日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 中国も物騒になったものです。

 私が上海に留学していた天安門事件(1989年)の前後のころにも強盗殺人やら何やら血なまぐさい事件はそれなりに起きていました。

 一番ひどかったのが銃器を以て北京の学生や市民を殺りくして回った人民解放軍。……というのはさておき、当時の事件で使われる凶器はせいぜい刃物か鈍器。

 これは政府庁舎脇の掲示板に事件の紹介が貼り出されるのを定期的にチェックしたり撮影していた上での感想です。鮮血が飛散している事件現場や刃物で死傷した被害者の姿といったグロ写真つきでした。

 白黒で解像度の低い写真だったのがせめてもの救いで、これが香港紙だとカラーで紙面の4分の1から3分の1くらいを惜し気もなく使った「どうだっ」と言わんばかりの死体写真が掲載されます。

 グロ写真を目立つ扱いにする方が売れるからです。で、そうした禍々しい事件記事を丹念に読みながら悠然と飲茶を楽しむのが香港クオリティ……というか香港流です。

 真面目な話、銃器を使ったのはやはり天安門事件における人民解放軍くらいだったのではないかと思います。

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 ところが変われば変わるもので、いまや中国は銃器を使った犯罪が毎日のように発生しています。例えばヤフー香港に飛んで「新聞」(ニュース)ページに入り、そこにある新聞記事限定の検索で「廣州 槍」とか「廣州 警察」と入力して調べると銃を使った強盗、殺人といった犯罪もあれば警察と犯人による銃撃戦もあります。

 広州を深センに変えても同じです。闇市場の大量の銃器を押収したとか、ひったくりか何かをしてバイクかスクーターで逃走を図った犯人を警官が射殺したとか。

 香港の警察も状況次第で躊躇なく発砲しますけど、中国国内の警官の方が玩具を渡された子供のように喜々として射撃に興じているような印象があります。でもまあ、そうせざるを得ないほど物騒になったということでしょう。

 銃だけならまだしも、手製爆弾が使われるケースもあります。最近「爆弾を仕掛けた」とスーパーかどこかを脅迫した男がお縄になっていましたが、痴情のもつれでもドカーンとやったりする奴まで出現する有様。

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 ●求愛拒まれ爆弾で報復、5人にケガ(明報 2006/11/07)
 http://hk.news.yahoo.com/061106/12/1vv1i.html

 これまた治安の悪さで有名な広東省・東莞市で起きた事件です。ある男がかねてから想いを寄せていたカットハウスのお姉さんに意を決してデートを申し込んだら断られて逆ギレ(他人のいる前で面子を潰された?)、その女性に対し殴る蹴るの暴行に及び、居合わせた客たちが助けに入って逆に男を袋叩き。

 顔面や腕などあちこちに傷を負った男は形勢不利とみて逃走。と思ったら手製爆弾4発を携行して再び現場に現れ、そのうち1発を店内でドカーン。残る3発は逃走途上で爆発させたとのこと。負傷者5名の中には犯人も含まれているそうです。

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 爆弾を自家製造していたこと自体が驚きのようでもありますが、相次ぐ闇炭鉱強制閉鎖で爆薬がいよいよ入手しやすくなったという背景もあるでしょう。密造爆弾を誤って爆発させてしまったり、隠しておいた火薬が変質してドカーン、というのは当節珍しくもありません。

 例の「激闘武装農民」では村同士の喧嘩(械闘)に手製爆弾やライフル銃が使われていますし、広東省汕尾市で武装警察が土地強制収用に反対する農民たちを突撃銃で掃射した「一二・六事件」でも、農民たちは手製爆弾などの武器を用意していたという報道がありました。

 ……ようやく主題に入ってきたようです(笑)。上述したように銃撃戦だ何だで都市部の治安悪化が取り沙汰されていますが、実は農村部の方が深刻な状況にあるというのです。11月6日に公安部(公安=警察)が開いた全国会議でこの点の改善が重要課題として浮上しました。

 ●公安部副部長「農村部の治安問題には4つの特徴」(新華網 2006/11/06/22:12)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2006-11/06/content_5297659.htm

