私はこれまで「乍」を、字統の「木の枝をたわめて垣根などを作る作業」説で解字してきましたが、今回、「甲骨文字小事典」「甲骨文字辞典」の衣服をつくる形説が、縫い目のある異体字も出して説明しているので共感し、この説をもとに音符「乍」を作り直しました。(2017.1.19)
祚ソ・胙ソ・柞サクを追加しました。(2020.3.22)
乍 サ・サク・ながら ノ部

解字 甲骨文は衣の下部(襟もと)を含んでいるので、衣服を作る形と考えられる。異体字には縫い目の状態を表したものもある[甲骨文字小事典]。金文は甲骨文字を反転させた形に、上のエリの一方が伸びて下のエリ元とつながった。篆文からさらに変化を重ねて現代字は乍になった。作サク(つくる)の原字で、のち人を加えた作ができたため、本来の意味でなく仮借カシャ(当て字)で「たちまち」「ながら」の意となる。音符イメージは「つくる」である。
意味 (1)たちまち(乍ち)。「乍ち存し乍ち亡ぶ」(たちまち存し、たちまち亡ぶ。あるかと思えば、たちまち亡びる。物の存亡の急なこと) (2)[国]ながら(乍ら)。
イメージ
「仮借カシャ」(乍)
衣服を「つくる」(作・詐・窄・搾・炸・祚・胙・柞)
「形声字」(昨・酢・鮓)
音の変化 サク:作・窄・搾・炸・柞・昨・酢 サ:乍・詐・鮓 ソ:祚・胙
つくる
作 サク・サ・つくる イ部
会意 「イ(人)+乍(つくる)」 の会意形声。人がものを作ること。
意味 (1)つくる(作る)。おこなう。はたらく。つくられたもの。「作文サクブン」「著作チョサク」「作為サクイ」 (2)耕す。実り。「耕作コウサク」「豊作ホウサク」 (3)ふるまい。うごき。「作法サホウ」「動作ドウサ」
詐 サ・いつわる 言部
解字 「言(いう)+乍(つくりごと)」 の会意形声。つくりごとを言うこと。
意味 いつわる(詐る)。あざむく。だます。「詐取サシュ」(だまし取る)「詐欺サギ」(だまして利益を得る)「詐称サショウ」(偽って言う)
窄 サク・せまい・せばまる・すぼむ 穴部
解字 「穴(あな)+乍(つくる)」 の会意形声。衣服を作るとき、袖の穴をつくること。袖の穴は、①せまい、②布を縫い「せばめて」穴を作る意となる。
意味 (1)せまい(窄い)。心がせまい。「狭窄キョウサク」(すぼまって狭い。狭も窄も、せまい意)「幽門ユウモン~」(胃の末端部の狭窄)「脊柱管セキチュウカン~」(推骨が連なったトンネル状の穴の狭窄。神経が圧迫されてしびれや運動障害がおきる)「窄袖サクシュウ」(つつそで) (2)せばまる(窄まる)。すぼむ(窄む)。みすぼらしい(見窄らしい)。
搾 サク・しぼる 扌部
解字 「扌(手)+窄(せばめる)」 の会意形声。手でしめつけたり、しぼること。
意味 (1)しぼる(搾る)。「搾乳サクニュウ」「搾油サクユ」 (2)しめつける。「圧搾アッサク」
炸 サク・サ 火部
解字 「火(ひ)+乍(つくる)」 の会意形声。火が急にできること。爆発などで火が飛び散る意となる。中国では、油で揚げる意にも用いる。
意味 (1)はじける。爆発する。「炸裂サクレツ」(爆弾などが爆発してはじけ散ること)「炸薬サクヤク」(火薬)「炸丸サクガン」(爆弾) (2)油であげる。また、あげもの。「炸魚サクギョ・zháyú」(魚を油で揚げる)
祚 ソ・さいわい 示部
解字 「示(神)+乍(つくる)」 の会意形声。神が作りたもうたもの。神からの賜りものの意で、しあわせ・福をいう。また、神の子である天子の位をいう。
意味 (1)さいわい(祚い)。神から受ける福禄。「祚胤ソイン」(子孫まで幸福を授かる。よい子孫) (2)天子の位。「天祚テンソ」(天子の位)「践祚センソ」(皇嗣が天皇の位をうけつぐこと)「祚立ソリツ」(天子の位につく)
胙 ソ・ひもろぎ 月部にく
解字 「月(にく)+乍(=祚。さいわい・福)」 の会意形声。福肉の意で、祭礼に供える肉、および祭礼の余り肉をたまう意。
意味 (1)ひもろぎ(胙)。神に供える肉。「祭胙サイソ」「胙肉ソニク」「胙余ソヨ」(供え物の余り肉) (2)(祭りの余り肉を)たまう。むくいる。「胙土ソド」(土田をたまう)「賜胙シソ」(胙を賜与する)
柞 サク・ははそ 木部
