日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 広東省汕尾市の農村で昨年の12月6日、土地強制収用に絡んだトラブルに抗議する農民たちを、武警(武装警察=暴動鎮圧用の準軍事組織)が突撃銃で掃射して村民に多数の死傷者(公式発表は3死8傷)が出た事件を御記憶でしょうか?

 その「12.6事件」の舞台となった東洲村がいま現在再び武警約1000名に包囲され、一触即発の緊迫した事態に追い込まれているのです。

 多数の警察車両も出動し外部との往来が遮断されているため、地元当局による実力行使=武力弾圧は時間の問題とみられています。

 「12.6事件」のおさらいはこちらでどうぞ。死傷者数など事件の全容はいまでも謎のままです。

 ●官民衝突で武警が実弾射撃、農民に多数の死傷者。(2005/12/08)
 ●「調和社会」が揺れている。(2005/12/09)
 ●「12.6」事件続報:モデルケースになるのか?(2005/12/21)

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 先日も紹介しましたが、農村部での官民衝突といえば、その原因は土地収用に絡むトラブルが圧倒的多数を占めます。具体的には、

 (1)地元当局が農民に無断で土地を収用・売却した。
 (2)地元当局が農民に説明した以上の面積の土地を収用・売却した。
 (3)地元当局から土地を購入したデベロッパーが開発を強行。
 (4)地元当局の関係者が売却益の一部を横領。
 (5)農民への補償金が十分でない。
 (6)地元当局が補償金の目安となる土地評価を表向きは不当に低くランク付けして農民への補償金を抑え、現実には内緒で実勢価格で転売し売却益の一部を横領。
 (7)補償金が農民の手に渡るまで地元当局のあちこちでつまみ食いされ、全額が農民に支払われていない。
 (8)土地収用に伴う移転先が耕地に適しておらず、転業を余儀なくされる(しかしわずかな補償金では転業資金にもならない)。

 ……となります。東洲村の場合、「12.6事件」は(1)及び(3)~(5)が該当します。しかも農民たちは耕地を事前に諮られることなく取り上げられた上に、補償金はゼロという極端なケース。

 そこで抗議活動に立ち上がったところ武警から突撃銃の実弾射撃を浴びて死傷者・逮捕者多数を出す破目となったのに対し、当局側は現場指揮官を処罰しただけという大甘裁定です。逮捕された村民は十数名にのぼり、いずれも実刑判決が出ています。

 東洲村の農民たちにとってこの一連の振る舞いを平然とやってのけた地元当局はまさに悪行三昧の鬼畜、中国語でいえばさしずめ「官匪」とでも表現するしかない存在といえるでしょう。

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 今回の一件はその「12.6事件」の汚職疑惑を引きずった形で発生しました。農民たちは「12.6事件」で流血の惨事を身を以て体験し、逮捕される村民まで出たのになおも屈せず、抗議運動を続けていたのです。耕地を取り上げられて補償金ゼロでは身ぐるみ剥がれて路傍に放り出されるようなものですから、生存を賭けて抗議を続けざるを得ないともいえます。

 事件の発端となったのは実に些細なことでした。土地強制収用に対する村民への補償を求めて運動を続けてきた村民代表の陳簽さんが11月9日、

「反貪官」
(汚職役人にNo!)

 という横断幕を村内に掲げたところ、上級行政部門である紅海湾の公安局(警察署)に連行されたのです。横断幕を掲げて村民たちと抗議集会を開いたためという報道もありますが、いずれにせよ陳さんは警察に拘束されたまま音沙汰なし。

 これに業を煮やした村民たちが翌10日、陳さんの釈放を求めて政府庁舎(東洲街道弁事処)に押し掛けたのに対し、当局はこれを一切無視。「官匪」のこの対応に恨みつらみの蓄積している農民たちは怒りを爆発させ、その場にいた職員8名を拘束して村に連れ帰り軟禁、これを人質として当局との談判に臨もうとしました。

 ところがさすがは「官匪」だけに当局は話し合いを拒否。その一方で、

「陳簽は懲役3年から10年の実刑判決になることが確定しているらしい」

 との噂を振りまき、人質を解放せよと言うこともなく、16日から警官や武警を出動させて東洲村を包囲し、外部との往来を封鎖して村を孤立させる挙に出たのです。

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 村民代表のひとりは当局のこの行動について、陳さんを釈放せず談判も拒むことで村民を激怒させて人質を虐待するように仕向け、全ての責任を村民におっかぶせようというつもりだと指摘。

「陳さんは虐待されているという噂も流れているが、その手には乗らない。こっちは人質には衣食を支給するなどしてちゃんとした待遇を与えている」

 と米国系中国語ラジオ局「RFA」(亜洲自由電台)の電話取材に答えています。包囲している警官や武警については、

「千人近くいる。いまどこから村に攻め込むか、その場所を探っているようだ。消防車を見たので、連中は去年の12月のように銃を使うことを避け、高圧放水でこっちを撃退するつもりだと思う」