 ●公安機関、今後は農村部のゴロツキ勢力撲滅に重点(新華網 2006/11/06/22:16)
 http://news.xinhuanet.com/legal/2006-11/06/content_5297664.htm

 「ゴロツキ勢力」という訳語に苦しんだのですが、原文は「流氓勢力」で、この「流氓」にゴロツキ、チンピラ、下っ端のヤクザといった意味があり、そうした連中が徒党を組んでいるから「勢力」なのでしょう。

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 要するに「黒社会」というまでには組織化されていないものの、暴民が徒党を組んで横行し、「闇のボス」があれやこれやを仕切っているために農村部の治安を乱しているということです。今年1月から9月末、つまり第三四半期までの統計によると、全国の農村部で発生した殺人事件は合計8031件、傷害事件は5万9000件で、いずれも都市より高いレベルにあるとのことです。

 中国は農村戸籍人口の方が都市戸籍人口よりずっと多いですから単純な比較はできないのですが、警察部門の全国会議でこういう数字が持ち出されて「深刻だ」とされ、その対策が重要課題として打ち出されるくらいですから、農村部もまた急速に変化しているということなのでしょう。

 やはり今年1~9月の統計ですが、食糧や生産財、家畜などの盗難事件は88万件に達しているとのこと。このほか宝くじ「六合彩」(香港のマークシックスや日本のロトシックスのようなもの)の闇行為や美容室での売春が蔓延しているほか、一部の農村と鉱山地区では密造爆薬の問題が際立っており、社会に不安をきたすものとして厳戒を要するとされています。

 別の具体例としてこうした勢力が「村覇」「市覇」「菜覇」「水覇」になっているとも報告されています。「村覇」「市覇」は村や市場を仕切る勢力ということでヤクザのようなものなのでしょうが、「菜覇」「水覇」は私にはわかりませんでした。商品作物の流通や灌漑を仕切っている、ということなのでしょうか。

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 いずれにせよ、そういう行為が横行しているということは、地元の治安力では対応できないということでしょう。今回の会議では、農村部の鉱山や風光明美な観光地、または市場や養殖場の治安回復に全力を挙げろ、という通達が公安部から全国の警察部門に対して出されたようですから、上級行政部門(県とか市とか)の警察力を借りても一掃しろ、ということかと思います。

 ただ、本当に地元の警察だけでは手が出せないからそうなるのか?……と勘ぐってみたくなるのです。

 例えば闇社会のボスが行政の長たる村長(村党委員会主任)を兼ねていたとすれば、地元の警察は手を出せないのではなく、村長と癒着して荒れるに任せているのではないか、いやむしろ積極的に不埒な悪行三昧に協力しているかも知れない、と想像をたくましくさせてみたい気分があります。

 というのも、各地で発生している官民衝突、特に土地収用問題に関する案件は、往々にして村長などの勝手な土地転売と売却益の横領が発端になっています。昨年広州市・太石村で起きた「農民の民主化運動」も土地転売がきっかけになっています。

 「民主化運動」たるゆえんは、土地転売に反対する農民たちが合法的な手続きで村長罷免動議を上級行政部門である区政府に提出し承認されたからで、一時は『人民日報』にそれを評価する評論まで出ました。

 が、結局はその区政府が警察力を動員して力づくでその動きを潰しました。罷免動議に従って村長選挙が行われることになりますが、それを主管するにも委員を選出する選挙がまず行われたところ、村民が押し立てた独自候補が官製候補を全て押しのけて当選。ところが委員会に選出された民主派の農民には当局から硬軟取り混ぜた圧力がかかって「辞退」を余儀なくされました。村民を支援すべく同村を訪れた人権派弁護士が迷彩服着用の「ゴロツキ勢力」に暴行されるという事件も起きています。

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 あるいはより深刻かも知れないのは、村長のもとに村民がまとまり、1カ村まるごと「流氓勢力」になってしまうケースです。こうなると地元の警官は主力部隊として華々しく活躍しているかも知れません(笑)

