漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符「咸カン」<マサカリで器のすべてを守る>と「感カン」「憾カン」「減ゲン」

2022年09月15日 | 漢字の音符
  轗カンを追加しました。
 カン・ゲン  口部

解字 甲骨文・金文は、大きな刃をもつマサカリで口サイ(神への祈りを伝える祝詞(のりと)を入れた器)を守っている形。篆文からマサカリの刃の一部が分離した戌ジュツに口がついた形になり、その形が現代字の咸カンになった。意味はマサカリで器全体を守るので、すべて・みなの意となる。なお、音符になるとき、器の周囲をすべて守ることから「封じ込める」イメージがある。 
意味 (1)みな(咸)。すべて。ことごとく。 (2)地名。「咸陽カンヨウ」(中国陝西省の秦の都があった都市。咸陽とは、山の南である陽の地にあり、しかも、川(渭水イスイ)の北である陽の地でもある、咸(みな)陽の地の意。陰陽説では山の南と川の北は陽となる。)

イメージ 
 「すべて」
(咸・喊・鹹・感・憾・撼・轗)
 マサカリで器の周囲を守り「封じこめる」(減・緘)
 「形声字」(鍼・箴)
音の変化  カン:咸・喊・感・憾・撼・轗・緘・鹹  ゲン:減  シン:鍼・箴

すべて
 カン・さけぶ  口部
解字 「口(くち)+咸(すべて)」 の会意形声。すべての者が一斉に口から声を出すこと。
意味 さけぶ(喊ぶ)。鬨(とき)の声をあげる。皆が一斉に声をあげる。「喊声カンセイ」(①大声をあげる。②大勢の人が一斉にあげる声)
 カン・しおからい・からい  鹵部  
解字 「鹵(しお)+咸(すべて)」 の会意形声。鹵は陸でとれる塩で、鹹カンは塩がすべてに効いていること。
意味 しおからい(鹹い)。からい(鹹い)。しおけ。「鹹湖カンコ」(塩分を含んだ湖)「鹹水カンスイ」(塩分を含んだ水。⇔淡水)「鹹味カンミ」(しおからい味)
 カン  心部
解字 「心(こころ)+咸(すべて)」 の会意形声。心のすべてが反応すること。
意味 (1)かんじる(感じる)。心が動く。心に受ける。「感動カンドウ」「感激カンゲキ」「感謝カンシャ」(2)知覚する。「感覚カンカク」「感触カンショク」(3)染まる。かかる。「感冒カンボウ」(風邪をひく)「感染カンセン」(病原体が身体の中に入ること)
 カン・うらむ  忄部
解字 「忄(心)+感(感動する)」 の会意形声。忄(心)をもう一つ付けて、最初の心の感動を否定する働きをさせた。
意味 (1)失望する。満足しない。残念だ。「遺憾イカン」(遺はのこる、憾は失望する。失望がのこる。とても残念だ)(2)うらむ(憾む)。「憾恨カンコン」(憾も恨も、うらむ意)
 カン・うごかす  扌部
解字 「扌(手)+感(心がうごく⇒うごく)」 の会意形声。手でゆすり動かすこと。
意味 うごかす。ゆする。ゆれうごく。「震撼シンカン」(激しい勢いでゆれ動くこと)
 カン  車部
解字 「車(くるま)+感(カン)」の形声。カンは輡カン(車が行きなやむ)に通じ、轗も行きなやむ意。輡カンは「車+臽カン(人が落とし穴に落ちた形)」で、車が穴にはまって行き悩む形。
意味 「轗軻カンカ」(①車が行き悩むさま。②物事が思い通りに運ばないさま)に用いられる字。なお、軻は、「車+可(=坷。土地がけわしい)」で、けわしい土地に車が行き悩む意。
参考 「坎坷カンカ」「輡軻カンカ」「轗軻カンカ」は、物事が思い通りに運ばないさまの意味で共通。

封じこめる
 ゲン・へる・へらす  氵部
解字 「氵(水)+咸(封じこめる)」 の会意形声。水源を封じ込めること。水源を封じ込めると、そこからの水が減る。
意味 (1)へる(減る)。へらす(減らす)。少なくする。「減少ゲンショウ」「減刑ゲンケイ」「軽減ケイゲン」(2)引き算。「減法ゲンポウ
 カン・とじる  糸部
解字 「糸(ひも)+咸(封じ込める)」 の会意形声。箱の紐を結んで中のものを封じ込めること。とじる意となる。
意味 (1)とじる(緘る)。ふさぐ。中に物をいれて封をする。「封緘紙フウカンシ」(封のとじめに貼る小さな紙片)(2)口をつぐむ。「緘口令カンコウレイ」(ある物事を他人に話すことを禁ずる命令)「緘黙カンモク」(口をとじて黙りこむ)「場面緘黙バメンカンモク」(家では話せても保育園や学校で話せない状態)

形声字   
 シン・はり  金部
解字 「金(金属)+咸(カン⇒シン)」 の形声。[説文解字]は「縫う所以(ゆえん)也。金に从(したが)い咸シンの聲(声)とする。そして「今、俗に針に作る」とし、針という俗字ができていることを述べている。[説文解字]は、縫い鍼(はり)の意としているが、鍼(はり)には砭鍼ヘンシンと呼ばれた治療用の石針があった。そして、以後は俗字としてできた針が縫い針の意味に定着し、鍼(はり)は治療用の石針から進化した金属製の治療針の意味に用いられるようになった。
意味 (1)はり(鍼)。治療用の針。「鍼灸シンキュウ」(鍼はりと灸きゅう)「鍼術シンジュツ」(鍼を身体に刺して治療する技術)「鍼師はりし」(鍼で患者の治療を行う医師)「鍼石シンセキ」(石のはり) (2)縫い針。一般的に「針」を使う。
 シン・はり・いましめる  竹部
解字 「竹(たけ)+咸(カン⇒シン)」 の形声。[説文解字]は「綴衣テイイの箴はり也。竹に从(したが)い咸シンの聲セイ」とする。また[同注]には、綴衣を「聯綴レンテン(つらねてとじる)之これ也」とし、二枚を併せて仮止めする「しつけ針」のことである。竹の針は金属の針ほど強くないので、裁縫のしつけ針にもちいたり、つついて戒める意となる。
意味 (1)はり(箴)。竹製のはりで、しつけ針(本縫いの時に布がずれないように止める針)として用いる。なお、鍼は鍼灸用の針をいう。(2)いましめる(箴める)。いましめ。竹の針でつついて注意する。「箴言シンゲン」(いましめの言葉)「箴諫シンカン」(いましめいさめる) (3)石針の意味で用いる例。「箴砭シンべン」(石針)
<紫色は常用漢字>

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