遺言の目的は,遺産分割協議を要せずして相続関係を確定(遺留分の問題を除く)することにあります。
かように遺産分割協議を避ける理由は,協議のスムーズな成立に困難を来す可能性が有るからということになります。逆に,協議に当たり協議が円満に行われる可能性が大きい場合は,敢えて遺言をする必要性に乏しいと言えます。ところが,相続人が遺産分割協議をするに当たり,心理的ストレス無く,円満に協議を行うことができるケースはそれ程多くないのです。
1.協議が円満に行われると思われるもの
相続財産に居住用不動産の他にめぼしいものが無く,相続人が,配偶者及び子である場合
典型が,夫が死亡し妻と子が相続人である場合,子等は,夫婦で居住していた家を,母の名義にするとの内容の協議はほぼ日常的に円満に行われ,この事例が圧倒的に多いのです。
この時の,相続人等の心情を察するに,「いずれは,母も亡くなるのだから,そのときに兄弟で,話し合いをすれば良い。」と考えている場合が多いでしょう。母は,夫と共に築き上げ,ついの住み処となる所を法定相続分に拘わらず単独で相続することに対し,子に対する負い目も感じないで済むでしょう。
但しこれは,兄弟間においては,遺産分割の先送り的な性質を有する結果となりかねません。
さて,実際に母が亡くなり,兄弟間で協議をする段になったらどうでしょう?
この時一般的には,長男あるいは兄弟で最も年長者が音頭を取って協議を進めることになると思われますが,スムーズに協議が進むケースばかりでしょうか?母が亡くなる頃,子は一般的に婚姻し配偶者が存在します。この配偶者の意思は,遺産分割協議に当たり影響を与えないケースばかりと言えるでしょうか?
親としては,自分亡き後兄弟仲良く先祖を守って暮らして欲しい。そうなることを望みあるいは信じて最期を迎えられるものだと思っています。ところが,戦後の民法改正により,長子相続には改変され,兄弟間の権利は皆平等になりました。むろん,今でも家族主義的な,長子が家を守り存続させていくという風習が残っている所も数多く存在します。
しかしながら,現実問題として,相続人の一部の者でも,法定の割合による相続権を主張した場合,この相続人が,亡くなった人から特別の受益を受けたとか,あるいは,亡くなった人の資産の増加あるいは資産の減少の防止に特別の寄与を行った者が,この相続人以外に存在すると認められる場合を除き,法の規定による均等分割しか方法が無く,主張した者の言い分は通ることになります。この場合,誰が何を相続するかは当事者の協議に委ねられ,協議が整わない場合,調停等の手続きに進むことになります。相続人にとって大変な思いをすることになる可能性を否定できません。これを考えれば,前記のケース以外は,遺言をしておいた方が安心であり,残された法定相続人にとっても,面倒なことを避けられるメリットが十分あると言えます。後記に遺言が是非とも必要な場合を記載しますが,逆説的には,前記の場合以外は,遺言のメリットを十分享受できることになります。
2.遺言のデメリット
(1)費用が掛かること
(2)相続人の誤解を受ける恐れが生じること
(1)費用については,公正証書遺言の場合,公証人の手数料は,相続を受ける人ごとに相続財産の価額に応じて決まることになります。遺言の目的財産の価額が1億円以下の場合,多くとも8万円を超えることは無いと思われます。この他に証人2名が必要ですが,見つからない場合,税理士等の専門家に依頼するかあるいは公証人役場で紹介を受ける事ができます。この場合,有料になる事が多いと思われますが,通常2人で5万円以下で済むでしょう。つまり費用的には,証人を見つけられない場合でも,10数万円で済みます。
なお,費用的に厳しい場合,事後的に家庭裁判所への検認手続きを要しますが,自筆で遺言を書く方法も有ります。但し、この場合,遺言が無効とならないよう司法書士等の専門家に内容を確認してもらうか,指導を受けて作成するべきでしょう。
(2)相続人の誤解とは,客観的に法定相続分より少ない割合の相続分を指定された相続人がこれを知ったとき,相続分=愛情の絶対値 であると考えてしまう恐れがあることです。
相続には,様々の事情,遺言者の心情が複雑に絡み,一つとして同じ状況はありません。民法が法定相続分の割合を決めたのは,基本的人権に言う個人の平等を法に当てはめた結果であり,遺言が無い場合の一定の目安を定めたものです。遺言は当然これに拘束されるものではありません。遺言者の生前の財産処分権を当然に認めたものであるからです。これは,絶対に認識されねばなりません。高齢になり意思能力が衰えてくると,家族の一部の者が,