 (1)調和社会に祝砲一発、激闘武装農民。(2006/02/05)
 (2)湖南省で住民同士の衝突が暴動に、武警発砲で死者100名?(2006/08/07)
 (3)またまた広東省で官民衝突、謎の4死6傷事件。(2006/02/14)

 (1)と(2)は集落間の喧嘩、つまり械闘のようなもので、事態に慌てた上級行政部門である県当局やそのまた上の市当局が武装警察などを動員するなどして収拾を図りました。

 (3)は「官民衝突」と題してありますが、実は村長自ら総大将となって村民を駆り集め、上級行政部門である鎮政府に殴り込みをかけた、という一種の「官官衝突」。あり得べからざることですが、現実にそれが発生して中国国内紙に報じられ、それによると死者も出ています。

 この3件を以て標題にあるように「土匪化への第一歩?」と断ずるのは先走りが過ぎるようでもありますけど、こういうケースは私たちの可視範囲外でも起きている可能性がある、と考えることはできるでしょう。かつまた闇市場による銃器や爆薬販売、つまり村落がそれ相応の武力を持てるだけの環境がすでに整えられています。

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 今回公安部によって開かれた「全国統治委員会全体会議」が農村の治安回復に重点を置くとしたのはそれを懸念してのものであるとともに、全国各地で似たような状況が現出していることを示すものといえるでしょう。

 「武装農民」「村落の土匪化」とまではいかなくとも、中共政権による統治機構が、その末端であり本来中共にとっての最大の支持基盤でもある村落レベルで破綻しつつあることをうかがわせるものでもあります。

 中央はもちろん、省・自治区・直轄市レベルの当局のあずかり知らぬところで、私のいう中共政権の「立ち腐れ」がすでに始まっているとみていいのではないか、ということです。

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 ●放談:中共は立ち腐れてバラけていくのではないかと。・上(2006/10/19)
 ●放談:中共は立ち腐れてバラけていくのではないかと。・下(2006/10/19)
 ●【補遺】「立ち腐れ」に対して人民解放軍はどう動く? (2006/10/20)




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 いや、本当に笑み崩れているんじゃないかと思いますよ、担当部門のお役人。ガッツポーズに万歳までしていたりして。

 9000人死んでいるんですけどねえ。

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 中国は事故に関する基準が厳格です。死者の数で出世魚みたいに呼び名が変わっていきます。

 死者10名未満(何名以上かは不明)なら「重大事故」。
 死者10~29名なら「特大事故」。
 死者30名以上なら「特別重大事故」。

 ……だ、そうです。下の記事にそう出ていました。

 ●10月に発生した重大事故、全国で合計130件、死者529名(新華網 2006/11/06/13:39)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-11/06/content_5295639.htm

 10月だけで事故死者529名?なーんだ珍しくもない。だって炭鉱事故1回で100名死ぬスマッシュヒットとかもあるじゃないですか。

 公認記録でいえば、四川省での天然ガス田のガス漏れで200名ばかり死んだのが国内最高。10月は大規模な炭鉱事故がなかったから、まあこんなもんでしょう。

 ……と思って読み流そうとしたら1行目からタイトルと全然違うことが書いてありました。10月に全国で発生した各種事故件数は合計5万3173件、死者数は合計9007名。

 1カ月だけで事故死者数が9000名!総人口が日本の10倍と雜に計算しても、日本でいえば1カ月に事故で900名死んでいることになります。

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 事故ですから殺人など犯罪による死者は含まれていません。それから発表したのが国家安全監督総局ですから、ここでいう「事故」は生産活動中のもの、つまり労災であって、たぶん仕事絡みでない事故は計算に入っていないと思います。

 さすがにスケールが違いますね。

 でも、担当部門のお役人さんたちはこの統計によっしゃーと言ったかどうかは知りませんが、この結果をポジティブに受け止めていることと思います。前年同期比で減少していますから。

 具体的には、事故件数で5769件、死者数は964名の減少で、それぞれ9.8%減と9.7%減。約1割減らした訳ですからおめでたい出来事といえるでしょう。……てことは、去年の10月は労災で約1万人死んでいたんですね。

