中小企業のための「社員が辞めない」会社作り

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第1,165話 挑戦しなければ、自分のパンチは相手に当たらない

2023年05月10日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。

「受けないように避けてると、間違いなく相手からのパンチは当たらないから、ダメージはない。けれど、避けるってことは前に出ないから、自分のパンチも相手に当たらない」

これは、以前読んだ内館牧子氏の小説「今度生まれたら」(講談社)の中の台詞の一つです。「自分が前に出なければ相手にパンチは当たらない」というこの言葉は、私自身が一歩を踏み出すことをためらうようなときに、また自分を鼓舞するときに何度か反芻してきました。

5月も半ばになり、新入社員が今後の仕事を具体的に始める時期になりました。多くの新人が、それぞれの職場ではりきって仕事を覚えようとしていることと思います。

近年、若手と言われる年代の特徴の一つとして「成長欲求が高い」ことがありますが、弊社が研修を担当させていただいた際にも、ちょっとした会話からスキルや知識などの習得に余念がない人が多いことが感じられます。また、実際に入社前に仕事に役立つスキルや知識を身につけたいとの問合わせが入ることがあるという話を採用のご担当者から聞いたこともあります。「スキルや知識を身に付けることによって成長したい、そのために勉強したい」と考えることは素晴らしいことですので、年長者として若手のそのような気持ちをぜひ応援したいと考えています。

しかしながら、もう一方では「若手社員の挑戦意欲の低下」という傾向も顕著になっているようなのです。リクルートマネジメントソリューションズが、2022年3~4月に新入社員525人を対象に「働くうえで大切にしたいこと」を複数選択で尋ねた結果、「失敗を恐れずにどんどん挑戦すること」は24,8%、「何があってもあきらめずにやりきること」は13,9%と、いずれもこれまでの調査で最低の数値だったとのことです。

言うまでもありませんが、挑戦とは「困難なことに挑むこと」です。自分が今持ち合わせているスキルや知識では及ばないかもしれないことに対して敢えて挑んだ結果として、苦労したり途中で失敗したりすることは当然にありえるものなのです。そして、そうした経験を通じて困難を乗り越えるためにはどうすればよいのか、次に同じような事柄が現れたときにはどのように対応すればよいのかということを、間違いなくその経験から身に付けることができるのです。

若手に限ったことではありませんが、成長とは経験したことがないことや、今の自分には少々ハードルが高いことに挑戦した結果として得られるものなのではないでしょうか。そしてその結果「何とか乗り切った」という感覚を得られたときに、はじめてこれまで目にできなかったような新たな景色(世界)が見えてくるのではないかと思うのです。

成長したいと考えることはとても素晴らしいことですので、ぜひ若手の皆さんには今後もその気持ちを大切にして、様々なことに挑戦を続けていただきたいと思います。その際には、はじめはあまり大上段に構えずに、まずは小さな事柄で構わないので、経験したことのないことや少し背伸びが必要なことに挑んでみることが大切なのではないでしょうか。

もちろん、成長への挑戦は若手に限ったことではありません。「パンチを相手に当てるため」にも、自戒の念を込めて私も引き続き挑戦を続けたいと思います。

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第1,162話 OJTリーダーに任命する人とは?

2023年04月12日 | 仕事

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「何でこんな会社に入ったの?」

これは、弊社が公開セミナーを担当させていただいた際に受講者のAさんから聞いた言葉ですが、新入社員研修終了後に配属された部署の先輩からかけられたものだそうです。

Aさん自身は希望していた会社に入社できたこと、さらには配属される部署には特に希望はなかったため、どこに配属されても前向きに頑張ろうと考えていたのだそうです。

配属後に、OJTリーダーとして紹介されたのが3年上の先輩Bさんだったそうです。Bさんは仕事は丁寧に教えてくれる一方で、ランチタイムや移動中などにAさんが聞いてもいないのに自社の問題点を一方的に話すため、Aさんは入社早々に会社のマイナス面ばかりを知ることとなってしまったのだそうです。

Aさんの部署にはBさん以外の先輩のほか主任や、管理監督職として係長や課長もいたそうですが、仕事は基本的にBさんから習うことになっていたため、他の人とのコミュニケーションの機会はあまり多くはなかったとのことです。

