テレワーキングを開始して一週間が経つのに、
連日電話とビデオ会議ばかりで仕事が捗る気がせず、
ただでさえ過酷な生活環境を強いられている、エーゲ海の島にいる難民たちに、
ひたひたとコロナウィルスが迫ってきている気がして、イライラが募る。
そんな中、午後一時に、大使館の方から電話がかかってきた。
「こんにちは。この度は館員の◯◯の猫を預かって頂いて、本当にありがとうございます」と優しい挨拶。
そして彼は優しい口調のまま聞いてきた。
「明日って空いてますか」
「明日は普通に仕事していますけど、なにかありましたか」と私。
明日は聖火の引継式だ、とすぐに思い出した。
新型コロナウィルスの影響で、パフォーマンスする筈だった140人の子どもたちが来れなくなったとか、来るはずだった知り合いとか、キャンセルが相次いでいた。
ちょうど昨日も、鈴木大地スポーツ庁長官から、来られないことになったと連絡があったから、さぞ小規模でやるのだろうとは思っていた。
引継式は最小限でやるから入れないけれど、一度は中止になった大使主催のパーティでもやることになったのかな?
するとおっとりした声の主は、相変わらずのソフトなトーンでこう言った。
「明日の引継式で、聖火を引き継いでもらえませんか」
「え?」
私は絶句して、頭が真っ白になった。
(続く)