 人海戦術の伝統いまなお健在、安全面にかけるコストは省いてそれを人命でカバー。さすがです。人海戦術をやめたらコスト増で経営が立ち行かなくなりますし失業者が都市にも農村にもあふれてしまいます。そうなると社会状況がいよいよ悪化して困るから死んでくれ、どんどん死んでくれ、というのが統治者の本音なんでしょうねえ。

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 ついでに紹介しておきますと、この10月は「重大事故」「特大事故」「特別重大事故」のいずれもが前年同期比で減少ないしは昨年並み、という好スコアをたたき出しています。具体的には、

 ●重大事故:合計130件(19件減少で12.8%減)・死者529名(72名減少で12.0%減)。
 ●特大事故:合計10件(3件減少で23.1%減)・死者154名(69名減少で30.9%減)。
 ●特別重大事故:合計1件(前年同期比に同じ)・死者30名(4名減少)。

 この3種類の事故死者数を合計しても9007名の1割にもならないのは、小規模な事故が全国各地で発生して、そのコツコツとした地道な積み重ねがあったということでしょう。

 種類別にみるとやはり鉱山系が強いです。特大事故でいうと、死者154名のうち鉱山系だけで101名。危険物・化学系が13人、件数は1件となっていますから工場ドカーン系だと思われます。これは事故なのか事件なのかわかりませんね。で、残る40名は交通事故(2件)となっています。

 いきなり9007人という数字を見せられて驚いてしまいましたが、確か昨年か一昨年は1日平均の労災死者数が300名余りでしたから、計算してみると突出している訳ではありませんね。……いずれにしても、役人にとっては指標が全てですから、この結果には満足していることでしょう。

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 この今年10月の労災による1日平均事故死者数は290.6名。300名を割ったといってもやっぱりすごい数字です。

 設備導入などの合理化をすればこの数字はもっと減るのでしょうが、それがたとえ経営的にはOKでも失業者が都市にも農村にもあふれてしまいます。そうなると社会状況がいよいよ悪化して(以下略)。

 ……と、このあたりが中国経済のアキレス腱ですね。産業構造のグレードアップに迂闊に踏み出せないというのが一点。踏み出そうにも民度が低くて無理、というのもありますが、人海戦術型でしかも高度成長を維持しないと失業者が都市にも農村にもあふれて(以下略)、ということになります。

 要するに全力疾走をやめることができないのです。通年GDP成長率7~8%の持続的安定成長、なんていうのは画餅ではないかと思えてきます。実際に中央政府は毎年その方針を打ち出していますけど、結局は10%台の成長になってしまいます。

 今年もそうなる見込みだとか。10.5%以内に収まると国家発展改革委員会では算盤をはじいていますが、さてどうなることやら。

 ●「新華網」(2006/11/06/15:14)
 http://news.xinhuanet.com/politics/2006-11/06/content_5296159.htm

 ちなみに3月の全人代(全国人民代表大会=立法機関)における「政府活動報告」で温家宝・首相が掲げた数字は8%でした。

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 むろん各地方政府が中央の言うことを聞かずにどんどん走るからそうなるのですが、地方政府には地方政府の言い分があるでしょう。

 ●上海のような国際的大都市になりたい。
 ●高度成長でないと利権の旨味が十分でない。
 ●よその地区に負ける訳にはいかない。

 ……などという全体の状況など眼中にない一種の地域エゴ、中国語でいうところの「本位主義」がまずあるでしょう。

 ただそれだけではなく、

「自分のところの人民を食わせなきゃならない。職をあてがってやらなきゃならない」

 という理由もある筈です。失業者が街にあふれて職にあぶれた出稼ぎ農民がスラム街を形成するようになっても、中央政府は面倒をみてくれませんからね。

 この成長率には中国国内の経済学者の間でも意見が割れていて、

「10.5%じゃまだまだ。11%がちょうどいいスピードだ」
「今年第三四半期までのGDP成長率が10.7%。明らかにオーバーペースだ」

 といった論争が早くから起きています。

 ●「新華網」(2006/10/23/10:43)
 http://news.xinhuanet.com/fortune/2006-10/23/content_5237870.htm

