日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 前回は失業の話をしているうちに暴動に話題がすり変わってしまいました。私が確信犯的にすり変えたといってもいいのですが(笑)。

 いや、今回の話を一度書いておきたかったのです。

 前回は大学新卒者のケースを引き合いに出しましたが、労働人口が雇用機会を上回るというのは恐らく大学新卒者だけではないでしょう。大卒者ばかりに光が当てられますが新卒者は毎年500万人にも達せず、以前に比べれば人数が大幅に増えたことで「劣化」しているものの、少数派であることに変わりはありません。

 そうした大卒新卒者が「卒業即失業」となったとき、ニートになったり就職活動を続行したりします。そういう境涯に落ちないように、卒業前に党が強力に勧誘している志願制の「田舎で村幹部に就任」という前途真っ暗の人身御供を泣く泣く選択して地方に下る学生もいます。

 「前途真っ暗」とは、田舎の村の幹部を振り出しにどこまで這い上がれるかなぞ、多寡が知れているからです。例えば「白領」(ホワイトカラー)と比較すれば、社会人としてのスタート地点から埋め難い格差がついてしまうことは言うまでもありません。ても「白領」になれる可能性は低く、親のスネをかじられるだけの余裕が家庭になければ、この道を選択するなり、自分の目標からは遥かにレベルの落ちた職場に身を委ねるしかありません。

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 ニート組と就職活動続行組は要するに親のスネをかじっている訳ですが、平均的市民の家庭であればスネについている肉なんて大したものではないでしょう。ただ一人っ子政策で幼少の頃から子供大事で蝶よ花よと育ててきている親、またそういう育てられ方をした子供による一種のもたれ合いが、中国レベルもでニートを出現させる土壌になっていると思います。

 それから、就職難は何も大卒に限られた問題ではないでしょう。高卒以下とか出稼ぎ農民、リストラされた中高年、それに失地農民(当局による土地収用で耕地から引きはがされた農民。金銭などによる補償はあるものの、往々にして生活レベルが悪化する)でも多少の差こそあれ、似たような状況にあるのではないかと思います。

 で、これら失業者が都市部における暴動予備軍となります。都市暴動といっても、なにも「就業難」が発端である必要はなく、「反日」とか「汚職」とか「土地強制収用」「党幹部の目に余る振る舞い」ひいては漢族vs回族といった「民族衝突」など、「祭」の原因は何でもいいのです。

 そういう騒ぎが起きたときに、チンピラや失業者が鬱憤晴らしや「官」への恨みつらみを散じるために、いつの間にかこの連中が騒ぎの前面に出て来て暴力的行動のの主役になっていたりします。いわば暴動予備軍といってもよく、中国の各都市はそういう不安要因がここ数年で急速に高まりつつあるように思います。

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 ただ過去のケースが示しているように、都市暴動というのは散発安打に終わることが多く、他の都市にも飛び火して騒ぎが大きくなって……という可能性は低いでしょう。暴動の発端となった事件に対する怒りが他の都市では共有されにくいからです。

 逆に「敵」の姿が誰の目にも明確で、その相手を敵とする共通認識が中国国民に広く形成されていれば、暴動が他の都市へも飛び火し、それがプロの活動家たちによってベクトルの向きか知らず知らず変えられて、倒すべき「敵」がいつの間にか中共当局になっていた、というプロセスをたどる可能性が出てきます。

 昨春の反日騒動がその典型例です。「反日」という中国国民にとってわかりやすく怒りをぶつけやすい対象、これは江沢民による反日風味満点の愛国主義教育が十数年にわたって行われたこととも関係があるでしょうが、日本・日本人を敵とする共通認識が形成されていたために、全国各地で週末になると反日デモが展開されるという異常な状況が現出しました。

 この反日騒動はそもそも政争を発端とするものだったと私は考えていますが、当初の思惑を超えたこの緊急事態には反日を煽った政治勢力も、その政敵である反日を抑え込もうとしたサイドも「中共人」として戦慄してしまい、慌てて手打ちを行って事態の沈静化に努めることになりました。政争をやっていられるのも某かの利権を手にできるのも、自分が「中国人」よりも「中共人」であることを肌でわかっているからです。

 その後、中国国内で民間組織主導の反日活動が徹底的に抑え込まれているのも、昨春の経験で中共指導部が「反日」という共通認識がもたらす怖さ、そしてその尻馬に乗って民衆が騒ぎ、下手をすればどうなるかわからない一種の恐怖感をがあるからでしょう。この一連の反日騒動で「暴動予備軍」か果たした役割は決して小さなものではありませんでした。

