きょうの朝日新聞記者解説は、とても、むずかしい問題『台湾問題の「平和的解決」』を扱っていた。むずかしいというのは、情動ともいうべき色々な思いが私の心に渦巻くからだ。私の世代は、中国の文化大革命、造反有理、自己批判、天安門事件を見ているからだ。
原則から言うと、中国と統一するか否かは台湾に住む人々が決めることである。それは、沖縄が日本から独立することや、スコットランドがイギリスから独立することと同じく、そこの住民が決めるべきことである。
19世紀末には、国民国家という妄想があって、民族単位で国を形成するのが良いと考えがあった。しかし、民族というのは幻想でそんなものはない。しかも、台湾は色々な歴史、文化を背負った人々が混在している社会である。
昔と違って、大国になったからといって、人々が幸せになるわけではない。大国になれば、個人の意見が国政に届かなくなる。だからこそ、現在、世界中で、小国に分かれようという声が起きているのである。
ひまわり学生運動を思い出そう。小国だからこそ、台湾の若者たちが2014年3月18日に国会を占拠して議員たちに直接訴えることができた。小国のすばらしい点は、直接民主主義が実現でき、形式的な代議員民主政の罠に陥らないですむ。
問題は、習近平の中国が、台湾の自己決定権を頭から認めないことだ。そして、経済力、軍事力を常に誇示して、力で併合しようという態度をとり続けていることだ。中国の経済的軍事的な力が高まるにつれて、力による台湾併合が現実味を帯びてくる。
心に決めるべきは、日本は、力による台湾併合にどういうスタンスをとれば良いのか、という問題である。そして、日本も、台湾と同じく、中国の経済的、軍事的な威圧にさらされている。
思い起こせば、日本は明らかに中国のおかげで1990年代のバブル後の不況を切り抜けた。新日鉄や小松製作所は中国市場のおかげで、潰れそうな状態からV字回復した。日本に弱みがあるのだ。中国頼みの経済という側面が日本にあるのだ。そして、中国と戦争する軍事力を日本はもっていない。
だからこそ、「平和的解決」とともに、「自己決定権」という原則を、お題目のように言い続けるしかないし、言い続けるべきである。日本は、軍事大国になるべきでない。そして、習近平ひきいる中国の自壊を待つべきである。
台湾の人びとが中国からの独立を希望するのも、香港の人びとが一国二制度を求めるのも、今の中国に民主主義がない、個人の尊重がないと、彼らが思うからである。
軍事というものは、際限なく経済を圧迫するものだ。中国が、民主主義を無視し、個人をだいじにせずに軍事大国に突っ走れば、必ず経済的に破綻する。経済的に破綻すれば軍事力を維持できなくなる。
それまで、日本は、台湾、韓国との友好関係と共有経済圏を強化し、あらゆる恫喝に動じず、静かに正論を吐き続けるしかない。
蛇足かもしれないが、このようなとき、中国が冬季オリンピックを来年強行するから、日本も、今年、無理をして東京夏季オリンピックを強行するというのは、ばかげている。無駄な体力を使って、日本の経済力を弱めることはない。