カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

シャヨウ 7

2019-09-23 | ダザイ オサム
 7

 ナオジ の イショ。

 ネエサン。
 ダメ だ。 サキ に ゆく よ。
 ボク は ジブン が なぜ いきて いなければ ならない の か、 それ が ぜんぜん わからない の です。
 いきて いたい ヒト だけ は、 いきる が よい。
 ニンゲン には いきる ケンリ が ある と ドウヨウ に、 しぬる ケンリ も ある はず です。
 ボク の こんな カンガエカタ は、 すこしも あたらしい もの でも なんでも なく、 こんな アタリマエ の、 それこそ プリミチヴ な こと を、 ヒト は へんに こわがって、 あからさま に クチ に だして いわない だけ なん です。
 いきて ゆきたい ヒト は、 どんな こと を して も、 かならず つよく いきぬく べき で あり、 それ は みごと で、 ニンゲン の エイカン と でも いう もの も、 きっと その ヘン に ある の でしょう が、 しかし、 しぬ こと だって、 ツミ では ない と おもう ん です。
 ボク は、 ボク と いう クサ は、 コノヨ の クウキ と ヒ の ナカ に、 いきにくい ん です。 いきて ゆく の に、 どこ か ヒトツ かけて いる ん です。 たりない ん です。 イマ まで、 いきて きた の も、 これ でも、 せいいっぱい だった の です。
 ボク は コウトウ ガッコウ へ はいって、 ボク の そだって きた カイキュウ と まったく ちがう カイキュウ に そだって きた つよく たくましい クサ の ユウジン と、 はじめて つきあい、 その イキオイ に おされ、 まけまい と して、 マヤク を もちい、 ハンキョウラン に なって テイコウ しました。 それから ヘイタイ に なって、 やはり そこ でも、 いきる サイゴ の シュダン と して アヘン を もちいました。 ネエサン には ボク の こんな キモチ、 わからねえ だろう な。
 ボク は ゲヒン に なりたかった。 つよく、 いや キョウボウ に なりたかった。 そうして、 それ が、 いわゆる ミンシュウ の トモ に なりうる ユイイツ の ミチ だ と おもった の です。 オサケ くらい では、 とても ダメ だった ん です。 いつも、 くらくら メマイ を して いなければ ならなかった ん です。 その ため には、 マヤク イガイ に なかった の です。 ボク は、 イエ を わすれなければ ならない。 チチ の チ に ハンコウ しなければ ならない。 ハハ の ヤサシサ を、 キョヒ しなければ ならない。 アネ に つめたく しなければ ならない。 そう で なければ、 あの ミンシュウ の ヘヤ に はいる ニュウジョウケン が えられない と おもって いた ん です。
 ボク は ゲヒン に なりました。 ゲヒン な コトバヅカイ を する よう に なりました。 けれども、 それ は ハンブン は、 いや、 60 パーセント は、 あわれ な ツケヤキバ でした。 ヘタ な コザイク でした。 ミンシュウ に とって、 ボク は やはり、 きざったらしく おつ に すました キヅマリ の オトコ でした。 カレラ は ボク と、 しんから うちとけて あそんで くれ は しない の です。 しかし、 また、 いまさら すてた サロン に かえる こと も できません。 イマ では ボク の ゲヒン は、 たとい 60 パーセント は ジンコウ の ツケヤキバ でも、 しかし、 アト の 40 パーセント は、 ホンモノ の ゲヒン に なって いる の です。 ボク は あの、 いわゆる ジョウリュウ サロン の ハナモチ ならない オジョウヒンサ には、 ゲロ が でそう で、 イッコク も ガマン できなく なって います し、 また、 あの オエラガタ とか、 オレキレキ とか しょうせられて いる ヒトタチ も、 ボク の オギョウギ の ワルサ に あきれて すぐさま ホウチク する でしょう。 すてた セカイ に かえる こと も できず、 ミンシュウ から は アクイ に みちた クソテイネイ の ボウチョウセキ を あたえられて いる だけ なん です。
 いつ の ヨ でも、 ボク の よう な いわば セイカツリョク が よわくて、 ケッカン の ある クサ は、 シソウ も クソ も ない ただ おのずから ショウメツ する だけ の ウンメイ の もの なの かも しれません が、 しかし、 ボク にも、 すこし は イイブン が ある の です。 とても ボク には いきにくい、 ジジョウ を かんじて いる ん です。
 ニンゲン は、 ミナ、 おなじ もの だ。
 これ は、 いったい、 シソウ でしょう か。 ボク は この フシギ な コトバ を ハツメイ した ヒト は、 シュウキョウカ でも テツガクシャ でも ゲイジュツカ でも ない よう に おもいます。 ミンシュウ の サカバ から わいて でた コトバ です。 ウジ が わく よう に、 いつのまにやら、 ダレ が いいだした とも なく、 もくもく わいて でて、 ゼンセカイ を おおい、 セカイ を きまずい もの に しました。
