映画「シサㇺ」を観た。
まず、映像の美しさに息を呑む。ドローンも含めたカメラワークが素晴らしい。登場人物の動きや表情が、とてもダイナミックに描かれる。
江戸時代の武士にとって、北海道は征すべき土地であり、アイヌを蝦夷と呼んでカテゴライズし、原住民として蔑む。一方のアイヌも、勝手にやってきた武士たちを和人と呼んでカテゴライズする。そこには個人を個別に評価する姿勢が決定的に欠けている。
個人を見ないで、集団として一方的にこうだと決めつけるのは、国家主義の思想だ。一部の外国人の行ないを見て、外国人はマナーが悪いと決めつけたり、逆に一部の日本人を見て、日本人は礼儀正しいと決めつけたりする。自分の国を美しい国と讃えるのも、カテゴライズの一種であり、やはり国家主義者の思想である。
本作品は、相手をカテゴライズした者同士の争いに巻き込まれた主人公孝二郎が、これまで刷り込まれてきた武士道の精神が、実は役人の隷属精神であることに気づいて、変化していく様子を描く。平和とは何か、戦争とは何か。兄の無念を晴らすことより、大事なことがある。演じた寛一郎は見事だった。
アイヌの村長(むらおさ)を演じた平野貴大の演技も、迫力満点だ。原始共産制の平和な暮らしを営み、歌と踊りを娯楽とする小さな集団は、カムイから預かった自然の恩恵によって生活を維持している。コタンごとに政(まつりごと)があり、他のコタンの政には口を出さない。
松前藩の小隊が迫ってきても、村長は少しも動じず、誰にも迷惑をかけずに暮らしている我々が、どうして逃げる必要があるのだ?と、孝二郎に迫る場面には、アイヌ(人間)としての尊厳をかけた覚悟があった。本作品の白眉である。
中島みゆきが朗々と歌い上げる主題歌「一期一会」は、思わず聞き惚れてしまう名曲で、エンドロールが心地よかった。
本作品は、戦争がどれほど無辜の人間を蹂躙してしまうのかを端的に表現している。戦争や紛争が多発して、先進国でも国家主義の右翼が政治勢力を増長させている国際情勢が、第三次世界大戦の予兆を感じさせるいままさに、観るべき作品だと思う。人生は一期一会なのだ。戦争で壊されるべきではない。