Aさんはその後も「評論家」と化したBさんから、会社や仕事のマイナス点を聞かされ続けていたそうですが、結局1年後にBさんが退職することになり、ネガティブな話の洪水からようやく解放されたのとのことです。

Bさんが退職したときにはAさんは入社2年目で、ある程度自分だけで仕事を進めていけるようになっていたこともあり、Bさんの後任のOJTリーダーは任命されず、判断に迷ったときなどは内容によって直接主任や管理監督職に相談できるようになっていたとのことです。その結果、様々な人の考え方や仕事の進め方を知ることができるようになり、「勉強にもなったし仕事がとても楽しいと感じられるようになりました」と生き生きとした表情で語ってくれました。

この話を聞いて私が思ったのは、新入社員を受け入れた組織ではOJTリーダーを任命して新人の育成を進めることが一般的ではありますが、一人に限定してしまうことには前述のようなリスクもあるということです。

もちろん、申し分のない人がOJTリーダーに任命されるのであれば何の問題もないのですが、残念ながらそういう例はあまり多くはありません。そうすると、場合によっては新入社員はBさんのような人から仕事を習うことになり、Bさんのように組織のマイナス面を伝えたりすることで新入社員のモチベーションを下げてしまうことにもなるため、この点は問題です。

また、新人へのOJT担当を一人の人間に限ってしまうと、仮に双方の相性があまりよくなかったりしたときには、OJTがスムーズに進まないという問題も起こってしまいます。さらに言えば、教える側にもスキルや知識の得意・不得意分野といったものもあるはずです。

では、これを防ぐにはどうすればいいのでしょうか?前述のような問題を防ぐためには、OJTは一人の人間に限るのでなく、複数やチーム全体で担えるようにすることがお勧めです。そうすれば、各々の分野で一番得意な人から習ったり、様々な考え方や仕事の進め方を学んだりすることで、幅広い知識やスキルを身に付けることができるのではないでしょうか。

私は、これまで様々な組織のOJTの進め方について話を聴く機会がありましたが、OJTリーダーを一人に特定する組織がとても多いのと同時に、それ故の問題や課題が生じているところも多いと感じていました。

企業によっては、間もなく新入社員研修が終了し、来週早々には各部署へ配属するというところもあります。前述のような問題や悩みを抱えている組織は、ぜひOJTリーダーの任命のあり方について、今一度検討してみてはいかかでしょうか。

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第1,160話 入社式で記憶に残る社長の話にするには

2023年03月29日 | 仕事

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「具体的な内容は思い出せません」

これは、弊社が企業の新入社員フォロー研修を担当させていただいたときに、受講者から聞くことが多い言葉の一つです。

フォロー研修は、概ね入社半年後から1年未満のタイミングで実施されることが多いのですが、受講者の大半は入社式のときの社長の挨拶や訓示などの内容を思い出せないということが多いようです。

入社式で社長が訓示として話す内容は、組織の歴史・理念やパーパスをはじめ、企業をとりまく環境の変化、そして新入社員への期待と激励が中心です。将来その企業を背負って立つ存在になってもらうためにも、前向き姿勢や積極的な行動、たゆまぬ挑戦を求めるものが多いようです。

実際、私がこれまでにお会いしてきた社長は、いずれも入社式の訓示には相当の準備をして臨んでいらっしゃったようですが、冒頭の例のように少し時間が経つと残念ながら新入社員の記憶にはほとんど残っていないというのが現実のようなのです。

それでは、なぜ社長の訓示は新入社員の記憶に残らないのでしょうか。

疑問に思った私は、これを機に様々な企業の社長が過去に話された内容をあらためて確認してみました。すると、いずれの企業の社長も丁寧に話をされてはいるものの、その内容は「あるべき論」に終始し、「その会社らしさ」や「その人らしさ」といった特徴が感じられないことに気が付きました。もし別の企業の入社式で話をしたとしてもさほど違和感がない、どこでも通じるような内容が多かったのです。無難ではあるものの、さほどインパクトはないため、これではあまり記憶に残らないのも仕方がないのかもしれません。

