「娘は、5月31日までに希望の職業を決めて学校に提出することになっているので、何とかして決めなくてはいけないようです」
これは先日、進学校に通う高校生の娘を持つ友人から聞いた話です。
その高校では、これまでもキャリア教育の一環で、本人が希望する職種についての適性の有無を診断テストによって確認する機会があったそうです。しかし、この娘さんはいずれの職種についても「対応力がなく不向き」、「適性がない」などのコメントが返ってきてしまったそうです。
また、過去には学校の主催で弁護士や税理士の講演を聞く機会もあったそうですが、それだけではやはり本人が希望する職種を見極めるにはあまりにも情報が少ないようです。
これらの話を聞いていて、高校2年生が大学卒業後の就職先をイメージすること自体、いかに難しいことであるかを感じます。同時に高校2年生であれば、将来の就職にも大きく影響する大学受験の際の、文系か理系の選択をしなければならない時期でもあります。
このため、学校側も生徒の判断の助けとなるように、上記の診断テストや弁護士をはじめとする様々な専門職の人の話を聞く機会を積極的に提供しているのでしょう。
しかし、高校生はもちろんのこと大学生であっても、将来自分がどのような仕事に就いて、どういう働き方をするのかをイメージすることは簡単なことではないと思います。
たとえば、キャビンアテンダントや看護師、教員などの職種であれば、誰でも容易に仕事の内容をイメージすることはできます。しかし、そのように仕事内容を容易にイメージできる職種は、実はそれほど多くはないはずです。
同様に文系・理系の選択をする場合にも、それぞれで何を学ぼうとするのかはっきりしたイメージを持って決めるというよりも、単に数学や理科が好きだから理系を、反対にそれらの科目が苦手なので文系を選択するというようになってしまっているケースが多いのではないでしょうか。その結果、理系を選ぶのは全体の2~3割で、それ以外の大半の人が文系を選択するというようになっています。
こうした話を聞いていつも感じるのは、就職する学生のうち専門職に就く学生は一部であり、大半は会社員になるのにもかかわらず、会社で働くことをイメージするための詳しい情報があまりにも少ないということです。
では、一体どうしたらよいのでしょうか。
たとえば、大学は理系に進み製造業に入社すれば、研究開発や技術部門に配属されますから、製造業にいる人に話をしてもらう。
また、文系であれば多くの人は営業職に就くことになります。実際に企業で営業をしている人に営業とはどういう仕事なのか、同じ営業の仕事でも業界によってどのように異なるのかなどの話を数人から聞くなどの機会があるとよいと考えます。そうすれば、より具体的に仕事の内容をイメージすることができ、進路を決める際の参考になります。
冒頭の話に戻ると、高校生が自分が詳しく知っている数少ない職業の中から無理やり希望の職業を選んでいるわけです。それを記入して提出した結果、適性がないなどの診断結果をつきつけられてしまうということは、それこそ将来ある高校生の可能性をそいでしまうことになりかねないと危惧しています。
そうであれば、専門職以外にどういう仕事があるのか、どういう働き方をしているか、会社で働くとはどういうことなのかなどについて、高校生が知ることができる機会を増やすことの方が先ではないのかと考えています。