 この フシギ な コトバ は、 ミンシュ シュギ とも、 また マルキシズム とも、 ぜんぜん ムカンケイ の もの なの です。 それ は、 かならず、 サカバ に おいて ブオトコ が ビナンシ に むかって なげつけた コトバ です。 タダ の、 イライラ です。 シット です。 シソウ でも なんでも、 ありゃ しない ん です。
 けれども、 その サカバ の ヤキモチ の ドセイ が、 へんに シソウ-めいた カオツキ を して ミンシュウ の アイダ を ねりあるき、 ミンシュ シュギ とも マルキシズム とも ぜんぜん、 ムカンケイ の コトバ の はず なのに、 いつのまにやら、 その セイジ シソウ や ケイザイ シソウ に からみつき、 キミョウ に ゲレツ な アンバイ に して しまった の です。 メフィスト だって、 こんな ムチャ な ホウゲン を、 シソウ と すりかえる なんて ゲイトウ は、 さすが に リョウシン に はじて、 チュウチョ した かも しれません。
 ニンゲン は、 ミナ、 おなじ もの だ。
 なんと いう ヒクツ な コトバ で あろう。 ヒト を いやしめる と ドウジ に、 ミズカラ をも いやしめ、 なんの プライド も なく、 あらゆる ドリョク を ホウキ せしめる よう な コトバ。 マルキシズム は、 はたらく モノ の ユウイ を シュチョウ する。 おなじ もの だ、 など とは いわぬ。 ミンシュ シュギ は、 コジン の ソンゲン を シュチョウ する。 おなじ もの だ、 など とは いわぬ。 ただ、 ギュウタロウ だけ が それ を いう。 「へへ、 いくら きどったって、 おなじ ニンゲン じゃ ねえ か」
 なぜ、 おなじ だ と いう の か。 すぐれて いる、 と いえない の か。 ドレイ コンジョウ の フクシュウ。
 けれども、 この コトバ は、 じつに ワイセツ で、 ブキミ で、 ヒト は たがいに おびえ、 あらゆる シソウ が かんせられ、 ドリョク は チョウショウ せられ、 コウフク は ヒテイ せられ、 ビボウ は けがされ、 コウエイ は ひきずりおろされ、 いわゆる 「セイキ の フアン」 は、 この フシギ な イチゴ から はっして いる と ボク は おもって いる ん です。
 いや な コトバ だ と おもいながら、 ボク も やはり この コトバ に キョウハク せられ、 おびえて ふるえて、 ナニ を しよう と して も てれくさく、 たえず フアン で、 どきどき して ミ の オキドコロ が なく、 いっそ サケ や マヤク の メマイ に よって、 ツカノマ の オチツキ を えたくて、 そうして、 めちゃくちゃ に なりました。
 よわい の でしょう。 どこ か ヒトツ ジュウダイ な ケッカン の ある クサ なの でしょう。 また、 なにかと そんな コリクツ を ならべたって、 なあに、 もともと アソビ が すき なの さ、 ナマケモノ の、 スケベイ の、 ミガッテ な カイラクジ なの さ、 と レイ の ギュウタロウ が せせらわらって いう かも しれません。 そうして、 ボク は そう いわれて も、 イマ まで は、 ただ てれて、 アイマイ に シュコウ して いました が、 しかし、 ボク も しぬ に あたって、 ヒトコト、 コウギ-めいた こと を いって おきたい。
 ネエサン。
 しんじて ください。
 ボク は、 あそんで も すこしも たのしく なかった の です。 カイラク の イムポテンツ なの かも しれません。 ボク は ただ、 キゾク と いう ジシン の カゲボウシ から はなれたくて、 くるい、 あそび、 すさんで いました。
 ネエサン。
 いったい、 ボクタチ に ツミ が ある の でしょう か。 キゾク に うまれた の は、 ボクタチ の ツミ でしょう か。 ただ、 その イエ に うまれた だけ に、 ボクタチ は、 エイエン に、 たとえば ユダ の ミウチ の モノ みたい に、 キョウシュク し、 シャザイ し、 はにかんで いきて いなければ ならない。
 ボク は、 もっと はやく しぬ べき だった。 しかし、 たった ヒトツ、 ママ の アイジョウ。 それ を おもう と、 しねなかった。 ニンゲン は、 ジユウ に いきる ケンリ を もって いる と ドウヨウ に、 いつでも カッテ に しねる ケンリ も もって いる の だ けれども、 しかし、 「ハハ」 の いきて いる アイダ は、 その シ の ケンリ は リュウホ されなければ ならない と ボク は かんがえて いる ん です。 それ は ドウジ に、 「ハハ」 をも ころして しまう こと に なる の です から。
 イマ は もう、 ボク が しんで も、 カラダ を わるく する ほど かなしむ ヒト も いない し、 いいえ、 ネエサン、 ボク は しって いる ん です、 ボク を うしなった アナタタチ の カナシミ は どの テイド の もの だ か、 いいえ、 キョショク の カンショウ は よしましょう、 アナタタチ は、 ボク の シ を しったら、 きっと おなき に なる でしょう が、 しかし、 ボク の いきて いる クルシミ と、 そうして その いや な ヴィ から カンゼン に カイホウ される ボク の ヨロコビ を おもって みて くださったら、 アナタタチ の その カナシミ は、 しだいに うちけされて ゆく こと と ぞんじます。
