク の オコヅカイセン で かった シナモノ だけ もって いけ、 と イセイ よく いって、 かきあつめた ガラクタ、 シチグサ の シカク ある シロモノ ヒトツ も なし。
 まず、 カタテ の セッコウゾウ。 これ は、 ヴィナス の ミギテ。 ダリヤ の ハナ にも にた カタテ、 まっしろい カタテ、 それ が ただ ダイジョウ に のって いる の だ。 けれども、 これ を よく みる と、 これ は ヴィナス が、 その ゼンラ を、 オトコ に みられて、 あなや の オドロキ、 ガンシュウ センプウ、 ラシン ムザン、 ウスクレナイ、 ノコリ くまなき、 かっかっ の ホテリ、 カラダ を よじって この テツキ、 そのよう な ヴィナス の イキ も とまる ほど の ラシン の ハジライ が、 ユビサキ に シモン も なく、 テノヒラ に 1 ポン の テスジ も ない ジュンパク の この きゃしゃ な ミギテ に よって、 こちら の ムネ も くるしく なる くらい に あわれ に ヒョウジョウ せられて いる の が、 わかる はず だ。 けれども、 これ は、 しょせん、 ヒジツヨウ の ガラクタ。 バントウ、 50 セン と ネブミ せり。
 その ホカ、 パリ キンコウ の ダイチズ、 チョッケイ 1 シャク に ちかき セルロイド の コマ、 イト より も ほそく ジ の かける トクセイ の ペンサキ、 いずれ も ホリダシモノ の つもり で かった シナモノ ばかり なの だ が、 バントウ わらって、 もう オイトマ いたします、 と いう。 まて、 と セイシ して、 けっきょく また、 ホン を やまほど バントウ に せおわせて、 キン 5 エン ナリ を うけとる。 ボク の ホンダナ の ホン は、 ほとんど レンカ の ブンコボン のみ に して、 しかも フルホンヤ から しいれし もの なる に よって、 シチ の ネ も おのずから、 このよう に やすい の で ある。
 1000 エン の シャクセン を カイケツ せん と して、 5 エン ナリ。 ヨノナカ に おける、 ボク の ジツリョク、 おおよそ かく の ごとし。 ワライゴト では ない。

 デカダン? しかし、 こう でも しなけりゃ いきて おれない ん だよ。 そんな こと を いって、 ボク を ヒナン する ヒト より は、 しね! と いって くれる ヒト の ほう が ありがたい。 さっぱり する。 けれども ヒト は、 めった に、 しね! とは いわない もの だ。 けちくさく、 ヨウジン-ぶかい ギゼンシャ ども よ。
 セイギ? いわゆる カイキュウ トウソウ の ホンシツ は、 そんな ところ に あり は せぬ。 ジンドウ? ジョウダン じゃ ない。 ボク は しって いる よ。 ジブン たち の コウフク の ため に、 アイテ を たおす こと だ。 ころす こと だ。 しね! と いう センコク で なかったら、 ナン だ。 ごまかしちゃ いけねえ。
 しかし、 ボクタチ の カイキュウ にも、 ろく な ヤツ が いない。 ハクチ、 ユウレイ、 シュセンド、 キョウケン、 ホラフキ、 ございまする、 クモ の ウエ から ショウベン。
 しね! と いう コトバ を あたえる の さえ、 もったいない。

 センソウ。 ニホン の センソウ は、 ヤケクソ だ。
 ヤケクソ に まきこまれて しぬ の は、 いや。 いっそ、 ヒトリ で しにたい わい。

 ニンゲン は、 ウソ を つく とき には、 かならず、 マジメ な カオ を して いる もの で ある。 コノゴロ の、 シドウシャ たち の、 あの、 マジメサ。 ぷ!