それでは、どうすればよいのでしょうか?新入社員の記憶に残すために受けを狙ったり、突飛なことをしたりするのでは、本末転倒ということになってしまいます。

そこで私がお勧めしたいのは、「キーワードを絞って話をする」ということです。環境の変化や組織の理念、新入社員に求めることなどの中で、特にこれからの1年ほどで求めるキーワードを1つ、多くとも3つ程度に絞ったうえで、どのような経緯でそのキーワードを大切にしているのか、社長自身のエピソードを交えて話をするのです。もちろんキーワードを絞って話したからといって、全新入社員の記憶に残るかはわかりませんが、社長が自身のエピソードを交えて話した言葉や新入社員への想い・期待というものは、少なくとも通り一遍の内容よりはるかに心に響き、記憶に残るのではないかと思います。そして、それを聞いていたうちの何人かでも将来仕事をしている中で壁に突き当たり、進むべき方向性を見失ったりしたようなときに、入社式で聞いた社長の話しを思い出すことで、あらためて前に進もうとする原動力になるのであれば、訓示本来の意味があったと言えるでしょう。それこそ社長冥利に尽きると言えるのではないでしょうか。

今週土曜日は4月1日、早くも新年度が始まります。来週は入社式というところも多いと思いますが、各社の社長が入社式でどのような話しをされるのか、私自身も今から楽しみにしています。

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第1,155話 権限を与えてはいけない人とは

2023年02月22日 | 仕事

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「パワハラの定義やパワハラの6類型(厚労省)には該当しないと思うのですが、上司が部下に対してパワハラだと思われる行為をしていて困っています」

これは先日、弊社が公開セミナーを担当させていただいた際に、受講者A氏から聞いた言葉です。A氏は製造業(中小企業)の生産課の課長ですが、役員でもある上司のB部長がA氏の部下のC氏をターゲットに、執拗な行為を繰り返しているとのことでした。

具体的に聞いてみると、B部長はパワハラの定義やパワハラの6類型についての知識は持ち合わせているため、それを踏まえパワハラにはならないと考えられるぎりぎりの行為を繰り返しているようなのです。しかし、それは周囲から見ても明らかな嫌がらせではあるため、C氏も周囲も辟易しているとのことでした。

A氏はこれまで何度もB部長に対してC氏との間を取りなしたり、やんわりといさめたりしているほか、C氏に対してもフォローをしているのだそうです。しかし、B部長がC氏への行為を止める気持ちが全くないため、事態は一向に改善しないとのことです。B部長がA氏の上司でなければ、もっと毅然とした対応をとることもできるでしょうし、B部長が役員でなければ人事部への相談もできることでしょう。しかし、A氏が勤めるのは中小企業であり、人事部=役員という組織のため、それも叶わないようでした。

弊社では「パワハラ防止研修」を担当させていただく際には、パワハラ解消に向け対応してもなお改善しないときには、加害者の行為を撮影したり録音するなど、パワハラの事実を収集しておくことの重要性について話をしています。しかし、冒頭の例ではB部長はパワハラに関する知識を承知の上で、パワハラに抵触しないぎりぎりの行為を繰り返しているため、「事実の収集」は残念ながらあまり役には立たないように思えます。

このような状況をふまえると、そもそもこの会社はなぜB部長のような人を役員にしたのかという思いを持たざるをえません。

もちろん、人は誰しも「様々な顔」を持ち合わせています。B部長は、自分よりも上の立場でさらに権限を持つ人に対しては「好い顔」をするのではないかと思いますが、立場が下の人に対してパワハラ的な行為をする人は、人事権を持っているような上司に対しては良い顔を見せ、一方の部下に対しては別のマイナスの顔を見せることが少なくないのではないでしょうか。

以前、私はある組織で管理職昇格者をアセスメントする際の面接官を担当したことがあります。一次の筆記試験をクリアして管理職候補者として二次試験に臨んだ人の面接を担当したのですが、実はその人は日頃からパワハラを繰り返している人だったのです。しかし、面接においては質問に対し簡潔明瞭に受け答えをし、いかにもリーダーシップがありそうで管理職としての能力が高そうだと見受けられる人でした。面接の受け答えからだけでは、パワハラをしているとは想像もつかなかったのですが、後になってその話を聞き、改めて人間にはいろいろな顔があるものだと感じざるをえませんでした。