 ボク の ジサツ を ヒナン し、 あくまでも いきのびる べき で あった、 と ボク に なんの ジョリョク も あたえず クチサキ だけ で、 シタリガオ に ヒハン する ヒト は、 ヘイカ に クダモノヤ を おひらき なさる よう ヘイキ で おすすめ できる ほど の ダイイジン に チガイ ございませぬ。
 ネエサン。
 ボク は、 しんだ ほう が いい ん です。 ボク には、 いわゆる、 セイカツ ノウリョク が ない ん です。 オカネ の こと で、 ヒト と あらそう チカラ が ない ん です。 ボク は、 ヒト に たかる こと さえ できない ん です。 ウエハラ さん と あそんで も、 ボク の ブン の オカンジョウ は、 いつも ボク が はらって きました。 ウエハラ さん は、 それ を キゾク の けちくさい プライド だ と いって、 とても いやがって いました が、 しかし、 ボク は、 プライド で しはらう の では なくて、 ウエハラ さん の オシゴト で えた オカネ で、 ボク が つまらなく ノミクイ して、 オンナ を だく など、 おそろしくて、 とても できない の です。 ウエハラ さん の オシゴト を ソンケイ して いる から、 と カンタン に いいきって しまって も、 ウソ で、 ボク にも ホントウ は、 はっきり わかって いない ん です。 ただ、 ヒト の ゴチソウ に なる の が、 そらおそろしい ん です。 ことにも、 その ヒト ゴジシン の ウデ イッポン で えた オカネ で、 ゴチソウ に なる の は、 つらくて、 こころぐるしくて、 たまらない ん です。
 そうして ただ もう、 ジブン の イエ から オカネ や シナモノ を もちだして、 ママ や アナタ を かなしませ、 ボク ジシン も、 すこしも たのしく なく、 シュッパンギョウ など ケイカク した の も、 ただ、 テレカクシ の オテイサイ で、 じつは ちっとも ホンキ で なかった の です。 ホンキ で やって みた ところ で、 ヒト の ゴチソウ に さえ なれない よう な オトコ が、 カネモウケ なんて、 とても とても でき や しない の は、 いくら ボク が おろか でも、 それ くらい の こと には きづいて います。
 ネエサン。
 ボクタチ は、 ビンボウ に なって しまいました。 いきて ある うち は、 ヒト に ゴチソウ したい と おもって いた のに、 もう、 ヒト の ゴチソウ に ならなければ いきて ゆけなく なりました。
 ネエサン。
 このうえ、 ボク は、 なぜ いきて いなければ ならねえ の かね? もう、 ダメ なん だ。 ボク は、 しにます。 ラク に しねる クスリ が ある ん です。 ヘイタイ の とき に、 テ に いれて おいた の です。 
 ネエサン は うつくしく、 (ボク は うつくしい ハハ と アネ を ホコリ に して いました) そうして、 ケンメイ だ から、 ボク は ネエサン の こと に ついて は、 なんにも シンパイ して いませぬ。 シンパイ など する シカク さえ ボク には ありません。 ドロボウ が ヒガイシャ の ミノウエ を おもいやる みたい な もの で、 セキメン する ばかり です。 きっと ネエサン は、 ケッコン なさって、 コドモ が できて、 オット に たよって いきぬいて ゆく の では ない か と ボク は、 おもって いる ん です。
 ネエサン。
 ボク に、 ヒトツ、 ヒミツ が ある ん です。
 ながい こと、 ひめ に ひめて、 センチ に いて も、 その ヒト の こと を おもいつめて、 その ヒト の ユメ を みて、 メ が さめて、 ナキベソ を かいた こと も イクド あった か しれません。
 その ヒト の ナ は、 とても ダレ にも、 クチ が くさって も いわれない ん です。 ボク は、 イマ しぬ の だ から、 せめて、 ネエサン に だけ でも、 はっきり いって おこう か、 と おもいました が、 やっぱり、 どうにも おそろしくて、 その ナ を いう こと が できません。
 でも、 ボク は、 その ヒミツ を、 ぜったい ヒミツ の まま、 とうとう コノヨ で ダレ にも うちあけず、 ムネ の オク に ぞうして しんだ ならば、 ボク の カラダ が カソウ に されて も、 ムネ の ウラ だけ が なまぐさく やけのこる よう な キ が して、 フアン で たまらない ので、 ネエサン に だけ、 トオマワシ に、 ぼんやり、 フィクション みたい に して おしえて おきます。 フィクション、 と いって も、 しかし、 ネエサン は、 きっと すぐ その アイテ の ヒト は ダレ だ か、 おきづき に なる はず です。 フィクション と いう より は、 ただ、 カメイ を もちいる テイド の ゴマカシ なの です から。
 ネエサン は、 ゴゾンジ かな?