 ヒト から ソンケイ されよう と おもわぬ ヒトタチ と あそびたい。
 けれども、 そんな いい ヒトタチ は、 ボク と あそんで くれ や しない。

 ボク が ソウジュク を よそおって みせたら、 ヒトビト は ボク を、 ソウジュク だ と ウワサ した。 ボク が、 ナマケモノ の フリ を して みせたら、 ヒトビト は ボク を、 ナマケモノ だ と ウワサ した。 ボク が ショウセツ を かけない フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 かけない の だ と ウワサ した。 ボク が ウソツキ の フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 ウソツキ だ と ウワサ した。 ボク が カネモチ の フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 カネモチ だ と ウワサ した。 ボク が レイタン を よそおって みせたら、 ヒトビト は ボク を、 レイタン な ヤツ だ と ウワサ した。 けれども、 ボク が ホントウ に くるしくて、 おもわず うめいた とき、 ヒトビト は ボク を、 くるしい フリ を よそおって いる と ウワサ した。
 どうも、 くいちがう。

 けっきょく、 ジサツ する より ほか シヨウ が ない の じゃ ない か。
 このよう に くるしんで も、 ただ、 ジサツ で おわる だけ なの だ、 と おもったら、 コエ を はなって ないて しまった。

 ハル の アサ、 2~3 リン の ハナ の さきほころびた ウメ の エダ に アサヒ が あたって、 その エダ に ハイデルベルヒ の わかい ガクセイ が、 ほっそり と くびれて しんで いた と いう。

「ママ! ボク を しかって ください!」
「どういう グアイ に?」
「ヨワムシ! って」
「そう? ヨワムシ。 ……もう、 いい でしょう?」
 ママ には ムルイ の ヨサ が ある。 ママ を おもう と、 なきたく なる。 ママ へ オワビ の ため にも、 しぬ ん だ。

 おゆるし ください。 いま、 イチド だけ、 おゆるし ください。

 ネンネン や
 メシイ の まま に
 ツル の ヒナ
 そだちゆく らし
 あわれ、 ふとる も                      (ガンタン シサク)

 モルヒネ、 アトロモール、 ナルコポン、 パントポン、 パビナール、 パンオピン、 アトロピン

 プライド とは ナン だ、 プライド とは。
 ニンゲン は、 いや、 オトコ は、 (オレ は すぐれて いる) (オレ には いい ところ が ある ん だ) など と おもわず に、 いきて ゆく こと が できぬ もの か。
 ヒト を きらい、 ヒト に きらわれる。
 チエクラベ

 ゲンシュク = アホウカン

 とにかく ね、 いきて いる の だ から ね、 インチキ を やって いる に ちがいない のさ。

 ある シャクセン モウシコミ の テガミ。
「ゴヘンジ を。
 ゴヘンジ を ください。
 そうして、 それ が かならず カイホウ で ある よう に。
 ボク は サマザマ の クツジョク を おもいもうけて、 ヒトリ で うめいて います。
 シバイ を して いる の では ありません。 ゼッタイ に そう では ありません。
 おねがい いたします。
 ボク は ハズカシサ の ため に しにそう です。
 コチョウ では ない の です。
 マイニチ マイニチ、 ゴヘンジ を まって、 ヨル も ヒル も がたがた ふるえて いる の です。
 ボク に、 スナ を かませないで。
 カベ から シノビワライ の コエ が きこえて きて、 シンヤ、 トコ の ナカ で テンテン して いる の です。
 ボク を はずかしい メ に あわせないで。
 ネエサン!」