そのように考えると、ある人を人の上につける、例えば管理職に昇格させる際には、仕事の成果のみならず、同時にその人の「人間性」をも確認することが重要だと思わざるをえません。もちろん、その人の人間性を確認するということは決して簡単なものではありませんが、その結果として部下を傷つけるだけでなく、結果として組織にも損害を与えるような事態は絶対に避けなければなりません。人を傷つけることに疑問を持ったり、人の痛みを感じられない人間ではないか時間がかかってでも確認することが必要です。たとえ一般的にはパワハラにならないとしても、それに類する行為はされた人に必ず痛みを与えるものであり、その痛みを感じられないような人には権限を付与してはいけないとあらためて申し上げたいと思います。

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第1,153話 「どうする!」現状維持バイアスを克服するためには

2023年02月08日 | 仕事

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ご存じのとおり、2023年のNHK大河ドラマは「どうする家康」です。徳川家康は江戸幕府を開いた初代将軍であり、どっしりと構えた威厳のあるイメージを持っている人が多いのではないかと思いますが、そのイメージからすると「どうする」は少々意外に思えるタイトルかもしれません。

これまで既に5回放映されていますが、そこに登場する家康はたびたび直面するピンチに頭を抱えて悩み、家中の者を頼ったり、挙句には逃げ出してしまうこともあったりと、どうにも頼りない存在であり、上記のような家康像とは大きく異なります。脚本家の古沢良太氏によると、頼りない家康から天下人へとどのように成長していくのか、そこがこのドラマの見所だそうです。

古今東西、人は生きていくうえで絶えず様々な局面に遭遇し、その都度判断や対応を迫られています。まさに「どうする」の連続なわけですが、そうしたときにどのように対応するのか、そこでその人の人間性や器の大きさが問われるわけです。

以前、ビジネスの世界で独立して仕事をし成功している人達に何か共通するものはあるかについて数人でディスカッションをしたことがあります。そのときに多くの人が言った一つに、「決断のスピードが速い、行動に移すのが早い」ということがありました。確かに私の周囲でも、多くの成功者は「先延ばしにする」ことがほとんどないように感じます。メールの返事一本にしても、クイックレスポンスです。

さて、誰もが知っているビジネスの成功者の一人に、ソフトバンクの孫正義氏がいます。私は以前、同社の社長室長として孫氏のもとで働いた経験を持つ三木雄信氏の講演を聞く機会がありましたが、「孫氏はとにかく意思決定や行動のスピードが速い」と話されていました。

もちろん、成功のためポイントとして「即」決断し行動に移すことはとても重要なことだと思いますが、しかし同時に、それは決して簡単なものではないはずです。成功に向け決断と行動の必要性はわかっていても、その前の情報収集だけで満足してしまって、結局その先にはつながらないということも少なくないわけで、かほどに迅速な決断と行動とは難しいものなのです。

さらに、私たちが意思決定を迫られる多くの事柄において、メリットと同時にデメリットも引き受けなければならないような状況が少なくないのではないかと思います。いわゆるトレードオフを迫られるわけですが、そうなるとますます決断は困難となり、わざわざデメリットを引き受けるよりは現状を維持したほうが良いという「現状維持バイアス」が働くケースが出てくるのです。 しかし、当然ながらこの現状維持バイアスが働いている限り状況は今とは大きく変わらず、大きな成功もおぼつかないということにもなってしまうのです。

それでは、私たちが「どうする」と決断を迫られた場合、先延ばしや現状維持バイアスを克服するためには、どうすればよいのでしょうか。あらゆる情報を得たうえで、それでもなお判断に迷ったときには、勇気をもってあえて変化を取るという選択も大切だと私は思うのです。現状維持より変化を選択することはリスクも想定され、大変なエネルギーがいることです。しかし敢えてそれをすることによって、「どうする家康」のように世界が広がっていくのではないでしょうか。

もちろん、これは大変に難しい問題で軽々にどちらと言えるものではありませんが、家康が数々の「どうする」においてどう決断し行動するのか。それを通じて成長していく姿を見られるとともに、何らかのヒントが得られることも楽しみにしています。

