いやー疲れました。いまの今まで「漢芯」事件について検索をかけて、報道統制が敷かれないうちに、と関連記事を集めていたところです。気になったらそのときに拾っておかないと後悔することが中共メディアでは多いので大変です(笑)。
「漢芯」事件に関しては前回の文末で少しふれましたね。重複を恐れずに書いておきますと、デジタル家電などに使う半導体「漢芯」を中国で初めて独自に開発した、という発表が大々的に行われ、「漢芯」一号から四号までが続々と誕生。一部の性能は外国製品をも凌ぐということで、開発した上海交通大学(江沢民の母校w)はそりゃもう鼻高々。上海市もまた然りで、開発チームの中心だった陳進・同大微電子学院院長には「長江学者」(意味不明)という称号が贈られました。
ところがこれがが真っ赤なウソだったんですねえ。実は昨年末(2005年12月)に「あれはペテンだ」というタレ込みというか密告が上海交通大学に寄せられて、ネットに乗って噂は広まり、同大も調査に乗り出しました(清華大学関係者がネットでバラしたという説もあります。NHKでは内部告発といっていたような)。
ともあれ調べたところ、何と正にペテンで「漢芯」の存在そのものが真っ赤なウソ、ということが判明してしまったのです。しかもカコワルイことに、陳進らはよその技術を盗用したり、外国企業の製品に自分たちの開発チームのシールを貼ったりしていました。パクリはともかくシールを貼るとは大胆不敵というか何というか(笑)。
当然ながら上海交通大学と上海市の扱いは掌を返したようになり、陳進院長は解雇、「長江学者」という称号も剥奪され(ひょっとして「水質汚染」という含みだったのか?)、今後は研究費の返還を求めていく模様です。刑事訴訟に発展する可能性もあるそうです。
報道では5月12日に「新華網」(国営通信社の電子版)が掲載した記事を元ネタに数日はニュースとして扱われていましたが、そろそろオリジナルの論評記事が出始めています。下記は元ネタとなった「新華網」の記事です。
http://news3.xinhuanet.com/newscenter/2006-05/12/content_4538770.htm
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それはともかく、この件について前回のコメント欄で「muruneko」さんから以下のような御質問を頂きました。ちょうど本日は日取りも良いことですし(笑)、エントリーにて使わせて頂くことにします。m(__)m。
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●「漢芯」とはまた乙なネーミング(muruneko) 2006-05-15 16:36:43
余り茶化していてばかりでは脳が有りませんから、一つ違う観点から。
海外のメディア一般に言える事ですが、「確かに中国には問題が多い。しかしながら、激しい振動を繰り返しながらも、次第に世界経済に組み入れられつつあり、そのようにしてこそ、中国の安定化を最終的に世界全体への利益に結びつける事が出来るであろう。」という論調(パンダハガーという奴ですかね)が有ります。
いつも思うのですが、このパンダハガーという単語を聞くと、フェイスハガーを思い出します。うーん、H.R. Giger ったら先見の明!
今回の「漢芯」の件は(まるで南鮮のイエロー教授のようですが)、中国に働く自浄作用の一つであり、上記の文脈で言うところの「安定化への端緒」と捉える事が出来るのですかね?
個人的には丸でそうは考えてませんが、継続的にチナオチされている御家人さんの御意見伺いたく。
論点は、確かに三峡ダム含め、中共のやる事なす事笑いの種では有ると思います。改革開放がまがりなりにも進み、それが故に情報が漏れるようになった、中共にとっては負の副作用故、このような「恥ずべき情報」が目に触れるようになったのか、それとも、支那人(+中共)にも文化的・歴史的にそれなりの自浄作用(大げさ?)が働いてきたものなのか、です。
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「シールを貼っていた」というNHKの報道で思わず箸を落としてしまった私ですが(笑)、研究費返還を求められるなら陳進は早めにシールのロゴなどを商標登録して大々的に売り出すべきです。いまならきっと当たる筈ですから、多少は返済の役に立つでしょう。
……という余太はともかく、このニュースに接した第一印象は今回のエントリーの標題の通りです。私が中国に留学していたころ、要するに1989年の天安門事件の時期ですが、本質的に20年近く前になる当時と何も変わってないじゃないか、ということです。それどころか40年前の今日、あの「五・一六通知」で本格的に幕を開けた文化大革命のころとも本質的に変わっていません。「muruneko」さん御指摘の通り、自浄作用はまるで働いていないのです。
というよりも一貫した問題として、中共による一党独裁体制には中共自体を外部からチェックする機能や自浄作用を働かせるメカニズムが制度に組み込まれていません。中共はこの制度に手直しをしていませんから見た目はちょっとオシャレになっても中身は昔のまんまです。果たせるかな、今回もまた密告とかタレ込みといった文革時代そのままの怪し気な行動が発火点となっているのです。
