前回予想した通り発表は夜になりましたね。10月8日から北京で開かれていた「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)の公報(コミュニケ)が、閉幕とともに昨夜(11日)発表されました。
●「新華網」(2005/10/11/21:12)
http://news.xinhuanet.com/politics/2005-10/11/content_3606215.htm
公報はなかなかの長文なのですが、仁義を切る意味で全人代(全国人民代表大会=立法機関)の「政府活動報告」同様、一応最後まで目を通します。
読了して、うーんこれは……と唸ってしまいました。全体から受ける印象を言えば、ふわふわしているといったところです。
地に足がついていないというか、現実に真正面から向き合っていないというか。……現在の社会・経済状況下で開催された党の重要会議の公報としては、何とも浮き世離れした文章という感じです。読んでいると、
「安心安心。円満円満。極楽極楽」
といった和やかな空気に包まれるような気分になります。ふわふわしているのです。
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この「感触」は、前回(四中全会、2004年9月)の公報と比べれば一目瞭然です。
江沢民が党中央軍事委員会主席の座を胡錦涛に譲って引退し、名実共に胡錦涛政権の発足となったこの四中全会において、胡錦涛は
「執政能力を高める」
ことを前面に押し立てて、全党及び国民に対し強い危機感を訴えました。この場合「執政能力を高める」とは「このままでは潰れる」と同義であり、悪化する一方の社会状況に即したものです。
具体的にいうと、当時は物価上昇、失業問題、「失地農民」問題(※1)、貧富の格差・地域間格差拡大の問題、それに党幹部による汚職の蔓延などがあり、そのために全国で労働争議や農民暴動、都市暴動、また年金生活者など社会的弱者によるデモが頻発していました。
それに対し執政党たる中国共産党が有効な手を打てないと「潰れる」、つまり中共政権は倒れる、という現実認識に基づいた危機感・緊張感が四中全会の公報には満ちていました。読んでいてピリピリするような文章だったのです。
以前書いたものを使い回すと、
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それから1年。農民争議にも土地収用問題だけでなく環境汚染を発端とするものが新たに加わり、結局潰されてしまったものの「農民による民主化運動」もありました。役人が政府庁舎から逃げ散って警察もお手上げという都市暴動も散発的に各所で起きています。さらには貧富の差、地域間格差、都市と農村の格差が拡大傾向にあるといった問題、また率でいえば実質2ケタを超えていると思われる失業問題、そして炭鉱の造反官僚に代表されるような党幹部の汚職蔓延……。現実はいよいよ厳しくなって、しかも胡錦涛及び中央政府の指導力自体が1年前に比べ弱体化しているようにも思えます。
そういった諸々の懸案事項に対し、胡錦涛がどういう言葉を以てどう表現し、進むべき道を明示するのか、それによってこの1年間で中共が現実から何を学んだかもわかるでしょうし、現時点における胡錦涛政権の指導力の一端を垣間見ることもできるでしょう。ですから人事も気になるのですが、私はまずはその点(五中全会公報)に非常に興味があります。(◆)
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……そう考えていたのですが、ところが今回は「ふわふわ」なのです。社会状況が1年前より悪化していることは指摘した通りです。これでは唸るしかないでしょう。
最近の例をひくなら、広州市番禺区・太石村の事件、すなわち上述した「農民による民主化運動」が潰されたのは記憶に新しいところです。新しいどころか、今でも取材で村内へ入ろうとする内外プレスやその案内役が身元不明の暴徒(※2)によって襲われています。
同じ広東省の汕尾市の村では党幹部が山と耕地と湖を勝手に売却して、そこに発電所を建設する工事が始まって村民が抗議活動を展開しています。実態を訴え善処してもらうため招いた作業チーム(上級政府である汕尾市政府の役人ども)は、視察もロクにせず飲み食いするばかり。これじゃラチが開かないと村民が村から追い出しました。
http://www.epochtimes.com/gb/5/10/10/n1080457.htm
そして重慶で破産した国有企業の従業員が給料の未払い分と解雇手当を支払ってもらえぬまま失業し、しかも国有企業解体過程では幹部の汚職疑惑も浮上したため重慶市政府庁舎などをデモ行進する事態が8月から続いていました。ところが近く重慶で国際会議が開かれるということで10月6日、防暴警察(機動隊)など3000名以上を動員して数千人規模のデモ隊を排除。その過程で発生した激しい衝突により50歳と70歳の女性2名が死亡したほか負傷者多数を出した、というニュースも流れています。
http://the-sun.orisun.com/channels/news/20051009/20051009020742_0001.html
それなのに、ピリピリ感のカケラすらない。厳しい現状をよそに、のんびりと温泉に浸かっているような印象です。
