指田文夫の「さすらい日乗」

さすらいはアントニオーニの映画『さすらい』で、日乗は永井荷風の『断腸亭日乗』です 日本でただ一人の大衆文化評論家です

『オペラ!/? ネクスト・ジュネレーションへの試み/から』

2012年10月08日 | 演劇
神奈川県国際芸術フェスティバルのシンポジウムとしてオペラについてのが行われたので見に行く。
3部構成で、1部は建築家の山本理顕、美術作家のやなぎみわ、そして作曲家で、県民ホール・音楽堂の芸術監督の一柳慧のディスカッションだが、この山本とやなぎは、ほとんど素人で、一般論で少しも面白くない。こんな連中を選定した宮本の見識を疑う。
だが、最後にお話しされた一柳慧先生は流石で、言われることが一々ごもっともであった。
そして、マレット、杖などのいつもの器具を使ってのプリペアド風のピアノは、もちろn最高だった。
言って見れば、映画『暗殺』の武満徹の繊細で鮮烈な音楽のようである。
『暗殺』は、一柳ではなく、高橋悠治と山本邦山だそうだが。

私は、一柳慧の曲を聞くのは3回目で、はじめはテレビの「11PM」の大阪イレブンでの前衛を紹介する番組で、ピアノを弾いた。
2回目は、1990年代のサントリー・ホールでの彼の古典的な曲『ベルリン頌歌』だったが、この時は、「これが一柳なの」と古典への回帰に驚いたものだ。今回が3回目で、実際に一柳の弾くピアノを見たのは初めてだった。

彼も言っていたが、1950年代からやっていた連中は皆死んだか、活動をしていない。
武満徹、黛敏郎、八木正生、寺山修司、篠田正浩、土方巽など、当時は確かにジャンルを超えた交流があり、若き前衛芸術家同士の活動があった。
今も無意味に元気なのは、馬鹿げたことに石原慎太郎だけだろう。

2部は充実していて、田尾下哲と菅尾友という若手オペラ演出家と宮本亜門の鼎談で、宮本のレベルが低いのはここでも明らかにされた。
田尾下も、菅尾も、実は音楽大学出ではなく、海外でオペラ演出の助手をして経験を積み、今は日本でも活躍されているらしい。
こういう若者が出てくる時代になったのだと思うと時代の変化を感じる。

最後は、茂木健一郎と宮本亜門の対談で、まるで漫才だった。
だが、この漫才で唯一つ意味があったのは、来月宮本亜門が演出する『蝶々夫人』に茂木が言及した件で、
「蝶々さんをゲイにしたら」という発言だった。
これは亜門を揶揄した台詞かどうかは分らなかったが、蝶々夫人をゲイにするというのは、面白いアイディアである。
そして、最後でピンカートンに騙されたと見ていた観客も、本当は蝶々さんはゲイで、それに実はピンカートンも騙されていた、という日本のゲイの芸のすごさを知らしめる。

茂木健一郎の話を聞くのは初めてだが、こんなに観客に媚びる人とは知らなかった。
ただ一つだけ良いと思ったのは、「新国立劇場の観客がお義理で、良くない」とのことで、これはそうである。
新国立の演劇の客がひどいことは以前から私が言っていることだが、オペラの観客もそうだったのだ。
だが、これは仕方あるまい。
明治以降、音楽が知的教養としてしか伝えられてこなかったクラシックでは当然のことで、今やジャズもそうなりつつあるのだ。
神奈川芸術劇場

『廃絶芸能』 SP講談 二〇世紀之大衆芸能

2012年10月08日 | 大衆芸能
新しいホームページに移行するつもりだったが、まだコメントが設定できないなど完全ではないので、当分はここに書くことにした。

岡田則夫さんが、高円寺の円盤で隔月で行っているSP講談、今月は廃絶芸能ということで、明治、大正、昭和初期には盛んで、レコードも出たが、今はほとんどやる者がなく、消えてしまった芸能の特集。
詳しくは、岡田さのページをご覧いただきたいが、ともかくこんなにも多くの芸能がかつてはあったのかたあらためて驚く。
中では、富士松喜美太夫の新内流し『郭情緒新内流し』、岡本松旭の源氏節『佐倉宗五郎』、糸入講談という美当一調の『決死隊』がすごかった。
富士松では、声色がすごくて、沢田正二郎をやった。沢田は、映画にも出ているが、サイレントなので、声は聞いたことがない。
今回、声色で聞くと、台詞廻しも声の質も、島田正吾、辰巳柳太郎によく似ていることがわかった。

岡本松旭は、源氏節と称して名古屋にいた人らしい。源氏節と言うのは、平家琵琶に対してのものとのこと。
ともかく声も大きく、節回しも上手いのに本当に驚く。やはり、自分で一つの流派を作るような人は抜群に上手いのだろう。

美当一調の糸入講談は、講談浄瑠璃とも言ったそうだが、要は講談であり、話は日露戦争を題材にした『決死隊』
後の肉弾三勇士と同じように、日露戦争の美談、勇猛譚は、当時の大衆芸能に多く作られたが、これは当時はまだテレビもワイドショーもなく、こうした芸能がニュース報道の役割を担っていたことをあらわすものである。
また、浮世亭雲心坊の節真似、要は浪曲の物真似、『紋太郎・重友』などは、本当に上手くて、なにも物まねをせず、自分でやれば良いのにと思うほどだった。
美鳥まさるの口笛、『山の人気者』も大変面白かったが、それはまるで木下恵介の映画の世界だった。
あまり書きたくないのだが、浅草オペラ歌手で、藤原義江の最初の奥さんの安藤文子の曲も掛けられた。
この人の歌はいつ聴いても上手いとは思えない。大正時代のクラシックの歌手は、この程度のレベルだったのだろう。
この次は、12月7日で、この廃絶芸能の続きを予定しているようだ。
高円寺・円盤

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