
落書き二景 若者と...
街にはそれぞれ、匂いがある。
そう思いませんか?
たとえば、僕が青春時代を過ごした、東京都武蔵野市の吉祥寺は、いつも甘い匂いがしていた。
駅の構内にあるクッキー屋と、アーケード街のソフトクリーム屋からしていた匂いなんであります。
この匂いは今でも健在なので、
「吉祥寺=バニラの匂い」
という公式が成り立っているのであります。
しかし、街によっては、もっと奥深い匂いを発しているところもある。
たとえば、渋谷。

サラリーマンたち
全国から集まってくると言われる、十代の若者たち。
彼らはガラムや香水の匂いを発しているけれど、その合間をサラリーマンたちがたくさん歩いている。
渋谷にも、オフィスはたくさんあるのです。
そして、渋谷は古くから発展した街。
タトゥーの店や古着の店のあいだに、どぜう鍋の店やくじら肉の店がある。
渋谷駅を降りると、それらが渾然一体となって、ある独特の匂いを発しているのであります。
これが、何とも形容しがたい匂いで、まさに「渋谷の匂い」としか言いようがない。
渋谷は、僕が初めて社会人として勤めた土地なのであります。
街によって、さまざまな匂いがある。それを身体が憶えていて、嗅いだ瞬間に、そこで過ごした時間を想い出すことが出来る。
そういう街を、いくつも持っていることが、生きていることの実感にもなっているなあと、思うのでありますね。