小学校6年生のときの話し。
毎月、お小遣いをもらったあとの日曜日は、友人と二人で繁華街へ出掛けたものでした。
バスで30分ほど行くと駅前に着いて、まずは最初に腹ごしらえ。映画館の脇にカウンター席だけの喫茶店があり、そこでは100円程度でホットドッグが食べられた。これは腹を満たすだけじゃなくて、子供だけで喫茶店に入るという快感があったのですね。
毎月行くものだから、カウンターで働いているお兄さんが顔を憶えてくれて、行けば必ずソーダかコーラをサービスしてくれるようになった。これは実に興奮すべき事柄だったです。小学生にして“顔”となり、早くも“馴染みの店”を持ったのです。僕たちは店にいるあいだ、「我々は常連なのだ」ということを周囲の客に分からせるように振る舞ったものです。と言っても、せいぜい紙ナプキンを必要以上に使うとか、奥まったトイレの場所を知っているとか、そんな程度だったけど。
そこを出たあとは、デパートの中の『王様のアイデア』という店へ。おもちゃとも実用品とも言えない、何とも不思議な商品を買うのが楽しみだった。今でも憶えているのは、反射板で太陽光を集めて火をつけるライター。これで何をするということもないのだけれど、男の子はそういうのが面白いのですね。
その時点でお小遣いの大半を使っているので、あとは本屋や山屋を巡り歩き、夕飯に間に合うぎりぎりまで街にとどまっておりました。
人間が大勢いて、物と情報が飛び交っている。そういう街のエネルギーに、僕はこの頃から惹かれていたのです。