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第1,150話 加藤清正のリーダーシップ

2023年01月18日 | 仕事

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「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」 

これは、太平洋戦争時の海軍軍人 山本五十六の言葉です。人材育成において引用されることが多い言葉ですが、ここには人材育成のポイントとなることが示されています。

この言葉は、もともとは江戸時代中期の米沢藩の藩主 上杉鷹山の言葉「してみせて 言って聞かせて させてみる」が語源という説のほか、さらに遡れば中国の史記にも同様の意味の言葉があるとも言われています。こうした言葉が生まれる背景には、古今東西、人材を育成することは決して簡単なものではないということがあるのではないでしょうか。

日本において「人材育成」に熱心だった歴史上の人物は様々いますが、本日は部下(職人)への細かい気遣いをしていたと言われる加藤清正について取り上げます。

ご存知の人も多いかと思いますが、加藤清正は安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍した武将で、肥後熊本藩の初代藩主、虎退治や築城の名手として広く知られています。秀吉の子飼いから肥後の有力大名になりました。秀吉の九州平定に従い肥後国領主となった佐々成政が失政により改易されると、肥後北半国19万5,000石を与えられて隈本城に入り、後の天正19年(1591年)頃よりこれに改修を加え、熊本城としたのです。

その改修の際、加藤清正は築城職人に対して「大工の新左衛門の病気はどうだ?病気が良くなったら重ねて煩わないように、すべてに精を出して働くことは無用だ」や、「朝鮮から帰国した大工たちには10日間の休みを与えてから、城の建築に従事させること」など、細かい気遣いが感じられる発言をしていたと伝えられています。

歴史を振り返ると、配下の者を叱咤激励して城を築いた武将はたくさんいたでしょう。しかし、そういう中で加藤清正は19万石の大大名でありながら、直接接点を持つことが少なかったであろう職人に対してまで「大工の新左衛門」というように具体的な名前を挙げ、病状を気遣う気配りを見せていたのです。

このように自らの配下をとても大切にしていたと考えられる加藤清正ですが、その一方で城づくりにおいては一切の妥協をせず、作り終えたものに対して「本丸北の櫓は北側が下がってみえる。壊してやり直すこと」などやり直しを命じていたとの話もあります。指示についても、自ら筆を執り「馬屋を立てる場所の地割を厚い紙に書いて送れ。こちらから指示をするので、建てる用意をしておくこと」など実に具体的に行っていたようで、「うまくやれ」などといった曖昧な指示をすることはなかったのです。

我が国にも古今様々なリーダーがいたわけですが、19万石と言えば今なら大企業とも言える規模のはずです。そうした大きな組織のトップであっても部下を細やかに気遣いつつ、一方では仕事上の指示を具体的にしつつ妥協をしないという点で、加藤清正のリーダーシップには学ぶべき点が多いと思います。

こうした加藤清正の姿勢は、もしかすると「人たらし」と言われる一方で配下の武将を時に飴と鞭で巧みに支配した豊臣秀吉をロールモデルとしていたのかもしれません。様々なタイプのリーダーがいる中で、部下育成を含めたリーダーシップの一つのモデルとして、大いに参考にすべきものではないでしょうか。

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第1,147話 立場は人をマイナスの方向へ変えたり、立場が人を育てたりする

2022年12月21日 | 仕事

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「お前変わったもんだな!昔は誰彼構わず頼みを聞いてやっていた。立場は人を変えるな」

これは、先日最終回を迎えたNHKの大河ドラマ「鎌倉殿の13人」で主人公 北条義時の幼馴染で従弟の三浦義村が、民からの頼みごとを跳ねのけた義時へ向けて言った言葉です。

ドラマでは、伊豆の地方豪族 北條氏の次男として生まれた義時が、やがて鎌倉幕府の執権となり権威を振るうまでを描いていましたが、ドラマの前半と後半で義時の人となりが大きく変化していました。これはまさに、三浦義村の言葉のとおり「立場が(義時の)人を変えた」のではないかと思います。

