パオと高床

あこがれの移動と定住

くどうれいん『氷柱(つらら)の声』〈講談社 2021年7月7日〉

2021-11-06 15:56:34 | 国内・小説

あっ、発行日が七夕なんだ。
出会う者は誰で、誰に出会うのだろう。出会うのは、何に出会うのだろう。
2011年3月11日を経た後で変わったものと変わらないものとは何なのだろう。
何も変わっていないというとはないのだろうけれども、その変わり方、
その時にどこにいて何をしていたか、何に出会ってしまい、何に出会わずにいて、
どう感じ、どう感じさせられて、そんなさまざまな私がいて、私たちがいて。
その時、即座に表現の現場で動きだした、身震いを始めた言葉があった。
と、同時に表現は遅れてやって来る。一定の時間を経て、思いの襞を掬うように現れる言葉もある。
この小説は、ほぼ10年の時間を経て、私の立っている場所が、立っていた場所がどんな関わりの中で
日常をつくっているのかを柔らかく描きだしている。声高な声ではない、微弱な声かも知れない。
だが、強靱であるのは、それが切れ切れの記憶であっても、それを伝え合うことで記憶をつないでいる
ことなのかもしれない。
小説最初の章は滝の絵で始まる。その絵が新たな姿を見せる。むしろ回帰するように立ちあがる姿に
じわりと心が持っていかれた。

トゲと氷柱(つらら)の違いは何だろう。
そんなことを考えながら読んでいた。氷柱は危険な凶器にもなる。
でも、かりに刺さったものが氷柱であったとして、それが溶けていくときそれは消えるのではなく、
文字通り溶けていく。柔らかな熱は氷柱を溶かすことでじわりと取りこんでいく。
そこに日常があって、日々が流れていく。
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