ソリューション営業とは、顧客の問題を発見し、それを解決するために製品やサービスを売ることです。ソリューション営業が効果を発揮するためには、顧客自身が自社の問題を正しく認識していることが前提となります。
たとえば、ある製品を作っているメーカーの開発部門で、図面にミスが多いという「問題」があったとします。当該部署の管理者は全てのミスを洗い出し、系統的に分類し、原因をあぶりだして行きます。この段階ではQC(品質管理)手法が大いに役に立ちます。特にミスの数が多いほど統計的な分析手法が有効になります。
次に、明らかになった原因に基づいて「どうすればミスが起きないのか」という仮説を立てます。仮説とは「何らかの現象や法則性を説明するのに役立つ命題」のことですが、ここでは「現時点で考えられる最も確からしい解決策」と考えて下さい。
この際に注意しなければいけないことは、問題が「図面のミス」であったとしても、たった1つの視点=「設計者」という立場にこだわらないようにすることです。
1つの視点にこだわると、かなり絞り込まれた仮説が生まれるので、一見解決への最短ルートを走っているように思えます。しかし、仮説はあくまでもゴールに向うために採用した1つの道に過ぎません。
図面を描く道具であるCADのユーザーとしての視点、出来上がった図面を元に試作品を作る製造担当者の視点、製品を組み立てる作業者の視点、製品の構想を思いついた企画立案者の視点など、様々な方向から道を探ることが大切です。
途中で間違っていることがわかったら、他の道を選び直さなければなりません。問題解決にはこうした仮説検証という試行錯誤が付きものです。
「これだ!」とひらめいた瞬間、その仮説が悪霊のように(?)自分に憑いてしまうこともあります。すると他者の意見は耳に入らなくなり、一刻も早く仮説を実行したくなります。もちろん実行するのは良いのですが、明らかに間違っていたとしても途中で止めることができなくなります。仮説の虜(とりこ)状態ですね。
近年、顧客は営業パーソンよりも賢くなり、顧客自身で問題解決ができるようになってきているので、従来のようなソリューション営業はもう通用しないと主張するビジネス誌もあります。たしかに、顧客が問題解決に長けていれば、営業パーソンが持ってくる提案など相手にしなくなります。
ところが、当社がコンサルティングや教育で関わる会社の中には、自信満々で間違った解決策を口にする人もいます。それは決して知識やスキルが不足しているのではなく、仮説の虜になっているのです。
顧客がいったん(筋の悪い)仮説に取り憑かれると、なかなかやっかいです。営業パーソンはエクソシスト(悪魔祓い)役になって、「多様な視点」という呪文をぶつけていく必要があります。多くの場合、それは強い抵抗に遭います。それでも顧客のために、勇気をもって間違った仮説に立ち向かって行かなければなりません。
営業パーソンの皆さん、あなたにはその覚悟がありますか?