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公報の具体的内容についていえば、五中全会の最重要議題であった「十一五」(第11次5カ年計画、2006-2010年)の骨子について文章の多くが割かれています。ちなみに「五年計画」ではなく「五年規画」と改められています。「計画」だと毛沢東時代以来のノルマ達成圧力のようなニュアンスを帯びるのに配慮したのと、中央による資源配分を市場経済らしく実勢に基づき柔軟に行うという決意なども込めて「規画」にしたのだと自画自賛しています。
http://news.xinhuanet.com/fortune/2005-10/10/content_3601966.htm
そんな字遊びをしているヒマにやることが他にあるだろう、党幹部より民衆へ配慮たらどうだ、とツッコミを入れてやって下さい。前述した重慶での官民衝突では、負傷者の中で重体だった7歳の女の子が死亡し、3人目の死者になったという情報も流れているのです(反体制系ラジオ局「RFA」2005/10/10)。
http://www.epochtimes.com/gb/5/10/11/n1081526.htm
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で、「十一五」ですが、要点らしい要点は、
●効率を高め消耗率を抑制することを前提に、2010年までに1人当たりGDPを2000年の2倍にする。
●資源の利用効率を高め、GDP1単位あたりの資源の消費率を現在より20%前後低くする。
の2点が柱で、それに続いて景気のいい目標がズラリと並んでいます。ぜひ頑張ってほしいものですね。あとは「科学的発展観の徹底」「調和社会の実現」「節約型社会の構築」といった胡錦涛オリジナルの指導思想が公報全体に横溢している印象です。前回ふれたように、これらは「効率が悪くても成長率が高ければOK」という江沢民型のイケイケ路線に対するアンチテーゼです。
また「調和社会の実現」の要目に貧富の差や地域間格差、業種間格差の改善が含まれていることを考えれば、トウ小平の「先富論」との間にも一線を引く新機軸ということもできるでしょう。「十一五」は胡錦涛政権になって初めて策定される五カ年計画もとい「五カ年規画」ですが、胡錦涛色を出すことには十分成功していると思います。
ただ贅沢を言うなら、「東西問題」に代表される地域間格差などを是正することについて「協調させる」と簡単に済ませてしまっていること、また上述したような中国社会ですでに起きている尋常でない諸々の出来事を「人民内部の矛盾」と一言で括っているのは何ともお粗末で、真剣にこの公報を読んだ国民は失望することでしょう。
そして、公報として読めば現実から目をそらした「ふわふわ」感に富んだものと批評せざるを得ないということです。
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また、これも前回指摘しましたが、胡錦涛色あふれる「十一五」を各地方の「諸侯」たちが素直に受け入れるかどうかは疑問です。『人民日報』による「胡錦涛路線宣伝キャンペーン」について、
これが果たして真の勝利宣言なのか、地方の承諾(面従腹背)を示すものか、それとも各地方が明確な拒否姿勢を示したため、翻意するよう懸命に呼びかけているのか。現時点の私は判断に迷っているところです。
と私は書きました。つまり、
(1)胡錦涛派による真の勝利宣言
(2)「十一五」に対する「諸侯」の面従腹背
(3)「十一五」に対する「諸侯」の明確な拒否姿勢
の三者択一となる訳ですが、公報から受ける印象でいえば(2)と(3)の中間といったところで、確かに胡錦涛色を公報にちりばめることには成功したけれど、胡錦涛の目論見通りに事を運ぶにはかなり難儀しそうな感じです。
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それを示す証拠がもうひとつあります。香港紙はじめ海外メディアにあれだけ騒がれた人事異動が全く行われなかったことです。やはり当たるも八卦当たらぬも八卦、でしょうか(◆◆)。
事前の観測において人事の焦点とされたのは、中央に従順でない「大諸侯」上海市のトップである陳良宇・市党委員会書記(江沢民派)を胡錦涛が更迭できるかどうかでした。香港各紙は、
「それができれば成功で江沢民派にも大打撃、できなければ失敗で胡錦涛の指導力強化に黄信号」
という見方で概ね足並みを揃えていたのですが、この見方に従えば胡錦涛は挫折を味わったことになります。
人事におけるもうひとつのポイントとして、胡錦涛の後継者と目される李克強・遼寧省党委書記が、後継者たるステップアップのためここで党中央政治局委員あるいは同委員候補に抜擢され、同時に党中央弁公庁主任に就くのではないかと言われていました。……が、これも実現しませんでした。
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親中紙の『香港文匯報』(2005/10/12)はこれについて、
「海外メディアが最近伝えていた人事異動説は自滅した格好だ」
などと冷ややかに書いていますが、その一方でロイター及び他の外電による情報として、
「(党上層部の人事異動がなかったことについて)胡錦涛総書記が腹心を高いポストへ送り込もうとしたのを阻まれた可能性がある、と分析家は指摘している」
