地球散歩♪

いもとなおこのBLOG

モザンビークの楽園編。

世紀の引継式前夜

2020年03月30日 | greece
16時にヒルトン・ホテルに来てくださいと言われ
支度をして恐る恐る家を出た

本当はタクシーに乗るのが怖いから
歩いて行きたかったけれど
(家から15分くらい)
直前まで仕事をしていて支度が遅くなったから
タクシーでホテルへ
だって相手は日本人だもの笑
遅れちゃまずい

ヒルトン・ホテルはガランと静まりかえっていて誰もいなかった
ゲストですかと聞かれて
いいえ 日本のオリンピック組織委員会の…と説明していたら
旧知の大使館の方が迎えに来てくださった

組織委の方々が篭っている部屋に案内された
屋内で人に会うのは一週間ぶりだから
ちょっとびっくりした
こんな密室で…
ウィルスはいないのだろうか

皆さん連日の変更で
お疲れの様子だった
多分一週間前の採火式から
ほとんど寝ていなかったと思う
そんな中私もどんなテンションで居たら良いのかわからなくなった

大抜擢に嬉しいよりも
こんなショボい代役で良いのかしら…
という気まずさが勝っていた

私も一通り説明を聞いたけれど
あんまり頭に入っていなかった
その場でリハーサルみたいなことをしたけれど
トーチからランタンに聖火を移すことくらいしか分からなかった

私はそれまでてっきり走るのかと思っていて
明日は持っている無地のものを…と言われた時
Tシャツのことかと思っていたら
スーツかジャケットですって

私「黒しか持っていないんですが…」
だって国連職員と言えど
フィールド勤務の人道支援家はスーツ着る機会なんてほとんどないのですよ

「黒はNG。白か赤はありますか」と組織委の方

ないよ…
お店も全部閉まっているし…

友達にメールしまくった
みんな持っているジャケットの写真を送ってくれた
やっぱり同業者のみんなも全然ジャケット持っていない笑
一人だけ見つかった
赤が大好きなロシア人!
何とかなりそう…

その後インタビューを受けて
帰宅し
タクシーでロシア人の家に赤ブレザーを借りに行き
色もサイズもピッタリのが見つかった
こんな原色の赤のジャケット
私服で持っているなんて…!
家に帰ってパックしながら仕事をしていたら
深夜を過ぎてしまった

しっかり寝ないと
明日は全世界生放送なのに…(涙)

20時間前

2020年03月29日 | greece

「聖火を引き継いでいただけませんか」

 
日本大使館の方にそう告げられ、私の頭は一瞬フリーズしてしまった。
 
「え?」
 
つまり、来られなくなってしまった吉田沙保里さん、野村忠宏さん、森会長の代わりにってこと…
 
「ええええええ?ほんとうですか?」
 
「ええ、明日の11時半からなんですが…」
 
とりあえず一回、上司に確認することにして電話を切った。
 
心臓がバクバクしてる。
 
緊張するとあまり良いことがないので、一旦落ち着こう。
 
「大抜擢」だけれど、たまたまそこに居た私になっただけで、代役だし、私に何か求められているわけではないのだ。
そして、聖火を受け取るだけ。
簡単なこと。の筈。
 
泳いだり、喋ったりしなきゃいけないわけではないのだ。
 
落ち着いてから、許可を得るために上司に電話した。
正直、「外に出るな!」と毎日口酸っぱく言う上司だから、ダメ出しされるかとヒヤヒヤしていた。
喜んでOKしてくれたから、ホッと一安心。
 
アテネにいる組織委員会の方から電話が来て、OKの旨告げ、記者発表用のプロフィールを日本語と英語で送る。
 
それから日本にいる家族に電話した。
やんややんやの大騒ぎ。
 
それからは仕事をしようにも、あまり手につかない。
気になるのは、ヘアサロンがどこも閉まっていることだ。
ボサボサの髪の毛で出ていなかざるを得ない。。。むぅぅぅ。
 
2時間もしないうちに日本からガンガンLINEに連絡が来始める。
記者会見があったみたい。
写真入りのネットニュースまで出始める。
「井本直歩子さん、日本代表として聖火引継式に」
最初見たネット記事が高3の写真付きで吹き出した。
 
「井本さんが居てくれてよかった!」
「適任!」
「適材適所!」
 
「ありがとう!」
「日本のためによろしく!」
 
えっ、そんな大事(オオゴト)なの??
 
私、すっぴん、ほぼパジャマみたいな格好で家でテレワークしてるだけなんですが…。
 
(続く)

22時間前

2020年03月21日 | greece
テレワーキングを開始して一週間が経つのに、
連日電話とビデオ会議ばかりで仕事が捗る気がせず、
ただでさえ過酷な生活環境を強いられている、エーゲ海の島にいる難民たちに、
ひたひたとコロナウィルスが迫ってきている気がして、イライラが募る。

そんな中、午後一時に、大使館の方から電話がかかってきた。

「こんにちは。この度は館員の◯◯の猫を預かって頂いて、本当にありがとうございます」と優しい挨拶。

そして彼は優しい口調のまま聞いてきた。
「明日って空いてますか」

「明日は普通に仕事していますけど、なにかありましたか」と私。

明日は聖火の引継式だ、とすぐに思い出した。

新型コロナウィルスの影響で、パフォーマンスする筈だった140人の子どもたちが来れなくなったとか、来るはずだった知り合いとか、キャンセルが相次いでいた。
ちょうど昨日も、鈴木大地スポーツ庁長官から、来られないことになったと連絡があったから、さぞ小規模でやるのだろうとは思っていた。

引継式は最小限でやるから入れないけれど、一度は中止になった大使主催のパーティでもやることになったのかな?

するとおっとりした声の主は、相変わらずのソフトなトーンでこう言った。

「明日の引継式で、聖火を引き継いでもらえませんか」

「え?」
私は絶句して、頭が真っ白になった。

(続く)