漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

日本漢字の綴音一覧表

2021年10月13日 | 漢字音
 私は今年(2021)6月28日のブログで、「漢字音の五十音図表」と題して、漢字の発音を中心に表す五十音図表を作成して公開した。この表は、基本的な五十音表に「濁音」「拗音」を追加して、一つにまとめた以下のような表です。

 特に、拗音ヨウオンをイ段の横に組み込んだのが、特徴といえる。拗音とは、い段の発音で語頭音のうしろにヤ・ユ・ヨがつづくとき、母音のい(i)が略されて発音され、表記が小さな「ゃ・ゅ・ょ」になることで、例をあげると、「き[ki]+や[ya]=きゃ[kya]」となる現象である。もともと、拗音は漢字の伝来とともに、その発音を表現するために生み出された音であり、漢字音と切り離すことができない。

日本の漢字音は、五十音表が基本となって構成される
 さて、日本の漢字音は、この五十音表が基本となって構成されている。例えば、この表の一字だけでも漢字音となる例として、清音のア(阿)やカ(可)、濁音のガ(我)、ザ(座)、拗音のジャ(蛇)、ニョ(如)のようなもあるが、この表のすべてが漢字音となるわけではない。例えば、清音のヘ、濁音のゾ、拗音のキュなどは漢字音とならない。また、パ行もすべての音が漢字音になっていない。(日本では「北京ペキン」と発音するが、現在の漢字字典で、ペは採用されていないので省いた)
 そして、圧倒的な漢字音は、この表の発音が結合して形声される。この結合した漢字音を綴音テツオンと言っている。(綴音は綴りの音と書く。綴りとは「つなぎあわせる」という意味であり、綴音とは基本となる最小単位の音がつなぎあわさり、一つのまとまった音になったもの、という意味である。綴音は漢字の最小単位の発音であり、これ以上分解することはできない。だから耳で聴くとき一つの音として聞こえるのである。(なお、五十音表のなかで漢字音となるものも綴音に含める)

日本漢字の綴音一覧表
 では現代日本の漢字綴音はいったい何種類あるのだろうか。この作業をするためには、漢字辞典の音訓索引から音の部分を抜き出してゆけばよい。しかし、音訓索引は音と訓が混じっているから作業しにくい。何かよい方法がないかと思案していたところ、『字通』の音訓索引は音と訓に分かれていることに思い至った。いつもは引きにくい字典だが、こんな時に役に立つとは思わなかった。
 作業は一日で済んだ。表にしてから通常の音訓索引のある漢字字典で最終確認した。出来上がったのが下記の表である。綴音のカタカナの後ろの ( ) に、その発音の漢字を入れていて分りやすくした。
 以下がその表である。上記の五十音表の配列に沿って綴音をならべている。


日本漢字の綴音は323音
 一覧表を見ていただくと分かるように、日本漢字の綴音は323音となった。これは多いといえば多いが、普通の漢字辞典に収録されている約1万字の発音が320余の綴音でまかなわれていると考えると少ない気もする。特に、カンやコウの字は多すぎるほどある。しかし、これは音の配分が偏っているせいでもある。
 ところで中国の漢字を表す綴音は、いくつあるのだろうか。現代中国の字書の発音はアルファベットを用いたピンインで表されている。約13,000字を収録する『中日辞典』(小学館)には、巻末に「中国語音節表」が付いており、声母(頭につく子音。タテ軸)と韻母(残りの母音を含む部分。ヨコ軸)に分けて、その交差点に音節(=綴音)が記入してある。その音節(=綴音)を数えると合計412音であった。日本よりかなり多い。
 しかし、中国の場合、この発音に声調といって4種類の上がり下がりの調子がある。すべての音節に4種類の声調があるわけではないが、3種類としても412×3=1,236であり、中国語の発音は日本より複雑だといえる。

日本漢字の綴音尾について
 日本漢字の綴音は最初に挙げた「漢字音の五十音図表」の中の、一音ないし二音が組み合わさって成立している。そして、上表の「日本漢字の綴音一覧表」は、いわば綴音の五十音順の表であり、先頭にくる音の順である。
 中国の漢字の発音は、声母(頭につく子音)と韻母(残りの母音を含む部分)に分けられることを紹介したが、日本漢字で二つに分けてみたらどうなるかを試したのが第2表である。


 
全体が入らないので縮小版も掲載しました。


日本漢字音の音尾は、7音と3つの拗音だけ
最初の単音は、字の頭でもあり尾でもあるので、独立した存在である。次の綴音の音尾が、漢字音の最後の音になる。これを見ると、漢字音の音尾が、イ・ウ・キ・ク・チ・ツ・ンのわずか7音と、3つの拗音(ャ・ュ・ョ)だけだったのは意外であった。この表は思いついて作ってみたので、結果が何を意味するのか、まだ分からない。
 今後は、①音尾が、イとウの母音で終わるもの。②音尾が、キ・ク・チ・ツで終わるものの起源。③音尾のンの存在に、注目して調査してみたい。(石沢誠司)







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