という説を同じ記事で披露しています。親中紙も人事については読み切れなかった、ということでしょうか。
http://www.wenweipo.com/news.phtml?news_id=CH0510120006&cat=002CH
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ともあれ敢えて現実をみようとしないでいるかのような公報の「ふわふわ」感から人事異動が行われなかったことに至るまで、野次馬のこちらとしてはどうも不完全燃焼といった感想の残る五中全会でした。
やや長いスパンで言うなら、呉儀ドタキャン事件前後(◆◆◆◆)を境に、指導力に一抹の不安を感じさせるようになった胡錦涛が、五中全会を経てそのイメージを改めて強くしてまったというところです。
……あ、そういえば公報の最後に、
「全党員と全国各民族人民は、胡錦涛同志を総書記とする党中央の周囲においてしっかりと団結し……」
という一文がありました。やっぱり胡錦涛はまだ「胡錦涛総書記を核心とする党中央……」には昇格させてもらえないようです。
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【※1】開発区の設立やダム建設などのために土地を強制収用され、わずかな補償金で耕地にもならないような痩せた土地へと移転させられた農民。農業を続けることができず、かといって十分な転業資金もないため、いきおい日雇労働のような流民同様の境涯に堕ちることが多い。
【※2】「連中は政府に1日100元で雇われたならず者だ」という村民の証言がありますが、国家安全局筋の下っ端の可能性もあると私は思います。
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宇宙開発というビッグビジネスに乗り出せるという名目もあり
中国の技術は世界トップレベル!という宣伝効果も考えると
イイカッコしたがる特定アジアの人間なら浮き足出すのも
無理からぬ事かもしれません。
要するに
現 実 逃 避 に 充 分 な イ ベ ン ト
を控えていちゃ、とっとと暗澹な会議は終わらせて…とか?
それとも、実は報道できないくらい荒れた会議で
予め仕込んでおいた記事をベースにある事無い事…とか?
(故に現実味がない空想の報告だったり?)
追伸:「現実逃避に充分」ってのは、言い過ぎでした。
「全党員と全国各民族人民は、・・・」って、中国にいるのは、中華民族なのではなかったでしたっけ?多民族国家であることを認めたのかな。
朝からネットであちこち見たのですが、人事の事は載っていなかったので、もしやと思っていました。
私の友人が北京のちょっと南にある天○市市○に連なる者なので、噂もあったみたいで心配してました。
中共は嫌いなのですが、やはり個人的にはねぇ。おかげですっきりしました。
御家人さんありがとうございました。
記者が近在で雇ったタクシーの運転手とチンピラ連中が顔見知りだったりしてます。
http://www.guardian.co.uk/china/story/0,7369,1588595,00.html
記者の目の前で、文字通り目玉が飛び出すまで殴る蹴るの暴行を加えて殺される呂氏の最後にがっくりくる。
>ホンマにえらい事にいずれなるよ。
上記の意見に私も概ね賛成です。
ただ…縁を切った場合、今の日本は足腰立たないくらい脆弱になっている事は否めません。
仮に進出した日系企業が環境問題を全てクリアして地域の発展に貢献していたとしても、
後世では『日本企業が環境を破壊した』と濡れ衣を着せられるのは間違い無いと思います。
(証拠が残っていようと有罪にされるのは、旧日本軍への現地の裁判で充分過ぎる実績があります。)
一体、日系企業のトップは戦後の何を学んできたのでしょうか?
沢山の日本人労働者をリストラし、日本の優秀な町工場を潰し、若者から労働意欲を奪った事を日系企業のトップはどう埋め合わせをするのでしょうか。
そして、今の中共の排他的価値観が宇宙に持ち込まれたら一体…。
正直な気持ち、暗澹としてきます。
日本の民間企業による試掘も一ヶ月以内には始まるでしょう。
日本が中国の採掘の目の前で採掘を始めた場合、功に焦る中国軍の少壮が攻撃する可能性があります。
もし、帝国石油の試掘船が武力攻撃を受け日本人技術者数十人が死亡した場合、
①日中戦争に発展するのでしょうか?
②それとも日本人が殺されても何もせず見殺しになるのでしょうか?
③アメリカは日米安保を発動し、戦争になった場合参戦してくれるのでしょうか?
④自衛隊は十分な戦力・補給を持っているのでしょうか?
⑤中国は核を日本に使用するのでしょうか?
1ヶ月以内に日中間に大きな対立が起こる可能性が大きいと感じています。
中国問題に詳しい方、ぜひ教えてくだされば助かります。
下品ですね。
真面目に取り組んでいても”日本”というだけで叩かれる一方なのに、
一体何をやってるんだろう日系企業は…。
たしかに日本企業って中国における外資企業の中でも
給料安すぎみたいですね。
大連外国語学院日本語科卒で
日系アパレル管理部門に勤める人が
月給1000元だったりします。
普通なら2000元はもらえませんか?
私、給料聞いてちょっと恥ずかしくなりました
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