 と指摘。別の村民は村内では電話も遮断され、
「通じるのはIPフォンだけだ」(たぶんSkype)とし、村民の多くは衝突に巻き込まれるのを恐れて外出しようとせず、一方で村民代表を拘束したことに抗議して17日は学校も含めたゼネストに入ったため、村の生産活動はマヒ状態だと話しています。

 RFAは東洲警察署への電話取材も試みたものの、
「知らない」の一言で切られてしまったそうです。

 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/11/200611162013.shtml
 http://www.rfa.org/cantonese/xinwen/2006/11/16/china_clash_guangdong/
 http://www.rfa.org/cantonese/xinwen/2006/11/17/china_clash_guangdong/

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 すでに小競り合いが発生したという情報もあります。

 17日15時ごろ、役人が武装した防暴警察(機動隊)の一隊を引き連れて村内に入り、人質全員の奪還と抗議運動のリーダー格である村民2名の逮捕を企図したというもので、村民たちの多くがこれを目撃したようです。

 一行は村内の後鋪という住宅地まで来たところで、わらわらと飛び出してきた多数の村民に包囲され、衆寡敵せずあえなく退散。

 村民のリーダー格の一人は望楼のようなものがあるのか高台にいるのか、ともかく村全体を見渡せる場所にいて何事かあればドラを打ち鳴らす手筈になっているとのことです。

 人質を軟禁している場所は村の中心部。その一帯は地形が狭まっているため当局側は大軍を展開しようがなく、小部隊で侵入してくれば村民が周囲から反撃しやすいという地の利を選んでおり、農民たちが「12.6事件」の再来に脅えつつも、臨戦態勢を整えていることをうかがわせます。

 http://www.rfa.org/mandarin/shenrubaodao/2006/11/17/dongzhou/

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 その後、現在にいたるまで新たな情報は入ってきていませんが、警官や武警で村を包囲し、警察車両に加え消防車まで出動させている以上、当局の実力行使は必至かと思われます。

 話し合いを拒否していきなり一触即発の状況をつくり出した「官匪」ですから、高圧放水や催涙弾の使用にとどめるといった甘い期待はしない方がいいでしょう。

 人質を奪還できないとみるや、また突撃銃を乱射して人質と周囲の村民を射殺しておいて、その罪を村民になすりつける可能性もあります。あの「12.6事件」以降、「3死8傷」と逮捕者十数名の中に名前がない村民で、いまも行方不明のままになっている者がいるといわれています。

 この事態が海外で報じられることで広東省当局など上級部門の介入が行われ、合理的な水準での補償金が村民に支払われることを願うのみです。

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 それにしても「また広東省か」ですね。つい先日順徳市の食糧倉庫包囲事件が起きたばかりです。まあ香港メディアにとっては庭のような場所にあるので割を食っているとみるべきでしょう。同じような事件は全国各地で頻発している筈です。

 例えば四川省・成都市では軍需工場で労働争議(画像あり)。

 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/11/200611172332.shtml

 甘粛省・慶陽市の国有企業でも同じく労働争議(画像あり)。

 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/11/200611170315.shtml

 いずれも現在進行形の事件です。

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 ついでに10月末に江西省で発生した学生暴動も置いておきますか(画像だけでお腹一杯)。

 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/10/200610271052.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/10/200610271055.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/10/200610271058.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/10/200610271100.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2006/10/200610271106.shtml

 こうした暴動や官民衝突が各地で頻発するうちに連携が成立し、より大きな動きへ……という展開を期待される向きも多いかと思います。

 いや、当初は私もそれを期待していたのです。……が、むしろ今回紹介した東洲村のケースのように、「官匪」の横暴に対抗して、あるいは「激闘武装農民」のような他村との争いを通じて、村々が個々に自衛せざるを得ない状況下で武装を整えていき、中共による統治機構が末端から腐り始め、秩序が崩れていくのではないかと最近は考えるようになっています。

 その過程で離合集散やら合従連衡が成立して割拠に似た状況が出現してくることになるでしょうが、それにはもう少し時間がかかるように思います。

 一方の都市部は流民次第です。要するに失業率。失地農民や出稼ぎ農民、就職浪人や「4050」と呼ばれるリストラされた中高年層などの中から、「その日暮らし」の境遇に墜ちていく者が増えていくほど可燃度が高くなります。

 ……つい余談に流れてしまいました。東洲村の件は続報待ちです。地元当局が展開させた治安部隊を撤収させない限り、早晩事態に変化が訪れることになるでしょう。




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