 そこ まで よんで ワタシ は、 その ユウガオ ニッシ を とじ、 キ の ハコ に かえして、 それから マド の ほう に あるいて ゆき、 マド を いっぱい に ひらいて、 しろい アメ に けむって いる オニワ を みおろしながら、 あの コロ の こと を かんがえた。
 もう、 あれ から、 6 ネン に なる。 ナオジ の、 この マヤク チュウドク が、 ワタシ の リコン の ゲンイン に なった、 いいえ、 そう いって は いけない、 ワタシ の リコン は、 ナオジ の マヤク チュウドク が なくって も、 ベツ な ナニ か の キッカケ で、 いつかは おこなわれて いる よう に、 そのよう に、 ワタシ の うまれた とき から、 さだまって いた こと みたい な キ も する。 ナオジ は、 クスリヤ への シハライ に こまって、 しばしば ワタシ に オカネ を ねだった。 ワタシ は ヤマキ へ とついだ ばかり で、 オカネ など そんな に ジユウ に なる わけ は なし、 また、 トツギサキ の オカネ を、 サト の オトウト へ こっそり ユウズウ して やる など、 たいへん グアイ の わるい こと の よう にも おもわれた ので、 サト から ワタシ に つきそって きた バアヤ の オセキ さん と ソウダン して、 ワタシ の ウデワ や、 クビカザリ や、 ドレス を うった。 オトウト は ワタシ に、 オカネ を ください、 と いう テガミ を よこして、 そうして、 イマ は くるしくて はずかしくて、 アネウエ と カオ を あわせる こと も、 また デンワ で ハナシ する こと さえ、 とても できません から、 オカネ は、 オセキ に いいつけて、 キョウバシ の × マチ × チョウメ の カヤノ アパート に すんで いる、 アネウエ も ナマエ だけ は ゴゾンジ の はず の、 ショウセツカ ウエハラ ジロウ さん の ところ に とどけさせる よう、 ウエハラ さん は、 アクトク の ヒト の よう に ヨノナカ から ヒョウバン されて いる が、 けっして そんな ヒト では ない から、 アンシン して オカネ を ウエハラ さん の ところ へ とどけて やって ください、 そう する と、 ウエハラ さん が すぐに ボク に デンワ で しらせる こと に なって いる の です から、 かならず そのよう に おねがい します、 ボク は コンド の チュウドク を、 ママ に だけ は きづかれたく ない の です、 ママ の しらぬ うち に、 なんとか して この チュウドク を なおして しまう つもり なの です、 ボク は、 コンド アネウエ から オカネ を もらったら、 それ で もって クスリヤ への カリ を ゼンブ しはらって、 それから シオバラ の ベッソウ へ でも いって、 ケンコウ な カラダ に なって かえって くる つもり なの です、 ホントウ です、 クスリヤ の カリ を ゼンブ すましたら、 もう ボク は、 その ヒ から マヤク を もちいる こと は ぴったり よす つもり です、 カミサマ に ちかいます、 しんじて ください、 ママ には ナイショ に、 オセキ を つかって カヤノ アパート の ウエハラ さん に、 たのみます、 と いう よう な こと が、 その テガミ に かかれて いて、 ワタシ は その サシズドオリ に、 オセキ さん に オカネ を もたせて、 こっそり ウエハラ さん の アパート に とどけさせた もの だ が、 オトウト の テガミ の チカイ は、 いつも ウソ で、 シオバラ の ベッソウ にも ゆかず、 ヤクヒン チュウドク は いよいよ ひどく なる ばかり の ヨウス で、 オカネ を ねだる テガミ の ブンショウ も、 ヒメイ に ちかい くるしげ な チョウシ で、 コンド こそ クスリ を やめる と、 カオ を そむけたい くらい の アイセツ な チカイ を する ので、 また ウソ かも しれぬ と おもいながら も、 つい また、 ブローチ など オセキ さん に うらせて、 その オカネ を ウエハラ さん の アパート に とどけさせる の だった。
「ウエハラ さん って、 どんな カタ?」
「コガラ で カオイロ の わるい、 ブアイソ な ヒト で ございます」
 と オセキ さん は こたえる。
