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ぽかぽか春庭「お楽しめるです」

2024-03-16 12:00:01 | エッセイ、コラム

20240316

ぽかぽか春庭ことばのYaちまた>2024にほんごでどづぞ(1)お楽しめるです            

 

 2023年3月に日本語学校を退職して、若い世代とふれあう時間がまったくなくなったこと、仕事をやめて残念に思うことのひとつです。

 若い留学生がけんめいに日本語を学び、巣立っていく姿は、送り出す者の心にも新しいエネルギーを残していってくれるものでした。

 学生の作文添削は、日本語上達のために必要なことでしたが、誤用日本語というのは、文法的な誤用にしろ、語彙の誤用にしろ、ああ、日本語を母語としない人には、このような思い違いが生じるものなのだ、という気づきを得る貴重な機会でした。

 

 そんな機会が減った日常生活の中で、先週川崎駅前の町中華の店に入ったところ、席のわきに店の人が貼った日本語が目に入り、楽しくなりました。店の人は、おそらく全員が中国語話者。阿里山という店名からみて、台湾出身の店主さんや従業員の方が多く、たぶん、長く日本で生活してきて日本語にも自信を持っている方と思われます。日本語に来て日が浅かったり、日本語に自信がないときは、つてを頼って日本語話者に添削を依頼する。それが、自作の日本語を店に張り出したのは、添削など必要ないと思うほど日本の生活に慣れているからだろうと推測しました。

 

 文面は「晩酌小皿と種類豊富お酒をお楽しめるです」

 文末にていねいな気持ちを持って「です」を付け加えるのは、日本語学習者にはよくある誤用です。 走るです、飲むです、など動詞の終止形にていねいな気持ちで「です」をつけるのも、アルアルです。「楽しめる」という語彙は、初級では出てきません。楽しい、楽しいです、はでてきますが。

 「楽しめる」という楽しむという動詞の可能形を知っているということは、かなり日本語が上達した人だと思われます。でも、ついつい動詞終止形だけだと丁寧じゃない感じがしてしまう。そこで「楽しめるです」。日本語の丁寧語の知識があるから、おビールおジュースと同じように「お楽しめるです」と、丁寧に言う。

 日本語は年々変化しています。今年75歳の高貴幸齢者になる世代にとっては、子供のころあれほど厳しくいましめられた「ラ抜き可能形」食べれる寝れるが、いまや辞書にも載る「ふつうの日本語」になっているなんて、世の移り変わり日本語の変化の速さにびっくり。局アナ代表安住紳一郎役員待遇氏は、「新げん文不一致」のすすめを提唱したことがあります。書き言葉では「信じられる」と書いて、話し言葉では「信じれる」と発音する。

 たぶん、動詞終止形に「です」をつけるていねい表現も、ラインなどのネット日本語ではもう普遍的なのかもしれません。飲むです、寝るです、やめるです。

 少し前に、「おもしろみ」「あかみ」などの「み」をつけて形容詞を名詞にする用法が、「不味い→まずみ」「つらい→つらみ」など、これまで「さ」をつけるだけで「み」はつけることはなかったイ形容詞やナ形容詞(形容動詞)にも「み」がつけられるようになったことを報告しました。いま、ネットではごく普通の日本語になっているようです。

  これから先の日本語、おおいに「お楽しめる」です。

<つづく>

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