そして、このことはドラマで描かれた鎌倉時代だけの話ではなく、現在の組織においても同じく「立場は人に大きな影響を与える」ものであると思います。立場を得たことで成長する人もいれば、反対に権威を笠に着て自分勝手な言動を繰り返す人もいます。

実際に、社長という権威を得たことで周囲を納得させる努力をしようともせずに、ことあるごとに「社長の俺が決めたことだ!」と大声で繰り返す人を私も見たことがあります。これは残念ながら立場が人をマイナスに変えてしまった例と言えるでしょう。

一方、立場を得たことがプラスに働き、大きく成長する人もいます。経営者や管理職になる前は、この人にその役職が務まるのだろうか?と周囲が少々頼りなく感じていたような人が立場を得たことによって、その後大いに信頼される経営者や管理職に大きく成長する人もいます。まさに「立場が人を育てる」という状態になったのです。

このように、時によって「立場」は人をマイナスの方向に変えたり育てたりすることがあるわけですが、では「立場が人を育てる」ようになるためには、どうすればよいのでしょうか?

立場をプラスにできるかマイナスにしてしまうかは、もともとの本人の人間性やその立場のロールモデルの有無、さらには本人の意識の問題などが影響するものだと思います。長年かけて形作られた人間性を変えるのはなかなか難しいものでしょうし、ロールモデルの有無を問うたところで、それはいたしかたないことでしょう。

一方で未来志向で考えるならば、立場に対する明確な意識の醸成こそが必要ではないかと私は考えます。そして、その立場に求められるしっかりした意識を醸成するためには、必要な知識やスキルを確認した上で、身に付いていないものは目指すべき目標として設定し、一歩ずつ身に着けていくことが必要なのだと思います。地味な取組みではありますが、立場を得たことによる影響は良くも悪くもその配下の人達にも及ぶのです。その人達がやる気をもって働けるようにするためにも、避けては通れない道のりなのだと思います。

ドラマでは、義時は源頼朝や自分の父 北条時政、時には上皇様や周囲の御家人たちの振る舞いをも見ながら、自分なりの意識を作りあげていき、そして最後には「闇落ち」してしまったように思えました。

せっかく得た立場をプラスの方向に使うのか、マイナスの方向に使うのか。ぜひ「立場が人を育てる」結果となるように使っていただきたいと考えています。

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第1,146話 森保監督の3つのリーダーシップ

2022年12月14日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。(冒頭の写真はWikipediaより)

「今後、ヨーロッパに監督の勉強に行きたい」

これは、FIFA ワールドカップサッカー 日本代表チームの森保一監督がインタビューで何度も語っている言葉です。

ワールドカップでは悲願のベスト8にこそ残れなかったものの、十分な実績を残した監督として、この言葉は非常に謙虚だと感じます。監督としてさらなる上を目指していこうとされている森保監督とはいったいどういう人なのか?メディアでもたびたび取り上げられていますが、私自身も非常に興味深く感じていますので、森保監督のリーダーシップを3つの視点から考えてみました。

私が思う森保監督のリーダーシップの1点目は、選手をはじめ他者を尊重(リスペクト)する、2点目はいつも安定感がありフラットである、3点目は試合中こまめにメモをとるです。

1点目について、日本テレビの「スイッチ」(12月12日)に出演していたゴールキーパーの権田選手が次のように語っています。

「森保監督は本当に選手一人一人とのコミュニケーションを取り、リスペクトを持って接してくれる。それと試合に出ている選手だけじゃなくて出ていない選手、今回の大会では出られなかった選手が4人いるんですけど、その4人の選手に対しても常にリスペクトしていて、そういう姿勢っていうのは、僕は森保ジャパンの立ち上げから入れてもらってますけど、ずっとその感じは変わらない。それはチームにとってプラスだったなと思っています」

森保監督が選手をリスペクトしていることは、様々な選手からも異口同音に発せられていますし、代表メンバーを選出する前にも様々な選手に会いにヨーロッパを回ったという話もたくさん報道されていますので、本当に他者を大切にする人なのだと想像します。