 ネエサン は その ヒト を ゴゾンジ の はず です が、 しかし、 おそらく、 あった こと は ない でしょう。 その ヒト は、 ネエサン より も、 すこし トシウエ です。 ヒトエマブタ で、 メジリ が つりあがって、 カミ に パーマネント など かけた こと が なく、 いつも つよく、 ヒッツメガミ、 と でも いう の かしら、 そんな ジミ な カミガタ で、 そうして、 とても まずしい フクソウ で、 けれども だらしない カッコウ では なくて、 いつも きちんと きつけて、 セイケツ です。 その ヒト は、 センゴ あたらしい タッチ の エ を つぎつぎ と ハッピョウ して キュウ に ユウメイ に なった ある チュウネン の ヨウガカ の オクサン で、 その ヨウガカ の オコナイ は、 たいへん ランボウ で すさんだ もの なのに、 その オクサン は ヘイキ を よそおって、 いつも やさしく ほほえんで くらして いる の です。
 ボク は たちあがって、
「それでは、 オイトマ いたします」
 その ヒト も たちあがって、 なんの ケイカイ も なく、 ボク の ソバ に あゆみよって、 ボク の カオ を みあげ、
「なぜ?」
 と フツウ の コワネ で いい、 ホントウ に フシン の よう に すこし コクビ を かしげて、 しばらく ボク の メ を みつづけて いました。 そうして、 その ヒト の メ に、 なんの ジャシン も キョショク も なく、 ボク は オンナ の ヒト と シセン が あえば、 うろたえて シセン を はずして しまう タチ なの です が、 その とき だけ は、 ミジン も ハニカミ を かんじない で、 フタリ の カオ が 1 シャク くらい の カンカク で、 60 ビョウ も それ イジョウ も とても いい キモチ で、 その ヒト の ヒトミ を みつめて、 それから つい ほほえんで しまって、
「でも、……」
「すぐ かえります わよ」
 と、 やはり、 マジメ な カオ を して いいます。
 ショウジキ、 とは、 こんな カンジ の ヒョウジョウ を いう の では ない かしら、 と ふと おもいました。 それ は シュウシン キョウカショ-くさい、 いかめしい トク では なくて、 ショウジキ と いう コトバ で ヒョウゲン せられた ホンライ の トク は、 こんな かわいらしい もの では なかった の かしら、 と かんがえました。
「また まいります」
「そう」
 ハジメ から オワリ まで、 すべて みな なんでも ない カイワ です。 ボク が、 ある ナツ の ヒ の ゴゴ、 その ヨウガカ の アパート を たずねて いって、 ヨウガカ は フザイ で、 けれども すぐ かえる はず です から、 おあがり に なって おまち に なったら? と いう オクサン の コトバ に したがって、 ヘヤ に あがって、 30 プン ばかり ザッシ など よんで、 かえって きそう も なかった から、 たちあがって、 オイトマ した、 それ だけ の こと だった の です が、 ボク は、 その ヒ の その とき の、 その ヒト の ヒトミ に、 くるしい コイ を しちゃった の です。
 コウキ、 と でも いったら いい の かしら。 ボク の シュウイ の キゾク の ナカ には、 ママ は とにかく、 あんな ムケイカイ な 「ショウジキ」 な メ の ヒョウジョウ の できる ヒト は、 ヒトリ も いなかった こと だけ は ダンゲン できます。
 それから ボク は、 ある フユ の ユウガタ、 その ヒト の プロフィル に うたれた こと が あります。 やはり、 その ヨウガカ の アパート で、 ヨウガカ の アイテ を させられて、 コタツ に はいって アサ から サケ を のみ、 ヨウガカ と ともに、 ニホン の いわゆる ブンカジン たち を くそみそ に いいあって わらいころげ、 やがて ヨウガカ は たおれて オオイビキ を かいて ねむり、 ボク も ヨコ に なって うとうと して いたら、 ふわと モウフ が かかり、 ボク は ウスメ を あけて みたら、 トウキョウ の フユ の ユウゾラ は ミズイロ に すんで、 オクサン は オジョウサン を だいて アパート の マドベリ に、 ナニゴト も なさそう に して コシ を かけ、 オクサン の タンセイ な プロフィル が、 ミズイロ の とおい ユウゾラ を バック に して、 あの ルネッサンス の コロ の プロフィル の エ の よう に あざやか に リンカク が くぎられ うかんで、 ボク に そっと モウフ を かけて くださった シンセツ は、 それ は なんの イロケ でも なく、 ヨク でも なく、 ああ、 ヒューマニティ と いう コトバ は こんな とき に こそ シヨウ されて ソセイ する コトバ なの では なかろう か、 ヒト の トウゼン の わびしい オモイヤリ と して、 ほとんど ムイシキ みたい に なされた もの の よう に、 エ と そっくり の しずか な ケハイ で、 トオク を ながめて いらっしゃった。
