中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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工業にもフェアトレードを!

2014年11月23日 | コンサルティング

今年の9月、従業員数350名、売上高約30億円の島野製作所が、従業員数85,000人、売上高約20兆円のAppleを独占禁止法違反と特許権侵害を理由として訴訟を起こしました。訴訟内容は以下の2点です。
(1)島野製作所からAppleに納品・決済みの在庫に対して、価格が低下したのでその分も遡って計算し直し、差額をリベートとして支払えという要求があった。(独占禁止法違反)
(2)両社の間には「類似製品の開発などを行わないという合意」があったにもかかわらず発注先を変えたということは、島野の技術が流出した疑いがある。(特許権侵害)

訴訟ですから両者には言い分があり、それを裏付ける証拠がこれから出てくると思われます。どちらの主張が正しくてどちらが間違っているのか、そしてどのような判決になるのかは現時点ではわかりません。

さて、自由な市場取引を前提とする資本主義経済では、企業や個人が利益の獲得に向けて努力することで社会が成り立っています。利益を得られなかった企業や個人は、要は努力が足りなかったということになります。

では、島野製作所がAppleの要求に素直に応じて、その結果赤字になったとしたら(あるいは倒産したとしたら)、それは島野製作所の努力が足りなかったからなのでしょうか。
もちろん「その通り」という意見もあると思います。

農業の分野の話になりますが、チョコレートの原材料であるカカオの原産地・西アフリカでは、児童労働が大きな問題となっています。人身売買された子供たちが働く農園で採れたカカオがチョコレートとなって先進国で売られているとしたら、それは「自由な取引」であっても公正(フェア)な取引ではありません。

WFTO(World Fair Trade Organization)という国際的な団体があります。WFTOではフェアトレードの10の指針 (10 Principles of Fair Trade)を挙げています。
1. 生産者に仕事の機会を提供する
2. 事業の透明性を保つ
3. 公正な取引を実践する
4. 生産者に公正な対価を支払う
5. 児童労働および強制労働を排除する
6. 差別をせず、男女平等と結社の自由を守る
7. 安全で健康的な労働条件を守る
8. 生産者のキャパシティビルディングを支援する
9. フェアトレードを推進する
10. 環境に配慮する

もちろん、島野製作所とAppleのような工業製品の取引に農業の分野のフェアトレードの概念をそのまま適用するつもりはありません。両社は途上国と先進国という関係とは全く違うからです。

しかし、それを承知の上で指針の3番目にある「公正な取引を実践する」の付記を読んでいただきたいと思います。

「3. 公正な取引を実践する。バイヤーと生産者は、連帯と信頼、互いへの思いやりに基づき長期的な取引を行います。小規模生産者が社会的・経済的・環境的に健全な生活ができるよう配慮して取引し・・・(以下省略)。」

目先の利益ではなく長期的な利益を得ようとするなら、公正な取引を実践することが最も理にかなった行動であることはゲーム理論を引き合いに出すまでもなく明らかです。

農業にも工業にもフェアトレードの考え方は必要です。

公正な取引が、実は自由な市場経済を支えているのです。

(人材育成社)