高齢者の財産をあたかも自身の財産かのように考え,生前に処分したり,あるいは自己に有利な遺言を高齢者に強いるケースが散見され,これが,相続に当たり相続人間の不信を呼び,挙げ句の果ては相続紛争を勃発させることになります。ですから,遺言は,遺言者の自由な意思で行う事ができる時期に,是非とも行われるべきであるのです。
さて、遺言の内容が遺言者の死亡後初めて明らかになる場合,死者自ら趣旨内容の説明を行う事が不可能です。
ですから,遺言は内緒にするのではなく,相続人に納得してもらえるよう,生前,一人一人に内容を話し,疑問点があれば説明して解決しておくことが望ましいのです。このようにして,遺言者の各相続人に対する真摯な愛情を理解してもらえるよう努めるべきです。万一このような機会を逃してしまった場合,最低でも遺言に趣旨を付言しておく方法等により,残された相続人の理解をできるだけ得られるようにしておきましょう。
以上,遺言のデメリットを解消できるのであれば,現在の日本の民法において,遺言は,遺言者の死後,親族関係の円満な継続に欠くことのできない有力なツールであるとの認識を,是非持っていただきたいと思います。
3.最後に遺産分割協議が難航すると予想され,遺言が必須的なものとして下記のケースを挙げておきます。
(1)子供がいない夫婦
(2)未婚者
(3)再婚等複数回の婚姻の結果,現在の配偶者以外との間に子がいる
(4)相続人の内,行方不明の者がいる
(5)相続人の内,意思能力に欠ける者がいる
以上の場合を別けて解説します。
(1)(2)は、兄弟に相続権がある場合です。
この場合,相続の為に収集する戸籍が格段に増えます。
例えば,子がいる場合,1.亡くなった人の死亡から出生までの連続した戸籍謄本2.結婚等により亡くなった人の戸籍から出て別の戸籍が作られた人の最新の戸籍のみで済みます。
子がいない場合でも,仮に親が存命であれば,1.の他 親の最新戸籍で済みますが,若年時での死亡以外年齢からして,子の死亡時親が存命しているケースは多くありません。
子がいなくて親も死亡している場合 配偶者4分の3 兄弟4分の1 の割合による相続になります。
さて,この場合,存命する兄弟の最新戸籍だけでは足りません。
亡くなった人の物に加え,両親共の死亡から出生までの戸籍が必要です。これは,亡くなった人の兄弟を確定する為に,両親の死亡から出生までを取り寄せ兄弟全員の存在を探索する必要があるためです。さらには,兄弟の内死亡している者がいた場合,(高齢者死亡の場合,その兄弟も死亡している場合が多い),その兄弟の出生から死亡までの戸籍も必要です。なぜなら,兄弟が死亡した場合,相続権は,その子供つまり亡くなった人から見て甥・姪の代まで相続権が有るからです。以上により,兄弟相続が発生するケースにおいては,亡くなった人のみならず,両親,兄弟の出生から死亡までの戸籍の収集が必要になる場合があることが理解していただけると思います。さらには,甥・姪の代になると,親戚づきあいをしていないケースもあり,遺言の無い場合に必要な遺産分割協議をする際にも連絡がつきにくい場合があります。昔のように兄弟が多い場合,法定相続人が10人を超えるケースも珍しくありません。これでは,遺産分割協議を行うのも大変です。
(3)の場合,現在の子と前配偶者との子等は,日常交流がないことが多いものです。ましてや,前配偶者と離婚した場合などは,遺産分割協議が円滑に進むことは稀であると言えます。
(4)の場合,不在者の財産管理人選任の申立を
(5)の場合は,成年後見人等の申立及び成年後見人に相続人が就任する(既に就任している時も含む)場合は,遺産分割協議に当たり両当事者の利害が相反するため,特別代理人選任の申立を
亡くなった人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てる必要が有ります。
そして,彼等の相続分を法定相続分以上とする遺産分割協議の内容にする必要が有ります。
なお,遺言には,当然のことながら意思能力が必要です。遺言をしよう(してもらおう)と思ったときに,医師の判定により意思能力が失われているとされないよう,元気な内に遺言を書く(書いてもらう)ようにするべきでしょう。
