生活する花たち 冬①
○現代俳句1日1句鑑賞
12月31日
★去年今年貫く棒の如きもの 高濱虚子
「去年今年」の季語であまりにも有名になった句である。虚子は、客観写生を唱えたが、虚子自身は、大変主観の強い人間である。去年が今年となっていく時を「棒の如きもの」と主観の強さで把握した。太い棒のような時は、虚子の一貫した人間の太さや力とも言えよう。(高橋正子)
12月28日
★身にまとふ黒きショールも古りにけり 杉田久女
防寒にショールをまとう。ショールは、防寒の用だけでなく、気に入ったお洒落なものをまとう楽しみもある。買ったときは華やかに身を包んでくれたショールも、年々使って古びてしまった。ショールが古くなることは、つまり自身から、若さや華やかさが失せることでもある。うだつの揚がらない田舎教師の妻として、境遇を思う悲哀がある。(高橋正子)
12月27日
★許したししづかに静かに白息吐く 橋本多佳子
許しがたく憤ることがあって、昂ぶっていたが、考え、時間が過ぎてみると、次第に「許したし」の心境に落ち着いてきた。憤りを静めるように、意識して静かに吐く息である。寒い折、その息は白くなって、自分の目に、静まって行く気持ちが確かめられる。多佳子らしい感情が出ている。(高橋正子)
12月26日
★冬霧やしづかに移る朝の刻 谷野予志
霧に包まれた冬の朝の静かな時間を、作者自身の静かな行為の中で詠んでいる。霧が深く立ち込める情景は、空間も時間も動かないというほどに、「しづかに」動いているのである。(高橋正子)
12月25日
★足袋つぐやノラともならず教師妻 杉田久女
久女は女子高等師範学校を卒業した秀才であるが、絵描きの田舎教師の妻となった。夫の将来に夢を託していたが、凡々と暮らす夫に不満が募り、そうかといってイプセンの「人形の家」の主人公ノラのように家を飛び出していくこともせず、もんもんとして、足袋の破れをつぐような生活を送る日もあった。女性の自立を問う句であることに、今も変わらない。(高橋正子)
12月24日
★冬の海越す硫酸の壺並ぶ 谷野予志
船に載せられて運ばれる工業用の硫酸だろうが、硫酸とは、ただならぬ。その硫酸が壺に入れられて並べられているのを目にした。冬海が荒れれば、硫酸は壺のなかで揺れる。いかなる事件が待ち受けているかもしれない危険がある。そういったことを予測させて、ミステリーが始まるような鋭い句。(高橋正子)
▼現代俳句1日1句鑑賞
http://blog.goo.ne.jp/kakan2011
○現代俳句1日1句鑑賞
12月31日
★去年今年貫く棒の如きもの 高濱虚子
「去年今年」の季語であまりにも有名になった句である。虚子は、客観写生を唱えたが、虚子自身は、大変主観の強い人間である。去年が今年となっていく時を「棒の如きもの」と主観の強さで把握した。太い棒のような時は、虚子の一貫した人間の太さや力とも言えよう。(高橋正子)
12月28日
★身にまとふ黒きショールも古りにけり 杉田久女
防寒にショールをまとう。ショールは、防寒の用だけでなく、気に入ったお洒落なものをまとう楽しみもある。買ったときは華やかに身を包んでくれたショールも、年々使って古びてしまった。ショールが古くなることは、つまり自身から、若さや華やかさが失せることでもある。うだつの揚がらない田舎教師の妻として、境遇を思う悲哀がある。(高橋正子)
12月27日
★許したししづかに静かに白息吐く 橋本多佳子
許しがたく憤ることがあって、昂ぶっていたが、考え、時間が過ぎてみると、次第に「許したし」の心境に落ち着いてきた。憤りを静めるように、意識して静かに吐く息である。寒い折、その息は白くなって、自分の目に、静まって行く気持ちが確かめられる。多佳子らしい感情が出ている。(高橋正子)
12月26日
★冬霧やしづかに移る朝の刻 谷野予志
霧に包まれた冬の朝の静かな時間を、作者自身の静かな行為の中で詠んでいる。霧が深く立ち込める情景は、空間も時間も動かないというほどに、「しづかに」動いているのである。(高橋正子)
12月25日
★足袋つぐやノラともならず教師妻 杉田久女
久女は女子高等師範学校を卒業した秀才であるが、絵描きの田舎教師の妻となった。夫の将来に夢を託していたが、凡々と暮らす夫に不満が募り、そうかといってイプセンの「人形の家」の主人公ノラのように家を飛び出していくこともせず、もんもんとして、足袋の破れをつぐような生活を送る日もあった。女性の自立を問う句であることに、今も変わらない。(高橋正子)
12月24日
★冬の海越す硫酸の壺並ぶ 谷野予志
船に載せられて運ばれる工業用の硫酸だろうが、硫酸とは、ただならぬ。その硫酸が壺に入れられて並べられているのを目にした。冬海が荒れれば、硫酸は壺のなかで揺れる。いかなる事件が待ち受けているかもしれない危険がある。そういったことを予測させて、ミステリーが始まるような鋭い句。(高橋正子)
▼現代俳句1日1句鑑賞
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