ウイグル人による抗議デモに対し治安部隊が武力鎮圧を断行したことで事態が死者156名・負傷者1080名を出す騒乱に発展した新疆ウイグル自治区・ウルムチ市での一件、日本のテレビでもニュースなどで取り上げられていますから、大略を御存知の方が大半かと思います。
当局が大挙繰り出した治安部隊は、デモ隊に実弾射撃を行っただけでなく、警察車両(武警の装甲車?)をデモの隊列に突っ込ませて片っ端から轢き殺していったといわれています。デモ隊だけでなく近くにいた漢族(中国人)で巻き添えになった人も相当数いることでしょう。
ただし、事件による死傷者数は死者156名・負傷者1080名という6日19時の時点の数字で止まっていますから、当局は騒乱自体の幕引きを急いでいるのだと思います。
もっとも、デモに関与したと当局が認定したウイグル人を警官隊や武装警察が根こそぎ連行したままです。その数たるや約1500名というのですから、尋常ではありません。
事件を受けてウルムチへと大挙屯集した海外の報道陣に対し、当局は鎮圧は一段落したとみたのか、7日に報道陣に対し恐らく強制的に「取材ツアー」のようなものを実施しました。「ツアー」なのは勝手に取材されては困るので当局にとって都合のいい場所だけを見せる、という含みがあります。
ところが。焼き打ちされた車などが並んでいる場所を「ツアー」が撮影しているところに、噂を聞きつけたウイグル人女性約200名が集まって、連行した親族を返してほしいと涙ながらに陳情。当局もこれを持て余したのか、予定時間を切り上げて「ツアー」一行をバスに押し込み、他の場所へと移動させました。
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もっとも、当局の頭をより悩ませたのは、地元の漢族住民がウイグル人に対抗して鉄パイプや棍棒、包丁などを手にして集まり、大通りを練り歩き始めたことかも知れません。
「やられたからやり返す。今度はおれたちが奴らをやっつける番だ」
という剣呑な空気を漂わせての示威活動。ウイグル人が経営する商店を襲撃したという情報もありますが、ともあれ警官隊はこの連中に催涙弾を放って追い散らした模様です。ウルムチ市には万一に備えて夜間外出禁止令が出されました。
ちなみに、「今度はおれたちがやる番だ」という空気で漢族が動き始めたということは、武力弾圧による死者の大半はやはりウイグル人、ということを感じさせます。
ともあれ。もともとウイグル人の土地だった新疆ウイグル自治区の人口は、当局の積極的な植民政策により、いまでは漢族が過半数を占めています。手元に資料がないので確認できませんが、ウルムチ市も区都なだけに漢族人口の方が多いかも知れません。
この漢族が動き出して治安部隊と本格的な衝突となれば、より大規模な騒乱に発展する可能性があります。日頃から虐げているウイグル人の異議申し立てに対しては叩きに叩いて根こそぎ連行すればOK。でもそういう民族衝突より「漢族vs漢族」の方が怖い、と当局は考えているかも知れません(治安部隊が全員漢族という訳ではありませんが)。
もし漢族の不満分子が治安部隊と衝突して死者でも出ようものなら、これもこれで大変な騒ぎになりそうです。ウイグル人には虐げられてきた怒りがありますが、漢人にも当局によるウイグル人懐柔策のために我慢してきた部分があるでしょう。一端火がつけば、どういう騒ぎになるかわかったものではありません。
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そんなことを考えていたら、今年が55周年であることを思い出しました。新疆生産建設兵団のことです。
これはいわば植民政策の尖兵。この地域に駐屯していた人民解放軍から一部を抽出して一種の屯田兵に仕立て上げたものです。軍籍はありませんが、いざというときには軍事組織として機能するようになっています。
その重要性から、指揮系統も国と地元当局の二元管理。「兵力」は現在約250万人です。
この新疆生産建設兵団が今回の武力鎮圧に関与したかどうかは目下のところ不明ですが(たぶん当局は通常兵力を投入したと思われます)、実はこの組織自体が、
「こんな場所で埋もれ木になるのは御免だ」
「原籍地に帰してほしい」
という鬱屈を日頃から抱え込んでいることは、ウイグル統治において党中央の懸念材料のひとつになっています。
実際、その主張を行動に移して暴動が発生した、という伝聞が流れ、党中央からお偉方を派遣して慰撫に努めたこともあります。
2005年のことですが、当時治安部隊の元締めだった羅幹と、中国における実質的な最高意思決定機関・党中央政治局常務委員のメンバーで当時は政治的にも健康的にもまだ「心電図ピー状態」ではなかった黄菊が相継いで視察に訪れています。よほど不穏な空気が新疆生産建設兵団を支配していたのでしょう。
