日本庭園こぼれ話

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「小江戸」川越=現代に生きる「蔵造りの街並み」・・・埼玉県川越市(改編)

2021-05-17 | 歴史を語る町並み

埼玉県川越市は、東京・池袋から東武東上線で30分と、都心に近接しながら、東京では失われてしまった江戸の風情を残す町として、「小江戸」と呼ばれ、人々の人気を集めています。

また、各自治体がテーマにあげる「まちづくり」のお手本としても、熱い視線が注がれてきた町。その意味で、川越は古くて新しい町と言えるでしょう。その目玉となるのが、蔵造りの町並みです。

まず、川越の歴史を遡ると、15世紀半ばに、関東管領の扇谷上杉氏が、家臣の太田道真・道灌父子に命じ、川越城を築城させたのが始まり。

その後、江戸時代の川越城主の顔ぶれを眺めれば、酒井忠勝、松平信綱、柳沢吉保などなど、大老や老中職を務めた、そうそうたる人物が名を連ね、当時の川越の重要性が窺われます。

また、新河岸川を使った舟運により、経済的にも繁栄。今ある蔵造りの町並みも、川越商人の財力があったからこそ、と言うことができます。

明治26年(1893)、川越は町の4割を焼失したという大火に見舞われます。その時、類焼を免れたのが数軒の蔵造りの建物だけだったことから、耐火建築としての蔵造りが注目され、再建の際に、こぞって建てられたのが蔵造りだったそうです。

最盛期には200軒以上もあったということですが、現在残っているのは約20軒。市街地に点在していますが、メインストリートになっている「一番街通り」に最も多く、10数軒が道沿いに軒を連ねています。

川越の蔵造り建築は、白漆喰ではなく、黒漆喰なのが特徴。黒壁に重厚な観音開きの扉が付き、瓦屋根も黒。白漆喰に比べ、華やかさには欠けますが、その分、どっしりと重量感のある町並みが形成され、「重要伝統的建造物群保存地区」であると同時に、「美しい日本の歴史的風土100選」にも選定されています。

川越駅からバスに乗り、「仲町」で下車。前方に見える瀟洒な建物は、埼玉りそな銀行川越支店。旧八十五銀行本店本館の建物で、明治11年(1878)の建築。国の登録有形文化財に指定されています。(下の写真)

ここから「一番街通り」の北のはずれ、「札の辻」までの400~500メートルが「蔵の町並み」の通りです。「札の辻」の地名は、かつて城下の中心地として、高札が立てられた場所の記憶。

川越の蔵造りの建物の多くは 明治時代のものですが、「札の辻」に近い「大沢家住宅」は、川越でもっとも古い蔵造りの町屋(重要文化財)で、江戸時代(1792)に造られたもの。明治の大火の際に、蔵造りの耐火性を証明した建物でもあります。明治の蔵造りに比べると、シンプルな外観ですが、さすがに風格があります。

(上: 風格のある大沢家住宅)

ここに並ぶ蔵造りの建物は、現在もほとんどが店舗として利用され、外観は昔のままに、内部を今風にお洒落に改造したものも多く見られます。古い建物を現代に調和させ、積極的に利用する。最近、美しい町並みづくりに、こうした手法が積極的に採り入れられている傾向にあるのは、嬉しいことです。

(上: 新旧の建物が融合する蔵造りの町並み)

また、ここでは、古い蔵造りの間には、現代建築も建てられていますが、外観は土蔵風にして、周囲の景観を壊さないよう気配りがなされ、新旧の一体化がうまくいっていると思います。

近年の地下ケーブル化によって、電柱と電線が視界に入らないのも、町並み景観がすっきりしている一因です。

一番街通りの中程、少し奥まったところに聳えるのは「時の鐘」。約400年前から、城下町に時を知らせてきたという川越のシンボルです。

(上: 音色でも歴史的町並みを盛り上げる「時の鐘」)

現在の櫓は、川越大火の後に建てられた4代目ですが、創建当時のままの形をとどめ、今も一日4回、午前6時、正午、午後3時、午後6時に鐘の音が時を告げるそうです。この鐘の音は、「残したい日本の音風景100選」の一つです。

町歩きをちょっと休憩。「料亭・山屋」でランチ。蔵造りの町並みのメインストリートから、ほんのわずか路地を入ったところにあるだけなのに、繁華街にあるとは思えない静けさです。

(上: 山屋の前庭)

山屋の創業は幕末。そして明治初年、関東を代表する「伝説的な豪商」横田家の別邸を譲り受け、この地に移転してきました。

横田家は、幕末の頃の関東長者番付では、常に横綱格だったという資産家。この別邸は、藩主をはじめ、賓客を招くための貴賓館でもあったそうです。

料亭となった今でもその名残をとどめ、約3,000平方メートルの敷地の中は、格調高い数寄屋風の建物を、雑木による自然風の庭園が囲み、清々しい空気で満たされています

(上: 空気を浄化してくれるような山屋の自然風庭園)

食事は基本的に予約制ですが、離れの2階を利用した「喫茶室」での軽食(平日の昼のみ)は、リーズナブルな予算で、格式高い山屋の味と雰囲気を堪能できます。

小休止の後、再び散策開始。

「札の辻」の西側にある「菓子屋横丁」へ。狭い路地に菓子屋が所狭しと並んでいます。川越では、明治時代の初め頃から、駄菓子作りが始められ、関東大震災の後、東京から菓子製造店が移って来たことで、昭和初期には70店ほどもあったとか。

(上: 失われた懐かしい情景に出会える菓子屋横丁)

現在は20店近くが軒を連ね、麩菓子、手作り飴、芋チップ、煎餅、焼き団子、きんつば等々、駄菓子から伝統の味まで、様々な種類の菓子が店先まであふれています。

それは中高年には郷愁を誘う懐かしい光景であり、幼い子どもには、新鮮な異次元空間と映るかもしれません。

(上: 嗅覚と視覚も楽しませてくれる菓子屋横丁)

界隈に漂う駄菓子の醸し出す香りは、「日本のかおり風景100選」に選ばれていますが、そのカラフルな様子が、嗅覚だけでなく、視覚も刺激してくれます。それにしても、川越の町には「日本の100選」が、ずいぶん色々ありますね。

 

* コロナの影響で、店舗の営業は平常通りでないかもしれません。予めのご確認をお願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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