「でも、 アパート に いらっしゃる こと は、 めった に ございませぬ です。 たいてい、 オクサン と、 ムッツ ナナツ の オンナ の オコサン と、 オフタリ が いらっしゃる だけ で ございます。 この オクサン は、 そんな に おきれい でも ございませぬ けれども、 おやさしくて、 よく できた オカタ の よう で ございます。 あの オクサン に なら、 アンシン して オカネ を あずける こと が できます」
 その コロ の ワタシ は、 イマ の ワタシ に くらべて、 いいえ、 クラベモノ にも なにも ならぬ くらい、 まるで ちがった ヒト みたい に、 ボンヤリ の、 ノンキモノ では あった が、 それでも さすが に、 つぎつぎ と つづいて しかも しだいに タガク の オカネ を ねだられて、 たまらなく シンパイ に なり、 イチニチ、 オノウ から の カエリ、 ジドウシャ を ギンザ で かえして、 それから ヒトリ で あるいて キョウバシ の カヤノ アパート を たずねた。
 ウエハラ さん は、 オヘヤ で ヒトリ、 シンブン を よんで いらした。 シマ の アワセ に、 コンガスリ の オハオリ を めして いらして、 オトシヨリ の よう な、 おわかい よう な、 イマ まで みた こと も ない キジュウ の よう な、 ヘン な ハツインショウ を ワタシ は うけとった。
「ニョウボウ は イマ、 コドモ と、 イッショ に、 ハイキュウブツ を とり に」
 すこし ハナゴエ で、 とぎれとぎれ に そう おっしゃる。 ワタシ を、 オクサン の オトモダチ と でも オモイチガイ した らしかった。 ワタシ が、 ナオジ の アネ だ と いう こと を もうしあげたら、 ウエハラ さん は、 ふん、 と わらった。 ワタシ は、 なぜ だ か、 ひやり と した。
「でましょう か」
 そう いって、 もう ニジュウマワシ を ひっかけ、 ゲタバコ から あたらしい ゲタ を とりだして おはき に なり、 さっさと アパート の ロウカ を サキ に たって あるかれた。
 ソト は、 ショトウ の ユウグレ。 カゼ が、 つめたかった。 スミダガワ から ふいて くる カワカゼ の よう な カンジ で あった。 ウエハラ さん は、 その カワカゼ に さからう よう に、 すこし ミギカタ を あげて ツキジ の ほう に だまって あるいて ゆかれる。 ワタシ は コバシリ に はしりながら、 その アト を おった。
 トウキョウ ゲキジョウ の ウラテ の ビル の チカシツ に はいった。 4~5 クミ の キャク が、 20 ジョウ くらい の ほそながい オヘヤ で、 それぞれ タク を はさんで、 ひっそり オサケ を のんで いた。
 ウエハラ さん は、 コップ で オサケ を おのみ に なった。 そうして、 ワタシ にも ベツ な コップ を とりよせて くださって、 オサケ を すすめた。 ワタシ は、 その コップ で 2 ハイ のんだ けれども、 なんとも なかった。
 ウエハラ さん は、 オサケ を のみ、 タバコ を すい、 そうして いつまでも だまって いた。 ワタシ も、 だまって いた。 ワタシ は こんな ところ へ きた の は、 うまれて はじめて の こと で あった けれども、 とても おちつき、 キブン が よかった。
「オサケ でも のむ と いい ん だ けど」
「え?」
「いいえ、 オトウト さん。 アルコール の ほう に テンカン する と いい ん です よ。 ボク も ムカシ、 マヤク チュウドク に なった こと が あって ね、 あれ は ヒト が うすきみわるがって ね、 アルコール だって おなじ よう な もの なん だ が、 アルコール の ほう は、 ヒト は あんがい ゆるす ん だ。 オトウト さん を、 サケノミ に しちゃいましょう。 いい でしょう?」
「ワタシ、 イチド、 オサケノミ を みた こと が あります わ。 シンネン に、 ワタシ が でかけよう と した とき、 ウチ の ウンテンシュ の シリアイ の モノ が、 ジドウシャ の ジョシュセキ で、 オニ の よう な マッカ な カオ を して、 ぐうぐう オオイビキ で ねむって いました の。 ワタシ が おどろいて さけんだら、 ウンテンシュ が、 これ は オサケノミ で、 シヨウ が ない ん です、 と いって、 ジドウシャ から おろして カタ に かついで どこ か へ つれて いきました の。 ホネ が ない みたい に ぐったり して、 なんだか それでも、 ぶつぶつ いって いて、 ワタシ あの とき、 はじめて オサケノミ って もの を みた の です けど、 おもしろかった わ」
「ボク だって、 サケノミ です」