 ボク は メ を つぶって、 こいしく、 こがれて くるう よう な キモチ に なり、 マブタ の ウラ から ナミダ が あふれでて、 モウフ を アタマ から ひっかぶって しまいました。
 ネエサン。
 ボク が その ヨウガカ の ところ に あそび に いった の は、 それ は、 サイショ は その ヨウガカ の サクヒン の トクイ な タッチ と、 その ソコ に ひめられた ネッキョウテキ な パッション に、 よわされた せい で ありました が、 しかし、 ツキアイ の ふかく なる に つれて、 その ヒト の ムキョウヨウ、 デタラメ、 キタナラシサ に きょうざめて、 そうして、 それ と ハンピレイ して、 その ヒト の オクサン の シンジョウ の ウツクシサ に ひかれ、 いいえ、 ただしい アイジョウ の ヒト が こいしくて、 したわしくて、 オクサン の スガタ を ヒトメ みたくて、 あの ヨウガカ の ウチ へ あそび に ゆく よう に なりました。
 あの ヨウガカ の サクヒン に、 タショウ でも、 ゲイジュツ の コウキ な ニオイ、 と でも いった よう な もの が あらわれて いる と すれば、 それ は、 オクサン の やさしい ココロ の ハンエイ では なかろう か と さえ、 ボク は イマ では かんがえて いる ん です。
 その ヨウガカ は、 ボク は イマ こそ、 かんじた まま を はっきり いいます が、 ただ オオザケノミ で アソビズキ の、 コウミョウ な ショウニン なの です。 あそぶ カネ が ホシサ に、 ただ デタラメ に カンヴァス に エノグ を ぬたくって、 リュウコウ の イキオイ に のり、 もったいぶって たかく うって いる の です。 あの ヒト の もって いる の は、 イナカモノ の ズウズウシサ、 バカ な ジシン、 ずるい ショウサイ、 それ だけ なん です。
 おそらく あの ヒト は、 ホカ の ヒト の エ は、 ガイコクジン の エ でも ニホンジン の エ でも、 なんにも わかって いない でしょう。 おまけに、 ジブン の かいて いる エ も、 なんの こと やら ゴジシン わかって いない でしょう。 ただ ユウキョウ の ため の カネ が ホシサ に、 ムガ ムチュウ で エノグ を カンヴァス に ぬたくって いる だけ なん です。
 そうして、 さらに おどろく べき こと は、 あの ヒト は ゴジシン の そんな デタラメ に、 なんの ウタガイ も、 シュウチ も、 キョウフ も、 おもち に なって いない らしい と いう こと です。
 ただ もう、 オトクイ なん です。 なにせ、 ジブン で かいた エ が ジブン で わからぬ と いう ヒト なの です から、 タニン の シゴト の ヨサ など わかる はず が なく、 いやもう、 けなす こと、 けなす こと。
 つまり、 あの ヒト の デカダン セイカツ は、 クチ では なんの かの と くるしそう な こと を いって います けれども、 そのじつ は、 バカ な イナカモノ が、 かねて アコガレ の ミヤコ に でて、 カレ ジシン にも イガイ な くらい の セイコウ を した ので ウチョウテン に なって あそびまわって いる だけ なん です。
 いつか ボク が、
「ユウジン が ミナ なまけて あそんで いる とき、 ジブン ヒトリ だけ ベンキョウ する の は、 てれくさくて、 おそろしくて、 とても ダメ だ から、 ちっとも あそびたく なくて も、 ジブン も ナカマイリ して あそぶ」
 と いったら、 その チュウネン の ヨウガカ は、
「へえ? それ が キゾク カタギ と いう もの かね、 いやらしい。 ボク は、 ヒト が あそんで いる の を みる と、 ジブン も あそばなければ、 ソン だ、 と おもって おおいに あそぶ ね」
 と こたえて へいぜん たる もの でした が、 ボク は その とき、 その ヨウガカ を、 しんから ケイベツ しました。 この ヒト の ホウラツ には クノウ が ない。 むしろ、 バカアソビ を ジマン に して いる。 ホンモノ の アホウ の カイラクジ。