2点目の安定感があると感じるのは、ゲーム中に追い詰められているとき、負けてしまったとき、試合後にインタビューを受けているとき、そして帰国後の会見など、どういうときであっても、興奮していることがなく安定している、フラットな人だという印象を持っています。ドイツ戦に勝利した後、選手に「一喜一憂するな」と大きな声を出して語り掛けていましたが、監督自身がそれを地で行っていますので、非常に説得力があると感じました。いつもフラットでいられるのは元々の性格なのか、それとも監督として采配を振るう中で獲得したものなのかはわかりませんが、選手にとっては監督への大きな信頼感につながるものではないかと思います。

そして、3点目はメモをよくとるということです。テレビのワイドショーによると、多いときは20回以上とっていたそうです。様々なメディアからの「試合中、何を書いているのですか?」という質問に対して、監督は次のように答えています。「試合中はシュートを打った、ディフェンスはやられたなどと書き、その内容がコーチと合致すればハーフタイムで伝える。さらに試合後はロッカールームでも記入し、勇気や勇敢に戦ってくれてありがとう、この成長が大切だと選手に要望することを書いている」とのことです。このように細かく記録をとっているからこそ、根拠に基づいた説得力のあるアドバイスや指導ができているのではないでしょうか。

これらが、私が思う森保監督ならではのリーダーシップです。この3点をやり続けることは決して簡単なことではないと思いますが、森保監督は成し遂げ続けているのです。

スポーツの監督のみならず企業においても、管理監督職をはじめとしてリーダーシップの発揮が様々な場面で求められるわけですが、森保監督の言動を通してリーダーシップを身に付けるためには、地道な努力が必要なのではないかと改めて考えています。

森保監督のリーダーシップに大いに期待したいと考えている私は、今後も監督の一挙手一投足に目が離せません。

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第1,145話 「ブラボー! 自分の武器になるリーダーシップとは」

2022年12月07日 | 仕事

「社員がイキイキ働くようになる」仕組みと研修を提供する人材育成社です。(冒頭の写真はYahoo!ニュース  Yahoo! JAPANより)

今年の流行語大賞にこそならなかったですが、FIFAワールドカップ カタール大会に出場した長友佑都選手が発した「ブラボー」は、日本チームのみならず、応援する我々にも大変大きな影響力を発揮した言葉であることは多くの人が頷くところでしょう。

インターネットに公開されている動画によると、1次リーグの最終戦のスペインとの激闘の後のロッカールームで、長友選手が他のメンバーを指しながら「ブラボー、ブラボー、ブラボー、ブラボー、ブラボー!」を連発しながら、次々にメンバーをハグしていました。また、同点ゴールを決めた堂安選手には、ハグをしながら「おまえ、すげえな。次もがんばれ」と声をかけていました。

長友選手は、これまでワールドカップに4回出場しています。この間、キャプテンにこそなってはいませんが、毎回長友選手ならではのリーダーシップを発揮してきています。「リーダーシップ」の定義は様々ありますが、私は長友選手は「明るさ」によってプラスの影響力を発揮したと考えています。あのハイテンションで「ブラボー!」を注入されたら、自然と周囲は前を向いて頑張ろうという気持ちになるのではないかと思うのです。

実際、長友選手もインタビューで次のように語っています。「今の選手1人1人のキャラクターを考えたとき、自分はどういうキャラでチームにいれば良いんだろうと。どんどん熱を出していかないといけない、使命的なものを感じた。熱を出すことで確実にチームにプラスになると思った」まさに「ブラボー」でチームに熱を込めたのだと思います。

加えて、長友選手は後輩を気遣う言葉もたくさん発しています。インタビューでは、「批判は自分がすべて受け止める」、「後輩を讃えてほしい」、「勇気を持ってPKを蹴った選手たちを讃えてほしい」。さらにクロアチア戦のPKでゴールを決められず、試合終了後に動けなくなった選手たちに真っ先にベンチから駆け寄り、声をかけ背中をさすって回っている姿も見ることができました。こうした言動を通じ、明るいだけでなく後進を育てようとする長友選手の姿勢も強く感じられます。