「あら、 だって、 ちがう ん でしょう?」
「アナタ だって、 サケノミ です」
「そんな こと は、 ありません わ。 ワタシ は、 オサケノミ を みた こと が ある ん です もの。 まるで、 ちがいます わ」
 ウエハラ さん は、 はじめて たのしそう に おわらい に なって、
「それでは、 オトウト さん も、 サケノミ には なれない かも しれません が、 とにかく、 サケ を のむ ヒト に なった ほう が いい。 かえりましょう。 おそく なる と、 こまる ん でしょう?」
「いいえ、 かまわない ん です の」
「いや、 じつは、 こっち が キュウクツ で いけねえ ん だ。 ネエサン! カイケイ!」
「うんと たかい の でしょう か。 すこし なら、 ワタシ、 もって いる ん です けど」
「そう。 そんなら、 カイケイ は、 アナタ だ」
「たりない かも しれません わ」
 ワタシ は、 バッグ の ナカ を みて、 オカネ が いくら ある か を ウエハラ さん に おしえた。
「それだけ あれば、 もう 2~3 ケン のめる。 バカ に して やがる」
 ウエハラ さん は カオ を しかめて おっしゃって、 それから わらった。
「どこ か へ、 また、 のみ に おいで に なります か?」
 と、 おたずね したら、 マジメ に クビ を ふって、
「いや、 もう タクサン。 タキシー を ひろって あげます から、 おかえりなさい」
 ワタシタチ は、 チカシツ の くらい カイダン を のぼって いった。 イッポ サキ に のぼって ゆく ウエハラ さん が、 カイダン の ナカゴロ で、 くるり と コチラムキ に なり、 すばやく ワタシ に キス を した。 ワタシ は クチビル を かたく とじた まま、 それ を うけた。
 べつに なにも、 ウエハラ さん を すき で なかった のに、 それでも、 その とき から ワタシ に、 あの 「ヒメゴト」 が できて しまった の だ。 かた かた かた と、 ウエハラ さん は はしって カイダン を あがって いって、 ワタシ は フシギ な トウメイ な キブン で、 ゆっくり あがって、 ソト へ でたら、 カワカゼ が ホオ に とても キモチ よかった。
 ウエハラ さん に、 タキシー を ひろって いただいて、 ワタシタチ は だまって わかれた。
 クルマ に ゆられながら、 ワタシ は セケン が キュウ に ウミ の よう に ひろく なった よう な キモチ が した。
「ワタシ には、 コイビト が ある の」
 ある ヒ、 ワタシ は、 オット から オコゴト を いただいて さびしく なって、 ふっと そう いった。
「しって います。 ホソダ でしょう? どうしても、 おもいきる こと が できない の です か?」
 ワタシ は だまって いた。
 その モンダイ が、 ナニ か きまずい こと の おこる たび ごと に、 ワタシタチ フウフ の アイダ に もちだされる よう に なった。 もう これ は、 ダメ なん だ、 と ワタシ は おもった。 ドレス の キジ を まちがって サイダン した とき みたい に、 もう その キジ は ぬいあわせる こと も できず、 ゼンブ すてて、 また ベツ の あたらしい キジ の サイダン に とりかからなければ ならぬ。
「まさか、 その、 オナカ の コ は」
 と ある ヨル、 オット に いわれた とき には、 ワタシ は あまり おそろしくて、 がたがた ふるえた。 イマ おもう と、 ワタシ も オット も、 わかかった の だ。 ワタシ は、 コイ も しらなかった。 アイ、 さえ、 わからなかった。 ワタシ は、 ホソダ サマ の おかき に なる エ に ムチュウ に なって、 あんな オカタ の オクサマ に なったら、 どんな に、 まあ、 うつくしい ニチジョウ セイカツ を いとなむ こと が できる でしょう、 あんな よい シュミ の オカタ と ケッコン する の で なければ、 ケッコン なんて ムイミ だわ、 と ワタシ は ダレ に でも いいふらして いた ので、 その ため に、 ミンナ に ゴカイ されて、 それでも ワタシ は、 コイ も アイ も わからず、 ヘイキ で ホソダ サマ を すき だ と いう こと を コウゲン し、 とりけそう とも しなかった ので、 へんに もつれて、 その コロ、 ワタシ の オナカ で ねむって いた ちいさい アカチャン まで、 オット の ギワク の マト に なったり して、 ダレヒトリ リコン など あらわ に いいだした オカタ も いなかった のに、 いつのまにやら シュウイ が しらじらしく なって いって、 ワタシ は ツキソイ の オセキ さん と イッショ に サト の オカアサマ の ところ に かえって、 それから、 アカチャン が しんで うまれて、 ワタシ は ビョウキ に なって ねこんで、 もう、 ヤマキ との アイダ は、 それっきり に なって しまった の だ。
