goo blog サービス終了のお知らせ 

くらぶアミーゴblog

エッセイを綴るぞっ!

メルヘンなユーワク

2008-08-23 12:17:43 | エッセイ

 調理していて、どうにも困ってしまう野菜というのがある。
 困るというのは、何も調理上で不都合が生じるわけではない。むしろ気持ちはうっとりとし、「ほう」などと妙なため息が出てしまう。調理中のおじさん(僕のこと)の目が、次第に少女チックになってくる。
 いい歳こいたおじさんが、一人台所でうっとりとなるのだから、やはり困ってしまうのだ。
 その野菜とはおくらであります。
 包丁で輪切りにすると、切り口がきれいな星形をしている。
 しかも、角が少し丸みを帯びた、非常にメルヘンチックな星形をしている。
 やばいっす。
 まじ、フツーにかわいいっす。
 胸キュンっす(これは古いな)。
 折しも、季節は夏。さっと湯がいたおくらを輪切りにして、かつぶしとショーユをまぶして食べると、幸せ度数はかなり高い。
 外側の濃い緑と、内側の白。対比が鮮やかだ。
 うぶ毛があって、最初の舌触りは野趣を感じる。噛むとかりりっとした歯ごたえがあり、噛むたびに夏草を連想させる匂いが鼻腔に昇ってくる。
 そこにぬめりも加わってきて、次第に口中は断片とぬめりで混沌としてくる。
 ぬめり自体に味はないから、生醤油のきりっと立った塩気と香りが生きてくる。




Okura500

 それはそれは美味い野菜なのだが、問題は食べる前。つまり調理段階でおじさんは困っているのです。
 角の丸まった星型の輪切りを眺めていると『星の王子様』なんて想い出してしまう。
(そうだ、一番大切なものは、いつも目に見えないんだっけ)などと、細かい部分まで想い出す。
(あの王子様は、最後は死んでしまうのかな。どうなのかな)
(人の幸せって、案外身近なことにあるのかもな)
 すっかりメルヘンになったおじさんは、このあとおくらのかつぶし&ショーユまぶしでビールをぐいぐいっと飲み、そこから急速にいつものおじさんに戻っていくのであった。

      
 


今年会いたい人リスト

2008-08-09 11:05:29 | エッセイ

 「今年会いたい人リスト」という言葉を聞きました。
 これは文字通り
(いつも忙しくて会えないけど、今年こそはあの人と会ってみっか)
 と計画するときのリストであります。
 ジンセーが進んでいくにつれ、縁も広範囲となる。
 人間の最初の縁はもちろん血縁。
 その後、学校へ入ったり、近所の遊び友達を作ったりして出来るのが地縁。
 同級生なんかも、この地縁に含まれるそうです。
 次の縁は社縁。会社に入って、上司や同僚と縁がつながること。
 一般的な縁はこの3つなのだと、高校のときの教師が、話してました。
 その教師はこうも話していた。
「この3つの中で、最後まで途切れないのは血縁と地縁。社縁がつづくことは滅多にない」
 当時は意味が良く分からなかったけど、ちょいと寂しい物言いでありました。
 ともあれ。
 お互い社会人となると、数ヶ月単位で予定が網の目のように作られていく。
「明日会おうぜ」なんていっても、簡単には会えない。
 そうなるとやはり、「今年会いたい人リスト」というのが大事なんだなァと思うんであります。

 しかし、あれですね。会いたいと思いつつ3年、5年と過ぎていくことがよくあるけど、それでも絶対に縁が切れない人っていうのは、やっぱり地縁の人間が多いですね。


  


加齢

2008-07-06 13:11:29 | エッセイ

「やっ、俺も歳をとったか」
 ふと思う瞬間って、ありますね。
 例えば、エスカレーターを歩いて降りるのが怖くなった。
 周囲のサラリーマンやOLが、靴音も高らかに降りていくのに、自分はそのスピードが出せない。
 自分もさっそうと右側を(大阪なら左側)降りていきたいのに、足元がおぼつかない。
 ストライプ状のステップが遙か下まで続いているのを見るとタタラを踏んでしまうこともある。
 後ろから来た人がつっかえ、あやまったりする。

 あるいは、鼻毛を切っているとき。
 ちゃんと切っているはずなのに、どうも最近、鼻腔内がこそばゆいことがある。
 洗面所の明かりを明るくして、鏡に映りし自分の鼻腔を眺めると、なんと鼻毛が白髪化している。白いからよく見えなかったわけだ。
 その白髪鼻毛たちは、どういうことか、色は白いが太くて立派な奴ばかりである。
「ったく、頭髪には不自由してるってのに、こんなとこばかり立派になっちゃって」
 朝から愚痴もいいたくなる。