 けれども、 この ヨウガカ の ワルクチ を、 このうえ サマザマ に のべたてて も、 ネエサン には カンケイ の ない こと です し、 また ボク も イマ しぬる に あたって、 やはり あの ヒト との ながい ツキアイ を おもい、 なつかしく、 もう イチド あって あそびたい ショウドウ を こそ かんじます が、 にくい キ は ちっとも ない の です し、 あの ヒト だって サビシガリ の、 とても いい ところ を たくさん もって いる ヒト なの です から、 もう なにも いいません。
 ただ、 ボク は ネエサン に、 ボク が その ヒト の オクサン に こがれて、 うろうろ して、 つらかった と いう こと だけ を しって いただいたら いい の です。 だから、 ネエサン は それ を しって も、 べつだん、 ダレ か に その こと を うったえ、 オトウト の セイゼン の オモイ を とげさせて やる とか なんとか、 そんな キザ な オセッカイ など なさる ヒツヨウ は ゼッタイ に ない の です し、 ネエサン オヒトリ だけ が しって、 そうして、 こっそり、 ああ、 そう か、 と おもって くださったら それ で いい ん です。 なおまた ヨク を いえば、 こんな ボク の はずかしい コクハク に よって、 せめて ネエサン だけ でも、 ボク の これまで の イノチ の クルシサ を、 さらに ふかく わかって くださったら、 とても ボク は、 うれしく おもいます。
 ボク は いつか、 オクサン と、 テ を にぎりあった ユメ を みました。 そうして オクサン も、 やはり ずっと イゼン から ボク を すき だった の だ と いう こと を しり、 ユメ から さめて も、 ボク の テノヒラ に オクサン の ユビ の アタタカサ が のこって いて、 ボク は もう、 これ だけ で マンゾク して、 あきらめなければ なるまい と おもいました。 ドウトク が おそろしかった の では なく、 ボク には あの ハンキチガイ の、 いや、 ほとんど キョウジン と いって も いい あの ヨウガカ が、 おそろしくて ならない の でした。 あきらめよう と おもい、 ムネ の ヒ を ホカ へ むけよう と して、 てあたりしだい、 さすが の あの ヨウガカ も ある ヨ シカメツラ を した くらい ひどく、 めちゃくちゃ に いろんな オンナ と あそびくるいました。 なんとか して、 オクサン の マボロシ から はなれ、 わすれ、 なんでも なく なりたかった ん です。 けれども、 ダメ。 ボク は、 けっきょく、 ヒトリ の オンナ に しか、 コイ の できない タチ の オトコ なん です。 ボク は、 はっきり いえます。 ボク は、 オクサン の ホカ の オンナ トモダチ を、 イチド でも、 うつくしい とか、 いじらしい とか かんじた こと が ない ん です。
 ネエサン。
 しぬ マエ に、 たった イチド だけ かかせて ください。
 ……スガ ちゃん。
 その オクサン の ナマエ です。
 ボク が キノウ、 ちっとも すき でも ない ダンサー (この オンナ には、 ホンシツテキ な バカ な ところ が あります) それ を つれて、 サンソウ へ きた の は、 けれども、 まさか ケサ しのう と おもって、 やって きた の では なかった の です。 いつか、 ちかい うち に かならず しぬ キ で いた の です が、 でも、 キノウ、 オンナ を つれて サンソウ へ きた の は、 オンナ に リョコウ を せがまれ、 ボク も トウキョウ で あそぶ の に つかれて、 この バカ な オンナ と 2~3 ニチ、 サンソウ で やすむ の も わるく ない と かんがえ、 ネエサン には すこし グアイ が わるかった けど、 とにかく ここ へ イッショ に やって きて みたら、 ネエサン は トウキョウ の オトモダチ の ところ へ でかけ、 その とき ふと、 ボク は しぬ なら イマ だ、 と おもった の です。