 ナオジ は、 ワタシ が リコン に なった と いう こと に、 ナニ か セキニン みたい な もの を かんじた の か、 ボク は しぬ よ、 と いって、 わあわあ コエ を あげて、 カオ が くさって しまう くらい に ないた。 ワタシ は オトウト に、 クスリヤ の カリ が いくら に なって いる の か たずねて みたら、 それ は おそろしい ほど の キンガク で あった。 しかも、 それ は オトウト が ジッサイ の キンガク を いえなくて、 ウソ を ついて いた の が アト で わかった。 アト で ハンメイ した ジッサイ の ソウガク は、 その とき に オトウト が ワタシ に おしえた キンガク の ヤク 3 バイ ちかく あった の で ある。
「ワタシ、 ウエハラ さん に あった わ。 いい オカタ ね。 これから、 ウエハラ さん と イッショ に オサケ を のんで あそんだら どう? オサケ って、 とても やすい もの じゃ ない の。 オサケ の オカネ くらい だったら、 ワタシ いつでも アナタ に あげる わ。 クスリヤ の ハライ の こと も、 シンパイ しないで。 どうにか、 なる わよ」
 ワタシ が ウエハラ さん と あって、 そうして ウエハラ さん を いい オカタ だ と いった の が、 オトウト を なんだか ひどく よろこばせた よう で、 オトウト は、 その ヨル、 ワタシ から オカネ を もらって さっそく、 ウエハラ さん の ところ に あそび に いった。
 チュウドク は、 それこそ、 セイシン の ビョウキ なの かも しれない。 ワタシ が ウエハラ さん を ほめて、 そうして オトウト から ウエハラ さん の チョショ を かりて よんで、 えらい オカタ ねえ、 など と いう と、 オトウト は、 ネエサン なんか には わかる もん か、 と いって、 それでも、 とても うれしそう に、 じゃあ これ を よんで ごらん、 と また ベツ の ウエハラ さん の チョショ を ワタシ に よませ、 その うち に ワタシ も ウエハラ さん の ショウセツ を ホンキ に よむ よう に なって、 フタリ で あれこれ ウエハラ さん の ウワサ など して、 オトウト は マイバン の よう に ウエハラ さん の ところ に オオイバリ で あそび に ゆき、 だんだん ウエハラ さん の ゴケイカクドオリ に アルコール の ほう へ テンカン して いった よう で あった。 クスリヤ の シハライ に ついて、 ワタシ が オカアサマ に こっそり ソウダン したら、 オカアサマ は、 カタテ で オカオ を おおいなさって、 しばらく じっと して いらっしゃった が、 やがて オカオ を あげて さびしそう に おわらい に なり、 かんがえたって シヨウ が ない わね、 ナンネン かかる か わからない けど、 マイツキ すこし ずつ でも かえして いきましょう よ、 と おっしゃった。
 あれ から、 もう、 6 ネン に なる。
 ユウガオ。 ああ、 オトウト も くるしい の だろう。 しかも、 ミチ が ふさがって、 ナニ を どう すれば いい の か、 いまだに なにも わかって いない の だろう。 ただ、 マイニチ、 しぬ キ で オサケ を のんで いる の だろう。
 いっそ おもいきって、 ホンショク の フリョウ に なって しまったら どう だろう。 そう する と、 オトウト も かえって ラク に なる の では あるまい か。
 フリョウ で ない ニンゲン が ある だろう か、 と あの ノートブック に かかれて いた けれども、 そう いわれて みる と、 ワタシ だって フリョウ、 オジサマ も フリョウ、 オカアサマ だって、 フリョウ みたい に おもわれて くる。 フリョウ とは、 ヤサシサ の こと では ない かしら。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« シャヨウ 4 | トップ | シャヨウ 2 »

コメントを投稿

ダザイ オサム 」カテゴリの最新記事