犯罪被害者の法哲学

犯罪被害・刑罰・裁判員制度・いじめ・過労死などの問題について、法哲学(主に哲学)の視点から、考えたことを書いて参ります。

香山リカ著 『しがみつかない生き方』

2009-09-13 00:24:38 | 読書感想文
p.156~

「誰もがお金が好き」という考えは、あまりにも急速に場を選ばずに広がりすぎたのではないだろうか。出版の世界も、その変化の波に飲み込まれた。2000年代に入る頃から、本を上梓するときにも、編集者がそれまでとは違うことを言うようになってきたのだ。「せっかく出すからには、やっぱり売れてほしいですよねえ。つきましては、販売促進活動のためにテレビや雑誌への売り込みをお願いできませんか?」といった具合だ。彼らの言葉の前提になっているのも、「著者のあなただって、お金が好きですよね。売れてお金が儲かるほうがいいですよね」という考えだ。

しかし、たとえば本の場合、本当に「売れればよい」のだろうか。また、「売れる本が必ず良い本」なのだろうか。私の場合、いまの社会を精神科医として見渡して思いついたことが出てくると、それを何とかして人に伝えたい、と思う。「せっかくだからこれをみんなに言ってみようかな」という素朴な気持ちが、本を書くときの動機の大半を占める。「とにかく売れ線ねらいで」とそそのかされ、金儲けだけが動機となって本を書き始めても結局、原稿用紙200枚、300枚と書き続けて1冊を仕上げることは不可能なのではないか。

本を1冊書き上げるためには、「これは売れるため、お金のため」というおまじないだけでは、気力が続かない。心にもないことをひとりで何十時間も書き続けるほどの精神力のタフさは、私にはない。そう考えれば、「本を書く」という行為は、「お金が好きやねん!」という気持ちとはずいぶんかけ離れたものだ。おそらくこれまでは「本を出したい」という出版社のほうも、「私たちには、著者の意見を世に出す役割がある」といった使命感も抱いていたからこそ、決して能率が良いとは言えないこの仕事をずっと行ってきたのだろう。そこで、出版の世界にまで「とにかく売れるものがいちばんよいもの」といった考えが流れ込むと、言いたくないことを言ったり、意味がないことを編集したり、というおかしなことになってしまう。


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この本は7月に発売されて以来、すでに30万部を突破するベストセラーになっているようです。この状況は、上に引用した香山氏が本を書く際の覚悟に照らしてみると、非常に逆説的だと思います。そして、この逆説を逆説として捉えることは、出版不況、活字離れ、新刊の出版点数の増加による書籍の短命化といった単語を経由している限りは、まず不可能ではないかとも感じます。

文章を書くという点では、ブログを書くという行為にも、全く同じことが当てはまるように思います。ブログを更新する主たる動機が、アクセス数を増やすこと、人気ブログにランキングされること、さらにはアフィリエイトで稼ぐことに置かれているならば、検索上昇中のキーワードを多用し、有名ブログにトラックバックするといった手段が有効になります。これは、香山氏が述べるとおり、単に書きたくもないことを書くという無意味な行動だと感じます。

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2 コメント

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Unknown (某Y.ike)
2009-10-12 23:25:15
こんばんは。私もAERA読みました。火花飛んでましたね(笑)。

努力と脱力、向上と自足のせめぎ合いは、1人の人間の中にあるのでしょう。カツマーでもカヤマーでも、一方に偏りすぎなければいいようです。
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Unknown (ayaka)
2009-10-12 10:41:59
この本読みました。
面白かったです。
AERAの勝間さんとの対談も読みました。

香山さんは実にいいところをついていて、勝間さんのうそ臭さの理由が分かってくるんですが、
でも不思議なことに勝間本の方が読んで元気が出る気もします
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