くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

ノスタルジア

2004-08-01 01:01:29 | エッセイ
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撮影日 03年7月


『街角倶楽部』“なくなってしまった材木屋さん”、『和散歩日記』“サンドの日♪”、『ぽわっとライフ』“扇風機”~にぐる~っとトラックバック。和散歩日記さんは文中のユーハイムに。ぽわっとライフさんの記事は『時空を越えてネットで旅する』“レトロな扇風機が復活した。”にトラックバックしています。
 昨年の6月末、渋谷にあった東急文化会館が閉館しました。ゴトンゴトンとブレながら昇降するエスカレーター。薄茶けたリノリウムの床。パンテオンのくたびれたシート。すでに閉鎖していた五島プラネタリウム・・・。想い出がいっぱい詰まった場所だったので、とても残念でした。
 1階のユーハイムは待ち合わせに。牛乳プリンが実に美味かった。コーヒーも安くて良質。忙しない渋谷の中では大人の集まる落ち着いた店でした。
 70mmプリントが上映出来た由緒正しい映画館パンテオンで、最後に上映したのは『ニュー・シネマ・パラダイス』。たったの800円です。村の映画館が解体のために爆破されるシーンは、あまりにも現実と合致していて胸が痛かった。スタッフロールが流れたとき、不覚にも落涙してしまいました。周囲のみなさんも嗚咽をこらえつつ、はらはらと涙を流しておりました。
 五島プラネタリウムは、閉館前にメガスターⅡという世界最高の性能を誇る投影機を使って期間限定で再開しました。あまりの星空に観客からは息を飲むような、声にならない声がもれました。しかし今は全てありません。殆ど更地になっています。

 ここ数年、過去を振り返って文章にするようなことが多くなりました。「振り返るな、前進せよ」を信念にひたすら前向きに生きてきた僕にとって、それは大きな変化でした。一時は“想い出に浸る”という行為に危惧もしたのですが、このノスタルジアへの欲求は消えません。なぜなのか。その疑問を思いがけずカナダの友人が解いてくれました。
「カナダ人は自分の生まれた地や育った地へ帰りたがる習性がある。自分も古い想い出を大切にしている」
 過去を振り返ること、帰ってみたいと思うことは何も恥ずかしいことではないのですね。それは鮭が必ず孵化した川へ帰るような、帰巣本能の一部なのでしょう。自分の生きてきた道を確認する。過去を巡って想い出を新たにする。逆説的ではあるけれども、それが生きていることの証なのだと思います。
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 ここはその友人と久しぶりに再開した場所、ニューオータニのカフェです。平成が始まったばかりの頃、戦争のように濃密で激しい仕事と引き替えに、国籍も年齢も様々な友人がたくさん出来ました。当時彼らはフィレンツェから、ローマから、パリから異国情緒をたっぷりと運んでくれました。部屋でごろごろしたり、ロビーでだべったり。特にこの庭に面したカフェはみんなのお気に入りでした。いつでも暖かくてどこか懐かしい、クラシカルな内装。
 『ぽわっとライフ』作者みきさんも書いているように、生きていると失っていくものはたくさんあります。それもまた生きていることの証なのですね。しかし失いたくないものもある。このホテルもそんな場所の一つです。どうやら僕のノスタルジアへの執着はまだまだ続きそうです。