解字 「木(き)+乍(つくる)」 の会意形声。薪(たきぎ・まき)を作る木の意で、薪にする広葉樹のナラ・クヌギなどをいう。広葉樹の薪は火持ちがよい。また、薪をつくるために木を伐ること。

柞蚕(普通の蚕と違い緑色をしている。「百度百科」の柞蚕より)
意味 (1)ははそ(柞)。ナラ・クヌギなどの総称。「柞蚕サクサン」(ナラ・クヌギなどの葉を食べて成長する野蚕。褐色をおびた繭をつくる。また、繭から出た蛾をいう)「柞蚕糸サクサンシ」(柞蚕の繭から取った糸)「柞薪サクシン」(柞などの薪) (2)きる。切り払う。「載(すなわ)ち芟(か)り載(すなわ)ち柞(き)る」(詩経「載芟サイサン」)
形声字
昨 サク 日部
解字 「日(その日)+乍(サク)」 の形声。サクは昔サクに通じる(昔には、セキ・シャク・サクの音がある)。昔の字源は洪水の起きた数日前が原義で、むかし・いにしえ以外に、さきごろ・きのうの意味がある。昨サクは、きのうの日の意。転じて、前の年の意にも用いる。
意味 (1)きのう。前日。「昨日サクジツ」 (2)前の年。「昨年サクネン」 (3)むかし。以前。「昨今サッコン」(このごろ。近い過去から現在まで)
酢 サク・シャク・す 酉部
解字 「酉(さけ)+乍(サク)」 の形声。サクは醋サク(す)に通じ、す(酢)を表す。醋サクは「酉(さけ)+昔(時をかさねる)」で、酒が空気中の酢酸菌に触れてゆっくり起こる発酵でできる酸っぱい液体。現在は古い酢を種として少し入れ日をかさねて発酵させるとできる。
意味 (1)す(酢)。酸味のある調味料。解字で分かるように醋が本字。現代中国では醋を使う。「食酢ショクす」「酢酸サクサン」(食酢の酸味の主成分) (2)すい。すっぱい。「酢豚すぶた」
鮓 サ・すし 魚部
解字 「魚(さかな)+乍(=酢。発酵する)」 の形声。魚をご飯と塩で漬け、発酵させたなれずし。
意味 (1)つけうお。魚を塩とご飯(または糟)などで漬けたもの。なれずし。「鮓滓サシ」(かす漬けの魚。すし) (2)[国]すし(鮓)。鮨とも書く。酢をまぜたご飯に魚介類をのせたもの。
<紫色は常用漢字>
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祚ソ・胙ソ・柞サクを追加しました。(2020.3.22)
乍 サ・サク・ながら ノ部

解字 甲骨文は衣の下部(襟もと)を含んでいるので、衣服を作る形と考えられる。異体字には縫い目の状態を表したものもある[甲骨文字小事典]。金文は甲骨文字を反転させた形に、上のエリの一方が伸びて下のエリ元とつながった。篆文からさらに変化を重ねて現代字は乍になった。作サク(つくる)の原字で、のち人を加えた作ができたため、本来の意味でなく仮借カシャ(当て字)で「たちまち」「ながら」の意となる。音符イメージは「つくる」である。
意味 (1)たちまち(乍ち)。「乍ち存し乍ち亡ぶ」(たちまち存し、たちまち亡ぶ。あるかと思えば、たちまち亡びる。物の存亡の急なこと) (2)[国]ながら(乍ら)。
イメージ
「仮借カシャ」(乍)
衣服を「つくる」(作・詐・窄・搾・炸・祚・胙・柞)
「形声字」(昨・酢・鮓)
音の変化 サク:作・窄・搾・炸・柞・昨・酢 サ:乍・詐・鮓 ソ:祚・胙
つくる
作 サク・サ・つくる イ部
会意 「イ(人)+乍(つくる)」 の会意形声。人がものを作ること。
意味 (1)つくる(作る)。おこなう。はたらく。つくられたもの。「作文サクブン」「著作チョサク」「作為サクイ」 (2)耕す。実り。「耕作コウサク」「豊作ホウサク」 (3)ふるまい。うごき。「作法サホウ」「動作ドウサ」
詐 サ・いつわる 言部
解字 「言(いう)+乍(つくりごと)」 の会意形声。つくりごとを言うこと。
意味 いつわる(詐る)。あざむく。だます。「詐取サシュ」(だまし取る)「詐欺サギ」(だまして利益を得る)「詐称サショウ」(偽って言う)
窄 サク・せまい・せばまる・すぼむ 穴部
解字 「穴(あな)+乍(つくる)」 の会意形声。衣服を作るとき、袖の穴をつくること。袖の穴は、①せまい、②布を縫い「せばめて」穴を作る意となる。
