功夫電影専科

功夫映画や海外のマーシャルアーツ映画などの感想を徒然と… (当blogはリンクフリーです)

『アクシデンタル・スパイ』

2014-12-15 23:34:14 | 成龍(ジャッキー・チェン)
「アクシデンタル・スパイ」
原題:特務迷城
英題:The Accidental Spy
製作:2001年

成龍(ジャッキー・チェン)はスポーツ用品店のしがない販売員。取り柄といえば、孤児院にいたころに習ったカンフーの腕前と、予知能力めいた力くらいしかなかった。
あるとき、強盗を撃退したことで英雄視されるようになった彼の前に、三流探偵の曾志偉(エリック・ツァン) が現れる。曾志偉は人探しの手伝いをしており、依頼人(末期ガンで余命僅か)が息子を探していると聞かされた。
 自分の父親かもしれない人物に会うため、ジャッキーは韓国のソウルへ。そこで記者を名乗る金[王攵](キム・ミン)と出会い、依頼人が世界的なスパイだったと知らされる。
謎の組織が暗躍する中、彼は死に際の依頼人から「私とゲームをしないか?」と持ちかけられた。そして僅かなキーワードを手掛かりに、トルコのイスタンブールへと飛んだ。
謎多き美女・徐若[王宣](ビビアン・スー)の秘密、CIAと消えた細菌兵器の行方、背後でうごめく裏社会の大物――。次から次へと示される謎の果てに、彼は意外なゲームの“答え”を知るのだが…。

 90年代末にハリウッドへの本格進出を果たし、名実ともに世界的なスターとなったジャッキー。しかしアメリカでの活動は制約が多く、従来のような映画作りは困難でした。
本作はそんな彼が香港に里帰りし、ハリウッドで実現できなかった“やりたかったストーリー”と“やりたかったアクション”をブチ込んだ作品なのです。
 しかし香港でヒットこそしましたが、作品自体は芳しい出来ではありません。予知能力の設定はいつの間にか忘れ去られるし、最後になぜ徐若[王宣]がああしたのかも不明瞭。他にも細かいところで「?」と思うシーンがあります。
私としては利用された挙句に見捨てられ、それでもスパイになるという最後のオチが納得できませんでした。あそこは曾志偉を一発ぶん殴っても良かったんじゃあ…。

 とはいえ、この物語からはジャッキーの“やりたかったストーリー”を窺い知ることが出来ます。本作の粗筋は非常にシリアスで、笑いの要素はごく一部とアクションパートに限られています。
当時のジャッキーは従来のコメディ路線から脱却し、それ以外の分野に挑戦しようとしていました。その第一歩が『ゴージャス』だったわけですが、周囲はあくまでコメディアンのジャッキーを求めたのです。
 ハリウッドに行ってもその傾向は変わらず、むしろ役柄が固定化されていく一方…。そこで彼は一計を案じ、本作でシリアスな作風に踏み切ったのだと思われます。
が、さすがにいきなり『新ポリス・ストーリー』のようなド直球で攻めるわけにもいきません。そこで今回はミステリー風味の味付けをし、舞台となる国々を異国情緒たっぷりに描写。その結果として、本作のような形に仕上がったのでしょう。

 一方の“やりたかったアクション”ですが、こちらは最初から最後までアクセル全開!ハリウッドで演じることのできない過激なスタントに、これでもかとチャレンジしていました。
まず初っ端にクレーンで高層ビルに突っ込んだかと思うと、電気ショック攻撃や金隠しバトルで笑いを取り、港をウインチでひっくり返すというムチャまでやらかします(笑
 その後もセスナをバイクで止め、タンクローリーと一緒に高架橋からダイブするなど、命がけのアクションをこなしていくジャッキー。しかしその有り余る熱意は、“やりたかったストーリー”と微妙なズレを引き起こしてしまうのです。
確かに本作のアクションは高度ですが、作品の持つシリアスな雰囲気にそぐわないものが多く、そのズレは終盤で臨界点に到達。ラスボスは適当に処理され、本筋から完全に脱線した救出劇が繰り広げられていました。

 “やりたかったこと”の不一致…本作が違和感のある作品になってしまったのは、これが最大の原因ではないでしょうか。もしかするとこのミスは、ジャッキーがハリウッドを意識しすぎた結果の産物なのかもしれません。
ちなみに彼は本作の3年後、『香港国際警察/NEW POLICE STORY』を足掛かりにシリアス線を開拓。ハリウッドでは相変わらずコメディ作品への出演が続くものの、李連杰(ジェット・リー)を始めとした大物俳優との共演を果たしていますが、こちらについてはまた別の機会にて……。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