下山中,他グループのハイカーに指摘され恥ずかしいこと。スキーでも後傾を指摘されたよななどと弁解にもならないことを言ってしまいました。さて,むすび山経由で大月駅に向かうコースですが,一向にむすび山が出てきません。あれがむすび山だろうと思う山が3回位ありました。そういえば,案内標に番号が書いてあり7から遡っていきます。むすび山は結局0の所にあったような気がします。そこには,航空陸軍大月防空監視硝跡があり,そこから,最後の下りを経て,舗装路を大月駅まで約15分位歩きました。途中大月市役所がありましたが,これが市役所と思う程規模が小さいという印象でした。3時頃大月駅に着き,3時21分の快速東京行きに乗る前,構内のベンチで飲み干した缶ビールが美味しいこと。事を成し遂げた後のアルコールは格別です。帰路,北朝霞駅前の居酒屋で反省会。熱燗にほっけ焼きがとても合いました。次回の登山は3月を約して別れました。
前回掲示した信託は,土地信託等開発行為を伴うものでもない限り,スキームの需要がないかもしれません。信託税務の学習用に例示したものでしょう。今回は,受益者連続型信託についてです。受益者連続ですから,受益者が代わることが連続する信託という事になります。以前にも紹介しましたが,多いと思われるものが,夫が再婚している事例で後妻に自宅を使用収益させるが,後妻が亡くなったら自宅は子に取得させたいというケースです。事例 最初の収益受益者を後妻,後妻死亡後は長男,長男死亡後は信託が終了し,孫が元本受益権を取得するとします。
受益権は,後妻~長男~孫と連続します。この場合,受益権を前受益者から相続したものとして相続税が課税されます。その際の収益受益権の評価額は,自宅の相続税評価額です。つまり,収益受益権・元本受益権にかかわらず,評価は物件の相続税評価額です。これは,委託者である夫から資産が転々として,結果的に孫のものになるという事実から,このような税制を採用しないと,通常の相続の場合より税の課税の機会を失うことがあると考えたわけです。通常の相続の場合,相続が発生した時点で,相続税の課税機会があるのですから。ただし,通常の相続では,元本すなわち自宅の所有権自体が相続人に移転するのに比べて,信託では,後妻及び長男には自宅の所有権は移転せず使用収益権のみが移転します。ですから,後妻及び長男は自宅を売却したりして換金することはできません。そのような制約の中で,所有権の完全な移転と同じ税金を納めなければならないというのは,少し納得がいかないものではないでしょうか。この場合にもし,相続税の非課税限度を超え相続税の納税が必要になる場合,最悪の場合に,自宅を処分して納税資金に充てることができないことになります。信託が,税務の制約を受けスムースに運ばない一例で有ると思います。さらに,不動産の場合,信託の登記をする必要が有ります。登記のための登録免許税は,現時点での措置法により,通常の相続の登記の登録免許税(固定資産評価額の0.4%)を超えることはないのですが,問題は信託の終了時にあります。この時に,受託者から元本受益者への「信託財産引継」を原因とする所有権移転登記を行います。ところが,この原因による所有権移転に対しては,不動産取得税の課税対象とするというのです。不動産取得税とは,不動産の取得者に対し賦課される都道府県税ですが,相続を原因とする取得には課さないことになっています。この信託の受益権は,全て相続による移転のはずです。ところが,登記の際,「相続」を原因としていないため非課税要件に該当せず,取得税を賦課するとのことなのです。取得税において自宅の場合は,一定の減税措置があるため,余程広い土地に建っていない限り非課税になると思われますが,事業用の不動産の場合には課税される事は明らかです。本来,支払う必要のない相続による取得にまで課税される場合があるとは・・・。「信託の税制」を,一般的なものより不利益になることを除く税制に,改正する必要があります。
久しぶりに信託です。2月1日信託の研修がありました。東京の税理士法人の女性税理士さんによる解説でしたが,とても分かりやすい。税務は難しいものだという先入観がありましたが,きめ細やかな解説で全て理解できたように思えます。さて,ここで見えてきたのが信託にかかわる税制の複雑怪異さです。講義後の質疑応答にも有りましたが,税務には素人の司法書士達でも,何故?何とかならないの?の質問が集中しました。税務の考え方の根底に徹底した「租税回避の防止」が有り,これに努めるあまり,極端に言えば,制度的に自由になったはずの信託を,全く使い物にならなくする結果を招いていることが明らかになってきました。信託の場合,特に相続・贈与の資産税に係わってきます。ですから,信託を利用した相続飛ばし,贈与を贈与以外の性質による資産の移転に変質されるのではないかという懸念があることが推定されます。従って,税制がネックとなり,信託を利用するスキームは,実用化がほとんどなされていないのが現状です。