 しかし、それら身体的なものとは別に、相変わらず若いところもある。
 それは性格。
 若いというより、なーんも変わってないっす。




お弁当賛歌

2008-03-27 10:05:09 | エッセイ

Obento1400_2

 台所を整理していたら、弁当箱が出てきた。
 思わず手に取り、なで回した。
 それはワタクシが会社に通っていた頃に使っていたものだ。
 建築関係の仕事だったので、現場の屋上とかで食べていたことを想い出した。
 なつかしーなー。
 お弁当って、いいものですね。
 コンビニのお弁当とか、そういった既製品ではいけない。
 その日の朝、弁当箱に詰め込んできたものでなければいけない。
 おかずの味付けは濃いめでないといけない。
 いろいろといけないことばかり言っているようだが、今はまさしく混迷の時代。子供の教育だって、いけないことはいけないと、ちゃんと言っていかなければイケナイのだ。
 で、えーと、何だっけ。あ、そうそう。お弁当の話だった。
 さ、待望のお昼になりました。そして、目の前にはお弁当があります。
 おかずは定番の、鶏の唐揚げに卵焼き。隣には彩りも鮮やかなブロッコリーがあって、辛子マヨネーズが少々へばりついてる。隅っこにはぬか漬けのきゅうりと人参を三枚ずつ収め、箸休め体制も万全。
 ご飯は白飯。たまには海苔に覆われてるのもいいけど、それは半年に1回程度にとどめる。基本は白飯です。梅干し中央配置を最上級とする。


Obento2400

 それではまず、鶏の唐揚げからいきましょうか。箸でつまみあげて、一口。
 次に、ぎゅうぎゅうに詰め込まれたご飯を、箸でブロック状に切り取って口中へ追加投入。
 唐揚げからにじみ出る旨味が、冷えて固まったご飯と混ざっていって、この上なく美味しい。とくに唐揚げの衣が美味しい。
 んぐんぐと飲み込んだら、今度は卵焼きいきましょう。甘辛く味付けして、ほどよく火を通した卵焼きは冷めても美味しい。焼きたてとは違った滋味がある。
 ここでまたご飯を口中へ追加。出汁&醤油の利いた卵は思いのほかコクもあって、
「卵焼きって、こんなに立派なおかずだったのか...」
 と、あらためて認識させられる。冷えた卵焼きのパワーをあなどってはいけない。
 そうなんであります。お弁当の魅力は、冷めた美味しさなのであります。
 冷めているからこそ、濃いめの味付けが活きてくる。
「冷めてて良かった!」と、今日も建築現場の屋上では、作業員の方々が口にしていることだろう。
「今日もちゃんと冷めてた!」と、全国の学校では、青春の匂い立つ若人たちが口にしていることだろう。
 しかし、恋人同士や夫婦においての冷めた状態は、どちらかというと後々キケンなことしか待ち受けていない。
 冷めてていいのはお弁当だけなのだ。




THE POLICE!

2008-02-25 12:14:33 | エッセイ

605180751_33

 ちょいと前のお話ですが。
 往年のロックバンド、ポリスの東京公演を観に行きました。
 いやァ、実に良かった。
 名曲がずらりと勢揃いしたのだけれど、アレンジは今風になっている。
 トーンが暗めで、テンポもゆったり。あのパンクっぽい歌がしっとりと仕上がっておりました。

 それにしても、客層の平均年齢が高かった。
 2列前に20代のカップルがいる以外、周囲はみんなおじさんおばさん(僕もおじさんだが)。
 後ろには、僕よりもお年を召したおじさん1人とおばさん3人のグループ。その中の1人が
「あたし、前にドームのライブに来たのは、ボーイ・ジョージん時だったのよねー」
 などとおっしゃる。
 ポリスが流行ったのは80年代なのだ。平均年齢が高いのも、これやむを得ないだろう。
 周囲を見渡すと、頭髪に不自由をきたしているご同輩の姿が、そこここに散見される。

 開演10分前。後ろのグループがビールを飲み始める。Boygeorge300
「田中(仮名)さん、つまみ持ってんの? あたしコンビニで買ってきたのがあるわよ」
「あっ、こりゃどうも」
「しかしあれね、ボーイ・ジョージって今どうしてんのかしらねー」
 せっかくのポリスのライブだというのに、ボーイ・ジョージを肴に酒宴を始めたようである。
 ビールとつまみのせいで、周囲に居酒屋臭が漂う。
 おじさんが言う。「あのね、ライブってさ、盛り上がるとみんな立ち上がっちゃうけど、あれ困るよね」
 おばさんたち「そーねそーね」
「さすがにこの歳になると、立ってたら大変だもんね」
「そーねそーね」
 しかしこのグループ(おそらく50代に差し掛かったあたり)の危惧をよそに、いよいよ公演が始まると東京ドームの観衆は総立ちとなった。無論、僕も立ち上がる。
 だって、そうでしょう。あのポリスが、目の前にいるのである。
 生の演奏なんてもう見られないと思っていた、あの超人気バンドなのだ。
 興奮し、何曲か夢中で聴いた(観た)あと、なにげなく後ろをうかがうと...。
 例のグループも立ったまま、目を輝かせて手拍子をしておりました。




 この記事は『いい感じ』“27年目の再会:The POLICE”にトラックバ~ック!