日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 いやはや意外な展開です。

 例のボロ漁船で日本の領海を侵犯して尖閣諸島(中国名:釣魚台)への上陸を目指そうとした「保釣運動」(尖閣防衛運動)の活動家4名、例によって見事な操艦技術を誇るわが海上保安庁の巡視船などに前進を阻止され、コソコソと針路反転、帰途に就きました。日本でも報じられていますね。

 活動家4名はいずれも保釣運動の総元締で反日サイトの総本山のひとつである「中国民間保釣連合会」のメンバー。同会は今回の事件について当初、

「船から電話してきてはじめて知った」

 などと不透明な対応をみせていたのですが、現在では同会公認の行動と自他ともに認知されているようです。

 抜き打ち的な突発行動だった今回の船出作戦について、当ブログでは同会のバックボーンである政治勢力の蠢動ではないかと邪推。また同会の掲示板に船上の活動家から送られてくる4名「実況」スレッドが立ち、しかもそれが削除されずにいたことから、胡錦涛サイドを含めた中国当局黙認の行動と考えました。

 「黙認」というのは掲示板での「実況」を削除しないものの、一方で当局から公式声明は出さず、また中国国内メディアにも報道管制を敷いていたことによります。

 ●保釣船の領海侵犯は党大会の反映?@十七大11・上(2007/10/29)
 ●保釣船の領海侵犯は党大会の反映?@十七大11・下(2007/10/29)

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 ところがところが。標題の通りです。

 活動家たちを乗せた漁船が福建省・◇州港(◇=さんずいに章)に帰着するなり、屈強な野郎どものお出迎え(たぶん)。野郎どもは上陸した活動家や船員たち(合計9名)を取り囲んで、

「おつかれさまー大変だったねー」

「待ってたんだよーさあ行こー行こー」

 と活動家たちを拘束(たぶん)、ホテルに軟禁してしまいました。当局は黙認かと思っていたら実は激怒していたようなのです。

 ●『明報』電子版(2007/10/30/10:46)
 http://www.mpinews.com/htm/INews/20071030/ca21046t.htm

 香港の親中紙『大公報』電子版は活動家が無事帰途に就いたことを報じ、連中を「釣魚島に突撃した四勇士」などと高らかに讃えていたのですけど。

 ●衝�釣魚島四勇士安全返航(大公網 2007/10/29)
 http://www.takungpao.com/news/07/10/29/ZM-815791.htm

 折しも昨日(10月30日)は火曜日で外交部報道官による定例記者会見があります。一連の質疑応答の中でこの「軟禁」についての質問も出ましたが、劉建超・報道官は、

「聞いていない」

 との一言でバッサリ。定例会見の一問一答はすぐに中国国内メディアに記事が配信され、当日夜には「新華網」をはじめ大手ニュースサイトで目にすることができます。今回もそうだったものの、この「軟禁」「聞いていない」の部分は国内ではNG扱いらしく報道されていません。

 ●多維新聞網(2007/10/30/19:11)
 http://www5.chinesenewsnet.com/MainNews/SinoNews/Mainland/2007_10_30_7_11_29_357.html

 ●『星島日報』電子版(2007/10/30/17:07)
 http://www.singtao.com/breakingnews/20071030e164851.asp

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 尖閣諸島に昨年船出した香港の「保釣行動委員会」擁するボロ漁船改「保釣二号」は広東省でメンテナンス中に地元当局に難癖をつけられて出港を差し止められ、元々計画していた「8月15日尖閣上陸」を果たせず、結局昨年10月末に船を出してドタバタ劇を演じつつ、最後には海上保安庁によるお約束の公開処刑を受けてスゴスゴと退散。

 連中は一種のMプレイが大好きなようで(笑)、今年も「8月15日尖閣上陸」を掲げて準備を進めていたのですが、今度は香港当局から横槍が入って出港禁止に。この措置は中国当局の意向を反映したものという観測が大勢を占めていましたが、軟禁報道が事実だとすれば、民間活動家の尖閣上陸活動に対する胡錦涛政権の態度はブレていない、ということになります。

 胡錦涛政権にしてみれば、日中関係を融和路線で進めていきたいところで無用の騒ぎを起こしてほしくない、といったところでしょう。船出すれば公開処刑されるのは火を見るよりも明らかですし、拿捕して日本の司法で裁くことなく領海外へ追い払うだけ、といった「優しい対応」をしてくれる日本政府に対して借りをつくることにもなります。