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 こういう明確に「敵意」向ける対象が共通認識となったケースを反日騒動以外に例を求めるとすれば、文化大革命でしょうか。これは権力闘争として発動された運動が理屈をつけて明確に政敵潰しを行ったため、また紅衛兵という未熟なティーンズを第一線で走り回らせたために、やはり全国的な混乱となりました。現在のように海外プレスや国際社会でのイメージということを顧慮する必要があれば、10年に及ぶ人為的惨禍とはならなかったでしょう。

 ……という訳で、暴動予備軍が年々拡充されて不安要因が高まっている都市部の暴動について、実のところ私はあまり期待していません。事件が起きれば祭だ祭だとばかりに当ブログでも取り上げることになるでしょうが、「反日」に代わる何事かがない限り、他の都市に飛び火することなく、散発安打に終わる可能性が高いからです。

 ところでなぜこういう話をしているかというと、もし今後中共政権が崩れていくとすれば、どういう展開になるかということを考えてみたいからです。

 一人当たりではなく全体の規模としてみれば世界有数のGDP大国となった中共政権が崩れ、混乱が生じることは国際社会にとっても困ることなので、そういう動きが出れば最悪の事態にならぬよう国連なり多国籍集団なりが対策を講じてくれるでしょう。

 ただ、金属疲労というものがあります。特に中共政権の場合、一党独裁という政体を維持するために余計なコストを随分かけていますから(例えば各職場・機関への党委員会設置など)、そういう高圧釜状態を続けていく力にも自ずと限界があるでしょう。

 胡錦涛が志向しているように、準戦時態勢ともいえる強権政治で構造改革を断行できれば、中共政権の延命を図ることはできるでしょうが、これはあくまでも一時的な延命措置であって、病根を除去して健康体に戻すという性格のものではありません。

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 トウ小平、江沢民と野方図な改革・開放政策を続けてきてしまったために、具体的には、

 ●中央政府と地方当局の利害衝突を調整するシステムを組み入れられていない。
 ●改革・開放の軸足が都市部に移ってからは農村振興策が疎かになった。
 ●故趙紫陽・元総書記が行おうとした「経済体制改革と政治体制改革を並行して進める」という本来のロードマップに反し、この20年ばかり経済改革一辺倒という片肺飛行を続けてしまった。
 ●その帰結として様々な格差の拡大と党幹部による汚職の蔓延。

 ……といった理由により、中共政権ががっちりと全国を束ねる力はどんどん弱体化しているのです。改革・開放政策は計画経済に対するアンチテーゼとして分権化と競争原理を導入するもので、それが深化すれば当然ながら中央政府の統率力は弱体化せざるを得ません。

 ただそれを防ぐための調整メカニズムをシステムに組み入れることが現実に比べ大幅に遅れていることで、現在のような袋小路の状況が現出しているように私は思います。

「そこで中国分裂論ですよ」

 という合いの手が入るかも知れません(笑)。結果的にはそういう形に落ち着くのかも知れませんが、党指導部が二つに割れて大喧嘩するとか、軍区が地元当局と癒着することで内戦なり武装割拠状態が出現する。……といったプロセスに私はリアリティを感じられません。

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 愚考するに、混乱はそういった上層部ではなく、枝葉の部分、あるいは中共にとって最大の支持母体である筈の根っこの部分というべきかも知れませんが、村落レベルの末端組織から立ち腐れていくのではないか、と思えてならないのです。

 中共に取って代わるべき有力な対抗勢力、つまりは野党が存在しないため、ルーマニアなどかつての東欧の社会主義国のように一夜にして政権崩壊、といったことが起きる可能性は低いと思います。

 しかも当時の東欧諸国に比べれば、現在の中国の民度ははるかに低い。民度が低いということは自分の社会に対する視野が狭く、問題意識が生まれにくい。……つまりは自分の利害に直接影響してくる事態を何よりも優先するということになるでしょう。

 そこで中共にとっての末端組織、村落レベルからの立ち腐れから全ては始まるのではないか、というのが私の見方です。

 中共政権は村落に至るまでの精密な統治システムを確立することに成功しましたが、いまその末端あたりから腐り始めているように思います。ええ、すでに終わりの始まりという段階に入っているということです。

 注目すべきだと思うのは、この「立ち腐れ」が決して官民衝突の形に限られていないということです。


「下」に続く)




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