日本庭園こぼれ話

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「塩の道」の中継点・足助の町並み(改編)---愛知県豊田市

2020-10-02 | 歴史を語る町並み

愛知県の北東部に位置する豊田市「足助(あすけ)」は、江戸時代、岡崎と塩尻を結ぶ伊那街道筋にあり、遠州からの街道が鳳来寺を経て合流する接点でもあったので、山間にありながら、交通の要衝として賑わった宿場町でした。

また伊那街道は、三河湾でとれた塩を信州に運ぶ道でもあったため、「塩の道」とも呼ばれていますが、足助はそれらの物資輸送の中継地としても、大いに繁栄したそうです。

現在の足助は、そうした歴史よりも、「香嵐渓(こうらんけい)」という紅葉の名所としての知名度の方が高いかもしれませんが、当時を偲ぶ町並みが、「重要伝統的建造物群保存地区」に選定されています。

(上: 妻入り(左)と平入(右)の町家が並ぶ足助の町並み)

町へのアクセスは、名鉄・東岡崎駅からバスで約70分。「香嵐渓」でバスを下り、巴橋を渡った「西町界隈」から散策開始。ここは足助の町の玄関口で、かつては旅籠が並んでいたところ。その面影を残しているのが「玉田屋旅館」で、今も現役。

(上: 昔の旅籠の面影を残す「玉田屋」)

一方、巴橋を渡って北に進むと、「中馬(ちゅうま)街道」に突き当たります。これは伊那街道の別称です。その昔、運ばれて来た塩が、足助で荷直しされ、馬の背に積まれたことから、「馬による中継ぎ=中継馬」が巡り巡って「中馬街道」と呼ばれるようになったとか。

道端には、その歴史を物語るかのように、「馬頭観音」が祀られ、背後には「馬をさへ ながむる雪の 朝(あした)かな」と刻まれた芭蕉の句碑が立てられています。

(上: 中馬街道の馬頭観音)

そこにはまた、石を穿った水槽があって、刻まれた文字を見ると「牛馬攝待水」。「攝待」は「接待」のことで、牛馬が大切にされた時代の様子が想像されます。

西町に戻り、玉田屋の先を少し行くと、一軒の家の前に、うっかりすると見落としてしまうような小さな石の道標が。

 

(上: 道路脇にさりげなく立つ道標)

「左 ぜんこうじ、右 ほうらいじ」と記されたそれは、善光寺と鳳来寺への分かれ道を示す、弘化2年(1845)の道標。足助が街道の分岐点であったことがよく分かります。

(上: 大正時代の警察署の建物を利用)

大正時代に警察署として建てられた「足助町商工会」を過ぎ、足助川に架かる中橋を渡って、最初の四辻を右に入ると、そこは「新町」。中馬街道に沿って、古い町並みが残っています。

ハイライトはやはり「マンリン小路」でしょう。蔵造りの本屋さんとして知られるマンリン書店。「典籍 マンリン書店」と彫られた重厚な看板が、蔵造りの建物によく合っています。

 

(上: マンリン小路の名の由来となった「マンリン書店」)

このお洒落な名前の由来はというと、呉服商を営んでいた先祖の名前が「萬屋林右衛門」ということで、「マンリン」という店名になったとか。

 

(上: 「マンリン小路」の入口)

マンリン書店の脇から上っていく細い道が「マンリン小路」です。入口には「宗恩寺道」とあり、元々は、この上の宗恩寺の参道だったと思われますが、現在では「マンリン小路」の名の方が、市民権を得ているという感じ。

路地の両側には、黒い腰板を張った白漆喰壁の土蔵建築がずらりと並んで壮観。その景観は、古風なはずなのに、白と黒のコントラストによって、むしろ現代的なのが、印象的でした。

 

(上: 白黒のコントラストが実に美しいマンリン小路の景) 

「マンリン小路」の景観美をつくる土蔵造りのうち、マンリン書店から連続する4棟は、蔵のギャラリーになっています。江戸時代の蔵を改造したもので、高低差のある敷地を利用した階段状の内部空間が今風にアレンジされています。

(上: ふと足を止めたくなるギャラリーのエントランス)

マンリン小路は、50メートルほどあるでしょうか。その先、坂を上りきったところにある「宗恩寺」は、「宗恩寺の晩鐘」として、足助八景の一つに数えられる景勝の地。高台にある境内に立つと、足助の町が眼下に広がります。

(上: 高台にあり眺めの良い宗恩寺)

(上: 「宗恩寺の晩鐘」の景)

中馬街道に戻り、新町から本町に入ると、通りには「妻入り」や「平入り」など、古い商家の造りが並んでいます。和菓子店が多くてビックリ。

ここでは郵便局も銀行も、町並みの雰囲気に合わせた佇まい。そんな中、「両口屋」は、代表的な平入型商家で、格子と虫籠窓の直線が、すっきりした外観をつくっています。

(上: 大きく開けた虫籠窓がスマートな和菓子店)

新町から本町にかけての川沿いには遊歩道が整備されていて、そこを歩けば、表通りとはまた違う、鄙びた足助の一面が垣間見られます。

本町からT字路を左に曲がると田町。この通りにある「足助中馬館」は、町の資料館。建物は旧稲橋銀行の社屋を復元修理したもので、二階に虫籠窓のある白漆喰壁の土蔵造り。明治から大正にかけての、地方銀行の典型的建造物だそうです。

(上: 足助中馬館)

古い町並みでは、2月11日から3月11日まで、『中馬のおひなさん』という雛祭りイベントが開催され、民家や商家に代々伝わる雛人形が飾られて、散策を盛り上げます。

(上: 店先などに飾られ、通る人の目を楽しませてくれる雛人形)

田町のはずれの赤い鳥居をくぐって少し行くと、左手に稲荷社があります。通称を「お釜稲荷」といい、大きなお釜が祀られているのが珍しい。

(上: 不思議な言い伝えのある「お釜稲荷」)

昔、不思議な老人が一升釜を持ってやって来て、そのお釜で炊いたご飯をふるまったところ、いくら食べてもお釜の中のご飯が無くならなかったという話が伝わっています。

ここが今回の散策の終点。出発点の「巴橋」からここまでは、ゆっくり歩いても20分ほどの道のり。再び巴橋に引き返せば、ここはまた、紅葉の名所で知られる「香嵐渓」の入り口です。

 ---つづく

 


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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (アオイ)
2020-10-02 11:10:31
マリリン小路とか、マリリンが何度も出てきますが、マンリン小路です。 マンリン! 本当に現地調査されたのでしょうか?
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Unknown (ジモティー)
2020-10-02 13:14:41
萬と林で
なんでマリリン?
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Unknown (こぼれ話)
2020-10-03 09:23:56
ご指摘ありがとうございました。完全に私の思い違いです。訂正してお詫び申し上げます。ちなみに、「現地調査」などという大袈裟なものではありませんが、現地を訪ね、とてもステキな街並みだったので、ご紹介させていただきました。
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