 それより怖いのは中国国内で反日機運が高まってしまうこと。理由はもちろん、燃え上がってしまうと反政府運動へと転じかねない社会状況だからです。しかもいま現在は新指導部体制の成立に向けた大型人事異動の真っ最中であり、ある意味権力の空白期に近い状態。腰が据わっていないところで妙な騒ぎを起こされると対応にも困りますし、これを政局にされて人事に影響が出るのもマズい、といった判断が働くでしょう。

 それだけに、私は今回、胡錦涛政権が「黙認」していることに意外さを感じていました。例えば今回の事件は士気旺盛に過ぎる軍内部の一派を黒幕としたもので、

「どうせ日中関係にヒビが入るほどの騒ぎにはならないだろうから内政面でのいいガス抜きになる。やらせておけ」

 と胡錦涛が考えた、とか、尖閣諸島を突ついてみることで日本の福田政権の対応を試したのではないか、などとあれこれ考えてみたりしたのです。とはいえ、

「在任中は靖国神社に参拝しませんよ(フフン♪)」

 と福田首相が自ら靖国カードを放棄してしまっているので、突ついてみなくても安倍政権よりくみしやすい相手だとわかっていた筈です。

 ……という訳で今回の「黙認」を私はいぶかしんでいたのですが、きのう午前に軟禁報道が香港から流れ、外交部報道官がそれについて「聞いていない」と答え、さらに中国国内ではその部分を報道することが禁じられている様子なので、結局はやはりブレていなかったのだ、ということがわかりました。

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 しかしブレていないとはいいつつも、一方でちぐはぐな面があります。例えば報道管制。ブレていないのならNGを徹底させるべきなのに、中国民間保釣連合会の掲示板に立った「実況スレ」を削除せずに数日間放置していました。

 また、香港の親中系テレビ局「フェニックスTV」が今回の事件を報じ、さらに同会のスポークスマンへのインタビュー場面などもそのまま放映されています。香港の『香港文匯報』や『大公報』、それにシンガポールの『聯合早報』といった親中紙にも関連記事が掲載され、その電子版には中国国内からもアクセスできるのにも関わらず、それを妨害する措置を講じていません。

 このあたり、報道させようとする側とそれを阻止しようとする側が綱引きした形跡がみられた衛星破壊弾道ミサイル実験のときの動きとは対照的です。要するに中国国内に「いま保釣船が行動中だ」という情報が流れることを、やや控えめながらも許していたことになります。

 「やや控えめ」というのは、そうした半面、中国国内メディアには報道を許さなかった形跡があることです。平素ならまず速報として、上記香港・シンガポールの親中紙の報道を転載する形でニュースになったりしますが、それが今回はありませんでした(同会の掲示板では『聯合早報』の記事などが次々に転載されていました)。

 いや、実際には外電総合という形での報道が流れたようなのです。中国中央テレビ局(CCTV)の電子版「央視国際」に、

 ●保釣船について日本が中国に抗議(央視国際 2007/10/29/21:01)
 http://news.cctv.com/china/20071029/108724.shtml

 という記事が掲載されたことを確認できました。ところがこのURLに飛んでみるとすでに削除済み。速報は消されたのです。

 てことは外交部報道官の定例会見を受けてから報道解禁?と思っていたところ、「中国網」というオフィシャルなウェブサイトで定例会見前の30日朝に、

「保釣船が尖閣に向けて船出したけど海上保安庁の艦艇に阻まれて引き返した。日本は中国に抗議した」

 という内容のニュースが出ました。『大公報』や共同電を引用したりしており、日本の抗議に対する中国側の反応などは記されていません。

 ●「中国網」(2007/10/30/07:24)
 http://www.china.com.cn/news/txt/2007-10/30/content_9143239.htm

 この記事、ソースは『新快報』となっていますから、紙媒体が先行したのでしょうか。ともあれメディア統制における足並みの乱れを感じさせる動きでした。「保釣」の活動家たちの行動をどう扱うのか、胡錦涛政権は旗幟不鮮明、といったところです。

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 この「中国網」の報道が流れたころ、香港では『明報』電子版が活動家たちが拘束・軟禁されたことを報じています。それに追い打ちをかけるように「中国民間保釣連合会」のサイトが閉鎖されました。掲示板の実況スレを削除するだけでなく、サイトをまるごと閉鎖。このあたりに胡錦涛の激怒ぶりが垣間見えているようでもあります。

