京都御苑内の南の一画にある「拾翠亭(しゅうすいてい)」は、五摂家の一つであった九条家の別邸として使用された建物。江戸時代後期の建築と伝わります。
当時の九条家の敷地は、10,000坪以上、建物も最盛期には、3,800坪もあったということですが、明治の初期に建物のほとんどが取り壊され、現在は茶室の拾翠亭だけが、公家屋敷の貴重な遺構として残されています。
二層からなる数寄屋風書院造りの建物は、簡素な外観ですが、格式の高さを物語る意匠が随所に見られます。
(上: 風雅な茶室「拾翠亭」)
一階の広間に入ると、縁高欄(えんこうらん)と呼ばれる手摺りのついた広縁越しに、勾玉池(またの名を九条池)の豊かな水の広がりが目に飛び込んできます。この建物が「釣殿風寝殿造り」と呼ばれるのも納得。
(上: 縁高欄越しに勾玉池をのぞむ)
(上: 池の中景となる格調高い石橋は、御所へのアプローチとなる)
「拾翠亭」の「翠」の文字には、カワセミという意味があり、かつてこの池に多くのカワセミが飛来したことが、「拾翠亭」の名の由来の一つに挙げられています。もはや、その光景は見ることができませんでしたが、池の水は、水面の水草や、周囲の緑樹を映して「翠」に染まっていました。
(上: 京都御苑の一画に静寂境を創り出している拾翠亭と勾玉池)
(上: 大ぶりの縁先手水鉢)
拾翠亭の内部に目を向ければ、段差のない床の間や突き上げ窓、開口部の透かし模様や、鏡板使用の天井、銘木の床柱・・・。さらには、付属する小間席の壁の、カビによる白黒のまだらを蛍に見立て、「ほたる壁」と呼ぶ風流心。簡素な中に貴族的な優美さが凝縮されています。
(上: 透かし模様のある突き上げ窓)
* 拾翠亭の公開日は、毎週木・金・土曜日(年末年始を除く)となっていますが、事情により、見学できない日もあるとのこと。ご訪問の際は、事前に公式HPなどをご確認ください。
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