漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「寺ジ」 <下級役人>と「侍ジ」「持ジ」「時ジ」「詩シ」「蒔シ」「待タイ」「等トウ」「特トク」

2024年04月19日 | 漢字の音符
   増訂しました。   
   ジ <下級の事務役人>
 ジ・シ・てら  寸部 sì


 上は寺、下は之
解字 金文第一字は、「之(すすむ)+又(手)」の会意形声。下の之の甲骨文は足が一線から出て進む形で左右の足をかたどった2種があり、足が前に進むことを示すが、金文第一字は止に近い形に変化し、寺の金文第一字の上部と同じ形。
 寺の金文第一字の上部は、足が下の線から出る形で前に進むことを示す。下部の又は手で、手にものを持つ意。金文第二字は又⇒寸になっており、之と寸が合わさった寺は、手に文書などを持ち、足で前にすすむ「使い」を表し、宮中などで働く事務系の下級役人の意。転じて、役人が働く場所である役所や朝廷などを表す。現代字は上部が土に変化した寺になった。この字を見ると我々はすぐ寺(てら)を思い浮かべるが、この意味は仏教伝来以降、渡来した僧侶を外国使節の応接・対応を司る役所(鴻臚寺コウロジ)にしばらく住まわせたことから出た。
意味 (1)役所。朝廷。官庁。「寺人ジジン」(宮中の小臣)「鴻臚寺コウロジ」(上記参照) (2)てら(寺)。「寺院ジイン」「仏寺ブツジ」 (3)はべる(=侍)。 (4)もつ(=持つ)。

イメージ  
 「下級の役人」
(寺・侍・等・待・峙・痔・恃)
 寸の意味である「手にもつ」(持)
 之の意味である「すすむ」(時・蒔・詩)
 「形声字」(特・畤)
音の変化  ジ:寺・侍・峙・痔・恃・持・時・畤  シ:詩・蒔  タイ:待  トウ:等  トク:特

下級役人
 ジ・さむらい・はべる  イ部 shì
解字 「イ(人)+寺(下級役人)」の会意形声。下級役人が身分の高い人に付き添うこと。
意味 (1)はべる(侍る)。さぶらう。仕える。「近侍キンジ」「侍従ジジュウ」「侍医ジイ」 (2)さむらい(侍)。武士。武術をもって主君に仕えた人。「侍所さむらいどころ
 トウ・タイ・ひとしい・ら・など  竹部 děng
解字 「竹(竹簡)+寺(下級役人)」の会意形声。事務の下級役人が筆記の用具である竹簡の長さを揃えること。一つの文書を作るのに、竹簡の長さを測って同じ長さのものを揃えることから、長さがひとしい・同じたぐいの意となる。長さの揃わないものは、そのほかの意となる。
意味 (1)ひとしい(等しい)。「等分トウブン」「等閑トウカン」(閑に等しい。即ち、なおざりにする意) (2)たぐい。同じもの。「等級トウキュウ」(同じもののあつまる段階) (3)ら(等)。など(等)。ほかにも。「僕等ぼくら
 タイ・まつ  彳部 dài・dāi
解字 「彳(路上)+寺(下級役人)」の形声。下級役人が路上で上司の帰りを待つこと。彳は十字路(行)の左半分の字で、通常は「行く」意だが、ここでは路上の意。
意味 (1)まつ(待つ)。まちうける。「待機タイキ」(機会を待つ)「待望タイボウ」(望んで待つ)「期待キタイ」(当てにして待つ) (2)もてなす。あつかう。「待遇タイグウ」「接待セッタイ
 ジ・そばだつ  山部 zhì・shì
解字 「山(やま)+寺(=待。まつ)」の会意形声。山がじっと動かずに待っているように聳えていること。
意味 (1)そばだつ(峙つ)。そびえる。 (2)じっと動かずにいる。「対峙タイジ」(向き合って立つ)
 ジ  疒部 zhì
解字 「疒(やまい)+寺(=待。まつ)」の会意形声。肛門の近くがはれて痛くなり、便が待っている状態の病気。
意味 じ(痔)。肛門やその付近がはれたり、ただれる病気。便が出にくい。「痔疾ジシツ」「裂痔きれじ」(ひび割れで出血する痔)「疣痔いぼじ」(イボ状のものが出来る痔)
 ジ・たのむ  忄部 shì
解字 「忄(こころ)+寺(=待。まつ)」の会意形声。待は上位の者を待つ意。それに心がついた恃は上位の者を待って頼りにすること。人をたのみとする・たのむ意となる。
意味 (1)たのむ(恃む)。こころだのみ。よる。あてにする。「無母何恃ムボカジ」(母が無くば何を恃みにしたらいいのか。詩経・蓼莪リクガ)。「恃力ジリョク」(力を恃む。権力・勢力をあてにする)「恃頼ジライ」(こころだのみ。恃も頼も、たのむ意) (2)自分をたのみにする。「恃気ジキ」(自分の気持ちにたのむ。意気ごむ)「恃強ジキョウ」(自分が強いのをあてにする)「恃強凌弱ジキョウリョウジャク」(強いのをよいことに弱いものをいじめる)

