「あるいは不穏なのかも知れないのは」
と、江沢民の上海における意味ありげな動静について前回ふれました。
あるいは不穏なのかも知れないのは、先代の最高指導者・江沢民が1月24日、上海にて春節を控えた恒例のイベントを実施したことです。主催者は上海市当局なのでしょうけど、上海市のトップである兪正声・市党委員会書記や韓正・市長を従えて,江沢民は主賓扱い。
「いまは苦しい局面で試練を迎えているが、強い意志を以て事にあたれば必ずや道は開ける」
といったことを強調していました。
党中央が主催する「引退した国家指導者への御機嫌伺い」では昨年、初めて「引退者」として扱われた江沢民ですが、この上海での集まりでは主役ともいえる存在感を発揮。江沢民は上海市指導部の現役組・引退組を労ったりもしており、まるで全ての上に立つ超法規的存在であるかのようです。あたかも魔王。
超法規的存在であることの証であるかのように、江沢民には「前国家主席」のような肩書が一切ついていません。上海も不景気の波をもろにかぶって2008 年のGDPは17年ぶりの1ケタ成長(前年同期比9.7%増)でしたから、既得権益層の代表めいた蠢動を始めたのかも知れません。
●「新華網」(2008/01/24/19:28)
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2009-01/24/content_10714432.htm
●08年上海のGDP、 17年ぶり1ケタ成長(NIKKEI NET 2008/01/22/10:50)
http://www.nikkei.co.jp/news/past/honbun.cfm?i=AT2M2103Z%2022012009&g=G1&d=20090122
……てな訳ですが、江沢民のこの蠢動めいたアクションが私はどうも気になって様子を見ていました。すると果たせるかな、反政府タレ込み系ニュースサイト「博訊網」に関連記事(転載)が出ました。
江沢民がその場で読んだ漢詩に隠れた意図があるのではないかと取り沙汰されているのだそうです。
問題の詩は「新華網」の記事にも出ていました。私はつい流してしまったのですが、
忽忽光陰二十年,幾多甘苦創新天。浦江兩岸生巨變,今日同心更向前。
というものです。超適当に意訳しますと、
「過ぎてしまえばあっという間の20年だけど、その間における幾多の苦労が新天地を創り上げた。黄浦江の両岸の景観は正に一変した。さあみんな気持ちをひとつにしてさらに前進だ」
……正確な内容については「kolgo13」さんが添削してくれることに期待しつつ【m(__)m】、こちらは生臭い政治の話を。
「博訊網」が転載した記事によると、問題は一行目の「忽忽光陰二十年」なのだそうです。
肝心なのは「二十年」。この20年といえば、20年前は1989年。天安門事件で趙紫陽・総書記(当時)が失脚し、江沢民がその後を襲った年から2009年でちょうど20年となります。江沢民が自ら回顧して作った詩ですから、当然ながらこの20年は「江沢民時代」だという認識のもとに賦されたものでしょう。
1989年から2009年が江沢民時代。……となると、「胡錦涛時代」の入る隙間がありません(笑)。
要するに江沢民に言わせれば、毛沢東、トウ小平に続く第三代目の「江沢民時代」はいまも続いていて、胡錦涛なんてものは江沢民時代の中のことであり、「第四代目」と胡錦涛が自称するのはおこがましい。……といった気分を示しているとのこと。
もうひとつ指摘できるのは、改革開放政策における20年間の「江沢民時代」を謳い上げることで、トウ小平が主導した最初の十年間の功績を薄める狙いがある、というもの。
さらに、改革開放政策の主軸となる場所が最初の10年は広東省などだったのに対し、この20年は江沢民自らが推進した「浦東計画」をはじめ上海が完全に主導権を奪取した形になっています。上海閥なるものの有無はともかく、上海という地縁と利権で結ばれた絆を再確認し,士気を高めんとしているのではないか。
……というのが「博訊網」の転載記事。さすがですね。無味乾燥な新華社電も、こういう「邪推」を加えると実に味わい深くなるというものです。正にヲチの醍醐味。
ちなみにこの記事によると、北京の党中央で胡錦涛・総書記が「引退した国家指導者への御機嫌伺い」をするのに対し、上海ローカルの同種のイベントがかくも派手に扱われるのは前例のないことだとか。
トウ小平などの元老クラスも上海ローカル版に出席したことはあっても、詩を披露するというような目立った行為は示さなかったのだそうです。江沢民によるスタンドプレーの異例さが際立ちますね。
●「博訊網」(2008/01/28)
http://news.boxun.com/news/gb/china/2009/01/200901282210.shtml
