小雨
鶴見川
ぎす鳴けり潮の匂いの上りきて 正子
秋の蚊の飯噴くころに増えにけり 正子
秋冷に紅茶を淹れに椅子を立つ 正子
●ヴァーチャル・ツアーで「ジヴェルニーのモネの家」を見た。庭と部屋の内部が見れるが、モネの油彩を飾っているのは大きい一部屋、浮世絵を飾ってあるのが、玄関ホールのほか二部屋。浮世絵の収集の多さに驚く。ンプルな額縁に入れて飾ってある。ジャポニスムは一過性のブームではなく、大きな影響を与えていると知らされた。
(十)リルケと俳句について
●リルケは1920年9月、『新フランス評論』(1920年9月1日)「ハイカイ特集号」のフランス語の翻訳を介して初めて俳句を知っている。このとき、鬼貫の
「咲くからに見るからに花の散るからに」
に感動し、日本滞在の経験のあるネルケ夫人に「あなたは短い日本の(三行)の詩形をご存じですか」と手紙を出している。
同年10月には『アジアの賢人と詩人』(P.L.クーシュー著1916年初版)1919年をパリで購入(三刷本)して、アンダーラインを引き、丹念に読んだことが、遺された蔵書の研究からわかっている。
クーシューはこの著書の第二章「日本の抒情的短詩」において、6ページほどを俳諧総論として置き、俳句の定義、特質、起源、作者などについて、日本の版画などと比較しながら簡単に紹介し、さらに具体的に俳句を約70ページほどを訳出し、注釈をつけている。クーシューの説明にリルケがアンダーラインを引いているところがある。四つ挙げるが、それがリルケが受け止めたハイカイである。
①俳句の一般的な特徴は大胆なほどの単純化である。ハイカイは一枚の日本風クロッキーに比較できる。
⓶ハイカイは我々の目に直接訴えてくる一つのヴィジョンであり、我々の心に眠っている何かの印象を目覚めさせてくれる生き生きとした一つの印象である。
③Un petale tombe ひとひらの落ちた花びら
Remonte a sa branche 再び枝にのぼる
Ah’c'est un papillon! ああ それは蝶
ARAKIDA MORITAKE
(原句 落花枝にかへるとみれば胡蝶かな 荒木田守武)
この最後に示した例は典型的なものである。ひとつの短い驚き!これが俳句の定義そのものである。
④これら(3つの描線)は、他のいかなる振動にも限定されず、ほとんど際限なくおのずと広がってゆく振動に似ている。
リルケはハイカイを知ったのち、ハイカイの影響を受けて短いフランス語の詩を書いている。影響はどのように詩になっていったかを知りたいところである。
(リルケのフランス語の詩をここに引用する代わりに、我々俳人は、庭に咲いている薔薇の花を思い浮かべ、その薔薇について俳句を作るつもりで以下を読んで欲しい。)
「薔薇」(詩篇I)には、
薔薇の爽やかさに「短い驚き」を、薔薇の花は中心に眠りを持ちながら全体目覚めているというイメージに、「我々の心に眠っている何かの印象を目覚めさせてくれる」を当てはめ、そして一詩そのなかに、リルケの中心的なテーマである「生と死の統一体」が「眠り」と「目覚め」の対比的な語の組み合わせで、簡潔に自在に実現されている。
リルケの詩人としての偉大さは、薔薇を観察する洞察の深さと、自分の中心的テーマ「生と死の統一体」を簡潔に自在に詠み終えていることである。
(つづく)