さて,税務のさわりを順次紹介していきましょう。信託税制の基本は,受益者課税です。受益を受けた人に課税するということです。そして,委託者から受益者に利益の移転が有ったものとして,委託者及び受託者の属性・関係により贈与か相続かを判断します。委託者が存命中の信託であれば「贈与」。委託者の死亡を原因し,法定相続人を受益者とする信託であれば,「相続」と見なされます。次ぎに,「元本受益権」と「収益受益権」という概念があります。賃貸不動産を例に挙げれば,「賃料」が収益で,「不動産」が元本と考えます。ここで,元本受益者と収益受益者が異なる場合,例 父が不動産を信託し,信託期間を10年。収益受益権を長男 元本受益権は自分とする。この場合,10年間の収益見込額を現在価値に割り戻して課税するそうです。つまり,未だ収益は発生していないのに,10年間の収益見通しに対し贈与税を課税することになります。???これはおかしいのでは!10年分の贈与による収入を,信託設定時に課税されたのでは,収益も入ってない段階でどうやって贈与税を工面したら良いのでしょうか?贈与税の納付資金のために贈与を受けるなんてことにもなりそうです。加えて,毎年の賃貸収入(受益者としての収入)に所得税が課せられる可能性が有るといいます。もっとも,二重課税になるとして,所得税は課さないとする説もありますが。ここは,単純に,毎年の収益に贈与税を課すという風に定められないのでしょうか。なぜなら,本人が受ける利益は,賃貸収入のみであって,元本たる不動産の所有権は少しも取得していないからです。これでは,父は不動産収入を現金で贈与した方が余程ましなことになります。
長くなりますので,今回はここまで。次回は,受益者連続型信託の税務について述べます。
定時株主総会とは,株式会社の業務執行者(取締役等役員)が株主に対し,事業年度一年間の業績を報告し,決算を承認してもらう(株式上場しているような取締役会・監査役会・会計監査人を置いた公開・大会社は報告のみ)ために開催する総会です。同じようなことは,どのような形態の団体でも行ってますよね。例えば自治会とか。
さて,通常,定時株主総会は,「シャンシャン総会」といって,会社側の思惑どおりに報告審議が進み,「これにて総会を終了いたします。拍手!」で終了するのです。その後,会社は議事録を作成し,本店に10年間保管しておかなければなりません。議事録の記載事項は,総会の開催日時・場所・出席役員の氏名,議長・議事録作成者の氏名の外は,議事の経過の要領およびその結果です。(会社法施行規則73条3項)
ところが,「シャンシャン総会」と行かず,次の意見または発言があったときは,この内容の概要を記載する必要が有ると定められています。次の意見とは,要約すると1.監査役・会計監査人の辞任の旨とこれについての意見・辞任理由2.監査役の報酬等に関するもの3.取締役が株主総会に提出しようとする議案について,法令定款違反または著しく不当な結果があると認められる場合の調査結果4.会計監査人が計算書類について監査役と意見を異にするときその旨です。
つまり,これらは何れも会計及び取締役の業務執行に関する監査を行う者等に係わる意見・調査結果であり,監査役等の意見を明確にしておくことにより,後日の紛争に備えて責任の所在を明らかにしておく意図が有ると思われます。
さて,このような意見があったという事は,一般的に会社にとって決して名誉なことではなく,株主から色々と憶測させる結果を招く可能性があります。取締役にとっては,是非とも避けたい事項です。
思うに,このような記載が法的に強制されていることにより,取締役の会計および業務監査への不当な圧力を防止しようとする趣旨ではないかと推察します。
なぜなら,総会の席上,監査役や会計監査人が,私は取締役の不当な圧力により,私の監査した計算と異なる数字の提出を求められたとか,これを拒否したところ辞任を強制されたとか,提出議案は法令・定款に違反していると思うとの報告を受けたら,取締役としてはたまったものではありません。一方,監査役等は,後日,株主や取引先等第三者から責任追及の訴訟等を提起された場合,自らの業務の正当性を議事録によって証明できますから,安心して業務を行うことができると思われます。しかしそれでも,オリンパスのような事件を防げませんでした。さて,総会の席上,このような意見の表明がなかったという事は,会計監査人・監査役に求められる高度の注意義務を果たしても,今回の事態が発見できなかったということが立証されない限り,彼等の責任は免れ得ないとの結論になりそうです。