改革開放政策で市場原理が導入されて新聞がスクープを競うようになったり、都市部でネットが普及している、というのは私が留学していたころには全くなかった新要素です。ただこれによって悪事についてのタレ込みと認知度が増すことはあっても、自浄作用を持たせることにはならないと思います。
変な例えになりますが、ある家の中で火事が起きてメラメラ燃えている。外からも窓越しに火の手が見えるのですが、あいにく消火道具を持つことが御法度とされている上に、その家はお上によって立入禁止になっているから、燃えるに任せるしかない。ネットやスクープを狙う新聞、といった新要素はその家に窓をひとつふたつ増やしただけに過ぎません。
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以前に比べてより多くの人に火事を見せてあげることはできるようにはなったけど、火事そのものには手が出せないのです。普通の国であれば室内に設置された関知装置が作動して自動消火システムが働くところですが、中共政権はそういうメカニズムを制度に組み込んでいませんから、こちらはその家の住人が出てきて何らかの始末をつけるのを黙って眺めているしかありません。
その始末の付け方も一定の決め事がある訳ではありません。いや、法制はあるのですが法治が機能していないのです。政府の上に君臨する党が「政治的に善。だから無罪放免」と断を下せば殺人犯でもお咎めなしになってしまう。今回はタレ込みからペテン認定まで半年近くを要していますが、これも陳進ら開発チームの後ろ盾である政治勢力が相当強力だったからここまで粘れた、といえるのかも知れません。
「漢芯」事件を党幹部による汚職に置き換えてみればいっそう明確になります。「国際社会」に組み込まれるとともにネットという新媒体が出現したことで中共政権でも自浄作用が機能するようになったかといえば、答は否です。むしろ汚職自体はより深刻になっているように思われます。そして、巨悪ほど暴かれることがありません。
こういう状況に対して、中共政権は政治制度にチェック機能がないものだから道徳教育キャンペーン(社会主義栄辱観)を張ったり、密告を奨励したりするしかない(本当)。その一方で最近はあろうことか窓に内側からブラインドを下ろして室内を見えなくするような動きが進んでいます。中でどんな狼藉が行われていてもこちらにはわからなくなりつつあります。「大丈夫だから、信じろ」と言われても、民意に拠って成立した政権ではありませんし、胡錦涛をはじめ指導部の誰もが普通選挙の洗礼を受けていませんから、素直に信用できる訳がありません。
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結局、制度そのものを組み直す以外に方法はない、という陳腐な結論に落ち着いてしまうように思います。そして、その陳腐なことすらできないのが中共政権です。
当然のことながら、求心力は低下せざるを得ません。中央の求心力が低下すれば皆がそれぞれやったもん勝ちと言わんばかりに勝手なことをやり始める、というのが中国数千年来の優良なる伝統です(笑)。そういう連中がひとつ意識でまとまり得るのが省とか市とか県、といった伝統的な「郷土」の枠組みです。そこで「地方の台頭」とか「諸侯経済」という言葉とそれを抑制しようという中央の様々な措置が新聞を賑わせるようになります。【←いまココ】。
何だか例によって話があらぬ方向へ飛んでしまいましたが、自浄作用が働くようになったということは全くない、と私は思います。一党独裁制である限りこの状態が続くでしょう。いまの中国は中央の統制力が弱いため、むしろ先祖帰りしつつあるといえるかも知れません(そういえば「春秋五覇」と「戦国七覇」を最近観ていないことに気付きました。1話観てから就寝することにします)。
そういえば以前反日サイトに自由に書き込めたころ、「お前らはいい時代に生まれたな。おれが留学してたころはVOAとBBCとかの短波放送を聞くしかなかったんだぞ」と書いたら「実はおれもVOAやBBCは毎日聞いているよ」というレスがついたことがありました。
これまた余談ですが、「国際社会」に組み込まれることで中共政権側にきしみが生じる、というのは貿易摩擦や人民元のレートなどもそうですが、何よりバチカンとの「正面交鉾」がこの先どう展開していくのか楽しみでなりません。これは外患というより内憂に発展する動きだと思います。
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確かにバチカンと揉めるのは痛いですね。私も注視してますので、なにか情報がありましたらお教えください。
この冬、長春近くの村?に招待されました。寒くて広いですね。あの広い畑?草原?それとも荒地?それを潤す農業用水はない?といわれました。田舎に秀才が生まれると大変みたいですね。共産党の支配が至っているというより、民衆の発展を封じ込め、昔と同じようにして隔離しているだけ・・のように感じました。
まぁ・・それが郷愁誘うんですよね。きっと・・もっと暖かい時期なら、中国好きになったかも知れません。
あたりが由来かなーとかこの名を最初に見たときは想像してましたが、まさしく名は(実)体を表して、盗人&嘘吐き…だったわけですか。
なんだか象徴的な出来事でした。
そう言えば、「先行者」って今どうなってるんでしょうねえ。
私は中国語はよくわからないのですが、CPUを「芯」と訳すのは、あまり良い訳ではないのではないかと思います。理工系研究者の国語力が劣ってきたのでしょうか…?