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で、気になって上海の地元紙はどう扱ったか知りたくなり、上海市党委員会の機関紙である『解放日報』にあたってみたところ、こんな感じのレイアウトになっていました(笑)。
何とまあ、東西の横綱対決よろしく、左に胡錦涛、右に江沢民と、ほぼ同じスペースを使って両者譲らずの構図(笑)。
一応、胡錦涛率いる党中央によるイベントの方が見出しのフォントも大きくなっており記事の序列の上では先に立っています。しかし、このレイアウトはどう見ても対決色丸出し。少なくとも全国紙においては、江沢民の出たイベントが党中央のものに匹敵するこうした配置と紙幅を与えられていないことは確かではないかと思います。
もし地元の感覚にとって、このレイアウトこそ「しっくりくる」ものだとすれば、「上海」そのものが不穏ともいえます。このあたり、詳しく探ってみたいところです。
いやあそれにしても剣呑です。剣呑剣呑。江沢民も挙動不審なら、それを報じた上海地元紙による扱いも実にわかりやすい(笑)。しかもその新聞が上海市党委機関紙であることを考えると、上海市の指導部は江沢民にかなり掌握されているのか?とまで考えたくなります。
あるいは単に「上海」ではなく、胡錦涛の掲げる「科学的発展観」に真っ向から異を唱える抵抗勢力・既得権益層が放った嚆矢なのでしょうか。
3月の全人代(全国人民代表大会=なんちゃって国会)を控えた主導権争いが早くも勃発?いやいや経済・社会状況を考えれば全人代手前に「四中全会」(党17期中央委員会第四次全体会議)が開かれる可能性もあります。
……ということで、何やら早くも政争の気配。今回の「出しゃばり江沢民」が単なる一発芸なのか、それともこれに続く何らかの動きがあるのかどうか、ちょっと目が離せなくなってきました。
呼ばれて、思わずとび出してきましたよw。
添削なんて、そんな・・・・。
それにしても江沢民、
相も変わらず何のひねりもない
セリフ棒読み的な「詩」を臆面もなく披露ですか。orz
いろいろ突っ込みどころ満載のベタな作品ですなあ。
いちいち取り上げませんがww
毛沢東のような古典の素養が無いなら無いなりに、
それなりのブレーンのアドバイスを受けて「書香」をまとわせるとか、
または、いっそのこと昔の政治家みたいに代作させるとか、
もうちょっと芸を見せてほしいといつも思います。
さらに「廣東獨立」でぐぐると凄い事に…
広東売国はダテじゃないなぁ、、と思ったりします。
潜在的に、
>華東上海、廣東港澳,盡可以早宣布“獨立建國”了
こういう気分がどこかにあるのでしょうかね?
【中国】江沢民前総書記、上海での春節祝賀会で時局を語る 市政府ウェブサイトでは「偉人」の扱いも[01/25]
http://gimpo.2ch.net/test/read.cgi/news4plus/1232847597/
新年早々お呼び立てして申し訳ありません。やっぱり漢詩といえば石川忠久……ではなくkolgo13さんの名前が脳裏に閃きまして。m(__)m
>相も変わらず何のひねりもない
>ベタな作品
私が超適当ながら意訳できてしまうのですから正にベタですよね。これなら「没有共産党就没有新中国」(歌詞ですけど)の方がスパイスを利かせられる分だけ使い勝手が良さそうな……。ともあれ伝統文化に対する冒涜であります(笑)。
それにしても「書香」なんて単語、初めて知りました。何とも素晴らしい字面です。koigo13さんは「書香人」ですね。やはりこの世界は仕切ってもらいませんと、いけません。
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>>otsu-dosuさん
中国がバラけるというのは、少なくとも「08憲章」が実現するよりはずっとリアリティがあります。この10年でどれだけ流通などが全国ネット化しているかにもよりますけど、指導者が「いざ」を仮定した際の選択肢のひとつには入るでしょう。
広東省のトップである汪洋はどちらかといえば参謀を必要としないタイプです。必要とあらば型破りなことも躊躇せず断行できる胆力もありますから、乱世であれば一国一城の主は堅いところかと。現状に鑑みて、観測気球を色々飛ばしているのかも知れません。
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>>Unknownさん
>2chにもあったのですが深い反応はあまり無いようです
原文である『明報』の記事読みました?文中には胡錦涛との対比もあり、「深い反応はあまり無いようです」とは真逆のリアクションだと私は思いましたが、そのあたりはUnknownさんと私の見解の違いなのでしょう。
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