くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

遙かなるラグーサへの道10 微笑み返し

2007-01-26 11:10:09 | 連載もの 遙かなるラグーサへの道

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朝日を浴びるフィレンツェ市
俯瞰して分かる、美しき無秩序建築群
(撮影:まゆみーな)

 フィレンツェに着くと、僕は寝てばかりいた。
 前半の旅の疲れが出たのと、どうしても馴染めない文化に反発したからであります。
 フィレンツェの人々は、自己主張がはっきりとしている。Firenze2400
 自分がしたいように行動する。
 自分というものに確固たる自信を持っていると言えそうだし、
「ずいぶん自分勝手だなー」とも言えるかもしれない。 
 例えば細い道を歩くとき、正面から来る人に気遣って、よけるようなことはしない。
 ご老人が来ようと団体さんが来ようと、絶対によけたりしない。
 気を遣ってくれるのはノラ犬くらいのものである。
 日本だと、道を譲ることに互いに気を遣いすぎて、最終的に
「おっとっと...」なんて鉢合わせしてしまうことがよくありますね。
 あれもばつが悪いものだけど、そんな事態にはならないのだ。
 僕はこういう部分での違いに、すっかり疲れてしまった。
「もっと周囲に気を遣えよなっ!」なんて、一人で怒っていたのであります。

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東京で知り合ったリカルド・ルーチに会いにいく
言葉は通じないけど、いいヤツだ

 しかしまあ、そんなにぷりぷり怒っていても仕方がない。旅は楽しまなくちゃ。
 こっちも自分のやりたいようにすればいいわけで、そう思うと不思議なことに、フィレンツェの人々は御しやすい存在になってしまった。彼らには裏表がないから、行動が分かりやすいのであります。
 店の人が無愛想だなあと思っても、こっちから微笑むと、相手も微笑むのであります。

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ジョットの鐘楼の中を登っていく
窓の外にドゥオーモの大屋根が見えてきた

 急に自分が認められたような気がして嬉しくなり、バール(カフェ)や商店に入るたびに、店員に向かって「ニコッ」っとやった。
 この場合、店員は女性が多かったので、どうしても女性に対してばかり微笑んだことになる。
 必然、女性との微笑みあいという新たな交流が急増したのは、やむを得ない。
「俺もまだまだイケるな」という、当初の目的とはかなり違った気持ちが起こることを禁じ得ない。

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フィレンツェ名物のTボーンステーキ
1kgのボリュームにたじろぎピンぼけとなった

 しかしこの微笑みあいが、あるとき突然不安になったのであります。
 笑みを返す女性の目に、何かしらの意志が感じられ始めたのであります。
 笑ってはいけない。
 その意志には、“男女間の想いのやりとり”といった明確なものが感じられた(と思う)。
 ちょっと前まで文化の相違にハラダチを感じていた人間が、今度は一転して文化の一致具合を確認し始めたのである。
 フィレンツェの女性は、行動がストレートだからなのか、眼力もかなり強い。こちらの目をとらえて放さない(ように思う)。
 それからは反省し、微笑みに加減をするようになった。
 男性にも積極的に微笑みを送ることにした。
 あまつさえ、ウインクなども試みた。
 実際、男同士のウインクというのはよく見られたのであります。
 こっちのほうは“男男間の想い”というものは特に感じられなかったので、安心して交流を楽しむことが出来たのであります。


 つづく
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