 ともあれ、今回の「保釣活動」に対し、胡錦涛政権から鉄槌が下された格好です。

 ただし、海外メディアには「保釣活動」の全容が明らかにされてしまっているので、定例記者会見において外交部報道官は毅然たる姿勢を示す必要があります。

 結局、活動家を乗せたボロ漁船は日本の領海に一歩踏み込んだところで憎き小日本の艦艇に囲まれてタコ殴りにされ、スゴスゴと退却した訳ですから実に格好が悪い。国民に対しては伏せておきたい話題です。しかもその活動家を拘束・軟禁したことが知られれば国民の怒りを買いかねません。とはいえこの会見で事件に言及しないと、

「あれ?中国弱腰になったじゃん」

 といった、中国にしてみれば「誤ったメッセージ」が流れてしまいます。そこで「拘束・軟禁」の部分を国内NGにして、報道官は中国側の言い分を毅然たる態度で示すことになります。いわく、



「この問題におけるわれわれの立場は、釣魚島およびその付属島嶼は古来より中国の固有領土であり、中国はこれに対し争う余地のない主権を有する、というものだ。日本側が中国側人員に対してとった措置は国際法に違反しているとわれわれはみており、中国の主権を侵犯するもので、不合法なものである。中国側は(日本側の対応に)断固反対する」




 型通りなものと受け取ってはいけません。この言い草、昨年香港の「保釣二号」が船出した際のコメントと比較してみると実はちょっと(カナーリ?)強硬になっています。昨年のコメントには、

「われわれはこれまで一貫して魚釣島問題における中日間の争議を話し合いで解決しようと主張してきた」

 という一節がありました。尖閣諸島は疑いなく中国のものだと言いつつも、日中間に「争議」が存在していることを認めていたのです。今回はこの部分がすっぽりと欠落しており、しかも国際法違反云々という字句が新たに加わっています。

 ●「新華網」(2006/10/22/17:56)
 http://news.xinhuanet.com/world/2006-10/22/content_5235185.htm

 要するに「尖閣諸島は中国のもの」という点について中国側がより一歩深く踏み込んで「領有権争いなんて存在しない」という姿勢になりました。1年前より強硬で高飛車な物言いになった、といってもいいでしょう。理由はわかりませんけど。フフン♪

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 ともあれ、今回の「保釣騒動」にはこれで幕が引かれた格好です。
尖閣諸島の領有権に関する中国側の姿勢が一段と強硬になったことは覚えておくべきでしょう。

 私はチナヲチ(素人の中国観察)に興じている身ですから、今回の事件の渦中に垣間みられた中国側の足並みの乱れに留意しなければなりません。いくら何でも「中国民間保釣連合会」の独断による行動ということは、組織防衛の観点からみてもあり得ないことでしょう。一党独裁政権下でそこまで先走ったらウェブサイト閉鎖にとどまらず、組織自体を潰されます。

 「飼い主」すなわち後ろ盾の政治勢力の支援があったればこそ、抜き打ち的行動に出ることもできたし、短期間ながら「黙認」状態を現出させることもできたし、またメディア統制の面などでの足並みの乱れを誘うこともできたのだと思います。

 とはいえ所詮は非主流派なのでそこまでが精一杯。胡錦涛主導の形で政治勢力同士の綱引きが水面下で行われ、上述したような形で取引が成立したのでしょう。

 ●外交部報道官談話は以前より強硬にする。
 ●でもこれ以上この問題を中国国内メディアに騒がせないようにする。
 ●「中国民間保釣連合会」は潰さないものの,当分サイトを閉鎖させる。

 といったところではないかと思われます。活動家たちに処分が下されるかどうかはわかりません。ただ今回のリーダー格だった李義強については、以前アモイで行われた公害企業誘致反対デモに関与した嫌疑で逮捕説が流れたこともあるようです。

 ●「博訊網」(2007/07/11)
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/07/200707112220.shtml

 最後に今回の事件について。これは日中関係における由々しき問題でもありますが、基本的には中国内政面の不協和音を反映したものであることを強調しておきます。ただ、日中関係の側面から尖閣問題に対し中国側が一段と強腰になったことは記憶しておきたいところです。




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