どの社会でも見られるでしょうが、とりわけ
独裁政権下の人たちが、政府と反政府の間で苦しみ、自分の子供にウソを強要しなければならない
ことがあるようです。これを「内戦の犠牲者」で片付けてしまっていいのかどうか。これでは実態がまったく伝わらないと思います。
シリアの内戦
クーデターで実権を握った父アサド大統領(在任1971-2000)の長期独裁政権が、大統領突然の死(心臓病か)で終わると、次男のアサドがその独裁弾圧政権を引き継ぎ現在に至っています(大統領在任2000- )。
歴史的に国際関係が複雑で、イスラム教の派閥争いもあり、誰が首脳になっても大変な地域ですが、石油産出という恵まれた地域ゆえか、その富の分配をめぐって部族間抗争・宗教対立が激しくなったとしたら、天然資源である石油も罪なものですね。石油そのものには責任はないでしょうが、石油が人間の欲望をかき立てたことは確かだと思います。
一言でいえば、地域を統一しないと、どうしても外国の干渉を招く、ということでしょうか。
独裁政権に特有のことですが、政府派と反政府派の争いがなくならず、しかも2014年になってシリアとイラク国境あたりで「イスラム国」なるものが誕生し、シリア国内では、アサド弾圧政権・反政府組織(自由シリア軍やクルド人)・イスラム国の4つが入り乱れるところとなっています。
この中で最も過激なイスラム国に対して、同じイスラム圏の国家が、国としてが承認しないどころか、あんな組織を「イスラム国」と呼ばないで欲しい、とイスラム圏の国家が世界各国へ要請する始末。
ぱっと理解できないためシリアの白地図とシリアの勢力図を参考にして、自作の地図をつくってみました。暫定的なものであり実際とは異なるところがあると思われます。
この地図の欠点は、シリアと外国(特にトルコやレバノン)との関係が無視されている所でしょうか。これを知らないと中東を理解したとはとうてい言えないとお叱りを受けそうですが・・・・
空爆
アメリカなどはアサド政権に批判的で、反政府勢力を支持してきました。最初、残虐な「イスラム国」地域のうち、イラク領土内だけに絞って空爆〔空爆1〕してきたのですが、これだと、イスラム国をやっかいだと思っていたアサド独裁政権を利することになるのではないか、と見られたため、そういう権利・資格があるかどうかを別問題として、シリア領土内のイスラム国へも空爆〔空爆2〕を始めたようです。
アサド政権から見ると
アメリカなど外国の干渉を拒んでいたアサド政権ですが、それは表向きの姿勢であり、自国内にできた不法組織「イスラム国」への空爆にも、ある意味で助かる面があるのでしょう。
シリア内戦は、アサド独裁政権とそれに対抗する反政府組織との闘いと見られてはいましたが、詳しく見ると、ひどく入り組んだ複雑な関係にあることがわかります。
クルド人から見ると、
決められた国境に関係なくトルコ・シリア・イラク・イランの周辺に暮らしていて、新しくできたイスラム国とも激しく対立していますし、もちろんアサド政権とも大きく対立、しかも反政府軍(自由シリア軍)ともうまくいっていなかったようですが、協力関係にあるとも言われています。とにかく民族に関係なく国境線を引いたことにも一因があり、なかなか民族対立がなくなりません。
反アサドの意味では、反アサド勢力(自由シリア軍)と協力するかもしれません。
イギリスITN Productions2014年制作「シリア内戦 前線の子どもたち」〔NHKBS12014/10/07放送〕では、幼い娘をもつ母親が、こう言っておりました。
末っ子の娘サラには、誰に聞かれても「アサドは嫌いだ」と言ってはいけないよ。お父さんもお母さんも捕まっちゃうから、と言い聞かせてあります。サラはわかったと言いました。子供たちにウソをつくよう教えるのはつらいですが、生きるためです。
たえず、相手が敵か味方かを考えながら日常を生活することの大変さを垣間見るようです。サラの姉であるヘレン(13歳)は、こうも言っていました。
(小学校時代の)友だちの半数は政権を支持していたから、仲のよかった子たちともぎくしゃくしました。父がデモに参加したときのインタビューが放送されると、みんな離れていった。先生からも冷たくされました。授業のあといつも、校長先生にたたかれて、とても恐かった。学校の階段で先生とすれ違うときも、捕まるんじゃないかと、おびえていました。地下室に連れ込まれて殺されるんじゃないかと。いつそうなってもおかしくない状況でした。
こういう社会を作ったのがアサド政権なのかどうかは私にはわかりませんが、独裁弾圧を続けている政権に明日はないと言うことなら、まちがいなくそう言えるでしょう。
少し前までは、化学兵器をどうするか、くらいでしか記憶がなかったシリア問題ですが、知れば知るほど、根は相当に深いようです。
中国の内戦
内戦とか弾圧なら、中国も負けてはいません。すでに文化大革命〔1966-1967〕で多くの知識人が抹殺され、中国共産党は自分たちより上のレベルの中国人をことごとく粛正・拘束・処刑しました。この時は、毛沢東の威光を掲げたじゃりが、老練な人たちを次々に自己批判させし、全土の親たちがいつ自分の子どもがいつ自分を中国共産党へ密告するかわからないと心配した時代でした。
中国の老練な人たちの腐敗ぶりを理解している日本人には、この行動にも一理があるとは思えたものですが、あまりにもひどすぎ、「紅衛兵」という名のチンピラヤクザが、限度をわきまえずにのぼせ上がった時代、と言えましょうか。
この時からではありませんが、中国人は政府さえ信用できなくなり、もちろん親戚縁者たち、自分の子どもさえ信頼できなくなってしまったようです。その代り、現実主義者らしく、一生懸命に金儲けに励むのが一番だと、考えるに至りました。
香港のデモを見ていて、「香港の政治的独立性よりも、占拠で商売ができないことのほうにいらだっている人」が見られますが、そういう歴史があるからなのでしょう。
偽りを子どもに強要する
シリアの親が子どもに対して、本当は嫌いであっても、誰にも「アサドは嫌いだ」と言わないように教育するのは、親が逮捕されてしまうのを避ける意味があったようです。
これが暗示するのが、中国人の親が同じように「中国共産党は嫌いだ」と言わせないように子どもを教育しているに違いない、ということ。独裁政権下ではおおいにあり得ることです。
事実とことなることを表明しなければならないと教育された幼い子どもが、長じてどんな人間になるか、は考えるべき重大なテーマでしょう。
日本に来た中国人留学生が「日本はなんて自由な国なのだろう」と驚く真の意味が、ここにあります。日本では、別に「菅直人首相は退陣すべきだ」とか「安倍晋三首相は嫌いだ」などと発言しても、中国やロシアのように、政府によって拘束・逮捕されないのでした。
それだけではなく、限定された意味かも知れませんが、正直に意見を表明したところで、周囲の人から嫌われることはあっても、それを根拠として国家権力によって拘束・逮捕されることはないのです。中国人留学生はこれに驚いている、このことを知っておいたほうがいいのでしょう。
これは重みのあることなのです。が、それに気付いている日本人がどれほどいるのか(大笑)。