今年の3月から読み始めた芹澤光次朗の「人間の運命」全7巻をようやく読み終えることができた。さすがに大河小説は読みごたえがあった。途中少し疲れてしまった時もあったので、時間がかかった。
筆者のモチーフは「私達の世代の生きた証言を後に来る人々に残したい」とのこと。そのモチーフ通り、明治大正昭和の時代風景が詳細に描かれていて、それだけでも読みごたえがある小説だ。時代の流れに翻弄されながらも、決して妥協せずに生き抜いていく主人公次郎の生き方に感銘した。これはそのまま筆者芹澤光次朗が生き方そのものであったのであろう。
登場する人々も多種多彩だ。貧しい漁村の漁民、子供のころからの友人、宗教家、大地主、実業家、官僚、軍人、政治家、小説家などなど。自伝的小説と言われている通り、フィクションとしてよりは、「事実としてそうであった」というストーリーの展開なので、すこし流れがギクシャクしているところもあった。
しかし、これだけ細かく公私にわたって当時の状況を再現するのためには、その資料として、自己の生活についてのどれだけ綿密な記録が残されているのであろう。実業家の娘である妻が、国の官僚として出世するのではなく、小説家の道を選んだ夫をほとんど評価しないところなど、そんなものかと驚いた。
戦後のことになると、急にストーリーが途切れてしまう、芹澤が連合国=アメリカに占領される社会をどのように捉えるべきなのか、理解に苦しんでいる姿があると思われた。こういう小説を読むと、第2次世界大戦前後の社会とはどんな時代であったのか、ということについて、俄然興味が湧いてきた。