 ただその論争が純粋に学術的なものかどうかは不明です。手綱を引き締めたい側と突っ走りたい側がそれぞれ学者を雇って喧嘩させているようにみえなくもありません(笑)。例えば昨春の反日騒動、胡錦涛・総書記サイドをイジメたくてアンチ胡錦涛グループが「反日」を掲げて揺さぶりをかけたのと同じようなものです。

 当時、「反日」が結局はお題目(政争の具)でしかなかったように、成長率論争もどこかズレていて、利害が相反するグループ同士の代理戦争のようでもある、ということです。

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 ……1カ月に労災事故死者9007名という数字から話がつい別の方向へ流れてしまいましたが、最後はお約束のオチということで、

「それでも人口は増える一方」

 と締めておきます(笑)。

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 ●それでも人口は増える一方。(2005/08/09)




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 最近更新が滞ってしまい申し訳ありません。もちろん連休を享受していた訳ではなく、逆に突然忙しくなってしまったのが第一の理由です。

 もう一点はここ数日、心が乱れてしまって真似事とはいえ中国を「観察」するだけの心理的余裕が持てないでいるのです。

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 つい先日、大学時代の恩師と十数年ぶりに連絡がとれました。

 私は中国・香港・台湾・東京と流転する間に当然ながら引っ越しを繰り返していますので、その間に恩師や学生時代の友人の連絡先が書きとめてあるアドレス帳を紛失してしまいました。

 ……いや、どこかにしまってある筈なのですが、天安門事件当時の資料など段ボール箱に詰めたまま実家に置いてある荷物もたくさんあって、探しようがないのです。

 以前当ブログで書いたことがありますが、私には卒業した大学に対する母校意識というものが全くなく、私にとっての大学は、単に卒業証明書を発行してくれる事務所でしかありません。

 学生時代の私はまことに不遜で若年活気のカタマリのようなもので、自分の渇きをいやしてくれない授業は全て「愚劣だ」で片づけ、全く自己流のカリキュラムで自分を躾けていきました。

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 そういう異質さが逆に幸いしたのか、恩師の知遇を得ることができ、卒業するに至るまで、まさに御恩というにふさわしい教えを受けました。

 中国のこと、中国に関係ないこと、人生全般にわたることなど、恩師にとっては単なる雑談だったかも知れませんが、私にとってはその全てが宝物で、全身で聴き入るようにしてそれを自分の血肉にしようと努めました。

 帰宅するとその日に学んだことをノートに書き留めて忘れないようにもしていました。……いまではそのノートもどこにしまったのか、アドレス帳同様に行方不明なのですが。

 いわば恩師の研究室、恩師との対話が私にとっての母校です。

 私の同期生には私より優秀な学生が何人もいました。大学のカリキュラム通りに授業に出席して、ちゃんとレポートを出して「優」をとる、というタイプの、私のように「愚劣な授業」は全て替え玉に任せていたのとは正反対の勤勉な学生たちです。それでも私のように、授業時間外でも教官から親身に丹念に育てて頂いた学生は私だけだと思います。

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 日本を離れてから各地を転々とする間、アドレス帳を紛失したこともあるのですが、私は恩師に連絡することに躊躇し、いつもその機会を先延ばしにしていました。頂いた御恩にふさわしい成長を遂げていないという認識が自分にあったからです。

 大学卒業、就職、3カ月目に就職先が倒産、香港の日系企業に就職。……というドタバタに始まって、香港・台湾時代の私については当ブログで折りにふれて紹介しています。が、業界の専門知識や統率のノウハウといったことを別にすれば、さほどの成長の跡もみられない……ありていは卒業までに恩師に教えて頂いた資産を喰いつぶしてきただけではないか、という一種のひるみが常に私の中にあったからです。

 恩師に対する申し訳ない気持ちと、私自身の情けなさに対する自責の念です。

 米国では三流のプロ野球選手が日本に助っ人外人として来日するや一流の仕事をすることがあります。それと同じで、外地にいたころを振り返ると、日本よりずっと低いレベルで高い評価を得ることのできる仕事環境に安んじて、つい怠惰に流れてしまった、という悔恨が私にはあります。「後悔先にたたず」ではなく「後悔あとをたたず」です。