ちょっと場違いなコメントですいません。
※ちなみに、漢芯は、DSP(デジタル信号処理専用プロセッサ)だとのことでしたので、いわゆるCPUではなく、特殊なCPUということになります。
>優秀な装置と部材があれば、誰でも作れるようになったみたいなのだが
装置を使うのは 人間 ですからねぇ(w
結局、何事もそこに行き着くかと思われますが・・・
現在、2号まで完成し、3号は開発中だそうです。
1号が266MHz、2号が500MHzでPentiumIII相当の性能。
龍芯2号の改良版というのが低クロックPentium4相当とのこと。
3号はこれ以上の性能になるのでしょう。
しかし、DPSでさえパクリやリマークをしてしまったのですから、
それよりも遙かに技術的、特許回避的に困難なCPUで、
本当にオリジナルが出来ているのか、怪しいもんですな。
http://english.peopledaily.com.cn/200209/27/eng20020927_104011.shtml
は2002年には出ているわけですが、
2005年に米国のMIPS社から「待った」がかかります。
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0727&f=it_0727_001.shtml
>構造の約95%がMIPS-based製品と酷似
要はCPUの命令セットがほぼMIPS系プロセッサ互換。掻い摘んで言えば、MIPS社系コンピュータのソフトウェア資産を利用できる様な仕様。端的に言えばMIPSチップを無断でパクったわけです。
対して、龍芯研究チームの胡リーダーは
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0728&f=it_0728_005.shtml
>「龍芯の設計は、ミップス社の知的財産権侵害には全く該当しない」
とか言いつつ、
>「ミップス社はこの技術について中国における特許を申請していない」
と、開き直りに近いこと言っています。
かと思えば、
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0805&f=it_0805_004.shtml
>龍芯研究チームのリーダーでもある胡・教授はまた、「MIPS社と3年にわたりライセンス契約の協議を進めてきたが、合意に至っていない」ことを明らかにした。
…胡リーダーは確信犯というヤツでしょうね。
まあ、外国に売る気がないなら特許に関してはその通りなんですが、
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2005&d=0713&f=it_0713_002.shtml
将来はその特許無視チップを使ってスパコン世界ランキングを目指そう、なんて堂々と言っているのはどうなのか。
MIPS社にしてみれば、「使うならライセンス料払え!」ってだけで、龍芯の将来的な技術脅威なんて全く気にしてないと思います。この会社は既に他社にMIPS系技術を供与することによりライセンス料貰って儲ける商売をしている企業ですから。
例えばPS2に搭載されている東芝・ソニー製CPU「Emotion Engine」はMIPS社からライセンスを受け、それを独自に拡張したものです。
彼がベトナムで味わった苦労話を思い出します。
あそこも一党独裁国家ですから、ドイモイだーなんだーと言ったところで、表層が変わっただけで、中身は見せないんだとか。おかげで工場設置のために、ゼニをいくらつかったかと嘆いておりました。
要するに、一党独裁ってのは自由経済主義とあわないってことで。当然ですけどね。
道路工事がなかなか進まなかったのに、その地区の担当幹部に娘がいて、その子の誕生日に高価なプレゼントをしたら、あっという間に道ができあがったという話は笑ったなー。
駄コメント取り上げて頂いて有難う御座いました。
やはり、「漢芯」のように不味い事実が暴露されるのは、そこに政争有るが故、政争無くば破裂する迄事実は明らかとは成らないと。自浄作用とは程遠いですね。
E&Y の不良債権額の予測数値公表に猛然と噛み付いたように、三峡ダムの失態(すぐ砂に埋まるでしょ)は決して公表しないように、中共にとって本当に不味い事態は情報開示が為されず、突っ走って崖に到達し、依って立つ地面が崩壊するその瞬間にのみ明らかとなる。
これは、一党独裁なるが故か、中華伝統文化への先祖がえりか、まったりと離れて観察するには楽しいものです。
尚、VOA, BBC を英語で熱心に聞いてます!って崩壊前のソ連圏を思い起こさせますが、そもそも文盲率の高い支那の事、英語をラジオで聞きとる能力の有る人も限られますよね。
例えば、支那語で日本から「公正な」ニュースの放送始めても、土民は「すわ、日帝の悪巧み(プロパガンダ)か?」と、脊髄反射するでしょうし。「文化革命」が禁止語とくれば、インターネット上で支那語で事実を知ることは出来ないですよね。
やっぱし、御家人さん投稿の香港紙の不法コピーが、流通する、これが支那の実体に有ってるんでしょうか?
南鮮の単層な文化がインターネット利用の跋扈によって、ますます薄っぺらになっているように、支那では文化故か一党独裁故か、感情的な電波文面がますます増えているようですね(私は支那語読めませんから「楽しい中国ニュース」の御家人さんコメントを藪にらみして判った気になっています)。
甚だしくは三峡工程建設委員会主任である筈の、温家宝総理も参加しなかったのだとか……。
あれだけの国策事業であった筈なのに、この事態はいったい何を意味するのでしょうか。
御家人さんはこの話、ご存知でしたか?
よろしければ、ご意見をお聞かせください。
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