 ボク は ムカシ から、 ニシカタマチ の あの イエ の オク の ザシキ で しにたい と おもって いました。 ガイロ や ハラッパ で しんで、 ヤジウマ たち に シガイ を いじくりまわされる の は、 なんと して も、 いや だった ん です。 けれども、 ニシカタマチ の あの イエ は ヒトデ に わたり、 イマ では やはり この サンソウ で しぬ より ホカ は なかろう と おもって いた の です が、 でも、 ボク の ジサツ を サイショ に ハッケン する の は ネエサン で、 そうして ネエサン は、 その とき どんな に キョウガク し キョウフ する だろう と おもえば、 ネエサン と フタリ きり の ヨル に ジサツ する の は キ が おもくて、 とても できそう も なかった の です。
 それ が、 まあ、 なんと いう チャンス。 ネエサン が いなくて、 そのかわり、 すこぶる ドンブツ の ダンサー が、 ボク の ジサツ の ハッケンシャ に なって くれる。
 サクヤ、 フタリ で オサケ を のみ、 オンナ の ヒト を 2 カイ の ヨウマ に ねかせ、 ボク ヒトリ ママ の なくなった シタ の オザシキ に フトン を ひいて、 そうして、 この みじめ な シュキ に とりかかりました。
 ネエサン。
 ボク には、 キボウ の ジバン が ない ん です。 さようなら。
 けっきょく、 ボク の シ は、 シゼンシ です。 ヒト は、 シソウ だけ では、 しねる もの では ない ん です から。
 それから、 ヒトツ、 とても てれくさい オネガイ が あります。 ママ の カタミ の アサ の キモノ。 あれ を ネエサン が、 ナオジ が ライネン の ナツ に きる よう に と ぬいなおして くださった でしょう。 あの キモノ を、 ボク の ヒツギ に いれて ください。 ボク、 きたかった ん です。
 ヨ が あけて きました。 ながい こと クロウ を おかけ しました。
 さようなら。
 ユウベ の オサケ の ヨイ は、 すっかり さめて います。 ボク は、 シラフ で しぬ ん です。
 もう イチド、 さようなら。
 ネエサン。
 ボク は、 キゾク です。

 8

 ユメ。
 ミナ が、 ワタシ から はなれて ゆく。
 ナオジ の シ の アトシマツ を して、 それから 1 カゲツ-カン、 ワタシ は フユ の サンソウ に ヒトリ で すんで いた。
 そうして ワタシ は、 あの ヒト に、 おそらくは これ が サイゴ の テガミ を、 ミズ の よう な キモチ で、 かいて さしあげた。

 どうやら、 アナタ も、 ワタシ を おすて に なった よう で ございます。 いいえ、 だんだん おわすれ に なる らしゅう ございます。
 けれども、 ワタシ は、 コウフク なん です の。 ワタシ の ノゾミドオリ に、 アカチャン が できた よう で ございます の。 ワタシ は、 イマ、 イッサイ を うしなった よう な キ が して います けど、 でも、 オナカ の ちいさい イノチ が、 ワタシ の コドク の ビショウ の タネ に なって います。
 けがらわしい シッサク など とは、 どうしても ワタシ には おもわれません。 この ヨノナカ に、 センソウ だの ヘイワ だの ボウエキ だの クミアイ だの セイジ だの が ある の は、 なんの ため だ か、 コノゴロ ワタシ にも わかって きました。 アナタ は、 ゴゾンジ ない でしょう。 だから、 いつまでも フコウ なの です わ。 それ は ね、 おしえて あげます わ、 オンナ が よい コ を うむ ため です。
 ワタシ には、 ハジメ から アナタ の ジンカク とか セキニン とか を アテ に する キモチ は ありません でした。 ワタシ の ヒトスジ の コイ の ボウケン の ジョウジュ だけ が モンダイ でした。 そうして、 ワタシ の その オモイ が カンセイ せられて、 もう イマ では ワタシ の ムネ の ウチ は、 モリ の ナカ の ヌマ の よう に しずか で ございます。
 ワタシ は、 かった と おもって います。
 マリヤ が、 たとい オット の コ で ない コ を うんで も、 マリヤ に かがやく ホコリ が あったら、 それ は セイボシ に なる の で ございます。
 ワタシ には、 ふるい ドウトク を ヘイキ で ムシ して、 よい コ を えた と いう マンゾク が ある の で ございます。
 アナタ は、 ソノゴ も やはり、 ギロチン ギロチン と いって、 シンシ や オジョウサン たち と オサケ を のんで、 デカダン セイカツ と やら を おつづけ に なって いらっしゃる の でしょう。 でも、 ワタシ は、 それ を やめよ、 とは もうしませぬ。 それ も また、 アナタ の サイゴ の トウソウ の ケイシキ なの でしょう から。