手にもつ
 ジ・もつ  扌部 chí
解字 「扌(手)+寺(手にもつ)」の形声。寺には、寸(て)が含まれており、もともと文書などを持つ意がある。扌(手)をつけて、その意を明確にした。
意味 (1)もつ(持つ)。身につける。「所持ショジ」「持参ジサン」 (2)たもつ。まもる。「持久ジキュウ」「保持ホジ

すすむ
 シ・からうた  言部 shī
解字 「言(ことば)+寺(すすむ)」の会意形声。人々の心からすすみ出る言葉。元々は西周のころの古代中国の歌謡を編纂した詩経を言った。古代歌謡は文字の発明以前から存在したと言われ、一定のリズムを持ち、暗誦されるのに適しているため、古代からの生活習俗が謡われている。詩は、話し言葉が一定のリズムをもって表れる表現をいう。なお、日本では明治になるまでは「詩」といえば漢詩を指し、「歌」は日本古来の歌謡から発したものを指した。
意味 (1)し(詩)。からうた(詩)。一定のリズムで言葉に表わしたもの。「詩歌シイカ」(シカの慣用読み。詩と歌。漢詩と和歌)「詩吟シギン」「漢詩カンシ」「詩聖シセイ」(杜甫を指す)「詩仙シセン」(特に李白を指す)(2)「詩経シキョウ」のこと。中国最古の詩集。殷から春秋時代までの詩311編を収める。
 ジ・シ・とき  日部 shí

解字 金文は、「日(ひ)+之(足が前にすすむ)」の会意形声。日が進む意で、時間がたつこと。篆文から、之⇒寺に変わり、時となった。
意味 (1)とき(時)。月日の移り変わり。「時間ジカン」「時刻ジコク」 (2)そのとき。そのころ。「時事ジジ」「時流ジリュウ
 シ・ジ・まく  艸部 shì・shí
解字 「艸(野菜や穀物)+時(とき)」の会意形声。稲の苗などを植え替えるときの意。日本では野菜や穀物の種をまく意に用いる。
意味 (1)植える。移植する。「蒔植ジショク」(草木を移し植える。移植) (2)[国]まく(蒔く)。種をまく。ふりまく。「種蒔(たねま)き」「蒔絵まきえ」(漆の下絵に金粉を蒔いて模様をだす技法) 
 シ・ジ・ねぐら・とや  土部 shí
解字 「土(つち)+時(とき)」の会意形声。土の塀で囲った鶏舎。放し飼いの鶏が夕方になると、その時に寝にかえるところを言う。
意味 (1)ねぐら(塒)。鳥の寝る所。とや(鳥屋)。木の枝の鳥のねぐらにも言う。「塒鳥ねぐらどり」(ねぐらにいる鳥)「鶯(うぐいす)の塒(ねぐら)の枝に手なそ触れそも」(拾遺和歌集・雑春)「塒鶏シケイ」(ねぐらの鶏)「棲塒セイジ」(ねぐら) (2)自分の寝るところ。

形声字
 トク・ドク  牛部 tè
解字 「牛(うし)+寺(トク・ドク)」の形声。トク・ドクは独ドク・トク(はなれオス。独を参照)に通じ、これに牛のついた特は、牛のオスをいう。オスの牛は特に抜きんでて力がある意。
意味 (1)おす。特に牛のオスをいう。「特牛ことい・こってい・こって」(オスの牛)(2)とくに(特に)。ことに。とりわけ。抜きんでる。「特色トクショク」「特別トクベツ」「特権トッケン
 ジ・シ  田部 zhì・chóu・shì
解字 「田(区画された土地)+寺(ジ)」の形声。後漢の[説文解字]は「天地や五帝の基址(基礎の土台。もとい)の所、祭地。田に従い寺の聲(声)。[右扶風ゆうふふう古代中国の行政区域名]に五畤(=祭壇)有り。好畤コウジ、鄜畤フジ、皆(みな)黃帝の時に祭る。或いは曰(いわ)く、秦の文公が立つ(=建立)也(なり)」とあり、帝王が天地や五帝などを祭る祭壇をいう。
意味 (1)天地や五帝などを祭る祭壇。 (2)[日本]「霊畤レイジ」(①天地の神霊をまつるために築いた祭場。②新天皇が即位後最初に行われる新嘗祭を行う場所を霊畤という)「鳥見(とみ)の霊畤レイジ」(奈良県桜井市の鳥見山にある祭壇。神武天皇が即位した折、橿原の宮に於いて初代天皇として即位されたとき大嘗祭をおこなった場所とされる)

「鳥見(とみ)山の霊畤石碑
<紫色は常用漢字>

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