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漢字の音符

漢字の字形には発音を表す部分が含まれています。それが漢字音符です。漢字音符および漢字に関する本を取り上げます。

音符 「委イ」 と「萎イ」「痿イ」と「魏ギ」「巍ギ」「倭ワ」「矮ワイ」

2021年10月18日 | 漢字の音符

  イ・ゆだねる  女部 wěi

  上は委、下は年(いずれも「漢字古今字資料庫」より)

解字 委の甲骨文第一字はコ形の中に禾(穂が垂れて穀物が実った形)が描かれており、実った穀物が倉庫に保存されている形。その下の第二字は禾の下に三角形の屋根とその両側に二つのふくらみ(厚い壁)を表し大きな倉庫の意、左橫の曲線は上のコ(倉庫)の変形である。しかし、甲骨文字の意味は倉庫でなく[漢字字形史字典]は「固有名詞としてのみ見える」とする。                                            戦国(秦)になると、第一字は甲骨文第一字とコの向きが違うだけであり、蓄える意と思われる。現在の委の意味にも「委積イシ」(蓄え)がある。しかし下の第二字に、禾の下に女がついた委の字が出現した。この字は出典が[戦国文字編]とあるが、本の内容を確かめることができず、どんな意味か不明である。しかし、次の篆文で[説文解字]が同じ字形であり、ここに説明がある。
 それによると「委随イズイ(すなおにしたがう)也(なり)。女と禾に従う」の会意とし、続いて同注は「徐鉉ジョゲン五代末~宋代初の篆文学者)等曰く:委は曲がる也。其の禾の穀コク(実)の穂が垂れる(形)を取る。委は曲がる之(の)すがた貌)。故に禾に従う」とし、曲がる意味は禾(穂が垂れて曲がった形)による」としている。

 しかし、委には「くねくねとまがる」意味もあり、「委蛇イイ・イダ」(曲がりくねって長く続く)の語がある。この意味について[字統]は「穀霊に象(かたど)る禾形の作り物を被って舞う女の姿をいい、曲折することが多いので委曲の意があるとし、同じく禾形の作り物を被って舞う男を年というのと同じ構造の字で農耕儀礼をしめす」とする。

 しかし、この説明には疑問がある。「年」の甲骨文字は委の下図に見るように、実った禾(穀物)を肩または頭上に載せている形で、穀物を収穫して運んでいるさまであり、穀物がみのる意を表している。また穀物の収穫は年に一度であるので金文で人の字形に一を加えて一年の意としている。年は禾形の作り物を被って舞う男ではなく、実った禾(穀物)を運ぶ人の形なのである。
 年(みのり)の字形から得られるヒントは、収穫した禾(穀物)を運ぶ姿である。このヒントを委にあてはめるならば、女が禾(穀物)を運ぶ形となる。どこへ運ぶのか? もちろん甲骨・戦国に描かれている穀物倉庫へ運ぶのである。私のイメージは、女たちが禾(穀物)を肩に背負って、倉庫への細い道を一列になって歩む姿である。「運んでくれ」と委ねられた女たちは「委随イズイ(すなおにしたがう)」し、倉庫まで続くあぜ道を、うねうねと長くつらなって歩いたのではないか。

 以上、字形と空想から解字してみたが、委にはこのほかにも、くわしい(委しい)・こまかい・すてる・などの意味があるが、くわしい・こまかい意は、倉庫の役人が運んできた禾(穀物)をこまかくチェックするからであり、すてる意は禾(穀物)に十分な実がついてない未熟な禾を倉庫に入れることができないからであろう。未成熟な禾は、しおれる・なえる意ともなる。

意味 (1)ゆだねる(委ねる)。まかせる(委せる)。「委任イニン」「委託イタク」「委員イイン」「委譲イジョウ」 (2)くわしい(委しい)。こまかい。「委細イサイ」(細かくくわしい。くわしい事情)「委曲イキョク」(くわしくこまかい。物事のくわしい事情) (3)まがる。くねくねとまがる。「委蛇イイ・イダ」(曲がりくねって長く続く)(4)すてる。「委棄イキ」(5)たくわえる。つむ。「委積イシ」(蓄え)「委吏イリ」(穀物倉庫の役人)(6)しおれる。なえる。「委靡イビ」(なえしおれる)


イメージ
 「会意字」(委) 
 「形声字」(萎・痿・倭・矮)
 「その他」(魏・巍)

