「目の見えない方でも自分でできる事はたくさんあります。
世話のやき過ぎはかえって目の不自由な方の心を傷つける事になりかねません。」
このブログでは以前「障がいを持つ方に対して」という題で目や体が不自由な方に接する時の心配りとかお手伝いの仕方について記事にしたことがありますが、上の文章はその中で書いたものです。
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視覚障がい者のY先生は岩手県出身ですが、13歳の時に事故で失明して全盲となってからは数々の苦労を味わってきた末にこの会津の地に辿り着いたそうです。
会津で生活するようになってからはご結婚もされてお子さんにも恵まれました。
大きな総合病院の整形外科専属でリハビリの仕事に携わり、定年まで35年間も勤務され多くの患者さん達から信頼され慕われていらっしゃいました。
僕がガイドヘルパーの仕事を始めてすぐの頃に先生からよくご指名を受けて外出介助の仕事をさせていただきました。
「先生は何故僕のような不慣れな者をご指名して下さるのですか?」と質問をしたことがあるのですが、それに対して先生は、「君が僕の仲間達の役に立てるようになるまでにたくさんの経験を積んで欲しかったので、そのために我が身を犠牲にしようと思ったからです。」とお答えになりました。
この様に口は悪いけれどY先生は慈愛の精神に満ち溢れた方でした。
お歳の割には恐るべき健脚の持ち主で、一緒に地元の背炙り山(標高863m)に登ったこともあります。
自宅と登山口との往復6㎞の道も徒歩でした。
自宅周辺はもちろん市内中心部のあらゆる道を知り尽くされていて、僕にいくつかの近道を教えてくれました。
そのY先生が数年前にある介助講習会に講師として招かれた時にされたお話をご紹介します。
先生は「目が不自由だからと言ってあまり私達の世話をやき過ぎないで欲しいのです。たとえ目が不自由であっても私達『視覚障がい者』はあなた達『晴眼者(視覚障がい者の側からは目の見える健常者の事をこう呼びます)』が日常の生活の中でしているような事はたいてい一人でできるのです。」と述べられ、次の様な内容のエピソードを披露されました。
先生がある日介助者と一緒に街へ出かけた時の事です。
お昼時になったので食事をとろうと思い、あるファミレスに入りました。
先生が注文した物は刺身の盛り合わせ定食でした。
注文の品が運ばれてきた時すぐに先生はある事に気付きました。
あろうことか刺身全体に醤油がかけられていました。
目には見えなくても匂いで分かったのです。
そこで、先生は介助者に「あなたが刺身に醤油をかけたのですか?」と訊ねたところ、「お店の方が勝手にした事であり、私も刺身に醤油をかけてと頼んではいないです。」という返事が介助者から返って来ました。
すかさず先生は、「それでは、大変申し訳ないですが、同じ物を追加で注文して下さい。もちろんその分の料金もお支払いします。ただし、今度は刺身に醤油をかけないようにと店の人にお願いして欲しいのです。」と告げました。
先生はその時に心の中では「頼みもしない事をしやがってこのお節介野郎め!」と叫んだそうです。
「この店の対応は視覚障がい者を馬鹿にしている感じがして、とても不愉快で腹立たしかった。二度とこの店には来るもんか!」と先生は本気で思ったそうです。
店の方は多分、「このお客様は目が不自由なので醤油をいちいちつけるのは大変だろうから最初から刺身に醤油をかけてあげよう」と思い、気を利かせたサービスのつもりだったので決して悪意はなかったという事は想像できます。
Y先生は何故これほどまでお怒りになったのかと疑問に思う方も多いと思います。
皆さんはこのお店の方の対応をどのようにお感じになられましたでしょうか?
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ちなみに、視覚障がい者と一緒に食事をする場合は注文する前にまずメニュー表を読み上げてどんな物があるのかを確認してもらいます。
料理が運ばれて来たらテーブルを時計の文字盤に見立てて、料理の置いてある位置を時計の針が差す方向で教えます。
例えば視覚障がい者の座っている位置が6時だとして何時の方向に何があるかという事を確認してもらいます。
後で料理の置き場所を都合により変更した場合もその事を確認させるのを忘れてはいけません。
視覚障がい者の方は初めに料理の位置さえ正確に教えてさえもらえればそれを全て記憶し、後は一人で自由に食事ができるのです。
料理の種類と形・色(視覚障がい者となった時期や障がいの程度によって多少個人差はありますが全ての視覚障がい者が自分なりにちゃんと認識できています)もできれば説明しましょう。
後は・・・あ、そうそう、これは重要な事なんですが、ワサビの様な辛い物とか熱い食べ物や飲み物は事前にその辛さとか熱さを説明して確認してもらう事ですね。
そして、食事の合間にできるだけ明るくて楽しい会話をするのを心がけて下さい。
周囲の様子などを説明してあげるのもいいですね。
余談が長くなってしまいましたが、視覚障がい者の方とお付き合いされる機会があった時にでもこれを参考にしていただければ幸いです。
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※これと内容が同じ記事を僕の以前のブログでも書きました。
以下の関連記事も読んでいただいた上で、障がい者に対するご理解をより深めていただけるとうれしいです。
どうかよろしくお願いいたします<m(__)m>
☆障がいを持つ方に対して その1
☆障がいを持つ方に対して その2
☆障がいを持つ方に対して その3