他人の痛みが入りこんできて、自身の痛みと反応しあってしまったときに、人はどうやってその痛みを抱え込みながら、
それでも成長していくのだろうか。
過剰と欠如。適切という状態ははたしてあるのだろうか。
ボクたちは自分に出会う前に他人に出会ってしまうのではないだろうか。だから、関係の過剰と欠落にいきなり向き合い、
あとから自分を重ね合わせていく。そして、そのずれに突き放されながら、結局、自らを探し始めるのかもしれない。そんな
歩みはじめが再生への希望になるのかもしれない。
と、小難しく考えてしまうのはボクの悪癖だ。
ひりひりするかなしみが、ユーモアや奇抜な着想、意表をつく比喩、あとがきに書かれている「生まじめな思索とひそかな涙」
などを織り交ぜながら表現されているのが、エイミー・ベンダーの魅力なのだ。
カバー裏に記されているように、9歳の誕生日にローズは母の作ってくれたレモンケーキを食べて、母の感情を味わってしまう。
ひと口食べてはこう考えたーうん、おいしい、いままででいちばんおいしい
ーでもひと口ごとに、不在、飢え、渦、空しさがあるのだ。母が、娘である私
のためにだけ作ってくれた、このケーキに。
幸せに暮らしていたはずの自分たちの中に、母の渇望を感じとってしまう。
この日から彼女は、食べると、それを作った人の感情を看取してしまうという特別な能力を身につけてしまう。工場でそれを作っ
た人がいらいらしながら不満を込めて作ったとか、このパセリを摘んだ人はぞんざいな気分で摘んだとか、
バターは屋内で飼われている雌牛からとったものなので、ゆったりとした
味わいに欠けている。卵はかすかに、遠くてプラスティックみたいな味がし
た。こうした材料のすべてが遠くでぶんぶん唸るような音を立てていて、ぜん
ぶを混ぜてドゥをこねた職人さんは、怒っていた。
といった具合に。
彼女は食べものが食べられなくなる。むしろ自販機の食品の方が彼女には食べやすいものになる。ローズは、この秘密を兄の友人
ジョージ以外には内緒にして生きていく。
そして、成長していく過程で母の秘密に気づき、父の持つ距離感に迷い、失踪を繰り返す兄が持つ世界との違和に出会ってしまう。
それは、自分自身の世界との違和感にも繋がる。
小説はローズ9歳から10数年間の成長を追っていく。ローズがどうやって、この特殊な才能と折り合っていくか。家族皆が抱えるかなしみを、
どう受けとめていくか。そして、また兄のジョゼフが比較されるように綴られていく。神童のような才能を持ち、母の期待と愛情を一身に
受けながら、失踪を繰り返す兄。謎めく兄の秘密も面白い。ローズとジョゼフ。二人の姿に現代を生きる姿が宿っているように思う。
うん、少しニュアンスは違うけれど、カバー裏にある言葉が示すように、
「生のひりつくような痛みと美しさを描く、愛と喪失と希望の物語」だ。じわりとほのかに、だが。
そして、それが、ベンダーの魅力であり。
ジョゼフについてが特にそうだが、解読や解説をしていかないのが、いい。だから、読者は、ひとり静かに、あるいは人と語らいながら、
小説の背後を想い、自分の想像力を付加していける。余地がある小説っていいな、やっぱり。
それでも成長していくのだろうか。
過剰と欠如。適切という状態ははたしてあるのだろうか。
ボクたちは自分に出会う前に他人に出会ってしまうのではないだろうか。だから、関係の過剰と欠落にいきなり向き合い、
あとから自分を重ね合わせていく。そして、そのずれに突き放されながら、結局、自らを探し始めるのかもしれない。そんな
歩みはじめが再生への希望になるのかもしれない。
と、小難しく考えてしまうのはボクの悪癖だ。
ひりひりするかなしみが、ユーモアや奇抜な着想、意表をつく比喩、あとがきに書かれている「生まじめな思索とひそかな涙」
などを織り交ぜながら表現されているのが、エイミー・ベンダーの魅力なのだ。
カバー裏に記されているように、9歳の誕生日にローズは母の作ってくれたレモンケーキを食べて、母の感情を味わってしまう。
ひと口食べてはこう考えたーうん、おいしい、いままででいちばんおいしい
ーでもひと口ごとに、不在、飢え、渦、空しさがあるのだ。母が、娘である私
のためにだけ作ってくれた、このケーキに。
幸せに暮らしていたはずの自分たちの中に、母の渇望を感じとってしまう。
この日から彼女は、食べると、それを作った人の感情を看取してしまうという特別な能力を身につけてしまう。工場でそれを作っ
た人がいらいらしながら不満を込めて作ったとか、このパセリを摘んだ人はぞんざいな気分で摘んだとか、
バターは屋内で飼われている雌牛からとったものなので、ゆったりとした
味わいに欠けている。卵はかすかに、遠くてプラスティックみたいな味がし
た。こうした材料のすべてが遠くでぶんぶん唸るような音を立てていて、ぜん
ぶを混ぜてドゥをこねた職人さんは、怒っていた。
といった具合に。
彼女は食べものが食べられなくなる。むしろ自販機の食品の方が彼女には食べやすいものになる。ローズは、この秘密を兄の友人
ジョージ以外には内緒にして生きていく。
そして、成長していく過程で母の秘密に気づき、父の持つ距離感に迷い、失踪を繰り返す兄が持つ世界との違和に出会ってしまう。
それは、自分自身の世界との違和感にも繋がる。
小説はローズ9歳から10数年間の成長を追っていく。ローズがどうやって、この特殊な才能と折り合っていくか。家族皆が抱えるかなしみを、
どう受けとめていくか。そして、また兄のジョゼフが比較されるように綴られていく。神童のような才能を持ち、母の期待と愛情を一身に
受けながら、失踪を繰り返す兄。謎めく兄の秘密も面白い。ローズとジョゼフ。二人の姿に現代を生きる姿が宿っているように思う。
うん、少しニュアンスは違うけれど、カバー裏にある言葉が示すように、
「生のひりつくような痛みと美しさを描く、愛と喪失と希望の物語」だ。じわりとほのかに、だが。
そして、それが、ベンダーの魅力であり。
ジョゼフについてが特にそうだが、解読や解説をしていかないのが、いい。だから、読者は、ひとり静かに、あるいは人と語らいながら、
小説の背後を想い、自分の想像力を付加していける。余地がある小説っていいな、やっぱり。
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