犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

人権とルサンチマン

2007-02-26 21:06:39 | 実存・心理・宗教
ニーチェは19世紀後半の思想家であるが、20世紀後半に来て再び注目を浴びることとなった。それは、ソ連の崩壊や民族紛争の激化などに伴い、原理主義やイデオロギーを克服するための思想として見直されたからである。「21世紀は人権の世紀である」といった大上段の標語に流されないための知恵としても、ニーチェの思想は多くのものを残している。

ニーチェの思想のキーワードは「ルサンチマン」である。これは、強者に対する弱者の憎悪や復讐衝動などの感情が内攻的に屈折している状態のことである。日本語では怨恨、遺恨などと訳されている。ニーチェが主に批判したのはキリスト教の道徳であるが、そこから生まれた近代市民社会のヒューマニズムや人権思想もルサンチマンの産物として捉えられる。

21世紀に入り、我が国では被害者保護の流れが強まってきた。しかし、いわゆる人権活動家や人権派弁護士からは、「犯罪被害者の人権」という概念には積極的な評価が与えられていない。21世紀は人権の世紀であると喧伝していても、それは被疑者・被告人の人権のことであって、被害者の人権は含まれていないかのようである。このような人権概念の混乱を読み解くためにも、その背景に遡ることは有用であり、ニーチェの思想は大いに参考になるだろう。

ニーチェの思想は後世にも影響を残しており、特にフランスの哲学者フーコー(Michel Foucault、1926-1984)の「生の権力」という思想は、法律学が見落としているものを鋭く指摘している。現代社会における権力の中心は、伝統的な国家権力ではなく、個々人のうちに内面化される見えない権力であるというものである。この見解に立てば、被疑者・被告人が国家権力に抵抗すること自体が、犯罪被害者に対する権力となっているという新たな視点も開けてくる。

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