 オサケ を やめて、 ゴビョウキ を なおして、 ナガイキ を なさって リッパ な オシゴト を、 など そんな しらじらしい オザナリ みたい な こと は、 もう ワタシ は いいたく ない の で ございます。 「リッパ な オシゴト」 など より も、 イノチ を すてる キ で、 いわゆる アクトク セイカツ を しとおす こと の ほう が、 ノチ の ヨ の ヒトタチ から かえって オレイ を いわれる よう に なる かも しれません。
 ギセイシャ。 ドウトク の カトキ の ギセイシャ。 アナタ も、 ワタシ も、 きっと それ なの で ございましょう。
 カクメイ は、 いったい、 どこ で おこなわれて いる の でしょう。 すくなくとも、 ワタシタチ の ミノマワリ に おいて は、 ふるい ドウトク は やっぱり そのまま、 ミジン も かわらず、 ワタシタチ の ユクテ を さえぎって います。 ウミ の ヒョウメン の ナミ は なにやら さわいで いて も、 その ソコ の カイスイ は、 カクメイ どころ か、 ミジロギ も せず、 タヌキネイリ で ねそべって いる ん です もの。
 けれども ワタシ は、 これまで の ダイ 1 カイ-セン では、 ふるい ドウトク を わずか ながら おしのけえた と おもって います。 そうして、 コンド は、 うまれる コ と ともに、 ダイ 2 カイ-セン、 ダイ 3 カイ-セン を たたかう つもり で いる の です。
 こいしい ヒト の コ を うみ、 そだてる こと が、 ワタシ の ドウトク カクメイ の カンセイ なの で ございます。
 アナタ が ワタシ を おわすれ に なって も、 また、 アナタ が、 オサケ で イノチ を おなくし に なって も、 ワタシ は ワタシ の カクメイ の カンセイ の ため に、 ジョウブ で いきて ゆけそう です。
 アナタ の ジンカク の クダラナサ を、 ワタシ は コナイダ も ある ヒト から、 さまざま たまわりました が、 でも、 ワタシ に こんな ツヨサ を あたえて くださった の は、 アナタ です。 ワタシ の ムネ に、 カクメイ の ニジ を かけて くださった の は アナタ です。 いきる モクヒョウ を あたえて くださった の は、 アナタ です。
 ワタシ は アナタ を ホコリ に して います し、 また、 うまれる コドモ にも、 アナタ を ホコリ に させよう と おもって います。
 シセイジ と、 その ハハ。
 けれども ワタシタチ は、 ふるい ドウトク と どこまでも あらそい、 タイヨウ の よう に いきる つもり です。
 どうか、 アナタ も、 アナタ の タタカイ を たたかいつづけて くださいまし。
 カクメイ は、 まだ、 ちっとも、 なにも、 おこなわれて いない ん です。 もっと、 もっと、 イクツ も の おしい とうとい ギセイ が ヒツヨウ の よう で ございます。
 イマ の ヨノナカ で、 いちばん うつくしい の は ギセイシャ です。
 ちいさい ギセイシャ が、 もう ヒトリ いました。
 ウエハラ さん。
 ワタシ は もう アナタ に、 なにも おたのみ する キ は ございません が、 けれども、 その ちいさい ギセイシャ の ため に、 ヒトツ だけ、 オユルシ を おねがい したい こと が ある の です。
 それ は、 ワタシ の うまれた コ を、 たった イチド で よろしゅう ございます から、 アナタ の オクサマ に だかせて いただきたい の です。 そうして、 その とき、 ワタシ に こう いわせて いただきます。
「これ は、 ナオジ が、 ある オンナ の ヒト に ナイショ に うませた コ です の」
 なぜ、 そう する の か、 それ だけ は ドナタ にも もうしあげられません。 いいえ、 ワタシ ジシン にも、 なぜ そう させて いただきたい の か、 よく わかって いない の です。 でも、 ワタシ は、 どうしても、 そう させて いただかなければ ならない の です。 ナオジ と いう あの ちいさい ギセイシャ の ため に、 どうしても、 そう させて いただかなければ ならない の です。
 ゴフカイ でしょう か。 ゴフカイ でも、 しのんで いただきます。 これ が すてられ、 わすれかけられた オンナ の ユイイツ の かすか な イヤガラセ と おぼしめし、 ぜひ オキキイレ の ホド ねがいます。
 M.C、 マイ、 コメデアン。
 ショウワ 22 ネン 2 ガツ ナノカ。


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