軍事組織としてすぐ動ける能力を持たされているだけに、漢族住民による官民衝突がこの新疆生産建設兵団に飛び火すれば、その鬱屈の鉾先がウイグル人に向けられるにせよ「官」に向けられるにせよ、党中央にとってはウイグル人の蹶起以上に恐ろしい事態となることでしょう。
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……で、「漢人vs漢人」という状況が現出してしまうと、前回指摘した「六四モード」下の「人民戦争」、つまり「異民族」ウイグル人(の中の敵対分子)に向け国民の怒りを募らせる、という当局の目論見がもろくも崩れ去ってしまうことにもなります。
崩れてしまえば、そりゃもう「あらえっさっさー」であります。
漢族住民の不満もウイグル人に対してだけではなく、例えば文化大革命期に「下放」されたまま戸籍を現地に移され、故郷に帰ることができずストレスを蓄積してきている元知識青年、それに当局の命令で強制的に植民させられた者など、「官」への恨みつらみもあって、なかなかに複雑です。
新疆ウイグル自治区が中共政権による独裁統治にとっての火薬庫と表現されることがありますが、これは単に民族問題だけでなく、漢族住民が可燃度の高い鬱屈を抱えていることも含んでのことであるという点を、この機会に再認識しておくことは決して無駄ではないと愚考する次第。
●新疆はやはり不穏でした(2005/08/04)
●東突解放組織が中共に宣戦布告。(2005/10/01)
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そういえば、サミットに出席すべくイタリア入りした中国の最高指導者・胡錦涛は、今回の事件を受けて予定を切り上げ、サミット開催を待たず帰国の途に就いたそうです。
党中央が現状を非常事態と認識している表れといえますが、何を最も懸念しての急遽帰国か、また権力闘争の側面もあるのかなど、色々と邪推できそうですね。
●「明報即時新聞」(2009/07/08/07:12)
http://inews.mingpao.com/htm/inews/20090708/ca30712k.htm
余談ですが、こういうときはやはり人民解放軍機関紙の『解放軍報』だろうなあ、と記事を漁ってみたら、果たせるかな武力弾圧の翌々日である7月7日付紙面で、新疆ウイグル自治区駐屯の武装警察(新疆生産建設兵団?)が井戸を掘ったり品種改良技術を伝授したりして地元民である少数民族に感謝されている、という記事がありましたとさ。
http://www.chinamil.com.cn/site1/zbxl/2009-07/07/content_1826451.htm
こういう「わかりやすさ」が官製報道の醍醐味。いやーたまりません(笑)。
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経済の9割、人口の7割が漢人だそうです。
最初に違和感を持ったのはウイグル人がこの状況で暴動を起こしても、漢人に返り討ちに合い叩き殺されるはずであることです。
2倍以上の人口なのです。しかも凶悪。勝ち目はありません。
BBCのシナ人女性が大量の鼻血の映像も怪しいです。打撲の様子が見られない。大量の出血にも関わらず出血を押さえようとした形跡が見れない。本人はピンピンしている。
捏造国家シナがまた捏造してますね。
連絡が取れたら、情報を出します。
人民解放軍機関紙の『解放軍報』の記事は、面白いですね。
民族間の反感に気を遣ってます。
他民族をたくさん抱えた中国が、ユーゴスラビアのように民族紛争でバラバラになるのを恐れているのでしょうね。
ただ彼らの事だから、政府発の正義に依拠して自分達の正当性を主張するのみ。
それが国内外のイスラム教徒の怒りを買い、新疆にテロリストが浸透し、となるかもしれません。
Youtubeで広東省のウィグル人襲撃に関する日本語ビデオを見ました。酷いものです。
でも、そのビデオのテロップに、ウィグル人は本土に強制連行されて、みたいな事が書いてあったのには引きました。運動があらぬ方向に行かぬ事を願うのみです。
暑さ益々増しますが、どうかご自愛下さい。
本人はいたって気楽なんですが、どーすんでしょうw
政争ではありませんか? 上海vs北京。ウイグル関連の朝日の社説が妙でしょう? 先の北朝鮮の後継者問題報道といい、今回も明らかに北京の視点では書かれてませんよね?
と言うことは、南のバス停、高速道路から封鎖ってことですよね。
電話は固定電話ではなく携帯電話にかけると何回かに一回ぐらいは通じます。固定電話と、固定電話と同じ番号を使うシャオリントンと言うのには全く繋がりませんでした。
そういえば、新華社その他の電波は流れてきますが、党中央の正式発表は未だに何もないですね。ウ~ン、これは期待していいのか、邪推の塊がますます膨らみます。
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