音の変化  イ:委・萎・痿  ギ:魏・巍  ワ:倭  ワイ:矮

形声字
 イ・なえる・しおれる 艸部 wěi
解字 「艸(くさ)+委(イ)」の形声。草がしおれて垂れることを萎という。委には、しおれる・なえる意があり、この意味を艸をつけて表現した。
意味 (1)なえる(萎える)。しおれる(萎れる)。しぼむ(萎む)。しなびる(萎びる)。ぐったりする。「萎縮イシュク」(衰えしなびて縮むこと。元気がなくなること)「萎靡イビ」(なえしおれること)「枯萎カイ」(枯れてしおれる)
 イ・なえる  疒部  wěi                                                                                                                                                                                                                               解字 「疒(やまい)+委(=萎なえる)」の会意形声。萎は草がなえること、痿は身体が、なえる病気をいう。
意味 (1)なえる(痿える)。身体の力が弱くなる。また、身体の一部がしびれて動けなくなること。「痿弱イジャク」 (2)しびれる(痿れる)。足がしびれて動かない。「痿疾イシツ」(しびれやまい)「痿痹イヒ」(①手足がしびれて動けない。②政治がしっかりしていない)「痿蹶イケツ」(足がしびれて倒れる)
 イ・ワ・やまと   イ部  wēi(イ)(ワ)
解字(1)「イ(ひと)+委(イ)」の形声。[説文解字]は「従順な皃(さま)。人に従い委イ声」とし、従順な人をいい、したがうさま。 意味 倭(したが)う」「倭妥イダ」(やすらかなさま)
解字(2)「イ(ひと)+委(ワ)」の形声。ワという名の人の意で、古代中国で日本・日本人を呼んだ名称。
意味 やまと(倭)。日本。「倭夷ワイ」(昔、中国人が日本人を呼んだ語。=倭人ワジン「楽浪海中に倭人ワジン有り。分かれて百余国と為す」(漢書・地理志)「倭寇ワコウ」(明代に中国の沿岸を倭人の海賊が掠奪した行為をいう)「倭名ワミョウ」(日本名)

 

 ワイ・ひくい  矢部 ǎi
解字 「矢(や)+委(イ⇒ワイ)」の形声。[説文解字]は「短人也(なり)。矢に従い委ワイ聲(声)」とし、人の背丈が低いことを矮ワイという。矢に物を計る義がある。
意味 ひくい(矮い)。みじかい。背丈が低い。「矮小ワイショウ」(背が低く小さい)「矮屋ワイオク」(高さの低い小さい家)「矮林ワイリン」(低い木の林)「矮鶏ちゃぼ」(小形で脚が短く翼が地面に接するほど低い鶏)

その他
 ギ  山部 wēi

  上は巍、下は魏
解字 は「委+カイ⇒ギ(たかい・おおきい)」の形声。後漢の[説文解字]は「高い也(なり)」とする。同注に[臣鉉シンゲン等曰(いわ)く:今の人は、山を省いて魏國の意味と為す]とする。つまり、は高い意味であるが、山を省くと国名の魏国の意味になるというのである。どうしてだろうか?
 その秘密は「委+嵬(カイ⇒ギ)」の委にある。委は何のために付いているのだろうか。それは下の魏姓のマークを見ると分る。
①最初の魏姓図 ②山が下にきた魏姓図
姓のマークというのは、同じ姓を有する者たちが、同姓であることを示すために作ったマーク(図)である。①は最初の魏姓図であり、の字が描かれている。②は山が下にきた魏姓図で、後にできた。
 魏姓の魏には、何故「委」がついているのか? 
 中国のネットによると「魏姓の源は西周の初期、周の成王が分封した姬(姫)姓の伯爵諸侯国のひとつ「魏国」に由来する」ようである。姬(姫)姓は女偏がつき母系氏族社会に起源をもつ姓とされる。女の字を含む、キョウ・姫・姚ヨウエイ・姒ジ・シなどが母系氏族社会に起源をもつ姓でる。姬(姫)姓諸侯国のひとつである魏国は母系氏族を表すために女の字が入った委をつけて姓や国の名としたのではないだろうか。そして最初の魏姓図は山が入ったを用いたが、後に山を下に付けるようになり、最後に山を省いた魏姓が成立した。魏姓にとっては山は不必要だったのである。 
意味 (1)たかい。山がたかく大きいさま。抜きんでるさま。「巍峨ギガ」(高くそびえけわしい)「巍巍ギギ」(高く大きいさま)「巍然ギゼン」(高くそびえるさま。人物がひときわすぐれているさま)「巍闕ギケツ」(宮城の門外に設けられた二つの台。上に物見やぐらがある)
 ギ  鬼部 wèi                                 解字 の略体。主に王朝名や姓に用いる。
意味 (1)王朝名。①戦国時代七雄の一つ。現在の山西省西部に建国。のち秦に滅ぼされた。(前403-前225)②三国時代、曹操の子・曹丕が建てた国。(220-265)「魏志ギシ」(『三国志』のうち魏の歴史を記した部分)「魏志倭人伝ギシワジンデン」(「魏志」の東夷の条に書かれている日本についての記述)③「北魏ホクギ」(南北朝時代に鮮卑族の拓跋氏が建国。(386-535)(2)姓のひとつ。「魏相ギショウ」(前漢の政治家)「魏徴ギチョウ」(唐の文人・政治家)「魏野ギヤ」(北宋の詩人)(3)たかい。高く大きい。(=巍)「魏然ギゼン」(高く大きいさま)「魏魏ギギ」(広大なさま)(4)宮殿の門楼。「魏闕ギケツ=巍闕ギケツ」(宮門の外門で法令などを懸け示した)
<紫色は常用漢字>

 ご指摘をいただき書き直しました。一から調べなおしましたので、時間がかかりました。お陰様で、いろいろと新しいことも発見でき感謝いたします。ご意見があればお知らせください。

コメント (3)
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