 それが最近、歳を重ねてしまったことと、健康に不安があるため自分の残り時間がどれほどあるかわからないという気持ちが先に立って、とにかく一度、学生時代に頂いた御恩に対する御礼と、不肖の弟子になってしまったことへのお詫びを伝えなければ、という心境になりました。

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 ネット上で検索に検索を重ね、ようやく恩師への連絡の仲立ちを頼める筋にたどりつきました。10年以上も音信不通のままの教え子とは話をする気もない、と言われるのを覚悟しつつ、私の連絡先と、一度でいいからお礼とお詫びを申し上げたい、という言伝をお願いしました。

 あにはからんや、その翌々日に恩師から電話を頂いたのです。「御家人君?……××です」と受話器から上品で歯切れのいい日本語を耳にした瞬間、私は絶句してしまいました。電話の主が恩師であることは最初の「御家人君?」ですぐにわかったのですが、それが信じられなくて口から言葉が出なかったのです。

 恩師は「うれしい、ああうれしい」「よかった、本当によかった」を連発して私との「再会」を喜んでくれました。私はもうそれだけで胸が一杯になりました。

 恩師の近況を聞き、昔話にも花が咲きました。

「天安門事件のときは行っちゃダメって言っているのにあなたは行っちゃったんだから」

 と、デモ参加禁止令を平然と破って最前線に飛び出していった私のことが改めて笑い話になったりしました。……その合間にふと、

「私は、この学生は必ず中国研究の道に進むと思っていました」

 と言った恩師の言葉に私は胸をつかれました。ああやっぱり先生は目にかけて下さっていたんだ、それなのに……という思いがあふれてきてしまいました。

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 私は学位とか大学教授といったものには全く興味がありません。あれば大学院に進んでいたでしょう。だから中国研究者のはしくれにもならなかったことを悔やんでいる訳ではありません。

 天安門事件のころと同様に、私は実社会の最前線の塹壕で香港人や台湾人と肩を並べて戦っている方が性に合っているようですし、私自身も選択できるなら象牙の塔よりは現在のような仕事を躊躇なく選ぶでしょう。

 実は現在の仕事に就いてから3回、私からみればとても近寄れないような複数の大企業(多国籍企業?)からスカウトの打診を受けたこともあるのですが、それも全て断りました(なぜ私に白羽の矢が立ったのか詳細は不明ですけど、あれを受けていれば世間的には勝ち組でしたねえw)。

 そういう大きな会社なら私が断っても他にも候補者はいくらでもいるでしょう。でもいまの仕事(本業&副業)は、私が抜けると代わりを務められる日本人はまずいません。代わりを務めようという酔狂な奴などいない、という方が正確かも知れませんけど(笑)。

 私はいまの仕事……本業・副業ともに誇りを持って、全力で取り組んでいるつもりです。ただ、先生から頂いた御恩に見合った成長ができなかった、本当ならいまの職業でももっと高いレベルの仕事ができなければいけないのに、という申し訳なさ、情けなさ、悔しさといった思いが、恩師の言葉で一気にこみあげてきてしまいました。

 私にとって中国関連といえば、せいぜいこのブログくらいです。でも所詮はこの程度のものでしかありません。素人が娯楽としてやっていることですから、広さも深さも鋭さもなく、とても恩師に見てもらえるようなものでないことは自分でもよく承知しています。……でも、

「今度ぜひ会いましょう。ゆっくりお話をしましょう」

 という恩師の言葉に、救われたような、激励を受けたような気持ちになりました。私は基本的に仕事人間ですし、進むべき方向もはっきりしていますから、恩師の激励を胸に精進を重ねていかなければ、と思いを新たにした次第です。

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 ただ、ざわざわしたような思いがまだ気持ちの中に残っていて、ここ数日は記事漁りをするのが精一杯でした。週明けからはいつもの調子に戻れるよう頑張ってみます。

 申し訳ありませんが、気持ちが落ち着かないままなので今回はコメントの受け付けを遠慮させて頂きます。ご了承下さい。



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