長友選手はワールドカップで自分らしいリーダーシップを発揮したわけですが、それでは企業において長友選手のように「ブラボー」を連呼すれば、良い影響を与えることができるのかと考えると、それだけではやはり難しいと思います。今回の長友選手のようなテンションで四六時中「ブラボー」を連呼されたら、周囲は鬱陶しく感じるようになってしまうはずです。ワールドカップという限られた期間だからこそ、長友選手はプラスの影響力を発揮できたのではないかと思います。

実際、長友選手もインタビューで「耐え忍んで耐え忍んで、輝く時間は一瞬だけど、そのために夢見て、苦しいことを乗り越えて、頑張り続ける。サッカー選手は桜の木のようだなと感じている」と発言しています。短期間だからこそ、輝くほどの良い影響力を発揮できたということなのではないでしょうか。

そのように考えると、ビジネスパーソンの組織においても、ここぞというときに瞬発力を発揮し、自身の武器によって周囲にプラスの影響力を発揮できるようになるのが大切なのではないかと思うのです。そして、ここぞというときにリーダーシップを発揮できるようになるためには、準備が必要です。まず、自身にとっての武器は何なのか、を探すことから始めてみることが大切なのではないでしょうか。さて、あなたにとってブラボーに匹敵するような武器とはどのようなものでしょうか。

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第1,130話 社会的手抜きをしてしまうのも人間

2022年08月24日 | 仕事

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「アイディアを出す際には、一人で考えるよりも4~5人のチームでディスカッションをする。さらにそれを全員で共有すれば、たくさんのアイディアを知ることができる」との考えから、弊社が研修を担当させていただく際には、様々な演習に取り組んでいただいています。

はじめに個々で課題に取り組み、次にそのアイディアを補足し強化するために、チーム内で共有する。そして最後には受講者全員で共有をしています。そうすることによって、たとえば一人で考えたときには5つくらいしかアイディアが浮かばなかったとしても、チームで共有することにより20くらいのアイディアになり、さらには受講者全員で共有することで、さらに多くのアイディアを知ることができるようになるのです。

研修のみならず仕事においても、個人で取り組むよりもチームで取り組んだ方が成果が上がることが多いからこそ、チームを作り共通の目標を持ち、お互いに協力し合って仕事を進めているわけです。これに加え、やり方やしくみ、手順などの見直しを行うことにより、単純に個々人の能力を合計した以上の力が発揮できるわけです。

しかし、人が集まって目標に向かうことにはメリットがある一方で、マイナスの面もあるのです。それは、複数人がともに一つのことに取り組むことによって、「社会的手抜き」が発生してしまう可能性があるからです。

「社会的手抜き」とは、20世紀初めのフランスの農学者であるマクシミリアン・リンゲルマン(Maximilien Ringelmann)によって示された心理的な働きを示す言葉です。人間が集団で作業を行うと、個人や少人数で作業をするときよりも1人あたりの生産性が低くなってしまうという現象を言います。社会的手抜きは「他のメンバーがやっているから自分は適当にやっても大丈夫だろう」「誰かがやってくれるだろう」という思いから生じるものです。そのように考える理由としては自分の頑張りにかかわらず結局は集団として評価される、自分の頑張りは評価されないということがあります。

人は他者の存在があると、意識しなくても社会的手抜きを起こしてしまいかねないということです。集団のサイズが大きくなり大人数で作業を行う環境下であるほど、結果として1人当たりの作業量は小さくなってしまい、期待通りの成果が得られないということも考えられるわけです。

確かに、私自身も以前あるプロジェクトのメンバーになった際に、自分の負担が増えることを恐れてしまい、積極的に発言をしなかったという経験があります。また、最近プライベートで合唱の練習をしているのですが、歌唱力に自信のない私はつい他の人の歌唱力におんぶをしてしまったという経験もあります。これらはいずれも、私自身が社会的手抜きをしていたということです。

チームを組み、互いに目標やゴールを十分に理解したうえで、最大限の成果を目指して取り組んだとしても、一方でメンバーが社会的手抜きを起こしてしまう可能性もある。チーム力を最大限発揮するためには、人はこうした両面を持つということを踏まえたうえで、一人一人に課題を与える、一人一人の貢献をきちんと評価するなど社会的手抜きを起こさせないための取り組みを同時に行うことが求められます。あなたのチームでは、どのように取り組んでいますか?

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