意味 (1)せまい(窄い)。心がせまい。「狭窄キョウサク」(すぼまって狭い。狭も窄も、せまい意)「幽門ユウモン~」(胃の末端部の狭窄)「脊柱管セキチュウカン~」(推骨が連なったトンネル状の穴の狭窄。神経が圧迫されてしびれや運動障害がおきる)「窄袖サクシュウ」(つつそで) (2)せばまる(窄まる)。すぼむ(窄む)。みすぼらしい(見窄らしい)。
搾 サク・しぼる 扌部
解字 「扌(手)+窄(せばめる)」 の会意形声。手でしめつけたり、しぼること。
意味 (1)しぼる(搾る)。「搾乳サクニュウ」「搾油サクユ」 (2)しめつける。「圧搾アッサク」
炸 サク・サ 火部
解字 「火(ひ)+乍(つくる)」 の会意形声。火が急にできること。爆発などで火が飛び散る意となる。中国では、油で揚げる意にも用いる。
意味 (1)はじける。爆発する。「炸裂サクレツ」(爆弾などが爆発してはじけ散ること)「炸薬サクヤク」(火薬)「炸丸サクガン」(爆弾) (2)油であげる。また、あげもの。「炸魚サクギョ・zháyú」(魚を油で揚げる)
祚 ソ・さいわい 示部
解字 「示(神)+乍(つくる)」 の会意形声。神が作りたもうたもの。神からの賜りものの意で、しあわせ・福をいう。また、神の子である天子の位をいう。
意味 (1)さいわい(祚い)。神から受ける福禄。「祚胤ソイン」(子孫まで幸福を授かる。よい子孫) (2)天子の位。「天祚テンソ」(天子の位)「践祚センソ」(皇嗣が天皇の位をうけつぐこと)「祚立ソリツ」(天子の位につく)
胙 ソ・ひもろぎ 月部にく
解字 「月(にく)+乍(=祚。さいわい・福)」 の会意形声。福肉の意で、祭礼に供える肉、および祭礼の余り肉をたまう意。
意味 (1)ひもろぎ(胙)。神に供える肉。「祭胙サイソ」「胙肉ソニク」「胙余ソヨ」(供え物の余り肉) (2)(祭りの余り肉を)たまう。むくいる。「胙土ソド」(土田をたまう)「賜胙シソ」(胙を賜与する)
柞 サク・ははそ 木部
解字 「木(き)+乍(つくる)」 の会意形声。薪(たきぎ・まき)を作る木の意で、薪にする広葉樹のナラ・クヌギなどをいう。広葉樹の薪は火持ちがよい。また、薪をつくるために木を伐ること。

柞蚕(普通の蚕と違い緑色をしている。「百度百科」の柞蚕より)
意味 (1)ははそ(柞)。ナラ・クヌギなどの総称。「柞蚕サクサン」(ナラ・クヌギなどの葉を食べて成長する野蚕。褐色をおびた繭をつくる。また、繭から出た蛾をいう)「柞蚕糸サクサンシ」(柞蚕の繭から取った糸)「柞薪サクシン」(柞などの薪) (2)きる。切り払う。「載(すなわ)ち芟(か)り載(すなわ)ち柞(き)る」(詩経「載芟サイサン」)
形声字
昨 サク 日部
解字 「日(その日)+乍(サク)」 の形声。サクは昔サクに通じる(昔には、セキ・シャク・サクの音がある)。昔の字源は洪水の起きた数日前が原義で、むかし・いにしえ以外に、さきごろ・きのうの意味がある。昨サクは、きのうの日の意。転じて、前の年の意にも用いる。
意味 (1)きのう。前日。「昨日サクジツ」 (2)前の年。「昨年サクネン」 (3)むかし。以前。「昨今サッコン」(このごろ。近い過去から現在まで)
酢 サク・シャク・す 酉部
解字 「酉(さけ)+乍(サク)」 の形声。サクは醋サク(す)に通じ、す(酢)を表す。醋サクは「酉(さけ)+昔(時をかさねる)」で、酒が空気中の酢酸菌に触れてゆっくり起こる発酵でできる酸っぱい液体。現在は古い酢を種として少し入れ日をかさねて発酵させるとできる。
意味 (1)す(酢)。酸味のある調味料。解字で分かるように醋が本字。現代中国では醋を使う。「食酢ショクす」「酢酸サクサン」(食酢の酸味の主成分) (2)すい。すっぱい。「酢豚すぶた」
鮓 サ・すし 魚部
解字 「魚(さかな)+乍(=酢。発酵する)」 の形声。魚をご飯と塩で漬け、発酵させたなれずし。
意味 (1)つけうお。魚を塩とご飯(または糟)などで漬けたもの。なれずし。「鮓滓サシ」(かす漬けの魚。すし) (2)[国]すし(鮓)。鮨とも書く。酢をまぜたご飯に魚介類をのせたもの。
<紫色は常用漢字>
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